私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「るろうに剣心 伝説の最期編」

2014-09-21 18:17:30 | 映画(ら・わ行)

2014年度作品。日本映画。
週刊少年ジャンプに連載され、後にテレビアニメにもなった和月伸宏の同名コミックを佐藤健主演で実写映画化し、大ヒットを記録したアクション作の続編となる2部作の後編。
監督は大友啓史。
出演は佐藤健、武井咲ら。




つっこみどころは多い。
加えて冗長で、説明不足で、原作ファンからすると、ストーリー展開には不満も残ろう。

しかしアクションはさすがに見応え抜群で、悪役の存在感も際立っていた。
それだけでも十分におもしろいと感じられる作品である。



2時間半近い大作ということもあって、さすがに長い。
特に前半の修業シーンはそうで、もう少し端折れるのでは、と思う。
というより、それを除いてもいらないシーンがあまりに多いのが問題だろうか。

加えていろんな部分が説明不足なのである。

宗次郎の心がこわれた理由とか、志々雄の剣がなぜ火を吹くのかとか、志々雄の計画には無理があるんでないの、とか、いろんな部分で「?」と感じる部分があり、どれもこれも、言葉が足りない。
原作ファンとしては二重の極みがなかった点や、十本刀のモブ扱いはあまりに悲しい。

ほかにもつっこみどころが多く、不満を上げればきりがない。


だがさすがにアクションシーンはすばらしいのだ。
師匠との修業シーンや、宗次郎との戦闘シーンはさすがにスピーディで、体を使っているのがわかって、見ていてもワクワクする。

特にすばらしかったのは、志々雄との戦闘シーンだ。
剣心、斎藤、左之助、蒼紫相手に打ち勝ち、四対一でもなかなか倒れてくれない志々雄の存在感たるや抜群だ。悪役としてこれほどすばらしいことはない。



期待値が高かったせいか、見終わった後には不満も大いに残る。
しかしトータルで見れば、それなりに楽しめる一作だった。

評価:★★★(満点は★★★★★)



前作の感想
 「るろうに剣心」
 「るろうに剣心 京都大火編」
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「るろうに剣心 京都大火編」

2014-08-07 21:21:52 | 映画(ら・わ行)

2014年度作品。日本映画。
週刊少年ジャンプに連載され、後にテレビアニメにもなった和月伸宏の同名コミックを佐藤健主演で実写映画化し、大ヒットを記録したアクション作の続編となる2部作の前編。
監督は大友啓史。
出演は佐藤健、武井咲ら。




アクションがすばらしい、と話題になった前作だったが、その迫力は今回も健在だ。

見ごたえのある動きの連続で、その映像表現に目を奪われた。
ともかくスピーディで臨場感満点なのである。

個人的には宗次郎が大久保の馬車を襲うシーンなどは心に残る。
縮地の再現性(マンガから映画への再現性)は必ずしもいいと言えないが、馬車を追いかけるときのスピードなどはすばらしかった。

もちろんそれ以外の場面もいい。
剣心と宗次郎の対決や、張とのバトルも食い入るように見てしまう。
メイン以外でも翁と蒼紫の対決などもいいものがあった。


ストーリーもまたおもしろい。
原作のエピソードを適度に改変しながらも、原作ファンにも納得できる仕上がりになっており好印象。
幾分蒼紫のエピソードがよぶんな気もしたが、人気キャラだし、これも御愛嬌だろう。

最後の方は大きく原作とも外れているように見えるし、どのような展開になるかも含めて、ワクワクさせられる。


またキャラクターも(正確には俳優たち)それぞれに存在感を放っていてすばらしい。
原作と違うものの、左之助なんかは熱くてバカっぽくて好きだ。青木崇高のたまものだろう。
蒼紫はやはりキャラ造形も微妙だが、伊勢谷佑介がかっこよかったので、良しとしよう。
そのほかのキャラ申し分ない。

前半なので、星は一つ下げるが、ともあれ、大満足の一品である。
期待して次作を待ちたい。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「ローン・サバイバー」

2014-04-10 20:13:10 | 映画(ら・わ行)

2013年度作品。アメリカ映画。
05年6月、タリバンのリーダーを狙撃するべくアフガニスタンへ送り込まれたアメリカ海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員4人が、200人超の敵兵の攻撃にさらされ、ひとりの兵士のみが生還した。創設以来最大の惨事と呼ばれている“レッド・ウィング作戦”を映画化した戦争アクション。
監督はピーター・バーグ。
出演はマーク・ウォールバーグ、テイラー・キッチュら。




ピリピリした空気に満ちたドンパチ映画というのが、個人的な印象である。
結構好きな映画であるようだ。


物語はタリバンの要人暗殺のミッションを受けた部隊の作戦を描いている。しかしタリバンの拠点に部隊は近づくも、村人に見つかってしまい、タリバンに追われる。その結果、銃撃戦にまで発展する、というの筋だ。

