私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ゴーン・ガール」

2015-01-14 21:04:25 | 映画(か行)

2014年度作品。アメリカ映画。
鬼才デヴィッド・フィンチャーが一見、幸せそうに見える夫婦の実情を暴き出す、サスペンス・スリラー。ある日、突然失踪した妻を捜す男が、過熱するメディア報道によって次第に追い詰められていき、あげくに殺人犯の疑いをかけられるようになっていく姿が描かれる。
監督はデヴィッド・フィンチャー。
出演はベン・アフレック、ロザムンド・パイク ら。




突如として妻が失踪。夫が犯人として疑われていく過程を描いたサスペンスである。
妻が失踪した真相は何となく予想はつくのだけど、その後の展開はひとひねりがあって、驚かされる作品だった。



映画の冒頭で映し出される夫婦は、割合幸せそうに見える。
仲睦まじく愛し合った者同士だからこその雰囲気は感じられて好ましい。

しかし徐々に、それがこわれてしまっていることが描かれていく。
夫は不倫をし、妻との間には齟齬が生じるばかり。妻はそんな夫の態度が気に入らず、ある計画を立てて、夫を追いつめることとなる。


この映画で描かれている妻は人格障害を持っているように見える。
彼女に対して同情すべき点はあるのだけど、やることがえげつなく、相手のことを考えていない、自分本意な人だ。そりゃあ、夫の心だって離れるだろう、と見ていても強く感じる。
夫は夫なりに、妻の要求に応えるよう、いい夫を演じてきたが、これではうまくいかなくもなるだろう。

実際の夫婦にありえそうな状況だけに、独身の僕は見ていて怖ろしい気分になった。


最後の方は妻のエゴが爆発し、とある犯罪に至ることとなる。
そこにあるのは、本当に自分勝手な女の姿だ。これには本当に空恐ろしい気分になった。

だが本当に恐ろしいのは、そんなこわれた夫婦関係に陥りながらも、夫婦関係を演じ続けなければいけないことにあるだろう。

ここに至ると、もう恐怖というよりも、不気味さと寒気を覚えてしまう。


だがこんな生活は本当に、彼女は望むのだろうか。そこにあるのは、はたして彼女にとって幸福なのだろうか。
そんなことを感じて、よけいに寒気を覚えてしまう。

ともあれ、人間の闇すら感じられる点が目を引く一品だった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「GODZILLA ゴジラ」

2014-08-11 21:35:36 | 映画(か行)

2014年度作品。アメリカ映画。
日本が世界に誇る怪獣映画のビッグネーム、ゴジラの『ゴジラ FINAL WARS』以来10年ぶりの復活作で、巨大怪獣ゴジラの出現に翻弄される人々の姿を描くパニック・アクション。
監督はギャレス・エドワーズ。
出演はアーロン・テイラー=ジョンソン、エリザベス・オルセンら。




不満もあるが、トータルで見れば楽しめる。
それがハリウッド版「GODZILLA」に対する率直な感想だ。

不満な点とは、ゴジラの存在感が思ったよりも薄かったという一点に尽きる。
しかしエンタテイメントとしては上手くまとまっている作品だった。


フィリピンで謎の生命体が孵化した痕跡が発見される。それは古代生物ムートーのもので、日本の原発で潜伏するが再び覚醒。その個体はアメリカで同じく孵化したムートーの元へと向かう。そしてそれに呼応するようにゴジラも復活。ムートーとゴジラ、人間の戦いが始まる。
あらすじとしてはそんなところだろうか。


物語の軸はゴジラというよりもムートーに向けられているように、見ている間感じた。
原発で孵化するのもアメリカで暴れまわるのも、主にムートーでゴジラはどちらかというと、ぽっと現れて、ムートーを駆除してくれる怪獣という程度の印象しか受けない。
ゴジラというタイトルにも関わらず、ムートーのための映画としか見えないのだ。
何となく映画の焦点がずれ、ゴジラの存在感が薄くなっているように感じられる。

当然、僕が見たいのはゴジラである。
そのためこの展開には大いに不満が残った。


しかしそのような展開にしたのには大きな意味があることは見ていてもわかる。
ゴジラもムートーも破壊神であり、人間にとっては災厄をもたらす悪しき存在だ。
実際街の破壊に関しては見ごたえは抜群であるものの、悲惨な光景だった。

しかしそんな怪獣たちを人間は駆除できない。
核エネルギーを吸収する両者を排除することは不可能なのだ。
そしてそんな忌まわしき怪獣を排除したのが、ゴジラという点が大きなポイントだろう。

