私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』 三上延

2012-02-07 21:11:19 | 小説(ライトノベル)

鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが古書の知識は並大抵ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも。彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは”古書と秘密”の物語。
出版社:アスキー・メディアワークス(メディアワークス文庫)




売れている本なので、まずは読んでみた。手に取る理由としては安直だな、と自分でも思う。
で、とりあえず本書を読んで感じたことは、実力以上に本が売れている、ということと、だけど売れる理由もわからなくはないな、という二つの相反する思いである。


本の中身としては、日常の謎がメインの安楽椅子探偵ものってところだろうか。
だがそういった内容自体は幾分弱いという気もしなくはない。
本書は連作短篇風になっており、四つの話が語られることになる。
だがミステリのわりに、謎が早々に読めてしまうものもある。そこはマイナスポイントだ。

またそれ以外にも、本書には引っかかる部分が目立つ。
どことは言わないけれど、物語を展開する上で、ご都合主義な部分が目立つし、みんなペラペラと真相を語りすぎていて、その説明口調なセリフ回しに幾分引いてしまう。

またレーベルの関係上仕方ないけれど、女店主のキャラ造形が、いかにもねらって書いてますってのが透けて見え、ちょっとばかり鼻につく。美人で本が異常に好きだけど、人見知りでキョドってしまう部分などはそれが目立ち、個人的にはしっくり来ない。
もっとも小山清の『落穂拾ひ』の章を読む限り、そんなことは作者も重々承知して書いていることはわかるけれど。

本好きの女性が登場するラノベミステリだったら、文学少女シリーズの方が個人的には好みだ(ついでに言うと、あっちも第一巻で太宰の作品がピックアップされている)。


しかしもちろん本書にだって美点はあるのだ。

まずは文章が読みやすいことが上げられよう。
ライトノベル作家ということもあって、すらすらと頭に入るのはすばらしい。
それに安易な部分はあれ、物語として伏線を丁寧に張り、きれいにまとめている点も印象はいい。

また作者がいかに古書が好きかということが存分に伝わってきて、それが本好きとしてはうれしく感じる。
特に小山清『落穂拾ひ』を語る文章は、本当にすばらしい。
作品の内容を聞く限り、『落穂拾ひ』は、確かに甘ったるい願望全開の話かもしれない。
けれど、それを全肯定するキャラクターたちの口調からは、その作品に対する深い愛情が伝わってきて、それが僕の胸に響いてくる。それらを読んでいると、一度は『落穂拾ひ』を読んでみたいな、という気分にさせてくれるのだ。
それに読んでいると、古書店を久しぶりに巡ってみたい、という気分にさせてくれるのも大きな美点だ。


本書は確かにいくつかの欠点はあるかもしれない。
しかし、この作品の文章の読みやすさは本を読み慣れていない人に、そして本に対する愛にあふれた言葉は、本を読み慣れた人の心に届くのだろう。
そしてそれこそ、本書が売れている理由かもしれない。そんなことを思った次第である。

評価:★★(満点は★★★★★)
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『とある飛空士への追憶』 犬村小六

2008-11-15 18:07:40 | 小説(ライトノベル)

「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!?――圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる! 蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。
出版社:小学館(ガガガ文庫)


僕はライトノベルの良い読者ではない。だがいくつか読んできた作品をふり返るに、ライトノベルというジャンルは物語のテンプレートに則った作品が多いという印象を受ける。
特に人気があるのはボーイ・ミーツ・ガールものではないだろうか。『涼宮ハルヒの憂鬱』『狼と香辛料』『半分の月がのぼる空』などの人気作は、冴えない、あるいは普通の男の子が、ちょっと奇抜な女の子と出会い、甘酸っぱい思いを抱くというパターンで物語が進んでいく。

そのような展開が好まれて描かれるのは、読み手もそういうジャンルを望んでいるからだろう。特に主人公が普通であればあるほど感情移入しやすく、擬似恋愛の気分を楽しめる。
それ自体はまあ悪いことではない。
だがそうなると、どれもが似た印象の作品になってしまう危険性がある。そこから人気を獲得していくには、テンプレートを越えたところに美点がなければならない。

