仏教経典を片端から読破するのはあまりに大変だが、重要な教えだけでも知りたい―本書は、そうした切実な希望にこたえるものである。なかでも、釈尊の教えをもっとも忠実に伝えるとされる、「スッタニパータ」「サンユッタニカーャ」「大パリニッバーナ経」など、原始仏教の経典の数々。それらを、多くの原典訳でも知られる仏教思想学の大家が、これ以上なく平明な注釈で解く。テレビ・ラジオ連続講義を中心に歴史的・体系的にまとめたシリーズから、『原始仏典1釈尊の生涯』『原始仏典2人生の指針』をあわせた一冊。
出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)
仏典と書くと非常に難解な響きを持つものだが、中村元の文章は非常にわかりやすくて、すんなりと頭に入ってくる。それが本書の優れた点だ。
おかげで、特別難しいと感じることなく、原始仏教の世界とエッセンスを知ることができた。
素人としては本当にありがたい一冊である。
基本的に釈尊の思想の奥にあるのは、優しさなのだと思う。
他人に対して思いやりを持ち、謙虚であって、思想的に自分の方が勝っていると考えることをたしなめてもいる。
そんなスタンスを取るのは、あるいは、その考え自体が自己に対する執着だからかもしれない。
釈尊は、悩みの原因が自己に対する執着にあると考えた人だ。
それだけに、何かに囚われることのない、中道を生き、我執を離れた無我の境地を目指すことで、心の安寧をはかることを、ひたすらに説いている。
その姿勢は興味深く、共感を覚える面もあった。
そのほかにも形而上学に関する話題には沈黙をもって答えた、という話もおもしろく読んだ。
不可知論の立場を貫き、考えても仕様がないことにはかかずらわない。
そういった釈尊の姿勢は一貫していて、芯が通っているように見える。
個人的には釈尊の臨終の場面などは感動的で好きだ。
師匠の死を前に嘆くアーナンダに対する優しい言葉などは釈尊の優しい心根を見るようで、しんと胸に響いてならない。
「戦いで幾千の人々に打ち勝つよりは、一人の自己に打ち勝つものこそ最上の勝利者である」という『ダンマパダ』の言葉とか、ミリンダ王の問いのギリシア的価値観とインド的価値観との衝突なども興味深く読めた。
仏陀の思想について、素人なりに知ることのできる、優れた名著であろう。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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