私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

天藤真『大誘拐』

2015-12-11 21:23:36 | 小説(国内ミステリ等)
 
刑務所の雑居房で知り合った戸並健次、秋葉正義、三宅平太の3人は、出所するや営利誘拐の下調べにかかる。狙うは紀州随一の大富豪、柳川家の当主とし子刀自。身代金も桁違い、破格ずくめの斬新な展開が無上の爽快感を呼ぶ、捧腹絶倒の大誘拐劇。天藤真がストーリーテラーの本領を十全に発揮し、映画化もされた第32回日本推理作家協会賞受賞作。
出版社:東京創元社(創元推理文庫)




何より、先に言いたいのは、本作は見事なまでのエンタテイメント小説だってことである。


広大な山林を所有する地方の地主を誘拐する。
ストーリーはまずそんな風にして始まる。非常にシンプルだ。

なのに、主導権を握るのは、誘拐犯ではなく、誘拐される側の柳川家の女当主という点がおもしろい。
しかもこの刀自がいちいち的確な助言と作戦を立てるから、痛快なのである。


何より刀自のキャラクターがいいのだ。

誘拐計画を逆手に取るぐらい大胆で、それを実行する計画を立てるほど賢く、慈善活動に励むなど慈悲深く、犯人の男気を見抜けば身を預けるほど腹が据わっており、自分の身代金を釣り上げるほどにプライドも高い。
なかなかかっこいいおばあさんだ。

そんな彼女だけに、多くの人が(恩を受けたってのもあるけど)彼女を慕っている。
その理由もよくわかるのだ。


さてそんな彼女のほぼ自作自演のような誘拐計画がどのように推移するのか、それが見どころなのだが、それも本当にすばらしかった。

まさに劇場型犯罪というべき内容で、大胆にテレビを駆使して、耳目を集めつつも、計画を遂行していく様には胸がすく思いがした。
この先、どう転がるだろう、と読んでいる間は、単純にわくわくすることができる。


それでいて、決して暗い気持にもさせず、明るく本を読み終えられた点はすばらしい。
それもこれも、基本的にこの小説に出てくる人物が、犯人も警察も、そのほかの人物も含めて、悪人がいないからだろう。

そんな小説世界の優しさも楽しんで読める要因だ。

本当に見事なまでの小説であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
『小説(レビュー感想)』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
« 『日本文学100年の名作 第1巻... | トップ | 中村文則『去年の冬、きみと... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

小説(国内ミステリ等)」カテゴリの最新記事