本作もボーイ・ミーツ・ガールものの典型に則って進んでいく。それにプラスして、身分違いの恋という古典的なテンプレートも併せ持った作品だ。
だが、僕はこの本を読んで、ベタだ、というような否定的な印象を持たなかった。それは僕の主観で言うなら、二つの美点があったからだ、と思う。

一つは飛空シーンの迫力だ。
敵の監視が強力な中、逃亡のための飛行を続けるシーンの実に緊迫感に満ちていること。専門用語を交え、敵の追尾や弾丸から逃れる状況を描く文章の呼吸は見事な限りだ。襲い来る敵に対し、その裏をかく飛行を続ける主人公の行動によって展開はきわめて盛り上がる。読んでいても飽きさせることはない。

そして二つ目はストレートな展開の恋愛パートだろう。
次期皇妃であるファナがシャルルに心を開いていく過程は、冒頭の描写からして想像はつくのだが、それに伴う甘酸っぱい感情の描き方は丁寧なだけに胸に迫るものがある。心のゆれや葛藤も、読み手の心に訴えるものがあり、感情移入することができる。
そしてラストのシャルルの別れの方法など粋ではないか。それらが上手く絡み合い、物語を美しい余韻で締めている。

個人的に惜しかったのは舞台設定の荒さだろうか。気にしない人は気にしないのだろうが、中途半端に現実と近いだけに、三十路男としては幾分引っかかる部分がある。視点のぶれも少しハラハラしながら読んでしまった。
だが迷いのないストーリー展開は小気味よく、構成も抜群に上手い。良質のライトノベルだと言ってもいいだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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『人類は衰退しました』 田中ロミオ

2008-07-13 08:31:59 | 小説(ライトノベル)

わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は”妖精さん”のものだったりします。平均身長10センチで3頭身、高い知能を持ち、お菓子が大好きな妖精さんたち。わたしは、そんな妖精さんと人との間を取り持つ重要な職、国際公務員の”調停官”となり、故郷のクスノキの里に帰ってきました。祖父の年齢でも現役でできる仕事なのだから、さぞや楽なのだろうとこの職を選んだわたしは、さっそく妖精さんたちに挨拶に出向いたのですが……。
田中ロミオ、新境地に挑む作家デビュー作。
出版社:小学館(ガガガ文庫)


非常にまったりとした雰囲気の作品である。
その雰囲気をかもし出すのに文体が大きな役割を果たしている。一人称でつづられた少女の文章は、「です」「ます」調でつづられていて、テンポはのんびりゆるやかだ。文章のところどころにギャグが投入され、くすりとさせられるし、おっとりとしたつっこみや、ところどころで仄見えるサドっ気な部分にはにやりとさせられる。
ゆったりした印象と相まって、読んでいるだけで心地よい気分に浸ることができる。

もちろん物語の世界観も文体に見合ってまったり、ほのぼの系。
妖精さんの設定はコミカルでおもしろく、テンパっているようなしゃべり言葉は読んでいて楽しい気分にさせられるし、お菓子の小道具も微笑ましい。

とはいえ、お話自体は大したことはなく、筋はあってないようなものだ。だからこの小説自体は、これらの世界や雰囲気を味わうだけの作品とも言えよう。
そのため好き嫌いは分かれそうに感じるのだが、これはこれでありかな、と僕個人は思う。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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『半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon』 橋本紡

2008-07-12 10:40:03 | 小説(ライトノベル)

いきなり入院した。僕にとってはちょっと早い冬休みみたいなもんだ。病院には同い年の里香って子がいた。彼女はわがままだった。まるで王女さまのようだった。でも、そんな里香のわがままは必然だったんだ…。里香は時々、黙り込む。砲台山をじっと見つめていたりする。僕がそばにいても完全無視だ。いつの日か、僕の手は彼女に届くんだろうか?彼女を望む場所につれていってあげられるんだろうか―?
第4回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞の橋本紡が贈る期待の新シリーズ第一弾
出版社:アスキー・メディアワークス(電撃文庫)


