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初めてプリンストンを訪れたのは一九八四年の夏だった。F・スコット・フィッツジェラルドの母校を見ておきたかったからだが、その七年後、今度は大学に滞在することになった。二編の長編小説を書きあげることになったアメリカでの生活を、二年にわたり日本の読者に送り続けた十六通のプリンストン便り。
出版社:講談社(講談社文庫)
気楽に読めるエッセイである。
元々村上春樹はエッセイも上手いのだが、本作も作家の良さを存分に感じさせる内容だった。
海外で暮らしたときに、著者が感じたことについて書かれたものだ。
そのため日本に住んでいては、なかなか見られない風景も多くおもしろい。
個人的に一番印象に残っているのは、東海岸のインテリたちが抱いている、「コレクト」な価値観である。
それは傍目的には、大層窮屈に見えるが、そういう価値観が当たり前のように存在していることに単純に驚くばかりだった。
今は知らないが、当時の空気がよく伝わってくる。
そういった「コレクト」なるものの窮屈さは、女性たちの質問に関する挿話にも通じるものがある。
インテリたちと言い、フェミニストたちと言い、アメリカにはこのようなコレクトな回答を期待する雰囲気が多かれ少なかれあるということなのだろう。
アメリカは自由を標榜する国だ。
しかしそんな国でも、微妙な同調圧力といったものは存在する。
それは日本に住んでいては気付き得ないことだけに、興味深く読んだ。
とは言え、自由の国らしいところももちろんあるのだ。
たとえばアメリカではマラソン大会などは日本のように利権が絡まず、本当のチャリティとして運営されている。
こういったおおらかなアメリカのイメージを伝えてくれるものもあり、それもまたおもしろい。
ともあれ全体的に肩の力の抜けたエッセイである。
後に残るものは少なそうだが、少なくとも読んでいる間は楽しめる。エッセイらしい気楽な読み味の一冊だった。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの村上春樹作品感想
『アフターダーク』
『1Q84 BOOK1,2』
『1Q84 BOOK3』
『女のいない男たち』
『海辺のカフカ』
『神の子どもたちはみな踊る』
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
『象の消滅』
『東京奇譚集』
『ねじまき鳥クロニクル』
『ノルウェイの森』
『めくらやなぎと眠る女』
『遠い太鼓』
『走ることについて語るときに僕の語ること』
『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』
『若い読者のための短編小説案内』
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 (河合隼雄との共著)
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