これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

体外受精つき特別室

2011年01月23日 20時35分41秒 | エッセイ
 先日、ついに体外受精を経験してきた。
 今や、4人に1人の赤ちゃんが体外受精で生まれる時代といわれている。怒濤のような一カ月をどのように過ごしたか、ご報告したい。

 まずは、排卵誘発剤の注射から始まった。これは、去年も打ったことがあるが、規定量だと効果がなかった。注射をしたのに、たったの1個しか排卵されなかったのだ。40代になると、反応が鈍くなるらしい。
「今回は2倍使いましょう。卵子は多いほうが成功率も上がりますから」
 主治医の指示に、少々傷ついた。気持ちは若いつもりでいても、体はもはや、若くないのだ。素直に倍量を受け入れるしかない。
 おかげで、超音波の画像には、左右の卵巣に、それぞれ7個ほどの卵子が映っていた。
 次は、この卵子を成熟させるホルモンに切り替えて注射をする。数が多いと、予定よりも早く排卵してしまうことがあるらしい。採卵までは、卵巣内にとどめておかねばならぬので、排卵させない薬も併用して、毎日注射に通った。
 さらに、診察で卵子の成長具合を見ながら、採卵日を決める。採卵には麻酔を使うので、1日入院しなければならない。仕事に穴を開けることを心配していたら、運良く土曜入院、日曜退院という日取りになった。
 病室に案内されて驚いた。特別室だったのだ。



 32.7平米という広さで、ベッド脇にはFAXやデスクまである。



 もちろん、トイレ・バスも完備だ。



 コップ・タオル・シャンプー・リンス・スリッパなどのアメニティグッズも用意されており、ホテルのようだった。
 こんな立派な個室だと、料金はどうなるのかと心配になる。
「大丈夫。自費の場合、特別室でも大部屋でも、料金は同じなんですよ」
 看護師さんの説明に安心し、VIP待遇に気をよくする。体外受精をするというより、体外受精つき特別室に泊まりにきたような、ウキウキ感である。

 3時間ほど点滴したあとは、いよいよ採卵となった。
 体外受精で一番苦痛なのは、卵子を体から取り出す、この作業である。病院によってやり方は違うが、ここの病院では麻酔をかけるというので、痛みを感じないのだろうと軽く考えていた。
「じゃあ、眠くなるお薬が入りまーす」
 点滴の針から麻酔薬が注入されたとき、「歯ぎしりしたらイヤだな」とか、「いびきかいちゃったら恥ずかしい」などと心配したが、どういうわけか、一向に眠くならない。
 麻酔が効いていないのかと訝しんだとき、お腹に激痛が走った。

 痛たたたた~!

 やはり、麻酔が効いていないようだ。「左は終わりました」などという、などという、
医師の会話まで耳に入ってくる。その後も、ズキ、ズキ、ズキと、ときおり襲ってくる痛みを我慢しなくてはならなかった。

 排卵誘発剤だけでなく、麻酔も2倍必要だったのかしら……。

「終わりましたよ~!」と声がかかり、ようやく苦痛から解放される。
 看護師さんに、「意識はしっかりしていますね」と声をかけられたので、「麻酔が効いていなかったみたいです」と答えると、不思議そうな顔をされた。
「そうですか? 寝息立てていましたよ」
「……」
 その日、起きているのがつらかったことを考えると、やはり、麻酔は機能していたのだろう。だが、激しい痛みで目が覚めてしまったらしい。それでは、意味がないと思うけれども……。

 平均で5個前後の卵子が取れるそうだが、私の卵子は6個だったという。超音波ではもっとあったのに、卵巣内のものがすべて取れるわけではないし、使えない卵子もあるからと説明された。
 このあと、夫から採取した精子をドッキングさせ、体外受精をする。
 受精卵がいくつかに分裂し、成長したことを見届けて、3日後、子宮内に戻すことになる。この作業を胚移植というらしい。不幸にして、受精しなかった場合は、胚移植ができないと言われ、私はドキドキしながら病院に行った。
「大丈夫ですよ! 受精していましたから、戻す卵がありますよ」
 看護師さんにそう聞いたとき、どれほど安堵したことか。
 6個の卵子のうち、受精していた3個を胚移植した。普通は1個らしいが、これまた年齢を考えての配慮である。
 しかし、受精卵が子宮内に着床し、出産までこぎつける割合は、たったの3割である。
 プロ野球選手が、ヒットを打つ確率と同じでは、喜んでもいられない。
 2月上旬には結果がわかる。空振り三振バッターアウトとなるのか、逆転満塁ホームランとなるのか、見当もつかない。せめてポテンヒットでもいいから、出塁したいものだ。
 もしダメだったら……。
 再度、特別室入りをして、打順が回ってくるのを待とうじゃないか。




楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする