2013年度作品。日本映画。
第65回アカデミー賞で作品賞など4部門に輝いたクリント・イーストウッド監督による名作を、日本を舞台にリメイクしたヒューマンドラマ。一度は戦う事をやめた男が、女郎の願いを聞き入れ、再び戦いの世界に身を投じるようになる姿をつづる。
監督は李相日。
出演は渡辺謙、柄本明ら。
オリジナルの「許されざる者」を見たのはだいぶ前のことだ。
そのため覚えていることと言えば、クリント・イーストウッドが床を這いずり回っているシーンくらいでしかない。
その程度の記憶しかなかったためか、先入観もなく、物語を楽しめることができた。
個人的には満足そのものの、すばらしい作品である。
物語は人斬りと恐れられていた男が、賞金稼ぎのために戦友と共にお尋ね者を殺しに向かうといったところだ。
この作品では善悪は必ずしも明確ではない。
悪いのは娼婦の顔に傷をつけた男だが、お尋ね者の仲間は単純に巻き込まれただけで、殺されるほどの罪もなく同情に値する。
悪役とも言うべき、佐藤浩市演じる町の警察も、手段は暴力的だが、治安を守るため彼なりの筋は通している。
そんな二元論で回収できない世界観は個人的に好みである。
そして善悪定かでないという点では、主人公の十兵衛もそうだ。
彼は幕末のころ、政府軍を殺しまくった男だ。
そういった過去の罪を抱え生きているためか、映画の間、彼には常に陰がある。
それでも妻と出会ったことでまっとうな人間になろうと努めている。
しかし、最後の方の、敵を殺す彼の行為にためらいもない。
ヒーロー的立ち位置にもかかわらず、彼の行為には正義とは言いかねる非情さがある。
贖罪の日々を送り、生まれ変わったように生きても、人殺しと呼ばれた過去の彼がそこにはあり、ぞくりとさせられた。
この造形はすばらしい。
最後の渡辺謙のうつろな表情もすてきだった。
そこからは「許されざる者」として生きる他ない男の悲しみがにじみ出ているように思う。
また映画では、弱者の存在もクローズアップされていて、印象的である。
娼婦たちは男たちの虐待を受け、アイヌの人々は和人に虐げられている。特にアイヌの存在は舞台を蝦夷地にした意味が出ていた。
また娼婦たちも、復讐のための人殺しを頼んでおきながら、ためらいに満ちた表情を浮かべるなど、単純に解決できない苦悩が仄見えて良かったと思う。
本作のクライマックスである最後の決闘シーンも見応えがあった。
佐藤浩市との銃撃と刀剣を使った対決シーンは一触即発の張りつめた空気が流れており、ただただ息を呑むばかり。
その後の多数との乱闘シーンも、緊張感は持続していて、食い入るように見ていられる。
善悪で割り切れない世界、決闘シーンのすばらしさなど、エンタテイメントとしても、人間を描いたドラマとしても、はっきり言って僕好みである。
オリジナルを忘れたので、比較でどうこうは言えないが、一本の作品として見事であると感じ入るばかりであった。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)