村人の解放について、三つ選択肢があると兵士の一人が言っていたが、今ひとつ納得がいかなかった。
たとえば一人だけが、頂上に行って、無線が通じるか試すとか、村人の両手は縛っても、足だけは縛らないで、解放させてやる、とかすれば、もっと生存率が上がったのではないか、と個人的には感じて引っかかっる。
だが現場の詳細の状況がわからないので、僕の考えにも欠陥はあるのかもしれない。

そして人道的にふるまったことで、タリバンに襲撃される兵士たちはむごいと思う。


タリバンとの銃撃戦は、なかなか緊迫感に満ちていた。
リアルさを感じる銃撃戦は手に汗握り、飽きさせない。
それに勢いもあって、普通に映画として見ていて楽しかった。

そんな中で、アフガニスタンと言えど、タリバンの味方ばかりでなく、アメリカ兵に手を差し伸べてくれる人たちもいる。
そういうところはいい。


アフガニスタンの現状に関しては、もっといいやり方があったろうに、と今でも思う。
そんな中でがんばっている現場の人間もいることを知れたという点でもよい映画と感じた。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「LIFE!」

2014-03-24 21:14:08 | 映画(ら・わ行)

2013年度作品。アメリカ映画。
『ナイト ミュージアム』シリーズなどで知られるベン・スティラーが監督・主演を務めた人間ドラマ。出版社に勤め、平凡な毎日を送っていた男が、廃刊の決まった雑誌の表紙を飾る写真を撮影した、世界を放浪するカメラマンを探すため、壮大な冒険に出る姿を描く。
監督はベン・スティラー。
出演はベン・スティラー、ショーン・ペンら。




一般論だが、物事を変えたいと願うならば、自分から変わるほかにないものである。
「LIFE!」はある意味、そのことを訴えた映画と見た。


主人公ウォルターは地味な男である。
「LIFE」誌の中でも、写真のネガの管理を担当している。派手さは少なくともない。
加えて奥手な男性らしく、同じ部署の女性に対して、直接ではなくネットを通じてアプローチするという遠回しな方法をとっている。
そんな彼だが、写真家の男からは信頼されている誠実な男でもあるのだ。

加えてウォルターは空想癖のある男だ。
そのため現実の時間でもぼんやりすることもある始末。

それは地味な自分の現実から逃避しているとも言えよう。


そんなウォルターは見つからない写真を求めて、写真家を追って旅に出る。
そして地味な彼の生活は離陸寸前のヘリに飛び乗ったときから大きく変わり始める。
空想以上に刺激的な現実を体験することとなるのだ。

映画にも登場する「LIFE」のスローガン、世界を見よう、危険に立ち向かおう、などの通りにウォルターは世界を見ていっている。
その体験の結果、それまでの空想癖も減り、現実世界の中で彼は自分の人生を生きようとしている。


とは言え、いくつかは、現実だ、って言うには荒唐無稽と思う部分もある。
ヘリからサメのいる海に落ちたり、噴火に巻き込まれたり、写真家が主翼の上に立ったり、とやり過ぎだろうという感もなくはない。

だが飽きさせずエピソードをつぎ込むので、それなりに楽しく見られるのはまちがいない。
また前向きなメッセージも心地よかった。

娯楽として充分おもしろい。合格点に達する作品と思った次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「ラッシュ/プライドと友情」

2014-02-16 21:02:36 | 映画(ら・わ行)

2013年度作品。アメリカ映画。
日本でも絶大な人気を誇るモータースポーツの最高峰、F1。その1976年シーズンの壮絶なチャンピオン争いに迫るヒューマンドラマ。
監督はロン・ハワード。
出演はクリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュールら。




F1でライバルとして競い合ったニキ・ラウダとジェームス・ハントの物語である。
モータースポーツは興味がないため、二人の名は初めて聞くし、映画もどこまで事実を反映しているかは知らない。
だがこのように並び合う実力者同士が互いを意識し、張り合うという構図は、ことにスポーツの世界ではあるのだろう。


映画の中のニキ・ラウダとジェームス・ハントは互いを非常にライバル視し、時には敵視すらしている。
そしてそこまで張り合うのは、性格がまったく正反対ということも大きい。

ニキ・ラウダはドイツ系ということもあり、きまじめである。
マシンの整備を見ても理詰めで考えて最適なマシンをつくり上げていくようなタイプだ。

一方のジェームスは遊び人タイプで、一見すると軽薄だ。
命の危険にさらされる世界に身を置いていることもあり、レース前には嘔吐するなど、それなりに繊細な面もある。しかし根っこは派手好きなプレイボーイである。

こんな二人では、性格が合うはずもないよな、と見ているとつくづく感じる。


だが実力は概ね近く、王座をめぐり、苛烈な順位争いをくり広げている。
そんな中でニキ・ラウダは事故を起こす。命にかかわるほどの大事故だ。普通に考えて復帰は絶望的だったろう。

しかしニキはそこから復活する。
それもこれも、ライバルであるジェームスの活躍があったからなのだ。その展開が熱い。
敵視しながらも、互いに競い合うからこそ、奇妙なシンパシーを感じるのかもしれない。そんなことを見ていると思う。


