私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

2014-11-22 20:37:53 | 小説(国内女性作家)

「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」。わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信がもてない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった――。芥川賞作家が描く究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。渾身の長編小説。
出版社:講談社(講談社文庫)




本文庫の帯には「芥川賞作家が渾身で描く、究極の恋愛」と書かれている。
そういう観点からするに、本書のくくりは恋愛小説ということになるのだろう。
確かに主人公の「わたし」は三束さんという中年男性と出会い、恋をする。

だが僕個人は、本書に対して、恋愛小説という印象を受けなかった。
それよりも僕は、主人公が女性性というジェンダーを確認していく物語という風に見えてならなかったのだ。



だがそれを深く語る前に物語をふり返ってみよう。

出版社の校閲として働いていた「わたし」は社内のいじめの雰囲気に居づらさを感じていた。孤立していた彼女は、女性編集者との出会いをきっかけにフリーの校閲者となる。プライベートではほぼ孤独だった彼女だが、あるとき三束さんという中年男性と出会い、惹かれるものを感じる。やがて二人は喫茶店などで会うようになるのだが。。。
ってところだろうか。


「わたし」は友達もほとんどおらず、ファッションももっさい印象を受ける。
男ならニートになりそうな気もするが、女性なので、それなりに社会性の枠組みの中で生きている。
だがやや病んでいるのか、昼間からお酒を飲むなどのアル中のおっさんのような行動にも出たりする。

そんな彼女は、何も選択せず流されるように生きているところがある。
それが時として、人をいらだたせ、いいように利用されてもいるらしい。


そういう受け身の人のゆえか、周囲の人たちは、様々な自分の考えを「わたし」に向かって吐きだしていく。
特に際立つのがフェミニズム溢れる意見だ。
「わたし」が典型的な女らしさから幾分ずれているだけに、その意見が対照的なものに見える。

女として媚びを売ることへの女性視点での嫌悪、
強い女アピールに対する女性からのやっかみ、
女性の感情を無視して性暴力を振るう男の傲慢、
子どもを産むこと、そしてセックスレスとなった夫婦関係の戸惑いなど。

どれもが女性の持つ生きづらさを見せつけられるようだ。


そんな中で「わたし」が三束さんに惹かれたのは、三束さんが「わたし」に要求もせず、空気のように居てくれたからなのではないか、と思う。
要するに、男性性のかけらもない男なのだ。

そんな三束さんの影の薄さゆえ、「わたし」と三束さんのお話に、僕は興味は惹かれなかった。
だがそういう点から見ても、本書は女性性を主眼とした作品と見えなくもない。

そんな中で、「わたし」は三束さんとデートするためにおしゃれをしてデートをする。
最終的にその甘い展開は、こわれることになるのだけど。。。

最後の方の「わたし」と聖の言い争いの場面は怖くもあり、じんわりと感動できた。


しかしその果てに訪れるのは、男性のいない、女性同士のコミュニティを築く話と見えて、それでいいのか、という気もしなくはない。
しかしそれもまた「わたし」の生き方なのだろう。



ともあれ文字通り、女性らしい小説で、僕にはない視点も多く、個人的には楽しく読めた。
物語は繊細で、しんしんと心に響く点も魅力的。
川上未映子の良さを確認できた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



そのほかの川上未映子作品感想
 『乳と卵』
 『ヘヴン』
 『わたくし率 イン 歯ー、または世界』

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