この小説を読んでいると、『世界の中心で、愛をさけぶ』を思い出す。
好きな女の子がいて、その子が病気で、その女の子を病院から連れ出す、という構図はよく似ているし、『セカチュー』で出てきた祖父と、患者の多田さんは似ていると言えなくもない。どちらが先かという議論をするつもりはないが、両方ともセカイ系のテンプレート(言うなればお約束)に則っていることだけは確かだろう。

そんな似ている両者なのだが、個人的な趣味で言うなら、『セカチュー』よりも『半分の月』の方がおもしろい、と感じた。
そう思った要因はこの作品が『セカチュー』よりもはるかにまっすぐで、純粋さがあるからだろう。

ライトノベルという制約のゆえかもしれないが、この作品は少年が少女を思う、というシンプルな一点にきれいに集約されており、そこが個人的には心に響いた。
特に一人称で描かれた繊細な心理描写は見事で、父親の記憶や多田さんの記憶を交え、少女のために行動するという心理を説得力よく描き上げている点がすばらしい。

キャラ自体は里香や亜希子さんなどデフォルメされたキャラも多いが、彼らの心理をふとした言動から垣間見せるあたりは絶妙ではないだろうか。

ラストはお約束といえばそれまでだし、二人をはばむ真の意味での大人がいない(ゆえにまっすぐな印象を受けるのかもしれない)点が引っかかるが、希望といじらしさとを感じさせ読後感は良い。
好評を博したのも納得の繊細なラブストーリーである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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『灼眼のシャナ』 高橋弥七郎

2007-12-14 21:33:20 | 小説(ライトノベル)

普通の高校生悠二の前に人の存在を灯に変えて、それを吸い取るフリアグネが現れる。すんでのところで謎の少女に救われたが、彼女は悠二がすでにこの世に存在していない、と告げる。
テレビアニメ化もされた大ヒットシリーズの第一弾。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)


本書をひと言で要約するならアクションエンタメの王道と言ったところだろう。
アクションシーンの迫真性や緊迫感はもちろんのこと、盛り上げどころを理解したストーリー運びのおかげでサクサクと読み進むことができる。その中でしっかり悠二の覚悟の移ろいを描いているのもなかなかのものだ。
痛快娯楽アクション小説と謳うだけはある。

それに設定がおもしろいのも目を引く。人間をトーチに置き換えるという独特の世界観はユニークで、うまくファンタジーとして機能しているのがさすがといったところだろう。
シャナやアラストール、悪役のキャラが立っているのもいい。

もちろん気に入らない点がないわけではない。
着替えのシーンといい、目が覚めたらとなりにシャナが寝ているシーンといい、吉田一美の扱いといい、「いやぁあ、ベタ!」と叫びたくなる部分は何度もあった。
しかしそれもツボを押さえたつくりという言い方もできる。つまるところ良い意味でも悪い意味でも王道でしかなのだ。

そのあまりの王道さゆえに、ひねくれ者の僕にはいまひとつ物語りにのめりこむことはできなかったのだが、しっかりした構成の話のため退屈することはない。充分すぎるくらいに及第点の作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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『バッカーノ! The Rolling Bootlegs』 成田良悟

2007-12-04 20:19:57 | 小説(ライトノベル)

禁酒法時代のニューヨーク。裏組織カモッラではフィーロの幹部昇進の話が持ち上がっていた。警部補はそんなカモッラに手を出せずいらだっていた。同じころ、ニューヨークに泥棒カップルがやって来た。そして各人の物語は錬金術が生み出した不死の酒をめぐり、収束していく。
第9回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)


群像劇である。そのため登場人物は大勢いるが、各人物がそれぞれ行動していく中、破綻することなく物語をまとめ上げている手腕に感服する。バラバラのエピソードをひとつに収斂させる技巧など、20代前半の新人の手によるものとも思えないほど洗練されている。
ていうか投稿作としてはとんがりすぎだろう。

本作はそういったエピソードやキャラの交通整理が上手いばかりでなく、それを出す順番などの構成力、演出力も優れていて、テンポがいい。
たとえば群像劇により、物語がどのように収束するのかという期待を持つことができたし、エニス誕生の秘密や、マイザーのかかわりなどの錬金術に関わる謎の存在も物語をおもしろくしている。それに適度に挿入されるアクションの描き方も良く、出すタイミングも上手い。

