彩彩日記 作詞家/シンガーソングライター 大塚利恵のブログ

※こちらは旧ブログです。
新ブログ https://ameblo.jp/rieotsuka-officialblog/

大塚利恵の歌解説vol.11「朝」

2020-10-06 18:55:33 | 大塚利恵の歌解説
『DISCOVER the 90's”第9弾アーティストとして、”大塚利恵”のサブスク全曲配信』
を記念して、オリジナルソングの歌詞と解説を、一曲ずつご紹介しています♫

1st.Album「Oh Dear」(98年11月21日リリース)からのご紹介ラストとなるvol.11は、「朝」。
アルバムの最後に収録されている曲。
高校時代に作りました。

ぜひ一度お聞きになってから読んでみてください♫
試聴はコチラ



作詞作曲歌:大塚利恵
編曲:福原まり

明日も誰かに朝が来ればいいと思う
静かに したたり落ちるように
美しい命の姿が 生きている朝よ

ぜいたくな歌をわたしは心から歌う
あいまいな声で「ごめん」と繰り返しながら
いつの日か 言葉もメロディーも
わたしを思い出させてくれる気がして

朝が来たら 朝が来る度
幸せを思うよ

朝が来たら 朝が来たら
朝が来たら 朝が来る度
幸せを思うよ

たくさんの花を抱えて
やって来なくていいの

朝が来たら 朝が来る度
幸せを願うよ




歌作りのエネルギーが湧き上がってきた時。または、湧き上がらせようとしていた時。
何か生み出そうとしてるのだけど、それが何かははっきりとはわからない。
よし、このテーマで作るぞ、と計画的に取り掛かった歌は(自分用の歌に関しては)ないと思う。
でも必ず生み出すぞ、というような興奮状態で自分の部屋に入り、ノートを持って部屋の中をウロウロしながらこの歌を作った記憶があります。

「朝」という歌は、私なりの生き方というか、覚悟、そして精一杯の祈りだったのだろうと思う。
でもほんと、笑っちゃうくらいに今でもこのまんま、自分の真ん中は変わっていない。
他の人からは、「すごく変わったね」とも言われるし、「全然変わってない」とも言われる。
みんな感覚も見てるところも違うから仕方ないのだけど、あまりに真逆のことを言われるから、変なの、と思う。
でも自分で「自分の真ん中は変わってないな」と思えることは心強いし、生きる糧になります。
まずは、自分自身のために音楽があって良かったなーと思う。
こういう曲達をあの頃作っていなかったら、大人になってから私は普通に立ってもいられなかっただろうから。
だから、私の歌は「あなたのために作ったよ!」というより「おすそ分け」みたいなものなのかもしれないけど、
結果としてどなたかのお役に立てたり、気に入ってもらえているなら嬉しく思います。

私にとってはそれが一番正直な歌作りなのだけど、当時は、それで100%誰にでも伝わるはず、と思っていました。
同じ人間だから、伝わるはず、と。笑
だから、結構伝わらないもんなんだなと知って、単純にとても傷ついたし残念だった。
ファンが喜ぶものを、クライアントに求められるものを、という曲作りもあるわけで、もちろん否定はしません。
その後、作家としてはそういう世界でもお仕事させてもらってるし。
ただ、正直な曲作りを絶対に忘れたくはない。
私の場合は、それをなくしたら音楽をやる意味を失ってしまうと思うから。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この歌は、福原まりさんのアレンジ&ピアノ。
ストリングスとピアノのクラシカルな演奏に、サビからハープが加わり、歌詞に合わせて希望の光が広がるような、美しいアレンジです。
ハープの名手中の名手・朝川朋之さんがフィーチャーされています。

ビョークの伝説的アルバム「Debut」の中の「Like Someone In Love」が大好きだったから、まりさんにそうお願いしたのか、たまたまだったのかは忘れたけれど。
ビョークのこの曲は、雑踏の音を背景に、歌とハープだけの夢のような世界。(少しストリングスも入ってくる)
コーキー・ヘイルという女性ジャズ・ハーピストだそうで、確かNYのマンション高層階に住んでいて、ご高齢になってもベランダでタバコをふかしながらハープを演奏するって話を雑誌で読み、ひゃーかっこいいなと思っていました。(記憶違いがあったらごめんなさい。)
ハープって、人魚で姫なイメージが強かったからこそ、真逆なエピソードがかっこよく思えたのだと思う。