ゴジラはムートーの排除を済ませると、昔のように海に帰っていく。
そこには破壊しながらも、人間を見捨てないGODの姿が重ねられていると見えなくない。
その辺りはすてきだ。


ともあれ見ごたえのある内容である。
不満もあるが、それなりに楽しめる作品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「渇き。」

2014-07-02 20:35:20 | 映画(か行)

2014年度作品。日本映画。
第3回「このミステリーがすごい!」大賞に輝いた深町秋生の小説を、『告白』の中島哲也監督が映画化した人間ドラマ。ある日突然、失踪した娘の行方を捜す父親の姿を通し、関係が希薄になった現代の家族像を浮き彫りにする。
監督は中島哲也。
出演は役所広司、小松菜奈ら。




つっこみどころの多い映画である。
あえては挙げないけれど、見ていて、えっ、これ冷静に考えたらおかしくない?とか、あの件はどうなったの、って思う部分がいくつか見られた。

加えて見づらいし、わかりづらいし、などなど、どうにかならんの、と思う部分もある。

しかし変に勢いがあって、惹きつけられる作品だった。
それはこの映画に漂う狂気の雰囲気が大きいのかもしれない。


失踪した娘と、それを追うことになった元刑事の話だ。そしてある殺人事件と娘とにつながりがあることが見えてくる、っていう作品である。

とにかく最初の内は状況を脳内で整理するのに苦労する。
場面が頻繁に変わるし、落ち着きのない映像の連続で、少し疲れてしまうくらいだ。
しかし徐々に物語の全体像が見えてくるにつれて、物語に入りこむことができた。

そこで見えてくる絵はおぞましい、の一語に尽きよう。
スプラッタな場面も多いから余計にそんなことを思ってしまう。


おぞましいと言えば、ストーリーだけでもなく、キャラクターもそうだ。

特に主人公の役所広司演じる元刑事はひどいヤツだ。
暴力的で、DVも平気でするし、言葉づかいは悪く、怒りにまかせて行動する。
一番ひどいのは殺し屋の妻にしでかしたことで、この場面に関しては心底ドン引きした。
ここまで屑だと言葉も出ない。

そもそもこの映画は、まともな人間が出てこないのだが、やはり彼がトップクラスの屑だ。
そして屑であるのは、疾走した彼の娘も同じなのである。


この映画は誰も屑で、誰も狂っている。
その狂気があまりにすさまじく、その異常さに見ている間は引き込まれる一品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「グランド・ブダペスト・ホテル」

2014-06-11 21:14:42 | 映画(か行)

2014年度作品。イギリス=ドイツ映画。
『ムーンライズ・キングダム』の鬼才ウェス・アンダーソン監督によるコメディ。ホテルのコンシェルジュとベルボーイがホテルの威信をかけて、得意客を殺した犯人捜しに挑む姿が描かれる。
監督はウェス・アンダーソン。
出演はレイフ・ファインズ、F・マーレイ・エイブラハムら。




楽しげな雰囲気に満ちた作品である。
それはウェス・アンダーソン独特のセンスによるところが大きい。


この監督の作品は「ムーンライズ・キングダム」しか見たことはないが、特徴的な世界観はなかなかユニークだと思ったものだ。
そのセンスは本作にも存分に生かされている。

たとえばエレベータやケーブルカーなどはおもちゃのような感じで見ていてもおもしろいし、ホテルの雰囲気もどこか遊び心があるように感じられる。
また後半の滑走シーンもこの監督の味が出ていたように思う。

言うなればそれはカートゥーンアニメのような味わいとでも言えよう。
その独特の雰囲気に心惹かれた。
ついでに言うと、エンディングのテーマもこの映画に見事マッチしており、そこでも監督のセンスを見る思いがした。


ストーリーは遺産相続に絡むごたごたといったところか。
サスペンスの要素をはらみながら、コメディタッチで見せていくところは決して悪くない。
ただその独特のトーンゆえに緊迫感もなく、ストーリーとして見たら幾分退屈であった。

とは言え、そのセンスゆえにふしぎなユーモアもにじみ出ている。
個人的にはラストの銃撃戦にそれを感じる。
何で撃ち合う?って思ったけど、何で、と思ってしまうがゆえに妙なおかしみがあるのだ。


好みは人それぞれあるだろう。
しかしそのオリジナリティゆえに光るものも多くみられる作品であった。

評価:★★(満点は★★★★★)
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「銀の匙 Silver Spoon」

2014-03-23 18:32:20 | 映画(か行)