また本作は群像劇の中でもっとも重要な点、キャラの造形が抜群に上手かったと思う。あるキャラはおバカで、別のキャラはときにいかれていて、どこかユーモラスだ。

神の視点としては若干違和感のある文体ではあるが、瑣末なものでしかない。
個人的にはドツボであった。ライトノベルを読まない人にも読んでほしい作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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『ミミズクと夜の王』 紅玉いづき

2007-06-05 20:37:54 | 小説(ライトノベル)


魔物の住む森にやってきたミミズクという名の奴隷の少女。死にたがりやの彼女は自分を食べてもらうため、森を統べる人間嫌いの夜の王に会いに行く。
第13回電撃小説大賞<大賞>受賞作。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)


ひと言で言えばファンタジーである。
設定や世界観はもちろんのこと、出てくる人すべてが基本的に利他的な行動をとる善人。そういういろんなことも含めてのファンタジーだ。
しかしその中で語りたいことを(解説の有川浩の言葉を借りるなら)奇をてらわずに語っている点が好印象な作品である。

プロット自体はシンプルである。奴隷の少女ミミズクが人間嫌いの魔物、夜の王に「あたしのこと、食べて」と頼みに行く。
細かい点はともかく、その設定を聞けば、大まかな流れがどのように着地するかは一発でわかる(実際、予想通りだった)。しかしベタな設定ながら、過程をきっちり書いているので、素直に世界観を受けいれることができる。
たとえば、煉獄の花のパートで、ミミズクが「この花を渡すまで、死ねない」と思うシーン。これは実にうまい。こういう丁寧な積み重ねが本作では実に鮮やかだ。
それにキャラも丁寧に書いているのが印象深い。前半のミミズクや、見守る存在とでもいうべきクロが実に愛らしく見える。

もちろん、脇が甘いなと思う面はいくつかある。
たとえば前半と後半でミミズクのキャラが微妙に変わる点や(寓話性を醸し出すための演出だろうか?)、場面転換のぎこちなさなどは正直違和感を覚える。

しかし新人作家らしいまっすぐさで、大事な面を過不足なく書き、優しい世界を紡ぎ出している。
基本的にひねくれ者の僕だが、こういう世界も悪くないな、と少しだけ思ったりした。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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『塩の街 wish on my precious』 有川浩

2007-02-26 19:49:56 | 小説(ライトノベル)


塩が世界を襲う塩害の時代、崩壊寸前の東京に秋庭と真奈は暮らしていた。絶望的な状況下、次々人が死んでいく中で、ふたりの仲も少しずつ変化していく。しかしひとりの男の登場で、二人の運命は変転する。
『図書館戦争』で注目を集める、有川浩のデビュー作。第10回電撃ゲーム小説大賞受賞作。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)


有川浩はすでに一般文芸でも活躍している作家である。
その理由は本作を読んで理解できる。本作が有川浩のデビュー作だが、かなり良質のSFで、しかも完成度の高い。物語を一気に読ませる筆力、明確な描写、どれも一級品である。デビュー作とは思えない貫禄をもっている。

一応くくりはSFになるのだろうが、メインはSFチックな部分よりも主人公プラス周りの人間の恋愛模様を描くところにあると言っていい。
とにかくその心理描写が的確だ。だれかに死んでほしくないという、まっすぐなくらいの思いが確かな手応えと共に読み手に伝わってくる。ああ、この感性は男では絶対に書きえないな、と思う面が多々見られて新鮮だ。
基本的に僕は女性の書く恋愛小説は苦手である。感性が前面に出すぎている感じがして、あまりなじめないからだ。だが、ここでは直情的な言葉で、女性的な心理が描かれている。これくらいの方が僕としてもすんなり受け入れやすい。

メインの二人の関係は共依存といっていい。
守るとか、守らないとか、重荷だとか、重荷じゃないとか、そんな言葉じゃなくって、ただ互いが互いを思いやる――そういう意味での共依存。そしてその気持ちの美しさが、ただただ感動的であった。
ライトノベルを読まない人にも読んでほしい作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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『“文学少女”と死にたがりの道化』 野村美月

2007-02-24 22:00:26 | 小説(ライトノベル)


