龍の声

龍の声は、天の声

 第7話「雲、流れる果てに」

2024-07-01 12:24:03 | 日本

寝苦しい夜、中々寝付かれない。静寂な夜に、柱時計の時を刻む単調な音だけがやたら気になり、眼が冴える。やがて3時を回り、白々と夜明けが少しずつ明ける朝ぼらけ。
もう直ぐ、松本中尉の愛機が姿を見せるのか?そう思うと寝てはいられない。父はどうやら一睡もせず徹夜したらしく、何度も生あくびをしていた。
その父が、日の丸にない、屋根の上へ上へと登って行った。私も父の元へ、と見上げたら、「危なかけん、お前は下で見送れ!」とたしなめられた。

今か、今かと待ち焦がれていると、「ブーン・・」とエンジン音が聞こえてきた。そして音が近づくにつれ、裏の山陰から遂に機体を現した。低空で一回、二回と旋回する。やがて名残りを惜しむかの如く、「永遠の別れ、サヨナラ・・」のサイン。両翼をバンクさせながら南の空目指して飛んでいった。
とうとう行ってしまった。父は、大旗を振り続けたせいで疲れ果てたのか、屋根にまたがってうつむき、涙を拭っていた。

私は、尊い若鷲たちの「命」の瞬間を脳裏に刻み、彼らの軌跡を感謝の思いで、後世に伝えなければならない。それは青春も知らずして国に殉じた若者たちへの鎮魂の思いもあり、二度と不幸な戦争の轍を踏まないよう。平和と豊かさを誇る日本が今日あるのは、幾多の尊い犠牲の上にあることを。
我々は忘れてはならない。そしてこの事実を、我々は後世に伝えなければならない。先人たちへの感謝の念を常に、胸に抱き、生きていかねばならない。







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