そうしてチャンピオン争いは最終戦の日本GPまで持ち越される。
そこでのニキの選択も、個人的には胸を打たれた。

あれほどのケガを負いながらも、復帰したのは、ジェームスに負けたくないという思いもあっただろう。
しかし彼はそこで、本当に大事なもののために、勇気ある決断をする。その姿は素直に胸を打たれた。
そういう点、本作はライバルものであると同時に、愛の物語だったのだ、と気づかされる。

ともあれ、男たちの戦いと何を守るかの選択が心に響く作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「利休にたずねよ」

2013-12-14 11:43:25 | 映画(ら・わ行)

2013年度作品。日本映画。
織田信長、豊臣秀吉に仕えながらも、その圧倒的な美意識が人々から認められた、希代の茶人・千利休。彼の知られざる若き頃の恋にスポットを当てた、山本兼一による直木賞受賞小説を市川海老蔵主演で映画化したラブストーリー。利休が実際に使用したとされるものなども含め、数々の茶の名器がスクリーンを彩る。
監督は田中光敏。
出演は市川海老蔵、中谷美紀ら。




いろいろ惜しいが、見るべき面のある映画、それが本作の率直な感想だ。

惜しい点とは物語の根幹部分の設定であり、見るべき点とは茶道の所作などの物語を覆う雰囲気である。
トータルで見れば、なかなかの作品と言ったところだ。



物語は利休切腹の場面から始まり、彼の人生をさかのぼるというスタイルだ。そして美を追求し続ける利休の心の中に、一人の女がいることがほのめかされる。
言うなれば、過去に利休が愛し、影響を与えた、その女こそ本作の肝と言える。

しかし正直なところ、この若い利休の恋愛が個人的には合わなかった。

もちろんその恋心の強さを見れば、彼女が利休にどれほど大きな影響を与えたかわかる。
だが事件前後で、利休のキャラが変わり過ぎているのが引っかかってならない。
言うなればつくりものめいて見えるのだ。

実際女の死も、女が最後に口にしたセリフも、物語の都合としか見えずどこか引く。
というか、全体的につくりがメロドラマで安っぽすぎる。それも入り込めない要因だろう。
個人の好みもあるが、一番重要なところなだけに、僕にはもったいなく見えてならなかった。


だが映画を貫く雰囲気はすばらしい。

特に茶道の所作は見ているだけでもほれぼれとする。
市川海老蔵はさすが歌舞伎役者だけあり、こういう儀式ばった動きは格段に上手い。
茶せんを動かしそれを置くしぐさや、丁寧に茶碗を扱う様など、非常に優雅で気品が感じられるのが良い。
茶道のことはよく知らないけれど、日本の美を見るような思いがする。

また美をひたすら追い求め、どこか傲岸ですらある利休の存在感も見るものがある。
虚栄心あふれる秀吉と、芸術家としてのプライドをもった利休の確執は見ごたえがある。
それを再現した市川海老蔵も見事であった。


根幹部分がいまいちだったので、はまりきれなかったきらいはある。
しかし歴史や人物、茶道の描き方はすばらしく、飽きることなく2時間を観賞できる。

市川海老蔵の実力をまざまざと見せつける作品と感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「ワールド・ウォーZ」

2013-08-28 20:19:50 | 映画(ら・わ行)

2013年度作品。アメリカ映画。
マックス・ブルックスの同名小説を、ブラッド・ピットが自ら製作を担当し、映画化したパニック・スリラー。世界規模で急激に蔓延し、全人類を滅亡に誘う謎のウイルスと、それに立ち向かう人々の戦いを描く。ブラッド・ピットは人類の希望たる国連職員に扮する。
監督はマーク・フォースター
出演はブラッド・ピット、ミレイユ・イーノスら。




いろいろ惜しいが、それなりに楽しめる。
「ワールド・ウォーZ」を評するなら、そういうことになる。
要は典型的な娯楽作品ということである。個人的には決して嫌いな作品ではなかった。


予告編では敵の正体が明かされていなかったが、本編ではかなり早い段階で、敵はパンデミックにより発生したゾンビで、タイトルのZはゾンビであったことが判明する。

そんなゾンビとのバトルシーンは結構おもしろい。
壁をよじ登ってくるゾンビを殺しまくるところや、ゾンビに食われれば自分もゾンビ化してしまうという緊迫感を持ちながら戦うところ、急にゾンビが襲いかかってくるときの恐怖感などは、エンタメらしくドキドキさせられる。

ド直球な演出ではあるけれど、非常にわかりやすく、それゆえに楽しい。


とは言え、ストーリーには結構つっこみどころはある。
もっともゾンビ映画自体、ウィルス(または細菌)感染から発症までの早さとか、科学的根拠のないゾンビの身体能力のアップとか、つっこみどころの宝庫ではある。

