晴れ時々休み

雨でも晴れでも地球は回る。夏でも冬でも日は昇る。だから一歩ずつ時々休んで前向いて歩く♪

鍵のかかった日記帳

2010-04-01 | ●読書百変
さあ今年こそ、と決意を秘めた正月はすでに時の彼方に過ぎ去り、寒さにふるえた冬もそろりと姿を消して、4月1日。勤めていたころはそれなりに意味のあった新年度だけれど、ひとりになれば決算書を作る必要もないし融資の書類をそろえることもない。それでもまたもう一度夢を描いてさあこれからと、新しいことを始めるにもきりのいい季節だ。

文春文庫の企画、「心に残る物語・日本文学秀作選」の1冊、桐野夏生編「我等、同じ船に乗り」を読了。収録されているのは、島尾敏雄、島尾ミホ、松本清張、林芙美子、江戸川乱歩、菊池寛、太宰治、澁澤龍彦、坂口安吾、そして谷崎潤一郎、とそうそうたる面子がそろっている。実はこの中で一人だけ、今回初めて読み通した作家がいる。谷崎だ。

中学の終わりころだったか、学校の図書館の文学全集を読破する計画をたてて、もちろんすぐに頓挫したけれど、それでも新しい世界に目を開かれた記憶がかすかに。なんだから耽美的で官能的な作家らしい谷崎潤一郎作品も、どれだったか覚えていないが、手にしたはずだ。大谷崎なのだから、とページをめくったものの、生理的に肌にあわない文章もある。

明治19年(1886年)生まれの谷崎の少しあとの世代だけれど、明治33年、1900年生誕とさほど歳の離れてはいない稲垣足穂の作品は、高校以降だけれど読みふけったし、今でも好きな作品がたくさんある。だから時代の空気があわないわけではきっとない。やはり粘着質(と思える)文体は、中学、高校生の「感性」には違和感があって、すーっと世界がしみこむことがなかったのだ。

収録されていたのは「鍵」。「夫と妻の日記を、互いが盗み読み、盗み読まれることを知って日記を書き…」(桐野夏生あとがき)という内容だ。大学教授の夫の日記は漢字カナまじり文でさっとは読めずに神経使うけれど、中身は夫婦の閨房、性生活にまつわること「だけ」だからつい引き込まれる。にしてもすさまじい。夫はこの日記をこっそり読んでいるに違いない。自分に読まれることを願って、引き出しの鍵をわざと床に落としてあるのだ。と虚々実々の夫婦の心理戦。

たいそう疲れるし、続けて別の作品も読みたいとは思わなかったけれど、面白かった、鍵をかけた赤裸々な日記。今の時代なら、夫婦それぞれが盗み見た携帯のメールをきっかけに、こんな作品ができるかもしれない。写真は御岳渓谷遊歩道で見つけた、絡みあうヤマフジ。どこが根っこでどこに絡みついてどこに向かって伸びているのかわからない、いわば「卍」(まんじ)のイメージだ。
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