私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『タマラ・ド・レンピツカ』 ジル・ネレ

2010-05-21 21:33:00 | 美術等

多彩、自由、神話であった美しいポーランド女性タマラ・ド・レンピツカ。2つの世界大戦の狭間に君臨し、エリートの象徴であり、「自動車時代の女神、鋼鉄の瞳を持つ女」とも称された彼女の作品について解説する。
出版社:TASCHEN



もうとっくに終わっていて、いまさらなのだが、先日Bunkamuraに『レンピッカ展』を見に行った(ちなみにいまは神戸で開催されているらしい)。
レンピッカはもともと気になる画家だったので、GW中に実家に帰った折、通り道である東京に立ち寄ってみた。

総じて言えば、かなり満足のいく展覧会であった。
あまりの質の高さに見終わった後もテンションは落ちず、立ち寄ったパルコの本屋でこの画集を購入した。
展覧会で売っているカタログではなく、わざわざこちらを買ったのは、単純にタッシェンのラインナップに、レンピッカが入っていることを知っていたからであり、それがカタログよりもお徳だと知っていたからである。要はケチなのだ。

以上、どうでもいい自分語り。


さて、レンピッカである。
僕は美術的なことは何一つわからない、まったくのど素人なのだけど、レンピッカの特徴的な、人物のフォルムに妙に心が惹かれてしまう。

たとえば、展覧会のポスターにもなっていた『手袋をした娘』(展覧会では『緑の服の女』というタイトル)。
そのデフォルメされた衣服や髪の描き方は実に特徴的で、強調された輪郭はあまりにスタイリッシュ。
女性のポーズもグラビアチックで、優美な雰囲気さえ感じられる。一言で言えばかっこいい。
色遣いも華やかかつ、計算されたものである。画集の絵の色はくすんでいて、魅力がそがれているのだけど、実物は本当に発色も鮮やかで、それを見ているだけでも、心を奪われてしまう。

それらの要素は、80年前の作品なのに、いまでも個性的であり古びていない。
これは実にすごいことである。


それに描かれた人物たちに、力強いまでの存在感がある点も大きな魅力だ。

『イラP. 夫人の肖像』(『イーラ・Pの肖像』)や、『タデウシュ・ド・レンピッキの肖像』など、画面いっぱいに人物を描いているせいか、見ていても迫ってくるかのような力があり、圧倒されてしまう。

『カラーの花』(『カラーの花束』)など、ただの静物画なのに、実にいきいきとしている。
これは何もキャンバスがデカかったことだけが原因ではないはずだ。

すべてタマラ・ド・レンピッカという画家の才能が生み出した魅力なのだ。


展覧会にはなく、この画集に載っている作品の中では、『ナナ・ド・エレーラ』が気に入っている。
いかにも悪女めいた雰囲気(解説を読む限りそれは画家の悪意のようだ)と、エロチックな姿態がなんともおもしろい。
そのほかにも特徴的でおもしろい作品が多い。

ついでに言うと、レンピッカの人生自体もおもしろかった。
本書の文章は非常に読みづらいのだけど、少なくとも、彼女は野心的で愛欲に溺れることが多く、激しく生きた人だというのは伝わってくる。
それだけ激しく生きた人なのに、アメリカに行ったあたりから芸術家としての才能が枯れるところは、ちょっと悲しい。


タマラ・ド・レンピッカは幾分マニアックな画家とは思うが、もっと知名度が高くてもいいはずだ。
人間的にはかなり問題があったようだが、画家としてはすばらしい作品を生み出した、すてきな人物である。
タッシェンの画集は、そんな画家の仕事を一通り知ることができる手頃な本だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



そのほかのTASCHENニュー・ベーシック・アート・シリーズ
 『ジョージア・オキーフ』
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『ジョージア・オキーフ』 ブリッタ・ベンケ

2009-07-20 21:43:51 | 美術等

絶大なる人気とアメリカ芸術における高い地位を得たジョージア・オキーフ。ニューメキシコの荒野で伝説的な生活を送ったその生涯と、色彩豊かに官能を記号化した作品の魅力に迫る。
出版社:TASCHEN