2013年度作品。日本映画。
「マンガ大賞2012」で大賞に選ばれるなど、幅広い層から支持を受ける荒川弘による人気コミックを、Sexy Zoneの中島健人主演で実写映画化した青春ストーリー。寮があるからとの理由だけで北海道の農業高校の酪農科に入学した主人公が、実習や部活に悪戦苦闘しながら、クラスメイトたちと絆を深めていく姿が描かれる。
監督は吉田恵輔
出演は中島健人、広瀬アリスら。




マンガ原作ものははずれも多いが、これは割にすんなり受け入れられる作品だった。
実写向きの題材というのも大きいのかもしれないが、何より実写でしか出せない雰囲気がそこここに見られ、それが非常に好ましく感じられた。


主人公は進学校をドロップアウトして、農業高校に流れてきた若者、八軒だ。将来の夢のない彼は農業高校で全寮生活を送りながら、酪農の世界に触れることとなる。
流れとしてはそんなところか。

雑誌でしか読んでいないので、細かなところは忘れているが、割に原作に忠実のような気がする。
一篇の作品としてきれいにまとまっており、青春映画らしい爽やかさも感じられた。


映画には、実際の農作業シーンも出てくるが、それが非常に印象的である。
これらのシーンこそ、実写映画の良さだろう。

そこから伝わって来るのは、農業のリアルだ。

農業の現実は原作でもシビアに描かれている。
だが、500Lの牛乳が4万円程度にしかならないのに、大層な設備が必要で、世話も大変だっていうのは、絵よりも映像の方がよく伝わるのだ。
一頭の生きている豚が2~3万の肉にしかならない、というのも、実際の豚と肉とを見せられた方が実感としてはっきり伝わってくる。

また屠畜の場面も、出演者の生の表情が見られて心に残る。
個人的には馬が好きなので、馬の表情がよく見れたことも印象は良かった。

ともあれ、どれもこれも、実写の良さが存分に生かされている。そのあたりは好ましい。


農業生活の現実が伝わり、物語としても青春物らしい雰囲気が良く出ている。
よくできた佳品と感じる次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「カサブランカ」

2014-02-15 21:09:00 | 映画(か行)

1942年度作品。アメリカ映画。
ウォーナア・ブラザース社ファースト・ナショナル1942年度製作で、43年映画アカデミー作品賞及監督賞を得た作品。
監督はマイケル・カーティズ。
出演はハンフリー・ボガード、イングリッド・バーグマンら。



見終わった後に思ったのは、これはダンディズムの映画だということだ。
露悪的で、人に冷たい態度を取りがちながら、実は人情家というリックのキャラクターがその思いを強くさせるのだろう。
過去の女を引きずる女々しさもあるが、それも含めて魅力的な男だと感じる次第だ。


彼が経営するのは、カサブランカのバーで、逮捕劇があっても、それを敬遠するところがあり、犯人を救おうとしないときもある。
それは一見冷たくも見えるが、根はそんなに悪いやつでないことはすぐに見えてくる。

後半の、カップルにカジノを勝たせてあげる場面なんかは印象的だ。
なかなか粋なところもある男らしい。


そんな彼の前に昔つきあっていた女が現れる。
リックはその女に振られたがのトラウマになっている。
凡人だったら、そこで女を傷つけるか、女を強引にものにするかするのだろう。
映画の中でも、それを感じさせる場面はある。

しかし空港で見せた対応はまさに粋そのものだった。
もちろんそれはやせ我慢と言えばやせ我慢だ。しかしそのやせ我慢こそが、まさにダンディズムと言える。

またこの場面はルノー署長の対応もかっこよくて、この時代のフランス人の矜持を見るかのようだった。


ストーリーもスリリングな要素があり、飽きさせないのも良い。
まさしく良質の名作と言っても良い。すばらしい作品だろう。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「鑑定士と顔のない依頼人」

2014-01-13 20:07:16 | 映画(か行)

2012年度作品。イタリア映画。
若き女性からの鑑定依頼を受けた美術競売人が不可解な事件に巻き込まれていく姿を描く、『ニュー・シネマ・パラダイス』のイタリアの巨匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督によるミステリー。
監督はジュゼッペ・トルナトーレ。
出演はジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェスら。




ラストのどんでん返しにしてやられたと素直に思えた。
後味は悪いが、物語の運び方自体は悪くない作品である。


主人公はヴァージルという名の鑑定士である。
ヴァージルは女っ気のない、孤独な男だ。そんな彼に遺産の鑑定依頼が持ち込まれる。しかし依頼人は部屋に閉じこもり姿を見せない。いらだちながらも、ヴァージルはその女依頼人クレアのことが気になっていく。
ストーリーとしてはそんなところだ。

