<信濃毎日社説>集団的自衛権 疑問に正面から答えよ
安全保障政策は衆院選で問われるべき重要課題の一つだ。安倍晋三首相が大転換を次々に進めている。集団的自衛権の行使容認は特に見過ごせない。
歴代政府の憲法解釈を熟議なく転じた。平和国家の根幹に関わる重大な変更にもかかわらず、首相は国民の反対意見に耳を傾けることなく踏み切った。
このまま法整備が進むのを許していいのか。衆院選を国民の意思表示の機会にしたい。
各党は考え方を分かりやすく示す必要がある。
▽既成事実化の恐れ
憲法9条の下、歴代の政府は自衛権の発動を日本が攻撃された場合に限ってきた。7月の閣議決定は、この枠を取り払った。
他国への攻撃でも日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合には武力行使できる―。新たに打ち出した要件だ。「明白な危険」があるかは政府が判断する。これでは歯止めにならない。
行使するには、自衛隊法を改めるなど法整備が必要になる。安倍政権は来年の通常国会での審議を想定している。もともと年内に予定していたものの、来春の統一地方選への影響を避けるため、先送りした。
一方で、自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力指針(ガイドライン)の改定作業が進む。閣議決定を反映させる考えだ。日米間の合意で法律を整えることが既成事実になり、国会審議が後追いするようなら順序が逆である。
首相は、与党で過半数の議席を確保し、信任を得たとして法整備を進めたいのだろう。
待ったをかけられるか、衆院選は正念場になる。
信を問うと言うなら
集団的自衛権の憲法解釈をめぐる国会審議で首相は「最高責任者は私だ」と強調した。「その上で私たちは、選挙で国民から審判を受ける」とも述べている。
しかし、今度の衆院選で安保政策を積極的に争点にしようという姿勢は見られない。
衆院解散を表明した記者会見でも、解散後の会見でも、首相が自ら言及することはなかった。質問を受けて「公約にきっちり書いて堂々と戦っていく」などと答えただけだ。
その公約はどうか。「集団的自衛権」の文字は書き込まれていない。「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備」といった大ざっぱな記述にとどまっている。丁寧な説明には程遠い。
選挙戦を通じ、詳細をはっきりさせる必要がある。
まず問いたいのは、自衛隊の任務がどこまで広がるのかだ。首相は国会で、中東・ホルムズ海峡で紛争中の機雷の除去も選択肢になるとの認識を示した。国際的には武力行使と見なされる。これが可能なら、世界中どこででも武力を行使できることになる。
公明党は「個別的自衛権に匹敵するような集団的自衛権」(山口那津男代表)に限って認める考えを示しており、隔たりがある。閣議決定は、自公がそれぞれ都合よく解釈できる玉虫色のものだ。与党間の溝を隠して衆院選に臨むことになる。
集団的自衛権を行使できるようになれば、米国の要求で「海外派兵」を余儀なくされることも考えられる。自衛隊の他国での戦闘が現実味を帯びる。
疑問点に答えず、通り一遍の説明を繰り返しても国民の判断を仰いだことにはならない。
公明党の公約も曖昧だ。「閣議決定を適確に反映した内容となるよう、政府・与党で調整しつつ、国民の命と平和な暮らしを守る法制の検討」を進めるとした。海外での武力行使についてどう考えるのか、具体的な説明を求める。
▽野党はどう対応する
行使容認をめぐる論議で、野党は蚊帳の外に置かれた。1カ月余りの与党協議で決まっている。国会での審議は答弁が質問とかみ合わず、形ばかりだった。各党は立場を明確にして選挙戦で与党に切り込まなくてはならない。
民主党は、閣議決定の撤回を公約に盛り込んだ。「立憲主義に反する」との理由だ。憲法は権力を縛るものなのに、時の政府が意のままに解釈を変えられるようでは骨抜きになってしまう。この点に異論はない。
一方で、「日米同盟を深化」させるとしている。自衛隊と米軍の一体化を進める自民党との違いについて説明が必要だ。
維新の党は「自国への攻撃か他国への攻撃かを問わず、わが国の存立が脅かされている場合」に憲法下で可能な「自衛権」行使の在り方を具体化し、必要な法整備を行うとする。
共産、社民両党は閣議決定の撤回を迫っている。法整備をどう阻止するのか、野党の連携など具体策を示してもらいたい。
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