椿の花を愛するゆえに“椿姫”と呼ばれる、貴婦人のように上品な、美貌の娼婦マルグリット・ゴーティエ。パリの社交界で、奔放な日々を送っていた彼女は、純情多感な青年アルマンによって、真実の愛に目覚め、純粋でひたむきな恋の悦びを知るが、彼を真に愛する道は別れることだと悟ってもとの生活に戻る……。ヴェルディ作曲の歌劇としても知られる恋愛小説、不朽の傑作である。
新庄嘉章 訳
出版社:新潮社(新潮文庫)
19世紀の作品ということもあるかもしれないが、物語の構造は古典的で、最初の方など説教臭さが鼻につく。
しかし読み物としてはなかなか楽しい作品だった。
それが『椿姫』に関する率直な感想である。
パリでマルグリットという高級娼婦が死に、遺産が競売にかけられる。そのうちの品を買った男に、アルマンという男が訪ねてくる。
アルマンはマルグリットとの思い出を語り始める。
マルグリットに出会い、心惹かれたアルマンは熱情的に恋をし、相手に翻弄されながらも、互いに愛し始めるに至る。
だがとあることをきっかけに、マルグリットは昔の男の元に戻ってしまう。それを知ったアルマンは当てつけのように別の女と関係を持つ。
しかしそんなマグリットの行動にはわけがあった。
そういう話である。
最後の方の展開などは、古典的であるゆえ、予想がつき、意外性はない。
しかしぐいぐいと先へ先へと読ませる力がある。その点はすばらしい。
マルグリットは華やかな人生を送ってきた女だ。
娼婦であり、伯爵や公爵といったパトロンにも恵まれ、病気がちではあるけれど、いい生活をしている。
そのためか、アルマンと出会ったころは高慢に見える態度も取っていた。
アルマンはいいように、そんなマルグリットに翻弄されている感はあるが、やがて二人は相愛の仲となっていく。
だからこそ、マルグリットは、アルマンとその家族のため自ら身を引いたのだろう。
そうして孤独に死んでいくマルグリットの姿はどこかさびしい。
しかしこうやって読んでみると、マルグリットの態度はどこか演歌っぽいよな、という風に見えてくるのだ。
好きな男のことを思って身を引く。男に都合がいい女という言い方もできるが、それがどこか演歌の中の女性のように見えてしまう。
舞台はパリの華やかな社交界だ。
それだけに、そう感じられたことに新鮮な思いを抱いた。
結局のところ、男の理想で描く女の像とは、洋の東西を問わず変わらないのだろうか、とも思えて興味深い。
ともあれ、なかなか読みごたえのある作品だった。
古典としての良さを堪能できる一品。そう感じる次第である。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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