しかしこの作品のオチは、致命的とさえ見えるほどつっこみどころに満ちている。
一言で言えば、ご都合主義そのものでげんなりしてしまうのだ。

まず、ある種の細菌感染した人間はゾンビも避けてくれるという設定もそうだし、最後の注射の場面などは、あまりに都合がよすぎる。
せめて、俺はむかし天然痘になったことがあってね、と兵士に言わせるとか(たとえばだ)、あの細菌を使った理由に関して、伏線くらいは張ってほしかった。それが惜しくてならない。


だがこの映画をみていて思ったけれど、アメリカ人はゾンビ映画が好きであるらしい。
そのパターンも似通っていて、大半は、何の葛藤もなく、相手を殺すことが多い。

この映画もその例にもれず、ゾンビはたとえ元同僚であれ、自分を脅かす存在である以上、殺すことには迷いはないらしい。
そのように、頑張れば危機を乗り越えられるんだ、と葛藤もなく言う辺り、いかにもアメリカ的である。悪く言えば単細胞だ。

それゆえに底の浅さが露呈してしまう。
けれど、その単純さゆえに、娯楽作品としては結構勢いがある。
いろいろがっかりな面もある。だが、個人的には、やはり決して嫌いな作品ではないのである。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「ローマでアモーレ」

2013-06-17 20:00:54 | 映画(ら・わ行)

2012年度作品。アメリカ=イタリア=スペイン映画。
ローマを舞台に年齢も性別も異なる男女の4つの物語が繰り広げられる、ウディ・アレン監督によるラブ・コメディ。
監督はウディ・アレン。
出演はウディ・アレン、アレック・ボールドウィンら。




群像劇である。
そのためてんでバラバラなエピソードが特につながりのないまま、進んでいくこととなる。

そういったタイプの作品となると、物語展開がわからなくなるものだが、そこはさすがウディ・アレン。物語をきれいに整理し、わかりやすく見せてくれる。
おかげですなおに楽しんで見ることができた。


またユーモアもたっぷりで純粋におもしろい。
個人的にはコールガールが、金持ち連中とほとんど関係を持っているところに笑った。

ほかにも見ていてにやりとさせられるところは多い。
コメディとしても良質だと感じる。


さて肝心のストーリーだが、くそまじめに捉えるなら、無理の多い作品だと思う。

平凡な男がある日突然有名人になるところや、知り合ったばかりの男がデート中につきまとうところ、シャワーを浴びながらでなければ美声を発揮できない男のために、シャワーを浴びながら、オペラを歌わせるところなど。
つっこみどころの宝庫で、ええっー? と心の中で悲鳴をあげてしまう。

しかしどこかファンタジックな味わいがあるため、割にすなおに、その無茶な設定を受け入れられるのがおもしろい。


基本的にそういった無茶な設定は、登場人物の欲望の具現化でもあるのだろう。

平凡な男は有名になりたいと願い、まじめな夫婦は性的逸脱を心のどこかで夢見てる。
音楽家は何かすばらしいものを残したいと考えオペラを演出し、恋人がいながら浮気する男は、そういった展開をどこかで願ってもいるのだろう。
欲望というものはなかなかに根深いらしい。

しかし何かを願っていても、全員おさまるべき場所におさまっている。
人である以上、何かを夢見ることはある。
だが失望を抱えながらも、帰る場所は自分の今いる場所であるのかもしれない。そんなことを思う。


ほかのウディ・アレン作品に比べると、完成度は低いかもしれない。
だがそれでもなかなか楽しめる作品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)



そのほかのウディ・アレン監督作品
 「タロットカード殺人事件」
 「ミッドナイト・イン・パリ」
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「藁の楯」

2013-05-07 20:24:04 | 映画(ら・わ行)

2013年度作品。日本映画。
7歳の幼女が惨殺される事件が発生。8年前に少女暴行殺人事件を起こし出所したばかりの清丸国秀(藤原竜也)に容疑がかかり、警察による捜査が行われるが、一向に清丸の足取りは掴めずにいた。事件から3ヶ月後、事態が大きく変わる。殺された幼女の祖父・蜷川隆興(山崎努)は政財界を意のままに動かす大物で、彼が大手新聞3紙に、清丸を殺した者に10億円支払うとの全面広告を打ち出した。この前代未聞の広告を見た国民は一気に殺気立ち、身の危険を感じた清丸が福岡県警に自首。東京の警視庁まで清丸の身柄を護送する最中に彼の身を守るために、生え抜きのSP5名が配置された。いつ、どこで、誰が襲撃してくるかわからない極限の緊張状態の中、護送が始まる……。
監督:三池崇史
出演:大沢たかお、松嶋菜々子ら。




やりたい放題につくられたって感じの映画だ。
たぶん監督は楽しんでつくったのだろうなということはよく伝わってくる。

そしてそんなノリノリのストーリーに僕は最後までついていけず、どんどん置き去りにされてしまった。

一言で言うなら、合わない映画だった。


この映画にはツッコミどころが多い。

ニトログリセリンを積んだトラックが突っ込んでくるところや、新幹線内での銃撃戦、SPが目を離した隙に犯人が逃亡するところなど、なぜ?と問い返したくなる場面が多かった。

