多彩、自由、神話であった美しいポーランド女性タマラ・ド・レンピツカ。2つの世界大戦の狭間に君臨し、エリートの象徴であり、「自動車時代の女神、鋼鉄の瞳を持つ女」とも称された彼女の作品について解説する。
出版社:TASCHEN
もうとっくに終わっていて、いまさらなのだが、先日Bunkamuraに『レンピッカ展』を見に行った(ちなみにいまは神戸で開催されているらしい)。
レンピッカはもともと気になる画家だったので、GW中に実家に帰った折、通り道である東京に立ち寄ってみた。
総じて言えば、かなり満足のいく展覧会であった。
あまりの質の高さに見終わった後もテンションは落ちず、立ち寄ったパルコの本屋でこの画集を購入した。
展覧会で売っているカタログではなく、わざわざこちらを買ったのは、単純にタッシェンのラインナップに、レンピッカが入っていることを知っていたからであり、それがカタログよりもお徳だと知っていたからである。要はケチなのだ。
以上、どうでもいい自分語り。
さて、レンピッカである。
僕は美術的なことは何一つわからない、まったくのど素人なのだけど、レンピッカの特徴的な、人物のフォルムに妙に心が惹かれてしまう。
たとえば、展覧会のポスターにもなっていた『手袋をした娘』(展覧会では『緑の服の女』というタイトル)。
そのデフォルメされた衣服や髪の描き方は実に特徴的で、強調された輪郭はあまりにスタイリッシュ。
女性のポーズもグラビアチックで、優美な雰囲気さえ感じられる。一言で言えばかっこいい。
色遣いも華やかかつ、計算されたものである。画集の絵の色はくすんでいて、魅力がそがれているのだけど、実物は本当に発色も鮮やかで、それを見ているだけでも、心を奪われてしまう。
それらの要素は、80年前の作品なのに、いまでも個性的であり古びていない。
これは実にすごいことである。
それに描かれた人物たちに、力強いまでの存在感がある点も大きな魅力だ。
『イラP. 夫人の肖像』(『イーラ・Pの肖像』)や、『タデウシュ・ド・レンピッキの肖像』など、画面いっぱいに人物を描いているせいか、見ていても迫ってくるかのような力があり、圧倒されてしまう。
『カラーの花』(『カラーの花束』)など、ただの静物画なのに、実にいきいきとしている。
これは何もキャンバスがデカかったことだけが原因ではないはずだ。
すべてタマラ・ド・レンピッカという画家の才能が生み出した魅力なのだ。
展覧会にはなく、この画集に載っている作品の中では、『ナナ・ド・エレーラ』が気に入っている。
いかにも悪女めいた雰囲気(解説を読む限りそれは画家の悪意のようだ)と、エロチックな姿態がなんともおもしろい。
そのほかにも特徴的でおもしろい作品が多い。
ついでに言うと、レンピッカの人生自体もおもしろかった。
本書の文章は非常に読みづらいのだけど、少なくとも、彼女は野心的で愛欲に溺れることが多く、激しく生きた人だというのは伝わってくる。
それだけ激しく生きた人なのに、アメリカに行ったあたりから芸術家としての才能が枯れるところは、ちょっと悲しい。
タマラ・ド・レンピッカは幾分マニアックな画家とは思うが、もっと知名度が高くてもいいはずだ。
人間的にはかなり問題があったようだが、画家としてはすばらしい作品を生み出した、すてきな人物である。
タッシェンの画集は、そんな画家の仕事を一通り知ることができる手頃な本だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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