美術については、まったくの無知なのだが、それでもせっかく何冊か画集を持っているのだし、一つくらいはその感想でも書いてみようと、唐突に思い立つ。
そういう経緯なので、以下の文章はほぼ自己満足である。
しかもはっきり言って、書評ですらない。それだけは先に言い訳しておく。


さて、ジョージア・オキーフである。
はっきり言うが、僕はオキーフの絵がよくわからないのである。

彼女特有の花を拡大した絵や、動物の骨の絵、色を混ぜ合わせただけのような抽象画を見ていると、何でそんなものを描く必要があるの? なんて思ってしまう。
最初にオキーフの絵を見たのは数年前だが、いまだにその印象は抜けないままだ。
正直な話、そんなものを描くことで何を表したいのか、僕にはわからない。

だが、そう思っているにもかかわらず、僕はジョージア・オキーフの作品に惹かれずにはいられないのだ。
その理由は恐らくは二つあると思っている。
それは色彩の美しさと、極端なまでの絵のシンプルさにあるだろう。


オキーフの絵は色遣いが極めて美しい。
ど素人なので、偉そうなことは言えないのだけど、花を描く際の原色の鮮やかさは、見た瞬間に強烈なインパクトをもたらす。
たとえば≪オニゲシ≫という作品なんかは、色の鮮やかさというものがよく出ている。
オレンジを始めとした暖色系の色は、画面からはみ出てくるかのように力強いのが印象的だ。

それでいて、モノトーンの使い方もすばらしいのである。
雪のように美しい白や、ぼやけたような灰色、濃密なまでの黒は、白黒なのに鮮やかだ。
≪ジャック・イン・ザ・プルビット Ⅳ≫の黒と白のコントラストなどはその最たる例だと僕は思う。
芯を走る白色は、さながら闇の中の光のようで、見た瞬間に心を奪われてしまう。


そんなきれいな色遣いで表現されるモチーフは、あまりに抽象的だ。
特にふしぎなのは花の絵だ。
ジョージア・オキーフと言えば、大抵の人は花の絵を思い浮かべるだろう。それはオキーフの確立されたスタイルだ。
だが、そんな風に花を拡大することに何の意味があるのか、僕にはよくわからない。

しかし見ているうちに、僕はどんどん彼女の絵が好きになってくるのである。
それは多分色遣いだけで説明できるものではないだろう。

これは僕個人の印象なのだが、オキーフは花の絵を描くことで、花以外の、あるいは花を越えた、何ものかを表現しようとしたのではないだろうか。そんな風に見ているうちに思えてくるのである。
そう思うのは、オキーフの絵があまりにシンプルだからだろう。
そしてそのシンプルさは、鑑賞者の想像力を煽るだけの余白に満ちているのだ。

たとえば≪ピンクの上のふたつのカラー・リリー≫。
この絵は本当に意味がわからないのだが、素人なりの感性で見ていくうちに、何となく耽美的な(そういう見られ方はオキーフは嫌っていたようだけど)、それと同時に妙な生命力のようなものが、画面の向こうから伝わってくる。
その何とはなしの雰囲気が心に残ってならない。

それに花ではないが、≪骨盤 Ⅲ≫という作品もふしぎな魅力がある。
それは骨の空洞を描いただけの作品だが、絵からはそれを越えた何か(その何かはわからないが)大きなものを感じることができるのだ。


ジョージア・オキーフの絵は、僕にはよくわからない。
この画集を買ってからだいぶ経っているが、その印象は変わらない。
だが彼女の絵には、上手く説明できない、ふしぎな個性と魅力がある。
その不可思議な特徴ゆえに、僕はオキーフの作品を心から愛するのである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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シュルレアリスムと美術 / 豊田市美術館