正直見ている最中は、なぜそんなにこの女にかまうのか理解できなかった。
傍で見ている分には、情緒不安定で周囲を振り回すメンヘラにしか見えないからだ。
病気には同情するけど、彼女に時間をかける理由はない。我ながら冷たいとは思うがそう感じてしまう。

しかしそこは恋。恋愛経験の乏しいヴァージルはどんどんクレアにはまっていく。
それはクレアが若いということもあるし、後から振り返るに、クレアのような女がヴァージルの好みだったのだろう。


さてそんなヴァージルだが世間的には成功者だ。
しかし恋にのめりこんで、仕事でミスもする。父娘とも見えるのに若い女にハマる老人。恋に慣れないせいで、女を相手に戸惑うことも多い。
そんな老いらくの恋はどこか醜い。

でもだからと言って、こんな結末を迎えるのは、いささかかわいそうという気もする。


実際、このどんでん返しはむごい。
どんでん返しに対するカタルシスよりも、主人公への同情の方が強いのはいささか難だ。
しかしそんな悲劇を迎えたヴァージルだけど、記憶の中には女との幸福な時間が色褪せず残っている。

ヴァージルが迎えた老後は、客観的に見れば不幸だろう。
しかし主観的に見るならば、必ずしも不幸ばかりとは言い切れないのかもしれない。
それがある意味救いと見えなくもない。


個人的には、ラストのせいで幾分もやっとする映画である。
しかし物語として見るなら伏線も巧妙で、レベルの高い作品と感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「危険なプロット」

2014-01-12 20:59:54 | 映画(か行)

2012年度作品。フランス映画。
「スイミング・プール」のフランソワ・オゾン監督が贈るサスペンス。才能ある生徒の作文指導を始めた国語教師が、彼の書く物語に引きこまれ、抜き差しならない状況に陥って行く。
監督はフランソワ・オゾン。
出演はファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマスら。




凝った構成の映画である。

国語教師ジェルマンは、クロードという生徒の文才に目をつけ、彼に自分が体験したできごとを書かせ、小説の書き方を指導する。そしてクロードの実体験を描いた文章に小説的な演出を付け加えることをアドバイスする。
その結果、小説内のできごとなのか、現実に起きていることなのかの境界が少しずつぼやけていくこととなる。
ざっくりとまとめるなら、そういうことになるだろうか。

クロードは友人の勉強の面倒を見ることになるが、その過程で友人の母親に恋をする。
友人一家や夫婦の関係を描くあたりの展開は、なかなかおもしろい。それは本当なのか、っていう境界が見えず、刺激的である。


物語の演出には、ジェルマンが指摘したような部分も見られ、それもおもしろい。

物語は説明しすぎるな、っていう感じのセリフがあるが、実際クロードやジェルマンの生活も決して説明しすぎていない。
クロードが友人の母に恋をしたのは、彼の不幸な家族関係が影響している点や、ジェルマンがクロードに執着するのは、過去に彼が小説家として挫折したことが原因である点などは仄めかす程度だ。
それがジェルマンの演出理論をなぞっていて、おもしろい。

そしてそこから、彼らの心の機微が見えてくるあたりは良かった。


だがクロードたちが行なっているのは、鍵穴から他人の生活を覗き込むものでしかない。
そこには真実ばかりではなく、観察者の妄想や空想も混じり込んでいる。
それはあくまで語り手の脳内の物語でしかない。

だからだろう。最終的にジェルマンは現実の家庭生活で、失敗することとなる。
それもクロードに執着しすぎて、妻の悩みにちゃんと向き合っていなかったのが大きい。
その皮肉がなかなか苦い。


というわけで、物語としては非常にまとまっている作品と感じた。
ただ映画内の物語と同様、映画も脳内で考えられた物語という感があり、心にぐっと届くまでには至らなかった。そこが残念と言えば残念だろうか。

しかし発想は鮮やかで、手際良く見せてくれる。良質の作品と感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「キャプテン・フィリップス」

2013-12-04 20:18:43 | 映画(か行)

2013年度作品。アメリカ映画。
『ボーン』シリーズのポール・グリーングラス監督が、トム・ハンクスを主演に迎え、09年にソマリア海域で起きた人質事件を基に描く緊迫感あふれるサスペンス。乗組員の代わりに海賊の人質となったベテラン船長と海賊との駆け引き、人質奪還を狙う海軍特殊部隊NAVY SEAL、救出作戦実行チームのスナイパーを巻き込んだドラマが展開。
監督はポール・グリーングラス。
出演はトム・ハンクス、バルカド・アブディら。




