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「遠い声 遠い部屋」などで知られる、20世紀を代表する作家の一人、トルーマン・カポーティのノンフィクション・ノベル。
カンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件に関し、著者は綿密な取材を敢行。事件の発生前から二人の犯人が絞首刑に処されるまでを、事実をもとにノベルの形に昇華する。
良質の作品である。素直にそう思える作品だった。
現実に起きた一家4人惨殺事件、それを綿密なインタヴューの末にこのようなひとつの物語まで押し上げた手腕はさすがである。特に人間の心理を詳細に描いている部分が目を引く。
ひとつの異常な事件で巻き起こる住民たちの不安と疑心暗鬼。殺人を犯したあと、逃げ切れるだろうか、という犯人たちによぎる不安。そして犯人たちの生まれた背景などなど。そういった描写は綿密であるがゆえ、手に取るように伝わってくる。この中に書かれていることが100%真実かは知らないが、そこには圧倒的なまでのリアリティが感じられる。その様はただただすばらしいとしか言いようがない。
読んでいて僕が思ったことは、人は殺人を犯したからといって、目立った変化は外には現れないのだな、ということである。当たり前のことといえば当たり前なのだが、ディックの家族は息子が犯した重要なことに気付かないし、仮釈放違反を破った以外、表面上は変化がない。
個人的には拘置所におけるペリーのスパニッシュライスの逸話が心に残っている。そこにあるのは普通の青年像だ。ある意味、常と変わらず、ありふれているという点では、先に触れたディックの姿と似ているかもしれない。
しかし普通そうに見えても殺しをするときはする。そう考えるときわめて恐ろしく、同時に悲しいことだと僕は思う。
しかしそれを本書でも若干触れられたトラウマのせいにして、殺人を正当化することはできない。
もちろん同情するには値するだろう。しかしクラッター一家が、ペリーの人生の尻拭いをする運命だとしたら、それは実に不条理で、悲劇的としか言いようがない。
ペリー自身も理解できない衝動で4人は殺されている。この作品はそう考えると、あらゆる意味において、悲劇的に過ぎると思えてならなかった。と同時に人間というものの難しさ、残酷さ、不条理な感情について、思い知らされた次第である。
評価:★★★★(満点は★★★★★)
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