産経新聞編集局編集委員の久保田るり子さんが「韓国大統領選、有力4候補の反日度を測ってみる」と題して掲載している。
以下、要約し記す。
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大統領選をめぐる政局が本格化した韓国に1月中旬、国連前事務総長の潘基文氏(パン・ギムン、72)がやる気満々で帰国する。すでに与党は非朴派が離党して分裂、1月末に新党を正式に結成、潘氏の擁立を目指す。年末の世論調査では次期大統領への“支持率”トップに潘氏、次点に野党前代表の文在寅氏(ムン・ジェイン、63)、3位に「韓国のトランプ」の異名を取る李在明・城南市長(イ・ジェミョン、52)、4位に野党「国民の党」前代表の安哲秀氏(アン・チョルス、54)がつけているが、誰が当選しても「朴槿恵政権の否定」が政治の“正当性”を担うことになりそうで、日韓関係の悪化が懸念されている。
朴槿恵大統領(パク・クネ、64)の弾劾審査に入って以来、朴政権の政治的成果を否定する動きが相次いでいる。人気ナンバー2の文在寅氏の母体、野党「共に民主党」は与党分裂で第1党に躍り出たが、日韓合意については党幹部が「屈辱的な(日韓)慰安婦合意は政権交代後、必ず無効にする」と発表、「朴政権が推進したこの合意は韓国外交史の屈辱的な記録」と批判している。
盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の流れをくむ「共に民主党」は親北反日色が強い。日韓合意について、弾劾審判がこれから、という現時点でも「朴政権は国民の審判を受けた。屈辱的な慰安婦合意も断罪に含まれる」などと過激だ。進歩陣営の中道に色分けされている野党「国民の党」も日韓合意には反対で、朴政権が倒れれば「日韓合意は再交渉すべきだ」との立場だ。
一方、潘氏の立場は国連事務総長時代には朴大統領に近かったため日韓合意を歓迎、評価していた。しかし、その後は発言していないため不透明だ。潘氏は盧政権の外相時代から「油うなぎ」のあだ名があり、思想信条より世論に左右される典型的なポピュリストである。事実、朴政権初期の対日強硬だった時期は自身も反日発言を行っていた。
人気急上昇中の李在明・城南市長はすでに反日色を鮮明にしている。慰安婦に関する日韓合意は「国家的に合意できる事案ではない。国の越権行為だ」「被害者がいるのに政府がなぜ合意できるのか」などと語り、「国家間合意の最低限の条件を満たしていない」と全面見直しを主張している。
4候補のいずれも朴槿恵政権を全面否定している韓国の政治状況からすると、次期政権での日韓関係は厳しいスタートになりそうだ。最も強硬なのは文在寅氏で、次いで李在明氏、さらに安哲秀氏、潘基文氏だが、文氏、李氏は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)への反対も表明している。
韓国外交筋は「日韓の政府間合意は政権が変わったからといって、そう簡単に覆るものではない」としているが、「不可逆的」とした約束が守られる保証はないのが現実だ。
◎有力4候補それぞれの人柄、傾向、背景は?
潘基文氏は国連事務総長として最悪の評価だった。最も評価を下げたのは職務の中立性だ。
国連に多くの韓国人を縁故採用して顰蹙(ひんしゅく)を買い、国連職員組合が批判文書を出したほど。さらに政治的にも事務総長というより自己アピールが目立った。ロシアのクリミア併合で国際社会がロシア批判を強めるなかで、潘氏はモスクワ対独戦勝記念式典に出席、中国の対日戦勝70周年式典にも出席している。しかし、核問題や難民問題への関与はせず、ニューズウィーク誌に「その無能は際立っている」と非難された。ただ、北朝鮮訪問には並々ならぬ意欲を見せており、大統領に就任すれば親北路線への傾斜が憂慮されている。
文在寅氏は潘基文氏を上回る。文氏は親北というより筋金入りの「従北」といえる。盧武鉉氏と弁護士時代からの知己で側近として青瓦台に入って大統領秘書室長を務めた。最近、とんでもない事実が明らかになっている。2007年国連の北朝鮮人権決議案の採決をめぐって文氏が「事前に北朝鮮に連絡して意向を聞いていた」と当時の外相が回顧録で暴露したのだ。
大統領候補として文氏は「韓国の大統領は(就任後)無条件に米国に行くべきという固定観念を克服すべきだ」として「大統領に就任したら、米国よりまず北朝鮮に行く」などと堂々と発言している人物である。
「韓国のトランプ」こと李在明氏はこんなことを言う。「われわれを侵略し独島(竹島の韓国名)への挑発を続けている事実上の敵国、日本に軍事情報を無制限に提供する協定を締結するなら、朴槿恵は大統領ではなく日本のスパイだ」
李氏は弁護士出身。韓国の代表的な進歩市民運動「参与連帯」の創始者で現在のソウル市長、朴元淳氏(パク・ウォンスン、60)に近い思想の持ち主とされている。ソウル近郊の都市、城南市長を務めるが、市長選の折には韓国の従北政党で北朝鮮との関係から朴槿恵政権で解散させられた政党、統合進歩党と協調するなど、この人の“親北度”も相当のものだ。
安哲秀氏はソウル大で医学学位を持つ一方、韓国最大のコンピューター・セキュリティー会社を起業。2011年、政界に彗星(すいせい)のように現れた当時は「安ブーム」を起こした。既成政党と距離を置く中道左派。だが、2012年の大統領選で立候補せず時流にのれなかった。2015年に次期大統領選出馬を表明、その後新党を発足させた。政界再編の現在、非朴派与党との合流も取り沙汰されている。
大統領選は、朴槿恵大統領の弾劾審判がいつ出るかで決まる。崔順実被告(チェ・スンシル、60)の裁判、特別検察官審理との兼ね合いから、審判の時期は今年3~4月説が有力。それまでの政界再編、野党一本化、潘基文氏の去就をめぐる動き-などが年始から本格化することになる。