「キャプテン・フィリップス」は2時間超の作品ながら、時間以上に短く感じられた。
それだけおもしろく、物語世界に没入できる作品ということなのだろう。
実際いい映画であった。


輸送船の船長であるフィリップスがソマリア沖で海賊に襲撃されるという話である。
マンガや映画と違い、現実の海賊は生活の手段や上からの強要もあり、暴力的な海賊行為に走るらしい。貧困と暴力の相関性が見えるようだ。

それはそれとして少人数とは言え武装した集団の前に、非武装の民間船はどうしようもできない。
放水や航跡でボートを翻弄することでしか対応できないらしい。
怖い話である。あれでは乗っ取られるのも無理もない。


フィリップスは上長だけを機関室に集め、現場の人間を機関室に隠れさせるなど、なかなか臨機応変な対応を取っている。
そして極限状態の中で、スタッフたちの命を助けようと、必死になって交渉している。
船長だからとは言え、大変だよな、とつくづく思ってしまう。
本当に苛酷で、見ているこっちまでつらい。

しかも海賊を船から追い出せても、その後人質に取られるだから、たまったものでない。
船長というのは本当に大変だ。

フィリップスは人質に取られた後、狭い空間で海賊と過ごし、銃を突きつけられている。
精神的にもかなりハードである。

そんな中でも、海軍に座席番号を伝えたり、何とか海へ逃げようとするなど、彼なりに必死に戦おうとしている。家族にも死を覚悟して遺書を書いている。

この極限の状況の中で、彼の心情を慮ると悲しい気持ちになってしまう。


そうして訪れるラストはどこか虚しいものがあった。
正直若い海賊には同情してしまう部分はあるのだが、これは必然なのだろう。

そしてフィリップスも人質に取られ、銃を取られ、すぐそばで海賊が殺される場面にも立ち会っている。普通に考えてPTSDになってもいいレベルの体験だ。

それでも彼はその後、海に戻ったというからすごいと思う。
無茶をするなよ、とも思うが、映画を見る限り、フィリップスは使命感を持って事に臨む人なのかもしれないなと感じる。


ともあれ、苛酷な状況に置かれた船長の姿を思いやりたくなってしまう。
本作はそんな共感と同情心とを呼び起こす映画と言えるのかもしれない。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「かぐや姫の物語」

2013-11-25 20:10:11 | 映画(か行)

2013年度作品。日本映画。
名匠・高畑勲監督が『ホーホケキョとなりの山田くん』以来14年ぶりに手がけたアニメ映画。有名な『竹取物語』を基に、平安時代を舞台にしたかぐや姫の物語が描かれる。
監督は高畑勲。
声の出演は朝倉あき、高良健吾ら。




『かぐや姫の物語』はハイレベルな作品であった。
絵の描写も、その動かし方も、原典を生かした翻案力と構成力も高いレベルにある。
さすがはジブリと思える作品となっていた。



絵は水彩画を思わせるようなタッチで、なかなか魅力的だ。
絵画が動いているような雰囲気があって、それだけでもほれぼれとしてしまう。

それでいて、人物の動きなどもリアリティがあるのが良い。
手の動かし方や、はいはい一つ取っても、丁寧な観察の元、再現されていることがわかって、すごいな、と感心する。

平安貴族の描写にしても、裾を伸ばすところとか歴史的事実に則って丁寧に描いているのがわかり、それはそれで結構おもしろかった。

そこにあるのはリアリズムだろう。


ついでに言うと、声もジブリの俳優声優にありがちな、下手糞なところがなく、リアリズムの雰囲気を損なっていなくて好印象。

特に主演の朝倉あきが良い。
個人的に注目している子ではあったが、声優としても有望だと感じる。
もちろん宮本信子や地井武男もいい味を出している。


そしてそんな風に、リアルな雰囲気が強いせいか、かぐや姫が月に帰るという誰もが知っている超展開がふしぎと浮いて見えるくらいであった。
そういう意味、リアリズムを追求しすぎるのも問題なのかもしれない。



物語は基本的に原典に忠実である。
しかし上手く現代風にアレンジしていてそれもまた興味深い。

原典(と言っても現代語訳)のかぐや姫を読んだのは大昔のことだが、かぐや姫は男に無理難題を言いつけるちょっとお高い感じの女性というイメージがある。
だが映画のかぐや姫は野性児でおてんばな女性だ。
山の中を駈けまわり、土に触れることを楽しんでいる。平安貴族にも関わらず、眉を抜くことも、お歯黒をすることも嫌がっている始末。
その辺りは、『竹取物語』というよりも、『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」に近い。

