これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

危険な窓ぎわ

2011年01月06日 21時44分23秒 | エッセイ
 勤務先の高校で、年明け早々、窓清掃が行われた。
「業者さんが入りますので、窓ぎわの荷物は片づけておいてください」
 担当者からの指示を受け、窓に目をやると、結構いろいろなものが置かれている。
 書類や備品が入った、腰までの高さのスチール棚は動かせない。だが、その上の扇風機やレターケース、クリアーファイル、本棚などは別の場所に移さねばなるまい。
 あいにく、部屋には私一人しかおらず、ほこりだらけの荷物をせっせと運ぶ作業が、今年の初仕事となった。ちと虚しい……。
 前任者の忘れ物やゴミを捨てると、かなりスッキリしたが、どうにも始末に困るものもあった。
 華道部顧問の持ち物、剣山だ。



 窓ぎわには、生け花を突き刺して固定する、この針の山が3個もある。クラブで使用したあと洗い、日当たりのよい場所に干しておいたのだろう。ところどころ黒ずみ、かなり年季が入っているのに、指名手配中の殺人犯のような凄みがある。
「触りたくない」と私は思った。
 だからといって、こんな危険なものを放置するわけにはいかない。気が進まなかったけれども、端の平らな部分を目指し、こわごわ手を伸ばした。金属特有の、ひんやりとした感触が伝わってくる。そのまま持ち上げようとしたが、想像以上の重みがあり、スルリと手から抜け落ちた。
 弾みで、触れたくなかった先端を、指先がかすめる。「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて手を見ると、血こそ出なかったが、皮がちょっぴり剥けていた。

 さすがは凶悪犯だ……。

 今度は軍手をはめ、慎重に移動を試みる。うっかり手を滑らせ、足の上に落とした日には、目も当てられない。1個、2個、3個と無事運搬を終え、私は安堵のため息をついた。

「失礼しま~す、窓清掃に来ました」
 ようやく業者がやって来て、作業に取りかかる。この部屋の担当は、20代とおぼしき若い女性と、アラカン世代の初老男性のペアである。華奢で小柄な女性に、窓清掃という仕事は不向きなのではないだろうか。気になって見ていたら、決してそんなことはなかった。
 アームの長い道具を使う上、脚立もあるから、高い場所にも楽々届くし、キビキビとよく働く。おかげで、たまりにたまった汚れがキレイに落ちた。
 スチール棚の上の窓は、脚立を置くスペースがないため、靴下で棚の上に上がっている。もし、剣山を置いたままだったら、えらいことになっていたと、胸をなでおろした。
 わずか10分ほどで、2人は全ての窓を磨き上げ、「失礼しました」と挨拶して出ていった。

「あら、剣山出しっぱなしで、すみませんでしたね」
 翌日、華道部の先生からお詫びの言葉があった。
「いえいえ、このまま窓ぎわに置いておくと、防犯になっていいかもしれませんね」
 私が剣山の威力を褒め称えると、彼女も大いにうなずいた。
「刺さったら痛いですよ~! でも、足は靴を履いているから、手を狙わないと。よじ登るとき、手をかけるところに仕掛けておけば、撃退できますね、きっと」
「あはははは」

 剣山は、1個1000円前後で買えるらしい。
 空き巣対策に、いかが?




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コメント (16)
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