端的にまとめるなら、演出が安っぽいのである。さながら金をかけたコントだ。
おかげで、ストーリーが進むにつれ、僕の心も醒めてしまった。


とは言え、盛り上げようと製作側もがんばっているのはよくわかる。

犯人の情報が外部に漏れているが、そのリーク源は誰か、殺人犯は本当に命を賭けて守るに足る相手なのかなど、盛り上がる要素は多く見られた。
たぶんそれらは見る人によってはおもしろいのだろう。


僕にはこの映画の良さが最後までわからなかったし、どうしてカンヌのコンペに選ばれたのかも理解に苦しむ。
だが、エンターテイメントをつくろうという意思が感じられる作品ではあった。

評価:★(満点は★★★★★)
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「リンカーン」

2013-04-24 20:21:30 | 映画(ら・わ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
貧しい家に生まれ、学校にもろくに通えない中、苦学を重ねてアメリカ合衆国第16代大統領となったエイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)。当時アメリカ南部ではまだ奴隷制が認められていたが、リンカーンはこれに反対していた。リンカーンの大統領当選を受けて、奴隷制存続を訴える南部の複数の州が合衆国から離脱しアメリカは分裂、さらに南北戦争へと発展する。自らの理想のために戦火が広がり若い命が散っていくことに苦悩するリンカーン。しかしついに彼は、合衆国大統領として、そして一人の父親として、ある決断をくだす……。
監督はスティーヴン・スピルバーグ。
出演はダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールドら




司馬遼太郎は『最後の将軍』のあとがきの中で、政治家を小説で描くことの難しさを語っている。

政治家は政治的な事象を生きているため、その政治的事象を描かざるをえない。
けれど、そこから浮かび上がってくる、その人の個性はほんの少しでしかない。
そしてそんな古臭い事象を描いても、読み手が興味を持ってくれるとは限らない。
理由はそんなところだったと思う(引用は不正確)。

「リンカーン」を見終わった後、僕が思い浮かべたのも、同様のことであった。


本作は、奴隷を禁じる法律も可決させるべく行動するリンカーンの戦いを描いている。

リンカーンはこれより以前に奴隷解放宣言を行なっているが、宣言ではなく、実際法案化することで解放された奴隷の人権を確保しようとしている。
そのためにリンカーンは、奴隷禁止法案を通せば、南部は北部と戦う理由がなくなり、戦争も早く終結する、という風に世論をリードしている。

それ自体は別に理解できるのだが、そこから先の政治的な駆け引きが、僕にはいまひとつわかりづらかった。

奴隷禁止を訴えるのが共和党で、奴隷制維持を訴えているのが民主党なのだが(現代とは保守リベラルの立ち位置が真逆だ)、その共和党の中でも、急進派がいたり、保守派がいたり、大統領に同調する一派がいたりで、幾分複雑であることは否めない。
と言うか、外国人の顔に慣れていないため、誰がどのような思想を持っているのか、わからなくなる場面も多々あった。

そういった点で混乱してしまい、個人的には素直に楽しめなかった部分はある。


しかしリンカーンの姿は誠実に描かれており、その辺りには感銘を受ける。

特に理想に向かってひたすらまい進する姿はすばらしい。
それでいて理想主義にありがちな、現実無視ではなく、かなり現実に即した行動で、周囲を取り込んでいくあたりは印象に残る。

またダニエル・デイ=ルイスもさすがの存在感を放っていた。
彼の言葉や身振りからは誠実で、しかしどこかマキャベリズムな理想家の姿がくっきり浮かび上がってきている。このあたりは見事だ。


個人的には、ストーリーなどにしっくり来ない部分もあった。もどかしいところもある。
だがリンカーンの個性はよく出ていたし、業績もきっちり説明してくれる。
手堅く仕上がった作品なのだろうな、と感じた次第である。

評価:★★(満点は★★★★★)
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「ライフ・オブ・パイ / 虎と漂流した227日」

2013-01-31 21:11:12 | 映画(ら・わ行)

2012年度作品。アメリカ映画。
インドのボンディシェリで動物園を経営していたパテル一家は、カナダ・モントリオールに移り住むことになる。ところが16歳の少年パイと両親、多くの動物たちを乗せた貨物船は、嵐に見舞われて沈没してしまう。ただ一人パイは救命ボートに逃れて一命を取り留めるが、何とそのボートにはリチャード・パーカーと名付けられたベンガルトラも身を潜めていた。はたしてトラはパイの命を奪うのか、それとも希望を与えるのか。かくしてパイと一頭のトラとの227日間にも及ぶ太平洋上の漂流生活が始まった……。
監督はアン・リー。
出演はスラージ・シャルマ、イルファン・カーンら。




