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「無気力や不安で不登校になる小中学生が急増中」

2024-02-29 08:11:36 | 日本

◎昔ならあり得ない3つの要因

小中学生の不登校児童生徒は30万人に迫り、過去最多を更新中だ。不登校の主な動機は原因不明の「無気力や不安」とされ、教育現場や行政も解決の決め手を欠いている。そして一度は復学したものの、最終的に自殺を選んでしまう児童も多いという。いま教育現場で何が起きているのか――。(フリーライター 岡田光雄)

「小学校で担任教師だった頃、約4年間も不登校気味の男子がいました。その子に、校舎の写真をプリントアウトした用紙とカラーペンを渡して、『今日の君にとって、学校はどんな風に見えるか描き加えてみて』と提案したところ、彼が描いたのは校舎に牙と角がはえた絵でした。一部の子どもにとって、学校はそれほどに恐ろしい場所なんです」

そう語るのは、白梅学園大学子ども学部子ども学科で教鞭を執る増田修治教授。28年間、小学校教諭として教壇に立ち、現場の最前線で多くの不登校児と向き合ってきた経験を持つエキスパートは、年々、複雑化する学校問題に危機感を募らせている。

昨年10月、文部科学省は2022年度版の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」を発表した。それによると、不登校中の小中学生の人数は29万9048人(前年比22.1%増)に達して過去最多となり、不登校の要因は「無気力や不安」が51.8%と過半数を占めた。

「こうした不登校児が増えた原因について、文科省はコロナの影響で学校へ行く機会が減って友達や楽しい思い出が作れず、生活リズムも崩しやすくなったからだろう、と見立てているようです。しかし、コロナが一番の原因ではないと分析しています。いまの子どもたちは、学びの有用感を喪失していたり、学校に息苦しさを感じているんです。

子どもたちはちゃんとSOSのサインを出しているんですよ。一昔前の教師の中には、朝の出席確認の返事などで、生徒の声色や顔色のちょっとした変化に気づいて、不調を見分けられる人もいました。ところが、最近は文科省の推進もあって、出席確認や授業もパソコン・タブレットで行う学校が増えましたから、生徒の異変に気づくことが難しい。SOSに気づいてあげられる大人が周りにいなければ、子どもはどうすることもできない。そんな不条理を目の当たりにして、どんどんやる気を失っていくんです」(増田教授、以下同)
無気力や不安の元凶とされる学校生活での息苦しさについて、もう少し深堀してみよう。


◎がんじがらめのマニュアル

児童が息苦しさを感じるのには、主に三つの要因があるという。一つは、いきすぎた「指導マニュアル」だ。
「近年、それぞれの小中学校は 、スタンダードと呼ばれる独自ルールを事細かに設けています。中には、学校へ持参していい鉛筆は5本と指定していたり、自主勉ノートをやってこなかったら罰を受けると誓約書を書かせたりと、意味不明なルールも見られます。いまは経験不足の若い先生が増えていることもあって、即効性のある指導マニュアルをどこの学校でも取り入れているんです。それにスタンダードを設けていれば、万が一保護者からクレームが入った場合、『他の皆さんも同じように、学校のルールを守って頂いているので、ご了承下さい』と答えることもできますからね。いずれにせよ、生徒がこれを窮屈に感じるのは当然のことでしょう」
同様に、授業のマニュアル化も進んでいるという。

「多くの学校では、答えに最短で辿り着く学びに重点を置いているため、児童が暗記に走りやすい指導法がマニュアル化されています。どうしてその答えになるのか、理由や原理を考えさせずに、教師が一方的に授業を進めていくやり方です。一人でも多くの在学生を学力上位校に合格させるためには、それが最も効率的ですからね。とはいえ、人には得手不得手があるもの。たまたま暗記が不得意だった子は、勉強に苦手意識を持つようになり、クラス内で“落ちこぼれ”の烙印を押されて、ヒエラルキーも落ちてしまうんです。
例えば、授業で先生が『じゃあ出席番号17番の~~さん、この問題の答えをみんなの前で発表して』というときがありますよね。もしその子の回答が間違っていた場合、教師によっては『~~さんはこう答えたけど、他のみんなはどう思う?』とクラス全員にふって、『ちがいまーす!!』といわせてしまうことがあります。あれって、答えを間違えた子はものすごく傷つくし、クラスメイトにばかにされる一因にもなり、教室での居心地がどんどん悪くなっていくんです。

一方で、学校は授業の進行スピードをクラスの平均値に合わせて進めていきます。そのため、暗記が得意な子や理解が早い子は、なかなか進まない授業に退屈して “吹きこぼれ”ていき、学校の必要性を感じなくなってしまう。最短で答えを求めるようにマニュアル化された指導法は、結果として落ちこぼれと吹きこぼれの両方を生んでしまっているんです」
こうした現状に嫌気がさして、不登校になる児童が増えることは想像に難くない。

◎ゴールが見えない学びの継続
二つ目の息苦しさの要因は「受験競争の早期化」だ。そのストレスのせいか、いまの児童は小学校に入学前の段階から荒れているという。前出の文科省の資料で、小学1年生を06年度と22年度で比較すると、「暴力行為」の件数が123人から6569人と53.4倍に、「いじめ認知件数」も6504人から10万4052人と15.9倍に膨れ上がっている。
「00年以降、6年間で中高一貫の教育を行う『中等教育学校』が増えはじめたことを皮切りに、小学校入学前から“お受験”教育を施される児童も増えていきました。その結果、日々の勉強に追われるストレスで暴力行為に走ったり、クラス内でヒエラルキーが低い子をいじめたりする子も出てきています。そうした中、子どもたちの間では、歪んだ自己責任論も流行しているようです。勉強ができないのは自己責任、いじめられるのも自己責任……。こうした自己責任論は大人の社会にも見られるため、それを見て育った子どもはヘルプすらもいいにくい状態なんでしょう」

三つ目の要因は、ゴールが見えない「学びの継続」だ。

「勉強に嫌気がさして不登校になっても、すぐに再登校を強いられたり、フリースクールへ入学させられたりする。もっとも、親御さんにしてみれば、それも仕方のないことでしょう。できるだけ子どもの将来のキャリアに傷をつけたくありませんし、親自身も就業中のキャリアを捨てて、不登校の子どもをつきっきりで面倒みるわけにもいきませんからね。
またフリースクールへ通わせるにしても、平均毎月3万円以上の授業料がかかります。それならば心のケアを目的とした学校よりも、名門塾経営のサポート校を選びたくなるのが親心。一方で、貧困層の家庭の子どもは、フリースクールへも通えず、再登校を余儀なくされてしまう。学校へ行く行かないにかかわらず、児童は学びの継続を求められるばかり……」

もっとも、いまのこうした風潮は、文科省が取り組む「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」(COCOLOプラン)が原因の一端を担っていると、増田教授は指摘。「COCOLOプランは、不登校児に対して“学びの継続”を推進する指針であり、心の問題がなおざりにされている」という。





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