私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

桜木紫乃『ラブレス』

2014-09-18 20:48:57 | 小説(国内女性作家)

謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていた──。彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出されるが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。一方、妹の里実は地元に残り、理容師の道を歩み始める……。流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。
出版社:新潮社(新潮文庫)




性格も真反対な姉妹を中心に、一人の女の一生をつづった作品だ。

大河小説と呼ぶに足る内容で、ともかくも雄大である。
加えてリーダビリティ満点で、物語も起伏に富んでおり、食い入るように読み進めることができた。
一言で言うならば、非常におもしろい作品である。



主人公の百合江の人生は波乱万丈としか言いようがない。

DVの絶えない家に生まれ、奉公先では手篭めにされ、やがて逃げるように旅芸人の一座へと飛びこんでいく。そこを辞め、平凡な生活の中に落ち込んでも、夫の借金もあって、なかなか幸運は訪れない。のみならず、娘まで失う始末。

こんな人生、傍目的には不幸としか言いようがないだろう。

だが百合江は、そんな現実に悲しみを抱いてはいるけれど、どこか諦めて生きているようにも見えるのだ。それがおもしろい。


そしてそれは、とかく現実に立ち向かっていく妹の里実とは正反対なのである。
この二人のキャラクター造形はおもしろかった。

そして総じて二人とも男運が悪いのである。まさにラブレスというような関係だろう。


そんなラブレスの果て、百合江は最終的に、老衰で死を迎えることとなる。
それは見ようによっては悲劇だ。

しかしそう感じさせないあたりは上手い。のみならずそこには、どこか救いすらあるのだ。
それが胸に静かに響く。



贅沢を言うならば、百合江と里実とが決定的に仲たがいする話も読みたかったし、百合江と理恵の衝突ももう少し丁寧に描いてほしかったし、綾子に対する思いも描いてほしかった気もする。

だが本作は、そんな不満を補って余りあるほど、パワーに溢れた作品だった。
それだけで本作は充分に評価に値する一作なのである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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