2007-08-18 22:33:53 | 美術等


豊田市美術館で「シュルレアリスムと美術」を鑑賞する。

ルネ・マグリットの「大家族」を見たかったので実物を見ることができて、非常にうれしかった。きわめて美しいイメージにあふれた作品である。そこには暗闇の中に羽ばたかんとする希望が存在しているように見えて、心を打つものがあった。
他にもマグリットの作品は愉快な作品が多い。「固定観念」などは茶化した感じがするし、「無謀な企て」も意図はどうあれ、遊び心があるように見え、僕は好きだ。

ほかにもサルバドール・ダリの「幻想的風景」の三部作は生成と消滅を予感させるあたりはイマジネーションを喚起させる。
ロベルト・マッタの「コンポジション」は勢いがあり、「1944年」の紛れもない死のイメージが心に残る。

印象派みたいに、絵の存在そのものが美しい作品も好きだが、シュルレアリスムのように、観客が絵の内容をつっこむことで、新たな印象が芽生える作品も僕は好きだ。


ついでに「宇宙御絵図」という、同時開催の現代アートの展覧会も見る。
個人的には佐倉密という人の作品が好きだ。その作品はどこかお馬鹿で遊び心にあふれていて、ツボであった。
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若冲と江戸絵画 / 愛知県美術館

2007-05-07 20:39:27 | 美術等


GWで実家に帰ったとき、愛知県美術館に「若冲と江戸絵画」を見に行く。
伊藤若冲自体はそんなに詳しくはないのだが、今回見学してなかなかいい絵を描いた画家だな、と知ることができた。

この展覧会の白眉はやはり若冲の「鳥獣花木図屏風」だろう。
屏風に引かれたマス目にモザイク風に描くというその発想力にはただただ脱帽である。マス目の中の色の塗り方もいちいち工夫しており、近くで見ると、また違った楽しみがあるというのもユニークだ。丸っこく描かれた動物たちという愛らしく、独特の世界観が屏風の中に展開されていて、見ているだけで楽しくなる。
この作品を鑑賞するだけでも本展覧会に行く価値は充分にあると思う。

若冲作品はほかにも「紫陽花双鶏図」などすばらしい絵が多いが、個人的には「鶴図屏風」「花鳥人物図屏風」が好みであった。そのシンプルな曲線でデフォルメされた鶴などの絵には、独特な愛嬌があったと思う。

ほかの画家の作品としては、葛蛇玉の「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」がすばらしい。薄墨の空間の中に雪の降っている情景の何とも美しいこと。
これは是非とも実物を見るべき作品だろう。屏風という大画面で見るからこその美しさがこの絵の中にはあった。

そのほかにも、長沢芦雪の「牡丹孔雀図屏風」、谷鵬の「虎図」、鈴木其一「柳に白鷺図屏風」等、なかなか質の高いコレクションが多く、飽きることがない。
まさに眼福という言葉が適切なすばらしい展覧会であった。
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ルソーの見た夢 ルソーに見る夢 / 愛知県美術館

2007-01-08 13:16:53 | 美術等


愛知県美術館に「ルソーの見た夢 ルソーに見る夢 ルソー、素朴派と日本」を見に行く。
タイトルにルソーと入っているが、ルソーの作品は全体の1/4ばかりで、他はルソーと同時代の画家、ルソーの影響を受けた画家の作品で占められている。なんとなくだまされたような気分だ。チェックしてない自分も自分だけど。

しかしあらためて思ったが、ルソーの作品は詩情をたたえていて美しい。
たとえば「サン=ニコラ河岸から見たサン=ルイ島」はどうだろう。そこにただよう静謐さ、シーンと静まりかえった中にただよう叙情、なんとも美しい絵ではないだろうか。
他にも「シャランド=ル=ボン」の朴訥とした味わいなど個性が十二分に出ていて印象に残る。

ルソー以外の作品では、カミーユ・ボンボアがすばらしい。
人物描写はあまり好きではないが、その自然描写は心に迫る。自然の圧倒的な存在感、豪壮で大胆な構図。はじめて見る画家だが、こんな個性的な人がいたのか、と素直に驚く。

