ただ好きで、ただ会いたいだけだった。わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。正義感の強い彼女がなぜ? そして――梨花が最後に見つけたものは?! あまりにもスリリングで狂おしいまでに切実な、角田光代の傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛され、ドラマ化もされた第25回柴田錬三郎賞受賞作が、遂に文庫化!
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)
銀行に勤める女が一億円を横領する。その過程を描いた作品である。
著者はそんな女性を描くことで、「経済で何かを思い通りにできると無自覚に信じている」女を描きたかったように感じられた。
僕は基本的に理詰めで考える、わりに理性的な、理系の男なので、このような転落をとげた中年女性の感情をどうしても理解することはできなかった。
しかしさすがは角田光代だけあり、少なくとも読んでいる間は楽しめる。
感想を書くならそういうことになろう。
梨花の心情は大層リアルである。
子どもができないのに、子作りもせず、愛してくれる雰囲気もない夫に寂しさを感じている。
元々、梨花は考えすぎるタイプのようなので、よけいに悩んでしまうのだろう。
それに夫の、俺が養っているんだ、という無自覚のアピールにも結構傷ついている。
男なので共感はできないが、そんな彼女の心情はどこか苦しい。
そうして自分の人生に悩んでいる彼女は光太という若い男と出会い、彼に恋をする。
そこからの彼女は転落していくばかりだ。
最初は返すつもりで、顧客のお金に手を出し、そこからどんどん金銭感覚も罪悪感もマヒしていく。その姿はどこか怖ろしくもあるのだ。
そうして梨花は、男の心をお金をつぎ込むことで、繋ぎとめようとしている。
そんな金銭でつなぎとめる関係が正常であるはずもないのに、彼女はただ突っ走るばかりだ。
そんな彼女の行動は、愚かと言えばそれまでだろう。
男なので、そんな思考について理解に苦しむことは否定しない。
引き返せばいいのに、とも思った。どうしてそこまでしてしまうのだろう、とも思った。
だが彼女はそれができなかったのだ、どうしても。
その姿はあまりに悲しく、ただただ同情せざるをえなかった。
きっかけはいつだって些細なことなのだろう。
でも時にどうしようもなく、現状がこわれてしまうことがある。そんなことを感じさせる。
共感はやはり僕はできないし、彼女のことを理解できそうにない。
しかしただあまりに悲しい作品だと感じた次第だ。
評価:★★★(満点は★★★★★)
そのほかの角田光代作品感想
『対岸の彼女』
『八日目の蝉』
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