ちなみに、2nd.album『東京』の中の「イレイサー」という曲ではさらに朝川さんのハープがフィーチャーされていて、ハープと歌だけで始まるのですが、それは間違いなく「Like Someone In Love」を意識してのアレンジだったと思います。
その話はまた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

歌に解説なんか要らない、というのが本心ですけど、あえて「歌解説」としているので、くどくど歌詞を解説してみます。

明日も誰かに朝が来ればいいと思う
静かに したたり落ちるように
美しい命の姿が 生きている朝よ

>地球とか、脈々と受け継がれていく命とか、大きな流れのこと。
自分がいてもいなくても、今まで続いてきた、これからも永遠に続いていって欲しいもの。
と書くと、エゴがなくて素晴らしい!と思われそうだけど、エゴなんてあるに決まってるじゃないですか。笑
真実を求めるなら、そう思うしかない、そう思える自分でいたい。
そんな感じです。

ぜいたくな歌をわたしは心から歌う
あいまいな声で「ごめん」と繰り返しながら
いつの日か 言葉もメロディーも
わたしを思い出させてくれる気がして

>平等ではない世界で、自分のちっぽけな世界を精一杯歌う。生きる。
後ろめたさもある。でもだからって歌うことをやめない。生きることをやめない。
自分の喜びに素直に、でもなんて贅沢で申し訳ないんだろうと思う。
「生まれてごめんなさい」と思う。
こんなんでごめんなさい。
でもきっと、わたしはわたしでいるしかない。
そんな思いで紡いだ歌が、結局、何度も自分の真ん中-真実-を思い出させてくれることになる。
自分を生かしてくれる。

朝が来たら 朝が来る度
幸せを思うよ

>朝が来た時に感じる幸せ。
どのくらいそれを感じられるかはそれぞれ違うでしょう。
状況にもよる。
でも、ささやかでも、ほんの少しでも感じられているなら、それでいいじゃない。
例え全く幸せを感じられなくても、「幸せを思って」みることから始めてもいいじゃない。

朝が来たら 朝が来たら
朝が来たら 朝が来る度
幸せを思うよ

たくさんの花を抱えて
やって来なくていいの

>いかにも豪華とか、人と比べてすごいとか、そんなことはどうでもいい。
本当の幸せを感じられる自分でいたい。

朝が来たら 朝が来る度
幸せを願うよ

>「思う」は自分が思う・感じるということ、「願う」は自分だけじゃない幸せを願うということ。
冒頭の、「明日も誰かに朝が来ればいいと思う」という気持ちと繋がります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

歌の結末は、「その時の自分の答え」であることが大事。
一般的な結論でもなく、正しい答えでもなく、無責任に投げかけて終わるのでもなく。
ただし、精一杯の答えであること。
それがアーティストとしての歌作りの掟なのでは、と思っています。
例えいつかその答えが変わってしまったとしても、きっといいんです。
それに、意外とコアのコアのコアは変わらない。
今のとこそう思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さて、これで1st.Albumまでの楽曲解説が全曲終わりました。
2nd.Album「東京」は、また全く違うチームで作られたアルバムです。
今回、その音源も配信になったので、引き続き解説していきたいと思います。
よろしければお付き合いください。


大塚利恵の歌解説vol.10「Human」

2020-10-05 17:25:37 | 大塚利恵の歌解説
『DISCOVER the 90's”第9弾アーティストとして、”大塚利恵”のサブスク全曲配信』
を記念して、オリジナルソングの歌詞と解説を、一曲ずつご紹介しています♫

vol.10は、1st.Album「Oh Dear」(98年11月21日リリース)収録曲「Human」。

ぜひ一度お聞きになってから読んでみてください♫
試聴はコチラ


Human
作詞作曲歌:大塚利恵
編曲:土方隆行


こんなに汚いところにいたら
全てが美しく見えてくるよ

こんなに淋しい心でいたら
誰もが味方に思えてくるよ

こんな悲しさと向かい合ったら
毎日楽し過ぎると泣けてくるよ

ああ新しいものが
僕を包んでいく
僕の心を包んでいく

こんなに高いところにいたら
ここが宇宙のおわりみたいだ

こんなに大きな愛を見つけたら
全てが愛じゃないみたいだ

でも君が死んでしまったから
僕は君が生きていたことを知った
僕が生きていることを知った

ああ新しいものが
僕を包んでいく
僕の心を包んでいく

ああ新しいものが
僕を包んでいく
僕の心を包んでいく

いつもいつも
思えば思うほど
探せば探すほどに





茨城の高校生だった頃に書いた曲だと思います。
まだコードネームを勉強する前。
コードってとても便利なのだけど、だからこそ、合理的すぎて魔法が起こりにくいとも思う。
例えば、Cのコード(ドミソ)をバーンと鳴らして、適当に歌えばいくらでもメロディはできるのだけど、そこからの発想だけだとなかなか面白くなりにくい。