日本画家の紹介のコーナーでも、岡鹿之助、松本竣介、吉岡堅二などがやはり絵がすばらしいと思う。
現代美術では横尾忠則のパロディには苦笑してしまった。遊び心があって好きだ。

不満はある展覧会だったが、いろいろな画家の絵を味わうことができたと考えれば良しかもしれない。
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ヨーロッパ肖像画とまなざし / 名古屋ボストン美術館

2007-01-08 13:04:09 | 美術等


実家に帰った折、ボストン美術館で開催中の「ヨーロッパ肖像画とまなざし 16-20世紀の顔」を見に行く。
タイトルからもわかる通りに、時代ごとに肖像画を並べることで、肖像画の変遷を紹介する内容になっている。

やはり16,17世紀は画面も暗い、という印象を受ける。絵の中の躍動感や表情の豊かさには乏しい感じだ。
しかしその中でもティツィアーノ「本を持つ男の肖像」などのように、キャンバスを通じて威厳を感じさせるものがありおもしろい。権威付けという意味合いをもっていた時代なりの特色を感じることができる。

18世紀になると絵の表現にも多少豊かさが感じられてくるようだ。
たとえばロムニー「ふたりの少女の肖像(カンバーランド姉妹)」の姉と妹の表情の違いが実に愛らしいし、ヴィジェ=ル・ブラン「若い女の肖像(ウォロンゾフ伯爵夫人?)」は何とも言えず雅やかで心に残る。
権威付けとはちがう味わいがただよっているのが印象深い。

19,20世紀になると、僕の目にもなじむ作品が多い。
この時代の作品の中では、ミュシャがやはり一番だろう。その耽美的な雰囲気は心に残る。

また、オーペン「夏の午後」も印象に残る。
僕は知らなかったが、この人は自画像画家として有名だったらしい。よっぽど自分が好きだったのだろう。そのナルシストゆえに陥る自己卑下。作品からは自己卑下により引き起こされた狂気が漂っていて実に興味深かった。

時代ごとに絵を並べることで、肖像画の変遷を紹介するという意図は、十分に発揮されていたように感じる。時代を下るにつれ、絵から重々しさが消え、自由な方向へ、軽々と羽ばたいているのが実感として伝わってきた。
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パウル・クレー 創造の物語 / 宮城県美術館

2006-10-29 17:25:31 | 美術等
宮城県美術館で開催中のパウル・クレーの展覧会に行って来た。

展覧会を見て最初に思ったのは、クレーという画家は色というものをうまく使いこなしているという点であった。

たとえば「蛾の踊り」の緑のグラデーションはどうだろう。
画面を格子に区切り、緑のグラデーションで彩るそのユニークさ。そして中央に女神を想起させる抽象的な絵を配置することで、何となくだけど聖性すら感じられたのが印象深い。

他にも「橋の傍らの三軒の家」の黒とオレンジの色彩の妙もおもしろい。
それに「観相学的な結晶」のピンクの色使いやぼかし方はただただその色合いの美しさが目を引いた。

お気に入りは「子供と伯母」だろうか。
「復活祭を迎える頃」もそうだったが、この絵もパステル調の色彩の中で、眠るような表情をしている人物を描き出している。そこにあるのは安らぎと愛らしさだ。
そのためか絵から優しさが伝わってきたのが、印象に残る作品であった。

正直に言うが、パウル・クレーに対する認識はこれまで”わけのわからない抽象画を描く人”という素人レベルの認識しかなかった。まあ素人だからいいんだけど。
でも今回、彼の絵を集中的に見てみて認識を新たにした。確かに左脳的には理解しきれない部分もあるが、巨匠と呼ばれるだけあり、美術に無知な僕でも強い心に残るものが絵の中にはあった。
芸術は理解するものではなく、感じるものなのだ。そのことを改めて思い知らされた次第である。
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肉筆浮世絵展 江戸の誘惑 / 名古屋ボストン美術館

