昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

英国 ロバーツ Swinging Radio R-550

2008-03-04 | 三流オトコの二流品図鑑
‘50年代に「Swinging Radio」の愛称で大ヒットし、そのままのデザインで復刻したビンテージスタイルの英国製トランジスタラジオがヤフオクに出品されているのを発見した。英国王室ご用達ラジオとしてロイヤルワラント(英国王室御用達)を下賜されているロバーツ社のR550である。 
        
        ▲英国王室ロイヤルワラント(英国王室御用達)ラジオ ロバーツ社 R550
 1932 年にハリー・ロバーツとレスリー・ビッドミードが創業したロバーツ・ラジオは、機械化が進んだ現在も手作りにこだわり、ヨークシャーにある工場で一つ一つ手作業によりラジオ製作を行っている老舗メーカーだ。
        
        ▲「Swinging Radio」の愛称で大ヒットしたオリジナルモデルR500
エリザベス女王からロイヤルワラントを名乗ることを許されたのは、 1955 年のこと。 10 年ごとに実施される再審査も無事クリアし、今もそのロイヤルワラントを維持しているだけでなく、現在はエジンバラ公を除く、皇太后、チャールズ皇太子のロイヤルワラントも下賜されている。まさに英国を代表する音響メーカーのひとつといって差し支えない。 
        
        ▲'50年代に発売されたオリジナルモデルR500の内部
 ロバーツ社のリバイバルモデルであるR550は、50年代に「揺れるラジオ」(Swinging Radio)の愛称で大ヒットしたポータブルラジオR500を、そのままのデザインで復刻したビンテージスタイルのラジオだ。キッチンで主婦が音楽放送を楽しむために考案されたともいわれる、そのランチボックスを彷彿とさせる可愛らしいスタイリングと、木製キャビネットならではの素朴で温かみのあるサウンドは、変わることのない英国を彷彿とさせる典型的なプロダクトとして定評がある。
 今回ヤフオクで落札したR550は、残念ながら写真のように合成皮革に傷がついている。ちなみにR550(R500)には、キャビネットを包むカバーに、ロールスロイスやベントレー等最高級車のシートや内装、高級鞄メーカであるタナー・クロール社の鞄の素材に採用されているコノリー レザーを使ったモデルもある。
        
        ▲入手したR550のキャビネットを包む合成皮革カバーに大きな傷が・・・
 キャビネットの裏蓋を開くと電池ケースは液漏れで汚れ、乾電池の金具は腐食しており通電しない。 
        
        ▲電池の液漏れで電池ボックスの金具は錆び付いていた
 基板は「よくできた台湾製か?」と一瞬疑いたくなる仕上りだが、由緒正しきイギリス製だ。
AM /FM/長波を受信する性能は装備されているものの、現在のラジオの基準からすれば化石のような製品であり、驚くほどシンプルな構造だ。その割に値段は、世界のラジオ受信マニアも認めるオールウェーブラジオSONY ICF-SW7600GRの実売価格をはるかに上回る。しかしコーンスピーカを採用した木製キャビネットからは、現在のハイテク機能搭載のラジオとも真空管ラジオともひと味違う、なんともいえぬエモーショナルで、実に耳に心地いいサウンドが響いてくる。
        
        ▲R500に比べ復刻モデルのR550の内部はスッキリ
 使う場所にもよるとは思うが、地元の放送を聴くラジオとしては、何の支障もない。やや大きめなサイズだが、ポータブルタイプだから、外に持ち出して、ブリティシュ・ガーデンのチェアに座りラジオ・プログラムに耳を傾けるにも好都合である。
        
 ラジオに限らず、人がプロダクトに求めるのは、 “新しさや進化” だけではない。高性能、多機能だけでもなく、ましてやコストパフォーマンスだけでもない・・・そういう当たり前のことを、このロバーツR550は静かに語りかけてくれる。
        
        ▲ロイヤルワラント(英国王室御用達)を下賜された復刻モデルR550
 ロンドンのデザインミュージアム初代館長であるコンラン卿は、著書「テレンス・コンラン デザインを語る」の中で、このロバーツを例に復刻品についての不思議な魅力について語っている。

「ベルノのびんからリキュールをグラスに注ぐとフランスのカフェの思い出の香りが蘇るように、復刻された製品には特定の時代と場所の香りが閉じこめられており、見ると思い出の香りが立ちのぼってくるように思えるのだ。おそらく私たちには、技術の進歩はもう十分だと感じる一線が存在するという暗黙の了解もあるのだろう」

 英国人は、このロバーツを見て、キッチンで鼻歌を歌っていたママの姿、恋人や家族とピクニックに出かけた光景を思い出したりするのだろうか。彼らの郷愁をかき立て、琴線をかき鳴らすロバーツの「リバイバル」には、英国の普遍のスタンダードとしての特別な一面もあるわけである。
        
 かつての名作R200の復刻モデル リバイバル R250と、このR550は、いずれもヨークシャーにある工場でひとつひとつ手作りで製造されているという。
        
 R550より一回り小さな復刻版R250は、「ロバーツラジオ」と花柄やパステルカラーなど、女性らしいデザインで注目を浴びている英国のインテリアデザイナー・Cath Kidstonのコラボレーションモデルとして英国の有名デパート「ハロッズ」や「ジョンルイス」などで販売されているようだ。
        
 またオーストリアの職人が1点1点手作業でスワロフスキーの装飾を施したのコラボレーションモデルなどもあり、凡人であるボクのセンスを超越している(笑)
        
 居酒屋1軒 or キャバクラ1セット分の飲み代を我慢して、今回入手したR500の復刻モデルR550は、伝統の英国へ思いをはせることのできる、きわめてまっとうなラジオだ。