コードを知らずに、自分の求める響きを探して長い時間ピアノと向き合って、感覚で見つけ出した時の喜び。
基本的にはどんな響きにもコードネームって付けられるのだけど、コードから探していったのでは決して見つからない絶妙な響きがある。
能率は悪かったと思うけれど、コードネームを知る前に、決めつけのないイメージと音の海で十分遊ぶ時間を持ったことは、私自身の創作の土台を作る上でとても良かったと思っています。
理屈から入らなくて良かった、ということ。(私の場合は、ですが。)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

音大(商業音楽の作曲科でした)に入ると、初回の作曲の授業でコードネームを習いました。
一時間だけです。
そのくらい、コードってそんなにないし、仕組みを知ったらあとは使って慣れるしかない。

コード自体は単純なものだから、イメージを削ぎ落とされてしまわないように気をつけないと、曲作りが作業になっちゃう。
私のところに音楽を習いにきてくれる生徒さんたちにも、イメージを大事にすること、型にはまらないこと、自由でいること、自由には不安がつきものだけど、不安だからって理屈で単純化しようとしないこと等、自分の経験を生かしてコアなことを伝えるようにしています。
私は、音楽に関しては、つまらないのが一番嫌なんです。笑
あとは嘘。
どんな状況でも、作っている音楽の真ん中には純度100%の喜びがなくちゃ、と思っています。
そこにこだわっても、実際あんまり気づかれないけど。笑
それは仕方ないんだろうなと思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さて、「Human」つまり人間がテーマの歌なのだけど、私はこの歌詞のようなことを悶々と考え続けている10代でした。
人間の本質とか、生きる意味とか、真実とか。
そこを素通りして生きていくことは無理でした。
その後、ヨガに傾倒したのも、自然な流れだったと思える。

よく、考えていることを言葉にすると、頭の中では壮大だったのに、チープになってしまったり、うまく表現できなかったりしますよね。
私もそれを補うべく音楽の力を利用して、なんとかイメージを形にしようとしていました。
言葉で表現することが得意だったのではなくて、音楽の言葉だったらイメージを形にできると思ったわけです。

イントロからずっと八分音符でうねうねしているギターのリフは、もともとピアノで弾いていた雰囲気に近いです。
サビは、ピアノで作った時より爽やかでキャッチーな印象。
「宇宙」な感じがサウンドのポイントで、作曲した時も浮遊感を意識して音を探していたと思います。
それを汲みつつ、アレンジャー&ギタリストの土方隆行さんが少し「割り切れる」方向に近づけてくださったのかな、と思います。
一般的に伝わりやすい方向、と言うか。
そういう意味では、元のピアノ弾き語りはもっとディープだったかもしれません。

ライブでやるために、バンドメンバー用にコード譜を書いたこともあったけど、
コードに収まったーここのコードはこれだーと思ったら、スルスルとグラデーションで移ろいでゆく。
そんな感じの曲です。

どの歌詞もそうなんですが、考え方として、「この頃はこう思ったけど、今はそう思わない」ということはまずありません。
表現に関しても、こういう表現は古くなっちゃったなとか、時代を感じるということもないかな。
10代から、ほんとのことだけ書こうと思ってやってきて、それだけはずっとブレてないのが私の取り柄かなーと思う。
「Human」の歌詞を今改めて見てみても、ほんとにその通りだなって思うんです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

一番汚いもの
一番淋しい心
深い悲しさ

どん底の当事者になった時。
それと真っ向から向き合った時。

汚さと美しさ
淋しさと救い
悲しさと楽しさ

極端な比較が自分の中で起こった時。
その時初めて気づくことがあり、
その気づきが新しい世界をくれる。
そうして心は磨かれていく。
真実の‘愛’も磨かれていく。

大事な人ほど、亡くしたら辛いけれど、何よりも強く‘生’を教えてくれる。
私たちは止まらない。止まれない。
恐れずに、振れ幅大きく、
求めて、受け止めて、揺れていく方が「Human」なのだと思う。