鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが古書の知識は並大抵ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも。彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは”古書と秘密”の物語。
出版社:アスキー・メディアワークス(メディアワークス文庫)
売れている本なので、まずは読んでみた。手に取る理由としては安直だな、と自分でも思う。
で、とりあえず本書を読んで感じたことは、実力以上に本が売れている、ということと、だけど売れる理由もわからなくはないな、という二つの相反する思いである。
本の中身としては、日常の謎がメインの安楽椅子探偵ものってところだろうか。
だがそういった内容自体は幾分弱いという気もしなくはない。
本書は連作短篇風になっており、四つの話が語られることになる。
だがミステリのわりに、謎が早々に読めてしまうものもある。そこはマイナスポイントだ。
またそれ以外にも、本書には引っかかる部分が目立つ。
どことは言わないけれど、物語を展開する上で、ご都合主義な部分が目立つし、みんなペラペラと真相を語りすぎていて、その説明口調なセリフ回しに幾分引いてしまう。
またレーベルの関係上仕方ないけれど、女店主のキャラ造形が、いかにもねらって書いてますってのが透けて見え、ちょっとばかり鼻につく。美人で本が異常に好きだけど、人見知りでキョドってしまう部分などはそれが目立ち、個人的にはしっくり来ない。
もっとも小山清の『落穂拾ひ』の章を読む限り、そんなことは作者も重々承知して書いていることはわかるけれど。
本好きの女性が登場するラノベミステリだったら、文学少女シリーズの方が個人的には好みだ(ついでに言うと、あっちも第一巻で太宰の作品がピックアップされている)。
しかしもちろん本書にだって美点はあるのだ。
まずは文章が読みやすいことが上げられよう。
ライトノベル作家ということもあって、すらすらと頭に入るのはすばらしい。
それに安易な部分はあれ、物語として伏線を丁寧に張り、きれいにまとめている点も印象はいい。
また作者がいかに古書が好きかということが存分に伝わってきて、それが本好きとしてはうれしく感じる。
特に小山清『落穂拾ひ』を語る文章は、本当にすばらしい。
作品の内容を聞く限り、『落穂拾ひ』は、確かに甘ったるい願望全開の話かもしれない。
けれど、それを全肯定するキャラクターたちの口調からは、その作品に対する深い愛情が伝わってきて、それが僕の胸に響いてくる。それらを読んでいると、一度は『落穂拾ひ』を読んでみたいな、という気分にさせてくれるのだ。
それに読んでいると、古書店を久しぶりに巡ってみたい、という気分にさせてくれるのも大きな美点だ。
本書は確かにいくつかの欠点はあるかもしれない。
しかし、この作品の文章の読みやすさは本を読み慣れていない人に、そして本に対する愛にあふれた言葉は、本を読み慣れた人の心に届くのだろう。
そしてそれこそ、本書が売れている理由かもしれない。そんなことを思った次第である。
評価:★★(満点は★★★★★)