物語を愛するあまり、物語を食べてしまう“文学少女”天野遠子と、ただの男子高校生井上心葉。ふたりが所属する文学部に持ち込まれたのは恋文の代筆だった。だがことは思いも寄らぬ方向に転がる……
野村美月のミステリアス学園コメディ第1作。
出版社:エンターブレイン(ファミ通文庫)


本作はタイトルに文学少女と銘打たれているだけあり、名作の、今回で言えば太宰治の『人間失格』の筋をなぞるかのように、物語は進んでいく。そういうガジェットもあり、小説が好きな人間にとっては、いくつかたまらないシーンが多い。
そしてその魅力を引き出してくれるのが、文学少女、遠子の文学に対する愛だ。特にラストの太宰作品に関する言葉の数々は、心に響いた。
僕はもう何年も太宰は読んでいないし、そんなに熱心な読者ではなかったのだけど(計6冊でそれなりの数は読んでいるけれど、はまりきれなかった)、この本を読んでいたら久々に読みたくなってきた。そう思わせるだけでも充分にすごい。

ストーリーとしては、最初は軽めのタッチで進行するのだが、ラストでシリアスになってくる。そういうところは、個人的には好きだ。いわゆるメリハリがきいているし、ラストでカタルシスがあるところもいい。

手記の扱いに関しては、僕の予想はまあ半分当たり、半分はずれといったところである。多分、ミステリを読み慣れた人はなんとなくわかるだろうけれど、さすがに全部は解けきれない。
やや作りものめいた感があったのは残念だが、読者をなんとかミスリードしようとする姿勢が見えて好感触。

単純に楽しめることは請け合いだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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『キーリ 死者たちは荒野に眠る』 壁井ユカコ

2007-02-21 19:18:03 | 小説(ライトノベル)


霊感が強く、霊が見える少女キーリ。彼女は冬の休暇中、不死人の青年ハーヴェイと、小型ラジオの憑依霊・兵長と知り合う。キーリは彼らの旅に勝手についていくことに…
第9回電撃ゲーム小説大賞を受賞した、壁井ユカコのシリーズ1作目。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)


エンターテイメントとして、単純におもしろい。そう素直に思える作品だった。

霊感が強く、幽霊が見える少女が旅をするというお話だ。
そこで出てくるエピソードのつなぎのうまさと、テンポの良さにただただ舌を巻く。特に前半部の各エピソードは短編として切り取ってもいいくらい、端正できれいにまとまっている。加えて、その後の展開を思わせる内容が含まれていて、その手腕は見事なくらい鮮やかだ。
もちろん後半の怒涛の展開も含めて、かなり上手に組み立てられた作品である。思わず一気読みをしてしまうほどだった。

本書はロードムービー、ホラー、アクション、恋愛の融合系ともいえる作品である。それらを無理せず組み立てて、メインの二人を光らせている様がすばらしい。
めんどくさがりのハーヴェイが心を開いていく姿、キーリがハーヴェイと兵長と離れたくないと思う過程が、エモーショナルで極めて感動的である。その恋愛すれすれの二人の思いの暖かさが胸に深い余韻を打つ。満足の一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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『狼と香辛料』 支倉凍砂

2006-12-25 19:40:10 | 小説(ライトノベル)


行商人ロレンスは狼の耳と尻尾を持った美しい少女と出会う。豊作を司る神ホロだと名乗る彼女をつれてロレンスを旅をすることに……
第12回電撃小説大賞銀賞受賞。「このライトノベルがすごい2007」で1位を獲得。


『ある日、爆弾がおちてきて』と同様、「このライトノベルがすごい2007」を参考に読んでみた。

単純におもしろい作品である。
そう感じた理由のひとつはやはりホロのキャラが生かされていることにあるだろう。
男を手玉に取る感じのキャラのロと、世間的に見るなら普通のキャラのロレンスとの掛け合いがおもしろい。この手の構図はボーイ・ミーツ・ガールものでは往々にして見られるものだが、それはそれで楽しいものがある。

ストーリーは経済を主としているのが目を引く。
お話の構造としては何てこともなく、サプライズもない。文体が冗舌なのも引っかかる面がある。だが、きっちりと物語が組まれているため安定して読むことができたのは印象深い。

