晴れ時々休み

雨でも晴れでも地球は回る。夏でも冬でも日は昇る。だから一歩ずつ時々休んで前向いて歩く♪

・9月の夜の都会の空

2007-09-25 | ●読書百変


十五夜。会社のベランダから西新宿方面の夜空をあおぐと満月。うまい具合に雲を引き連れての中秋の名月だ。

高層ビルの上空に浮かぶ月を見ると思い出すのが「六月の夜の都会の空」。学生時代に読んだ稲垣足穂の、どの本だったかに、内容はほとんど覚えていないけれど、この言葉だけは多感な、まだ柔らかだった心になんだかずきっと突き刺さって、破片がいつまでもとれずに残っていた。

坂口安吾の「桜の森の満開の下」と同じくらいに、個人的にはインパクトのある言葉。先日久しぶりに読み返した足穂の文庫「一千一秒物語」の「弥勒」(みろく)に「六月の夜…」を見つけて小躍りし、忘れないうちにとメモしておいた。

主人公の江美留(えみる)の友人のIが、昼休みの教室の黒板に走り書きした言葉が「六月の夜の都会の空」だったのだ。Iは続けて、「エーテルは立体的存在の虚空に七色のファンタジーを描き、球と六面体から成立した紳士は、リットルシアターの舞台で直角ダンスを演じて…」と書いたメモを丸めて江美留に投げた。未来派絵画なのだ。

そうそうそんな不思議な、わけのわからない展開だった。「一千一秒」には他にも「黄漠奇聞」「天体嗜好症」「星を売る店」「美のはかなさ」そして「A感覚とV感覚」などが収録されている。タイトルだけでわくわくしてむさぼり読んだ記憶が刻まれている。すり減った道しるべの道標くらいの刻印だけれど。

「六月の夜…」は「美のはかなさ」の第一部のタイトルにも使われていた。足穂も気に入ったのだ。「弥勒」は1940年に発表されていて、「美のはかなさ」は1952年だから、ずっと心に残っていたのだ。

言葉の初出、ストーリーの輪郭がわかってようやくすっきりした、九月の夜の都会の空に真ん丸お月様ゆれる。

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2 コメント

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Unknown (axbxcx)
2007-09-26 11:41:28
昨晩は、妻と二人で散歩に出て、十五夜だということに気づきました。 何でもない下町・住宅街なのですが、ちょっと歩くとエンジェルス・トランペットの咲いている家が何軒もあったり、微妙に姿を変えて行くところがいいですね。 先日、2泊3日で周防大島と尾道に行ったときも、日本の風景を堪能できました。
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満月の夜道>axbxcx (saki)
2007-09-26 17:15:17
二人で夜の散歩、いいですね
夜中に原稿書きなどしていて、煮詰まったら一人で
多摩川の橋を渡って土手まで散歩に出ることもある
のですが、街灯に照らされた草むらから虫の声が
りんりりんと聞こえると、ああ秋だなあと思います
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