2006-08-20 19:59:47 | 美術等
実家に帰った折、8/27まで開催中の表題の展覧会に行く。
タイトルの通り、明治に来日した医師ビゲローの手により、ボストン美術館に寄贈された肉筆浮世絵を展示している。

展示品のどれもがきわめて質が高くて驚くばかりである。
全般的に風景画はほとんどなく、人物を描いた絵が中心といった内容だ。特に美人画の数が多いのが目を引く。やはり異国の人間にとって浮世絵といえば、まっさきに思い浮かべるのは北斎や広重ではなく、歌麿なのだろうか。
それはともかく、浮世絵画家たちがいかに遊女なり町娘を美しく描こうか、心を配っているのが画面から伝わってくる。

たとえば鳥文斎栄之の「柳美人図・桜美人図・楓美人図」。
大夫はあくまで艶やかに、町娘風の女はいかにもたおやかで雅やかに、という感じで描かれている。そこには叙情性すらただよっているように僕には見えた。僕としては本展覧会でも一・二を争うってくらいに好きな作品である。

他の美人図では、鳥居清長「柳下美人図」のしなやかな感じ。歌川豊春「雪月花図」の気品ただよう雰囲気。同じく豊春「女万歳図」の男装がかもし出す艶っぽさなどが印象深かった。

あとこの展覧会を見て、北斎の力量を改めて思い知らされた。まあ単純に僕好みだからそう感じたかもしれないけれど。でも展示されていた「鳳凰図屏風」にしろ、「朱鍾馗図幟」にしろ、実に優れていると僕は思う。
その大胆なタッチと力強く荒々しい絵、鮮やかな色使いの融合、といったセンスの高さには脱帽するほかないだろう。

  ※

5階で行なわれていたエドワード・ウェストンの写真展も見る。
クローズアップするという手法は面白い。基本的に妄想人間の僕はその拡大された奇妙な形の映像を見ていろんなイマジネーションを掻き立てられるものがあった。どこか隠微な貝殻、ユーモラスな石塊、不穏な印象を与える岩等、見ていて楽しくなってくる。
写真には興味なかったけれど、こういう表現方法もあるのか、とはっとさせられた。
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熊野信仰と東北 / 東北歴史博物館

2006-08-13 21:50:17 | 美術等
道成寺縁起が来ていると知り、実物を見たくて行ってみる。
ちょうど見に行ったときに展示されていたのは清姫が蛇に変わろうとするところだった。ネットや本では見たことがあったけど、実物で見るのはやはり違った感慨があるものである。これだけでも行った甲斐があった。

その他の展示としては、主として熊野三山の本地仏や、御正体と言われる本地仏を裏に彫り込んだ鏡の数が多かったように思う。
地方の仏がメインとなっているためか、朴訥な感じが伝わってきてどこか愛らしい。芸術的な好みから言えば、同じく展示されていた奈良の蔵王権現のように、すっとした洗練された雰囲気のものが好きなのだが、こういう素朴な作品にはまた違った味があるものである。

他の展示物の中では、「熊野観心十界曼荼羅」がおもしろい。地獄と極楽の絵が描かれ、構図的にはどれも似ているのだが、そこに描かれている地獄の風景にはそれぞれに個性があり、違いを見比べるだけでも充分に楽しいものがあった。

熊野には那智の滝しか見に行ったことはなかったし、熊野信仰自体ほとんど知らなかったが、何かと勉強になった。
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ルオー展 / 名古屋市美術館

2006-05-06 23:31:47 | 美術等
名古屋に帰ったついでに、名古屋市美術館で行われていたルオー展を見に行く。

実物のジョルジュ・ルオーの絵を見るのは初めてだったのだけど、本とかで見るよりもよっぽど重苦しい印象を受ける。そのべったりと塗りたくるようなタッチ、そして太い輪郭線には変な圧迫感が漂っている。
もちろん、そういった特徴が重苦しいなりにも好ましい方向に出ているのなら、まだいい。だがはっきり言って、それは僕個人の好みとは全くもって外れた方向にあった。

