これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

午前6時の注射

2011年01月16日 20時21分09秒 | エッセイ
 第2子が欲しいが、なかなか授からない。年齢的なリミットも近づいているので、今月はついに体外受精を受けることにした。
 しかし、予想を超える忙しさであった。なにしろ、毎日、注射注射の連続なのだ。排卵誘発剤に卵胞を成熟させる薬、さらには排卵を防ぐ薬など、10日連続で通院し、注射を強いられた。ときには、一度に2種類も打たれ、体中が穴だらけになった気がした。
 一番きつかったのは、採卵手術前日の注射である。
「この日は、朝6時に来て注射となります」
「えっ、朝6時ですか!?」
 早すぎる時間に焦り、私は顔をひきつらせて確認した。
「はい、朝の6時。救急に行ってくださいね」
 聞き間違いではなかったようだ。主治医は顔色ひとつ変えずに、サラリと言ってのけた。
 会計を待つ間、頭の中でシミュレーションをする。
 家から病院まで1時間かかるから、5時に出ないと間に合わない。となると、起きるのは4時か。いや、念のため、3時50分にしよう。
 幸い、病院から職場までは30分ほどだ。おそらく、6時半から7時の間に着くから、途中、コンビニでパンを買い、職場で朝食をとればよい。
 私はいつも、始業の8時半ギリギリにやって来て、ダッシュで出勤カードを通す。7時前に出勤するなど、20年以上の教員生活でも、初めてではないか。考えるだけで、頭がクラクラしてきた。
 
 そして、いよいよ、その日がやってきた。
 寝坊することもなく、予定通りに病院に着くことができた。受付には、疲れた顔で、ヨレヨレになった職員がおり、かすれた声で「奥へどうぞ」と案内してくれた。おそらく、夜間はひっきりなしに急患が押しかけ、対応に追われたのだろう。注射をしてくれた看護師も、目の下にクマを作り、すっかりやつれている。
 仕事を増やして申し訳ないが、医師の指示だから仕方ない。
 会計をすませて外に出ると、さきほどまでの暗闇が、徐々に明るくなっている。路上で日の出を見るのも悪くはない。早朝の寒気も気持ちいい。。
 コンビニで買い物をしていたら、職場到着が6時50分になってしまった。でも、いつもより相当早い。優雅に朝食をすませ、たまっている仕事を片づけているうちに、始業の時間となった。普段は、コンタクトレンズを入れたり、化粧の続きをしたりと、バタバタ動いている時間帯に、席に着いていることがすごい。
 エグゼクティブの仲間入りをした気分になったとき、副校長に声をかけられた。
「笹木先生、今日は何時に来ましたか?」
「今日は珍しく早かったんです。7時前にはいました」
 答えながら、「よくぞ聞いてくれた」という思いと、「どうしてそんなことを聞くのだろう」という気持ちが交錯する。理由はすぐにわかった。
「そうでしたか。カードを通すのを忘れませんでしたか?」
「!!」
 そういえば、カードを通した記憶がない。せっかく早く来たのに、これでは出勤したことにならないではないか。
 私は苦笑いして答えた。
「ああ、忘れたかもしれません」
 副校長は、「通し忘れということで処理します」と言ってくれたが、おバカなミスをしでかしたことにショックを受けた。
 とたんに、ヨレヨレになり、目の下には濃いクマができたような錯覚を起こした。
 変わったことをするとダメだ。

 体外受精のご報告は、また後日~♪




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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
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