もちろんかぐや姫である以上、お前の眉は毛虫のようだ、とからかわれることもなく、多くの公達から求婚を受けている。
けれどかぐや姫はそんな状況が嫌であるらしい。
貴族の生活は彼女にとっては、鳥かごのようなものなのだろう。


それは彼女の感受性の強さも関係しているのかもしれない。
原典では男たちを試すようなことをかぐや姫は言う。
むかしからこのときのかぐや姫の冷たさがなじめなかったのだが、映画では、そこにしっかり説得力を持たせている。
また男たちの求婚に対して、おびえを示すところも描かれていて印象深い。
そういった心情は現代的で、リアリティがある。

そしてそんなかぐや姫の個性ゆえに、悩みも苦しみのない月の世界ではなじめなかったのだろう、ということがよく伝わってくるのだ。
この辺りの翻案の仕方は実に上手い。


ラストの月に帰るシーンはすなおに悲しいと思えた。
媼は常にかぐや姫に寄り添っていたし、翁も姫の心を斟酌はしていなかったが、姫のことを大事に思っていたことが伝わるだけに、ラストはただただ悲しく思う。
ビジュアル的には来迎図だけど、見た目と裏腹にあのシーンは残酷だ。

罰として下された地上の世界で、彼女は大切なものを受け取った。
つらいこともあったし、悲しいこともあったし、受け入れがたいこともあったけれど、それを大事に受け止めて生きてきた。
それだけに、誰もが知っているあのラストが心底悲しく映り、深く胸に残る。



正直この作品の制作発表のときは、いまどきかぐや姫かよ、と思ったのだけど、見てみると存外おもしろかったので、ふしぎとうれしい気持ちになる。

引っかかる部分がないわけでもない。
しかし見終わって時間が経っても、胸に残るものがある。

高畑勲の映画の中では、この作品が一番好きかもしれない。そう評価できる作品だった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



PS
どうでもいいが、最後の方のかぐや姫と捨丸の飛行シーンは『千と千尋』のハクと千尋の飛行シーンを思い出させた。
加えてかぐや姫の造形に似てる(と思うんだけど)「虫めづる姫君」はナウシカのモデル。
そう考えると、高畑勲の宮崎駿に対する意識がほの見えるような気がした。
……邪推かな。
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「清州会議」

2013-11-13 20:13:57 | 映画(か行)

2013年度作品。日本映画。
三谷幸喜が17年ぶりに手がけた小説を自らメガホンを握り、映画化。織田信長亡き後、その家臣たちが集まり、後継者問題や領地の配分を決めた、清須会議。日本史上、初めて合議によって歴史が動いたとされる、同会議に参加した人々、それぞれの思惑など、入り乱れる複雑な心情が明らかになる。
監督は三谷幸喜。
出演は役所浩司。大泉洋ら。




思ったよりも普通の映画である。
内容的にも、おもしろさの度合いとしても、普通と述べるほかない。

しかし少なくとも映画を見ている間は、作品を楽しめることができる。
そういう点、幸福な作品とも言えるのだろう。



タイトルの通り、秀吉が天下人となる第一歩を踏み出した清州会議を描いている。
そのため出てくる武将は総じてメジャーどころが多い。

そのせいか、人物の描き方はほぼテンプレ通り。
秀吉は人心掌握の上手い陽性の野心家で、柴田勝家は武骨で不器用な人と、ほとんど巷間に流布されているイメージ通りの造形である。

それが少し残念だけど、楽しめるし、何よりキャラが立っているから文句も言うまい。
そのほかのキャラも総じて個性的で、旗色を決めかねている池田恒興や、生真面目な丹羽長秀など、それぞれの個性は出ている。


物語の展開は史実を知っているので、格別の驚きもない。
しかし三谷幸喜だけあり、飽きることなく見せていくところはさすがである。

そうして物語が進むにつれ、不器用で裏表が見えない勝家と、策士の素質を持ち合わせた秀吉との対比が浮き上がって来ている。それが何よりも良い。



確かに本作には目新しいものもない。三谷幸喜作品にあるようなコメディ要素も少ない。
しかし目の前の素材を適切に料理する三谷幸喜の手腕は充分に堪能できる。
エンタテイメントとして及第点の作品だった。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「クロニクル」

2013-11-01 05:55:48 | 映画(か行)

2011年度作品。アメリカ映画。
特殊な力を身に着けてしまったがために、その力に翻弄されていく3人の高校生の姿を描く、SFサスペンス。
監督:ジョシュ・トランク。
出演:デイン・デハーン、アレックス・ラッセルら。