はっきり言ってそれ以上の感想は湧いてこないのだが、エンタメなんてそれで充分なのかもしれない。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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『ある日、爆弾がおちてきて』 古橋秀之

2006-12-25 19:24:30 | 小説(ライトノベル)


都心に投下された新型爆弾とのデートを描いた表題作をはじめ、くしゃみをするたび記憶が退行する奇病、毎夜訪ねて来る死んだガールフレンドなど七つの作品を収録。
時間をテーマにした、暖かくおかしくてちょっと不思議なボーイ・ミーツ・ガールストーリー。
出版社:メディアワークス(電撃文庫)


あまりライトノベルを読んでいなかったので、「このライトノベルがすごい2007」からピックアップして、本書を読んでみた。

はっきり言って小説の雰囲気になじめなかった。感覚的なものなのでうまく言えないのだが、感性というかそういう点で、肌に合わないといったところである。

って、それで終わってしまうのも何なので、あえて良かった点にも触れていこう。
本作で優れていた点はプロット、そしてアイデアの着眼点である。
たとえば「ある日、爆弾がおちてきて」の人間が爆弾という設定と恋の関係性、「おおきくなあれ」の時間退行、「出席番号0番」の日替わり憑依等、アイデアが実におもしろい。しかもそれをきっちりお話としてまとめている点が注目に値する。
短編ということもあってか、驚きという点では足りないし、カタルシスも少ないが、情景を適切に切り取り、過不足なくまとめていることは単純にうまい。

白眉は「むかし、爆弾がおちてきて」だろうか。
その設定のユニークさは個人的には好きだ。実に不思議な設定を考え出すものだ、と感嘆するばかりだ。

ってここまで誉めておいて、結論は感覚的に合わないというのが残念である。理性的には優れていると認めつつも、感覚的にはそれを否定したくてたまらない。それが本作に対する僕の結論だ。

評価:★★(満点は★★★★★)
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『イリヤの空、UFOの夏 その1,2』 秋山瑞人

2006-08-26 19:51:47 | 小説(ライトノベル)


OVA化もされたSF青春ストーリー。
夏休み最後の夜、せめてもの思い出にと学校のプールに忍び込んだ浅羽直之は手首に金属の球体を埋め込んだ少女と出会う。


わかりやすいくらいにセカイ系である。
というかセカイ系を代表する有名マンガときわめて似ている。どっちが先に連載を始めたかは知らないけれど。そのため、その相似性にばかり目がいってしまい、物語を素直に受け入れることができなかった。

展開自体はボーイ・ミーツ・ガールものの王道という感じがする。純情な感じの中学生がなぞの少女に出会い、その存在に惹かれていく。少女も少年のことが気になり、やがてもどかしさをはらみながら、いい仲になっていく。
ベタといえばベタだが、イリヤの思いや晶穂の感情を絡めることで、読み手をやきもきさせる手腕は上手い。日常の中に忍び寄る明確な非日常の描き方も、なかなかだ。

それにプラスして、たとえば「正しい原チャリの盗み方」のイリヤの語る過去のシーンや、その後に挿入される榎本と椎名のやりとりのシーンなどは、じんわりとした暖かい余韻を感じる。
それに「十八時四十七分三十二秒」の飛行機とのダンスのシーンなどは美しい。

しかしだ。読み終えた結論から言えば僕はこの作品を好きにはなれそうにないと思った。その理由の一つはもちろん、先に述べたように既存作品と相似性が引っかかったせいもある。
だがそれ以前に、この作品はあいまいな言い方だが、個人的な好みに合わないのである。何がいけないのか、論理的に語れないのがもどかしい。
確かに理性的に上手いと感じる面はある。部分的に見て優れているというシーンもある。しかしトータル的に見て心には響いてこない。僕の言語キャパではそのくらいしか言えない。これは感性の問題としか言いようがないだろう。残念なことだけども。

評価:★★(満点は★★★★★)
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『銀盤カレイドスコープ vol.1,2』 海原零

2006-07-12 19:54:14 | 小説(ライトノベル)


