私的感想:本/映画

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佐藤賢一『王妃の離婚』

2015-03-12 20:15:35 | 小説(国内男性作家)
 
1498年フランス。時の王ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟は、王の思惑通りに進むかと思われた。が、零落した中年弁護士フランソワは裁判のあまりの不正に憤り、ついに窮地の王妃の弁護に立ち上がる。かつてパリ大学法学部にその人ありと謳われた青春を取り戻すために。正義と誇りと、そして愛のために。手に汗握る中世版法廷サスペンス。第121回直木賞受賞の傑作西洋歴史小説。
出版社:集英社(集英社文庫)




日本の小説で、近代以前の西洋を舞台にした娯楽小説は存外少ない。
それは結局のところ、日本人が世界史に疎く、前提となる知識に乏しく、親しく接してこなかったという点に尽きよう。

佐藤賢一の小説を読むのは初めてだが、そんな前提知識の不足など問題ないほどに、おもしろい小説だった。
物語として純粋におもしろく、わかりやすく時代背景が整理されていて無理がない。
一級の歴史小説と感じる次第だ。


舞台は1498年フランス。
この時期の西洋はそんなに知らないが、選ばれている素材は、離婚裁判ということもあって、日本人の僕でも入りやすい。

何より人物が日本人向けに改変されているせいか、どれも魅力的である。

王妃ジャンヌの離婚裁判の傍聴に訪れた弁護士のフランソワは、過去に大恋愛をしたこともある、幾分屈折した男だ。
ルイ十一世に追われた過去のため、その娘のジャンヌを憎んでもいるが、卑劣な裁判の手順に対して怒りを覚える程度に、正義感にあふれた人物でもある。
それでいて、過去の女を引きずる程度に(まあ仕方ないが)女々しさもあっておもしろい。
その人間的な魅力がたまらない。


そんなフランソワは紆余曲折の果て、復讐心を持って見ていたジャンヌの弁護士を引き受けることとなる。
この展開が熱い。
信念をもって進んでいるのが伝わるし、それは昔の女が自分のために用意してくれた舞台にも見えて、深く心が揺さぶられるのだ。

そして裁判での彼の活躍も、見せ場たっぷりだった。
言葉巧みにジャンヌに有利になるよう裁判を運んでいく姿には、読んでいて興奮してしまう。
胸が透く思いだ。

そして裁判を通して、ジャンヌに対し、人と人との関係を結んでいく部分も胸に響いた。


そのほかのキャラもすてきである。
ジャンヌは懐の深さをかんじさせるところがかっこいいし、それでいて女としての弱さを感じさせるところも心に残る。
そのほかにも優柔不断なルイ十二世、フランソワの恋人のベリンダなど、輝いている人物が多く、心奪われる。

一級の娯楽小説とよぶに足るすばらしい作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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おもしろかったです (yoco)
2015-11-29 21:53:37
こんばんは~。
こちらの記事を読んでずっと気になっていて、先日ようやく読めました。すごく面白かったです・・・!
たぶん、自分ではなかなか手に取らなかった1冊だと思うので読めてよかったです。

人物、魅力的ですよね。誰も彼も人間味があって。
ある場面では、「え、そこで手を出すんだ!?」とか、思わず突っ込みたいようなところもあったんですが、そこもまた人間らしいといえば人間らしいのかもしれないですね。いい娯楽小説でした^^
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「王妃の離婚」について (風早真希)
2023-05-15 14:07:52
この佐藤賢一の「王妃の離婚」は、中世のフランスを舞台に、学問の意義と本質、人の身分や恋愛など、あらゆる事象を巧みなウィットとともに、論理的に解明し、最後に感動的なカタルシスを呼び起こす、歴史法廷サスペンス小説の傑作だと思います。
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