低予算ながらアメリカでヒットした作品と聞いたが、それも納得のおもしろさである。
よくできたSFアクションと言ってもいいだろう。


物語は謎の穴に入り込んだ高校生三人組が、ひょんなことからテレキネシスを手にするといったところだ。

映像は「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「クローバーフィールド」などのいわゆるモキュメンタリー形式で描かれており、なかなか見せ方がおもしろい。
宙に浮くときのシーンや、カメラを浮遊させて撮るところなど、凝った撮影が為されており、目を引いた。


物語ももちろんおもしろい。

能力を手にしたのが三人の男子高校生ということもあって、彼らは大いにはしゃぎまくる。
スカートめくりや、おもちゃ屋でのいたずらなど、ガキっぽい遊びはいかにも男子らしい。
空を飛んで遊ぶところなど、浮遊感が大変心地よかった。
見ているだけで楽しい気分になれるところが良い。


そんな三人のうち、主人公アンドリューは元々冴えない高校生活を送っていた。
同級生にはからかわれるし、父親からは理不尽な暴力も浴びている。愛する母は病気に苦しむなどそれなりに大変であるらしい。

そんな中でテレキネシスを手に入れ、希望をつかんだかに見えるのだが、結果的に女の子との恋も実らず、父親との関係もひどいままだ。
そうして彼は闇を抱えることになる。

その流れはいくぶんやりすぎじゃないかな、と思ったことは否定しない。
しかしその末に巻き起こるカタストロフィには、すなおに見惚れてしまった。
見ているだけでドキドキできるのがいい。

しかもラストは必然ではあるけれど、あまりに悲しく、その点にもまた感服してしまう。
アンドリューに必要だったのはまちがいなく愛だろう。
もっと彼を愛し、理解してくれる人がいれば、これはまちがいなく防げた悲劇だ。そう思うだけに何ともせつない。


ともあれ、高揚感と男子高校生らしい三人の姿と、最後の切なさが、心に残る一品だ。
個人的には結構好きである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「風立ちぬ」

2013-08-02 19:55:20 | 映画(か行)

2013年度作品。日本映画。
宮崎駿の『崖の上のポニョ』以来5年ぶりとなる新作は、零式艦上戦闘機(零戦)を設計した実在の人物、堀越二郎と、同時代に生きた文学者・堀辰雄を織り交ぜた主人公・二郎の姿を描く大人のラブストーリー。大正から昭和にかけての激動の時代を生きた人々の物語がつづられる。
監督は宮崎駿。
声の出演は庵野秀明、瀧本美織ら。




ネット上では賛否両論あるようだが、僕はおもしろいと思った。

もちろん瑕疵はあるし、最後は唐突感は否めなかったし、宮崎駿が残した往年の傑作には及ばない。
けれど、そんな欠点を補って余りある魅力にあふれた作品でもあるのだ。
特に同じ理系エンジニアの一人として、ぐっと胸に届いた。



主人公は零戦を開発した堀越二郎だ。
この人物は理系の天才肌らしく、なかなか変わっている。

サバの骨を見て、飛行機の骨格について思いをはせるなど、思考は独特だし、物事に熱中すると、周りが見えず話も耳に入らない。
それでいて、正義感も強く、人を助けることにためらいがなかったり、好きと思ったら迷わず唐突と思えるほどすぐに告白するなど、非常にまっすぐな人だ。
何ともすがすがしく、それだけでこの人物が好きになる。


そんな堀越は、自身の好きな飛行機の設計に夢中になって取り組んでいく。
物語の前半は、二郎の開発物語の側面が強い。
わかりやすく言うならプロジェクトXのようなものだ(古いたとえではあるが)。

日本の航空技術は二十年は遅れていて、それに追いつこうと、特に友人の本庄などはやっきになっている。
しかし堀越は、そういうがむしゃらさはなく、ただ純粋に、そういった美しい技術を自分の手で表現できたらと感じているように見えた。
彼にとって、社会的な名誉とか、社会貢献とか、そういったものよりも、好きなものに携わるということの方が重要なのかもしれない。

そうして好きなものに夢中になって取り組む姿は、若者の昂揚感に溢れ、心に響く。
ジャンルと脳の出来は違うけれど、僕も開発エンジニアのはしくれだ。それだけに、共感する面は多かった。



そんな堀越は休暇先のホテルで、むかし救った女性、菜穂子と出会い、恋に落ちる。
この恋愛パートはなかなかまっすぐだ。

菜穂子は結核という死の病にかかっている。そのためにサナトリウムで療養するのだけど、死期が近いと悟ったのか、二郎の元に駈けつける。
ベタちゃあベタだけど、思いがまっすぐなだけに麗しい。