16歳のフィギュアスケーター桜野タズサはその美貌と高飛車な物言いからスポーツ界の嫌われ者。国際大会でどうしても結果が出せない彼女にある日突然、幽霊が取り憑いた。
第2回スーパーダッシュ小説新人賞、大賞受賞作。


とりあえず最初はイライラしっぱなしであった。
主人公に幽霊が取り憑くというベタな展開からストーリーははじまるのだけど、この二人のやりとりがどうしても肌に合わなかった。どうもムダに引っ張りすぎというか、読んでいてムダに痛々しいというか、とにかく僕の趣味に合わない。
それになぜ幽霊がカナダ人なのか、そもそも幽霊が取り憑く必然性があるのか、そういった点に違和感もあり、その理由も見えず、腹立たしく感じられてならなかった。

だがそんな展開もフィギュアのシーンがはじまってからはだいぶおもしろくなってくる。そのシーンに漂っている緊張感と、純粋なまでの闘争心、そして向上心といったいわゆるスポ根がもっている要素が存分に注ぎ込まれて非常に楽しい。そこにある意気込みと内面に巻き起こる葛藤の具合が、読んでいて引きこまれるものがあった。
特にオリンピック代表を掛けたフィギュアとオリンピックののシーンは格別である。決して緊迫感が途切れることはなく、迫力が維持されていく様は圧巻だ。

キャラの作りと物語の構成もうまい。
特に主人公の気の強さを、メディアとの対決なども絡めて、描く構成には主人公のアクの強さとエンタメとしてのおもしろさが融合していて鮮やかなくらいだ。そして最初の内はまったく必然性がわからなかったピートの存在が明確に際立ってくる様はすばらしい。
ラストに泣きを入れるのはあざといけれど、必要な展開だしちょっと感動してしまったので素直に認めるほかはないだろう。

結局最後までカナダ人である必然性はわからないし、彼の感覚がものすごく日本人チックだったのが謎で、そこだけが不満だ。
しかしここまで昂揚感を抱かせる作品にもそうそうお目にかかれるものではない。すばらしい作品を読むことができたという思いで一杯だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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『涼宮ハルヒの憂鬱』 谷川流

2006-07-01 22:58:17 | 小説(ライトノベル)


今春アニメ化された「涼宮ハルヒの憂鬱」原作。
校内一の変人・涼宮ハルヒが結成したSOS団。ただ者でない団員を従えた彼女を中心に非日常がはじまっていく。
第8回スニーカー大賞受賞作。


少し集中してライトノベルを読もうと思い立ち、現時点で最も人気がありそうなライトノベル――つまりは本書を読んでみた。とりあえず人気が出る理由は充分に理解できた。単純におもしろいし、キャラ小説としても一級というのが率直な感想である。

この作品はいわゆる「基本」を押さえているな、という印象を受けた。
たとえば物語のキャラだが、それぞれ個性の異なる(そして個性の際立っている)萌えキャラを三人配し、どれも魅力的につくられている点が目を惹く。この造形の具合が手馴れた感じで見事なくらいである。
そしてその三人が語り手であるキョンに恋愛系(?)の視点を送っているのだけど、その三人の微妙な視線に語り手当人がまったくもって気付いていなかったりする。もうその設定はきわめてベタなくらいだ。
まあそうは思うのだけど、これはこれで読み手としては楽しいから不思議なものだ。なによりその関係性にやきもきさせられるのが読んでいても心地よいくらいであった。

世界観としてはわかりやすいくらいのセカイ系である。しかもどちらかと言うとバカSFって感じで、もう半笑いしながら読んでいた。ここまで大風呂敷を広げられると、文句の言いようもなく、むしろ清々しさすら感じる。
構成もうまく配置されていて、序破急の構造、キャラの動かし方など、ラストに向けて充分盛り上がるように計算されている。
一人称の文体の勢いの良さも心地よく読めるし、何よりこの世界観にはあっているのが魅力的だ。

何か分析的な感想になったけれど、とりあえず僕はこの作品を楽しんで読めたし、人気の出る理由もよくわかった。続きを読むかどうかはわからないけれど、この作品の世界観のすばらしさは力をこめて断言しておこう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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