正直言って、立ち上がりの遅い映画である。

パイの人生、というタイトルが示すように、まずパイの名前から説明されて、そこから三つの宗教にはまっていく、少年時代のエピソードが示されていく。
その中には、物語のメインである、動物園のトラとの関わりも描かれているが、どちらかと言うと、少年が神と命について触れていくというエピソードがメインだ。

そんな無駄としか思えないお話を、30分近くにわたって描いている。
若干長すぎるように思え、そのせいか、少したるい。

しかしそんな風に前半のエピソードに時間をかけた理由は、ラストでおぼろげに示される。

それは本作が、苛酷な状況下から救われる、サバイバル映画という意味合い以上に、魂に対する救いを希求する物語でもあるからだろう。


青年になったパイは、動物園を経営していた家族と一緒にカナダに移住することとなる。だが、その途中で嵐に遭い、遭難する。
シマウマ、ハイエナ、オランウータン、そして虎のリチャード・パーカーと一緒に、ライフボートに乗り合わせた彼は、海を漂流することとなる。
ちなみに最終的に生き延びるのは、パイと虎だけだ。そしてパイは虎と一緒に、太平洋を漂流することとなる。

そんな物語は、寓話的と言えば、寓話的だ。
そしてそんな寓話的な物語の印象は、映像の効果もあって、さらに高まっている。

まるで波一つない鏡のような海面、透明なクジラの派手なジャンプ、矢のようなトビウオの群れ、月明かりに照らされて光るクラゲたち、そして謎の浮島。
漂流している間に、パイが見る風景は、どこか幻想的な味わいをたたえている。


もちろん漂流シーンはいかにも大変そうだ。
虎と一緒のボートに乗り合わせていることもあり、ボートはほとんど虎に乗っ取られているようなもので、一緒のボートに乗ることなどできない。
その結果、お手製のボートで漂うパイの姿はみじめでさえある。

しかしそんな苛酷な生活を共にするうちに、パイは虎におびえ、憎み、敵対しながらも、奇妙な友情めいた思いを抱いていくこととなるのだ。

たとえば飢えた虎が魚を捕まえようと海に飛び込み、ボートに戻れなくなる場面。
それはパイにとって、虎を突き放す最大のチャンスだった。
でもパイは悩んだ末に、あえて虎をボートに戻している。

浮島の場面でも、パイは虎を置いていくことだってできたはずだ。
だけど、あえて虎を連れて行こうとしている。

パイと虎との間には、生きていくための対立もあった。
しかしパートナーとして、なんだかんだで一緒にやり過ごしていくこととなる。
しかしそんな虎も、カナダに着いた途端に、彼の元を離れてしまう。

その場面を見て、うん、まさに寓話的と言えば、寓話的な物語だな、と僕は感じた。


そしてそれが寓話的だったからこそ、その物語の後で語られる別の物語が非常に痛いのである。そしてあまりにも深いのである。

彼の告白を聞いたときには、かなりドキリとさせられた。
そしてそこにある真の意味に至り、切ないような思いに駆られてしまう。

多くを語らないけれど、そこにあるのは救いに対する希求だと思うのだ。
だからこそ、宗教的な前半が利いてくるのだろう。

そして、なぜ彼が虎と友情めいた関係を結んだのかも気づかされる。
彼は、虎(=悪)を認めようとしていたのかもしれない。そしてそんな彼の思いに静かに胸が震えてしまう。

「ライフ・オブ・パイ」はサバイバル映画である。
しかしそのラストのおかげで、サバイバル映画という枠を超えた、一人の人間の魂の物語であるとも気づかされる。
その余韻に心の震える一品であった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「レ・ミゼラブル」

2012-12-25 20:36:09 | 映画(ら・わ行)

2012年度作品。イギリス映画。
元囚人のジャン・バルジャンは、保釈の条件を破って脱走したことから情け容赦ない警官ジャベールに何十年にもわたり執拗に追われる身となる。そんなバルジャンは、女工ファンテーヌに彼女の幼い娘コゼットの面倒を見ると約束する。それが彼らを取り巻く運命を大きく変えていくことになるとは知らずに……。
監督はトム・フーパー。
出演はヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウら。




「レ・ミゼラブル」は有名な作品だけど、実際見たことがある人はどれくらいいるのだろう。
少なくとも僕は、初見である。

で見てみた感じだと、内容自体は結構おもしろかったと思う。

物語は盛り上がりがあるし、ミュージカルらしく音楽には聴き応えがある。
そして物語の時間軸が長いせいか、大作らしい雰囲気の出た作品となっている。


ミュージカルらしく、セリフの多くは歌によって語られる。
出演者の歌はアフレコではないらしく、そのためか、歌には臨場感がある。
それだけに聴いているだけで、気分も高揚するのがいい。

歌でセリフを応酬し合うところなどは感情のぶつかり合いって感じがして心に残るし、大多数での合唱は、それだけでテンションが上がる。

だが一番いいのは、やはり出演者のソロパートだろう。
力を込めて歌っているのが伝わるだけにしっかりと心に届くのだ。
特にアン・ハサウェイ演じるファンテーヌの「I dreamed a dream」が良かった。
歎き節って感じだが、情感豊かなため、暗い歌のわりに沈んだ気持ちにはならず、心をゆさぶられる。