本展覧会で展示された作品で言うなら、「ミセレーレ」という作品に、僕の好みにそぐわない全てが凝縮されていたように思う。
その一連の絵は、版画ということでモノトーンの色彩となっている。そのタッチとモノトーンのせいで何とも沈鬱な印象が漂っており、見ているだけで暗澹たる心地に沈み込んでいくような気がした。

だがもちろんすばらしい絵もある。
例えばピエロを描いた作品群。初期のピエロの絵には道化とは異なる醒めた表情が漂っていて印象深いし、後期の「アルルカン」の柔らかい表情は何とも美しく心に残る。
他にも「美しい女」をはじめとする女性像のいろいろな表情、風景画の明るい色彩には幾度かはっとさせられるものがあった。

画風自体は確かに僕の好みではない。それでも何かしら心に届くということは、その画家には絵を通して訴える力があったということなのかもしれない。そしてそれこそルオーが現在でも評価されている所以なのだろう。
そんなむちゃくちゃ偉そうなことを見終わった後に感じた。
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大観 春草 観山 玉堂 四巨匠展 / 松坂屋美術館

2006-05-06 23:28:15 | 美術等
名古屋に帰った折、パルコに買い物に行った。その際、隣に建っている松坂屋にも寄って、表題の展覧会を見てきた。

同時代に生きた日本画家の巨匠の作品を集めた展示会である。
僕は美術についてまともに習ってこなかった工学部出身の人間だ。その僕がこの展覧会に展示された4人の絵の印象を述べると、

・ 横山大観は無難で技巧的で、安定的。
・ 菱田春草はモチーフのせいか、絵から受ける印象が何とも優しげ。
・ 下村観山は柔らかいタッチのおかげで、絵全体も柔らかい雰囲気。
・ 川合玉堂は迫ってくるような力強いタッチだが、叙情的な絵。

っていう印象を受けた。見当違いって言われたら否定のしようもないけれど。

個人的には菱田春草の絵が最も好みだ。例えば「月下狐」は古典的な題材ながらも優しい包み込むような雰囲気とリリカルな空気が上手く出ていてすばらしかった。

横山大観は今まで見たことがある大観作品と比べると、今回の展示品は今一つの感がする。しかし「牧童」の絵は愛らしく、心に残るものがあった。

この時代の日本画はこれまでそれほど集中して見たことがなかっただけに、それぞれの相似と相違が比較できて興味深い体験であった。
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中国 美の十字路展 / 東北歴史博物館

2006-04-23 20:56:09 | 美術等
東北歴史博物館でやってた特別展に行ってくる。
シルクロードの国宝という副題がついているこの展覧会、シルクロードの交易で国際色盛んであった唐文化誕生の経緯をたどる内容になっている。

中には正倉院とかで見られる中央アジアの影響のあるものや、いわゆる俑と呼ばれる陶器製の人形などがあって、中国やその周縁部の文化との融合具合が感じられて興味深い。特に軍隊の俑などは何体も並んでいるということもあって、大きさとしては小さなものだけど、なかなか壮観であった。
他にも棺に描かれているレリーフというものもあって、その質の高さと意匠のエキゾチックな雰囲気が目を引いた。

個人的には先週行った「大アンコールワット展」の方が面白かったけれど、異文化の文化や美について触れることができて、楽しい体験であった。
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大アンコールワット展 / 仙台市博物館

2006-04-16 17:38:19 | 美術等
4/15から始まったばかりの「大アンコールワット展」に行ってくる。
その名の通り、アンコールワットが建設されたクメール王朝時代の神像などが展示されている。
カンボジアという異国の、しかも大半がヒンドゥー教の像であるためか、エキゾチシズムに溢れていた。また展示品の質も高かったのではないか、というのが個人的な印象である。

