私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

山田詠美『風味絶佳』

2014-12-26 20:31:58 | 小説(国内女性作家)

70歳の今も真っ赤なカマロを走らせるグランマは、ガスステイションで働く孫の志郎の、ままならない恋の行方を静かに見つめる。ときに甘く、ときにほろ苦い、恋と人生の妙味が詰まった小説6粒。谷崎賞受賞。
出版社:文藝春秋(文春文庫)




正直な話、あまり好みの作風ではなかった。
しかしさすがは山田詠美だけあって、文章は流れるようで、すんなりと頭に入って来る。

それにどの作品もキャラクターがいいのだ。各作品に登場する個性的な面子がおもしろい。
だから好みでなくても、まったく退屈することなく、読み進めることができる。
一流作家の味わいを楽しめた思いだ。

以下、簡単に各作品の感想を記す。



『間食』
どこか天然で、虚無的な寺内がいいキャラクターをしている。
特にいいのは、彼のゆがんだ部分だ。
そしてそのゆがみは、主人公の雄太や他の人物にも通じるのかもしれない。
雄太は加代という半ば依存した形の女がいて子どものように甘えている。だがその一方で花と不倫をして、(加代とは違い)花に対してDVを行なっている。
加代も男を甘えさせているように見えながら、上手く雄太を縛っている。
そんな人物たちの歪さがほの見えて、変に不気味な感じがして心に残った。


『夕餉』
主人公は夫婦生活がうまくいかず、不倫をし、男に尽くすことで、自分を確かめている節がある。それは恋愛の形をした、女のエゴと言えなくもない。
しかしそこから出発して人生をやり直そうとしている感じが良かった。
細かな料理の描写も印象的である。



『風味絶佳』
女に対して優しく振る舞っている志郎。だかた当然もてるのだが、結局その優しさゆえに、女にも逃げられていく。
たぶんそれは志郎が子どもだからだろう。女性優先で行動しながら、その実、相手のことを見ておらず、価値観の違いを認識できていない。その辺りがおもしろかった。
また祖母のキャラクターもなかなか愛らしくて心に残った。



『海の家』
母と娘、母の幼馴染の微妙な距離感がおもしろい。
今を生きている娘から見ると、過去の初恋をやり直している母たちが大層奇妙に映るのかもしれない。
しかしそうは思いながら、そんな二人を好ましく見ている点が胸に響いた。



『アトリエ』
とかく緊張して暗い感じの麻子のキャラクターが忘れがたい。
彼女自身、幼い日のトラウマの中で、大事な人ができるのを渇望していたのかもしれない。そしてだからこそ、それが失われることが怖ろしかったのかもしれない。
その果てに訪れたラストシーンがあまりに悲しい。



『春眠』
父と同級生の女性との再婚というかなり特殊な事情に巻き込まれた青年章造の鬱屈が丁寧に描かれていて印象的。
母への思慕からの父への反発や、好きな女と父親との醜態に対する嫌悪などは、素直な反応である。
その分、リアリティが感じられ、胸に届いた。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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