物語はドラマチックである。
パンを盗んだがために、投獄されたジャン・バルジャンの物語なのだが、そこには逃亡劇があり、戦争シーンがありで、結構派手なつくりがよい。

そんな物語で異彩を放っていたのが、ラッセル・クロウ演じるジャベールだろう。
彼は執拗にジャン・バルジャンを追いつめ、何とかして捕らえようとする。
その執念がある意味ではやばく、ある意味ではホラーなのがおもしろい。


映画は2時間半強と長尺な作品だけど、飽きることなく最後まで物語を楽しめる。
見応えも聴き応えもある、すてきなミュージカルである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「るろうに剣心」

2012-09-02 20:50:41 | 映画(ら・わ行)

2012年度作品。日本映画。
明治10年の東京。神谷活心流の人斬り抜刀斎を名乗る人斬りが現れ、多くの人を手にかけていた。その人斬りの正体は、鵜堂刃衛。アヘンを使って日本を制したいと企む実業家・武田観柳の護衛のひとりだ。父親から道場を継いだ神谷活心流の師範代・神谷薫は、抜刀斎を探す最中、緋村剣心という逆刃刀を持った人懐こい笑顔のるろうにと出会い、彼を居候させる事となる。実は剣心こそが、幕末に世を騒がせた伝説の“人斬り抜刀斎”だった。
監督は大友啓史。
出演は佐藤健、武井咲ら。




『るろうに剣心』の単行本を、むかし全巻持っていたことがある。
結果として売ってしまったのでファンと名乗るにはためらいがあるが、思い入れのある作品と言うくらいは許されよう。

そんな僕の、実写版「るろ剣」の感想は、楽しかった、ただその一語に尽きる。
僕は基本、小説はともかく、ことマンガに関しては(特に好きなマンガは)、アニメ化されたものさえ見ないほどの原作至上主義なのだが、それでも満足できる作品となっていた。

確かに、ストーリーは適度に改変されている。
だけど、キャラは概ね原作通りで違和感はない(斎藤が少し丸くなってる気もするが)。
それでいて初見の人にも、キャラクターの魅力がわかるよう演出されているのも好ましい。

原作好き、初見の人、双方を意識して物語をつくった作り手の姿勢に、まずは敬意を表したい思いだ。


この映画の最大の魅力は、いろんなところで言われているけれど、やはり殺陣にある。

とにかくその動きはスピーディで、勢いは抜群。
ワイヤーは使っているけれど、違和感はなく、無理なく見せるあたりすばらしい。

最初の戊辰戦争のシーンから心を持ってかれてしまったほどで、見ているだけでかっこよく、とにかくしびれてしまう。
そのほかにも、神谷道場での場面や、観柳邸での戦闘シーン、刃衛との対決など、どの戦闘シーンを取り上げても、見応えは満点だった。
剣と剣がぶつかるときの臨場感は迫力があって、それだけドキドキできる。チャンバラっていいものだな、と見ている間はつくづくと思った。


さて肝心のストーリーの方だが、わかりやすいくらいの勧善懲悪ものである。

原作で言うなら、第1話と刃衛篇、観柳篇、追憶篇の第1話を一緒くたにしたような話だ。
主要キャラをとにかく全員登場させようとしており、そのためか、やや詰め込みすぎの面があるし、部分的には雑だ。
それがどうにももどかしいけど、ストーリーはきれいにまとまっており、悪くはない。


また先に述べたように、キャラクターの雰囲気が出ており、それぞれの個性が出ていたのも良かった。

佐藤健は「ござる」口調だけが気になるが(原作がそうだから、仕方ないけど)、普段はおだやかながら、かつては最強と恐れられた人斬りを雰囲気良く演じている。
香川照之は悪乗りはしてるけれど見ている分はおもしろいし、青木崇高は陽気でちょっとバカっぽい左之助を明るく演じていて楽しい。
蒼井優はさすがに雰囲気がよく、吉川晃司はどこか狂った感じがいいし、江口洋介は安定した存在感がある。

そんな中、個人的にもっとも意外だったのは武井咲である。
正直言うと、僕はこれまでこの子をまったく評価してなかった。だが、映画で見ると、凛としたたたずまいがあって印象に残る。


十字傷の謎を引っ張ったり、思わせぶりに巴を出したことからして、続編を製作する気は満々なのだろう。
続編も見に行くかは現時点では決めかねているが、とりあえず追憶篇をきっちりと描いてくれるのなら、そのときは迷わず見に行こうかな、と思っている。

それはそれとして、単品として見ても充分に楽しめるエンタテイメントであった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「わが母の記」

2012-05-13 18:48:53 | 映画(ら・わ行)