この展覧会の白眉は「ジャヤヴァルマン7世の頭部」であろう。
アンコール・トムの建造者でクメール王朝の最盛期を築いたこの王の像は極めて凛々しく若々しさを感じさせる。加えて、気品と自信が漂っていて見ているこっちのイマジネーションを掻きたてるものがあった。美術に関して、僕は全くのど素人だけど、素人目にもこの像のすばらしさがわかるだけにすごい作品だと思う。

この他の像で言えば、個人的には動物系の像が面白かった。
特にガネーシャの像が最高である。ぽっこりとしたおなかが印象的で、像によっては杯に鼻を浸しているものがあったり、脇に女を侍らせているものもある。それが人間の欲望をわかりやすく反映していて、面白い。こういう猥雑な感じがして、それでいて愛嬌すら感じさせる像は見ているだけで楽しくなってくる。
その他にもガチョウや馬、サル、鳥、獅子といった神像があり、その愛嬌と異質さの同居した表情に僕は惹かれるものがあった。

そんな麗しい神々の像たちに接したことで、ちょっとしたエキゾチシズムに浸ることができ、楽しい時間をすごすことができた。満足の展覧会である。
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「花鳥画の煌き―東洋の精華」 in 名古屋ボストン美術館

2006-01-07 20:50:51 | 美術等
名古屋に帰ったついでに、名古屋ボストン美術館で行なわれていた「花鳥画の煌き―東洋の精華」を見に行く。

前半は主として中国の絵画等、半ばに韓国の作品が少量展示されており、後半に日本の作品が展示されている。
全体としての質は高いという印象を持った。
テーマ自体はどうしても地味で一般に訴えるものは少ないのだが、そこに展示されている美術品は美しいものが多く、個人的に気に入った作品もいくつか見られた。

もっとも良かったのは、呉煥の「百鳥朝鳳図」。中央で悠然と佇む鳳凰、そこに集う種々の色鮮やかな鳥たち。その構図のバランスの美しさと雄大な感じが好みである。

ところでこの展覧会のパンフレットには狩野雅楽之助という人の作品が使われている。これもなかなか繊細で雄大でいい作品である。だが、この狩野雅楽之助という人、全くいままで聞いたことがなかった。有名なのだろうか。
こういう知らない人の作品に触れられるのも新鮮な体験で楽しいものである。


ところで金山がしばらく行かないうちにむちゃくちゃ変わっていた。何か少しショックである。どんどん名古屋は変わっていっている。景気のいい証拠なんだろうな。
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「パウラ・モーダーゾーン=ベッカー」 in 宮城県美術館

2005-12-10 23:45:33 | 美術等
宮城県美術館で「儚くも美しき祝祭 パウラ・モーダーゾーン=ベッカー 時代に先駆けた女性画家」がやっていたので、観に行く。
パウラ・モーダーゾーン=ベッカーという人は初めて聞く名前だ。チラシが手元にあったので、読んでみたのだが、ドイツ表現主義に先駆け夭折した画家だという。工学部出身の僕にはそもそもドイツ表現主義というもの自体がよくわかっていない。でWikipediaを見た結果、カンディンスキーやエゴン・シーレ、エミール・ノルデなどがその潮流に含まれていることを知る。ちょっと興味が湧いた。
絵を見た感じでは何とはなしに柔らかいタッチを使う人だなという印象を受ける。何というか、綿で絵を作ったらこんな風になるかもな、というような柔らかさと若干の繊細がある様な気がする。絵に関してはずぶの素人なので、うまく言えないけれど。
その柔らかい感じは少女や赤ん坊というモチーフにきわめてマッチするように感じた。そういう点で個人的には「白樺林で猫を抱く少女」、「乳飲み子と母の手」、「眠る子ども」が好みである。

ついでに常設展にも観に行く。僕はここにある作品の中では松本竣介の「画家の像」が一番好きだ。他の作品は時間が無くて、足早に通り過ぎたとしても、この作品だけはじっくりと観たいと来るたびに思う。
ところで今日来て初めて気付いたのだが、この絵の男性って伊坂幸太郎に似てる様な気がする。実にどうでもいい発見だけど。
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