2011年度作品。日本映画。
作家、伊上洪作は、年老いた両親を訪ね、世田谷の自宅兼事務所と、伊豆の実家とを行き来する生活をしていた。姉・妹との三人兄弟だったが、幼少の頃、1人「土蔵の叔母さん」に預けられて育った洪作は、自分は母から捨てられたという思いが常にあり、大人になってもことある度に、その事で母親と喧嘩していた。しかし、父親が死ぬと、母の物忘れがひどくなる。世田谷の家に引き取る頃は、洪作が誰かさえ分からなくなっていた…。
監督は原田眞人。
出演は役所広司、樹木希林ら。




いい映画である。
ストーリーそのものよりも、全体を取り巻く雰囲気がすてきで、胸の奥の深いところまで響いてくる点が、特にすばらしい。


その雰囲気をつくる上で、役者たちの存在は欠かせない。
演技巧者がそろっているだけあり、どの役者にも存在感がある。

主人公の役所広司は、家父長的なむかしの父親を演じて印象深い。
宮崎あおいも、中学生から大人になるまでの女性を違和感なく演じている。
キムラ緑子と南果歩も、ああ、こういうおばさんっていそうだよな、っていう、時にかしましい中年女性を演じていておもしろい。
ミムラも、役柄は地味ながら忘れがたいものがある。


だが一番すばらしいのは樹木希林だろう。これはさすがと言う他にない。

どこかとぼけた味わいがあって、くすりとさせられるのが良いのだ。
ボケたおばあさんという役は見ようによっては悲劇的なのだけど、彼女が演じると、ただただユーモラスなシーンに変わる。これは本当にお見事と言うほかない。


お話は幼いころ親に捨てられたと思い込んで育った作家を主人公にしている。
そういう設定からして、最終的に待ち受ける展開はわかっているのだが、わかっていても見終わった後には、じーんと胸に響くものが残る。
それは母子の関係を、周辺も含め丁寧に描いているからかもしれない。
おかげで、母が子の詩を記憶している場面なんかは、素直に感動することができた。


笑いあり、涙あり、雰囲気も良し、と美点の目立つ映画である。
僕は結構好きな作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」

2012-01-18 21:14:38 | 映画(ら・わ行)

2011年度作品。日本映画。
昭和14年の夏。2年前に始まった支那事変が泥沼化しつつあった。陸軍が日独伊三国軍事同盟の締結を強く主張する中、海軍次官の山本五十六、海軍大臣の米内光正、事務局長の井上成美は、信念を曲げる事なく同盟に反対の立場をとり続けていた。日本がドイツと結べば、何倍もの国力を持つアメリカと戦争になる。それだけは何として避けなければならないと考えていたのだ。だが世界情勢は急転、第二次世界大戦が勃発してしまう…。(聯合艦隊司令長官 山本五十六 ―太平洋戦争70年目の真実― - goo 映画より)
監督は成島出。
出演は役所広司、玉木宏ら。




山本五十六の映画、と言うよりも、海軍視点から太平洋戦争前半を描いたダイジェストという印象の強い映画である。
そのためドラマツルギーに乏しく、いささか食い足りないという感もなくはない。
個人的には山本五十六という人物をもっと深く描いてほしかった。


とは言え、本作にだって、山本五十六個人を描こうという意気込み自体はある。
たとえば家族の団欒のときに、魚を分け取る場面や、戦争の真っ最中で将棋を指す場面などはそうだろう。
要は家族思いで、戦争の緊迫した場面でも悠然と構えているような人間だった、と言うことらしい。

その意図はわかるし、雰囲気も伝わる。しかし踏み込みとしては、少し弱い気もしなくはない。
そこまで時間を割いていないからかもしれないが、僕には表層だけをすくっているという風にしか見えず、ややうすっぺらく感じられた。
悪くはないが、個人的にはもう少し何かがほしかったように思う。


戦争を描いた部分はなかなか印象に残った。
僕自身そこまで太平洋戦争に詳しいわけでもないので、作品を通じて改めて学ぶことができた点は良かった、と思う。歴史ダイジェストとしては、なかなか丁寧なつくりだ。

この作品がどの程度、真実の歴史を再現しているかは知らない。
たとえば山本五十六がミッドウェーのとき本当に南雲に魚雷のアドバイスを送ったのか、歴史にくわしくない僕としては知りようもない。
だけど、それを含め、いろいろと知らないことも多かっただけに、見ている間は、へえーと感じ入る場面は多かった。それだけでも充分に満足物である。


トータル的に見ると、押しは弱いし、もう少し何とかなったのじゃないかな、と感じる部分はある。
しかし手堅くまとめられており、不満というほどの、強いマイナス材料もない。
なかなかの佳作、と思った次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・成島出監督作
 「八日目の蝉」
・役所広司出演作
 「一命」
 「最後の忠臣蔵」
 「THE 有頂天ホテル」
 「叫」
 「SAYURI」
 「十三人の刺客」(2010)
 「それでもボクはやってない」
 「劔岳 点の記」
 「トウキョウソナタ」
 「パコと魔法の絵本」
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