そうして二人は結婚し、仕事で忙しいながらも一緒の時間を過ごすすることとなる。
初夜のシーンなんかは、見ていて微笑ましい気分にもなれた。
仕事で頑張る夫を見守る妻の姿には、作り手の趣味が見える気もする。けれど、これはこれで結構美しい関係だ。
そのようにして菜穂子はきれいな部分だけを見せた後、死を悟り、サナトリウムに帰る。その中に彼女なりの覚悟と愛を見た気がする。



そういうわけで基本的には満足なのだが、ラストが幾分駆け足になっていて、そこだけが少し不満だ。
零戦が完成してから終戦まで一気に飛ぶし、菜穂子の死も暗示程度にとどまる。そのためか最後の、生きて、というセリフもどこか浮いて見えたのがちょっと残念。

けれど、全体的にすがすがしく、思いのまっすぐさが表れていて、印象的だ。

「風立ちぬ」はこれまでの宮崎駿作品と違うし、作家のパーソナルな部分が出てると思う。
そこに不満を持つ人もいるかもしれないが、これはこれで評価されるに足るすばらしい作品だと感じた次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「きっと、うまくいく」

2013-07-16 20:01:14 | 映画(か行)

2009年度作品。インド映画。
インドで製作された、真の友情や幸せな生き方や競争社会への風刺を描いたヒューマン・ストーリー。入学したインドのエリート大学で友人たちと青春を謳歌(おうか)していた主人公が突然姿を消した謎と理由を、10年という年月を交錯させながら解き明かしていく。主演は、ボリウッド映画の大スターであるアーミル・カーン。『ラ・ワン』のカリーナー・カプールがヒロインを務める。抱腹絶倒のユーモアとストレートな感動を味わうことができる。
監督はラジクマール・ヒラニ。
出演はアーミル・カーン、カリーナー・カプールら。




インド映画を見るのはたぶん初めてと思うのだが、いい映画は国籍を問わないのだな、とつくづくと感じる。

全体的に明と暗のバランスはとれており、最後は明るい気分で映画館を出ることができる。
そして三時間近い長尺にも関わらず、長さを感じることなく、映画の世界に没頭できた。


物語は大学で出会った三人の男たちの話だ。
どこの国でもそうらしいが、男は集まるとアホになるらしい。
学長に対する仕返しやいたずらなどはドタバタ劇の雰囲気があってなかなか楽しい。

インド映画らしい、突然の歌やダンスもその楽しさをいい感じで助長している。
つっこみどころのたくさんある作品だが、それを含めて愉快な作品だった。


しかしそんな陽気さの中で、多少の重たさも入り混じる。
インドはエンジニア信仰が強いらしく、親は子どもをエンジニアにさせたがるようだ。
しかしそれは子どもにとっては抑圧になる。

実際この映画での主人公たちも、親や外部からの抑圧をある程度受けている。
それに学科をクリアするのは厳しく、そういったことのために自殺する奴らもいる。
トータルで見れば明るい作品だけど、多くの現実がそうであるように、決して明るいことばかり起こるわけではない。


だけど三人はときに友だちのために行動し、前向きに生きている。
個人的には自殺未遂した友人を回復させるために、いろいろな嘘をつくところが好きだ。
ちょっと笑えるし、少し感動もできる。

そしてそのエピソードのような、ちょっとの笑いと感動が、映画全編を貫いて忘れがたい。
映画のパワーを感じさせるような作品だった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「華麗なるギャツビー」

2013-06-19 20:21:48 | 映画(か行)

2013年度作品。アメリカ映画。
F・スコット・フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」を『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマン監督が、レオナルド・ディカプリオを主演に迎え、独自の解釈で映画化したラブストーリー。ある日突然、人々の前に現れたミステリアスな大富豪ギャツビーの知られざる過去と、上流階級の女性との禁じられた愛が描かれる。
監督はバズ・ラーマン。
出演はレオナルド・ディカプリオ、トビー・マグワイアら。




フィッツジェラルドの原作、『グレート・ギャツビー』を読んだのは、十代のころだ。
おかげで物語をいい感じで忘れていたが、結構おもしろい話だったのだな、とこうやって映画化された作品を見ると思う。


内容を端的に語るならば、昔の女を引きずり続ける男の話ということになる。
女の恋は「上書き保存」、男の恋は「名前をつけて保存」とはよく言うけれど、まさにそんな感じだ。

ギャツビーは後ろ暗い手段も使い、富を手にした野心ある男だ。そして夜な夜な派手にパーティを開き、世間の耳目を集めている。
しかしそのように富を得ながら、心の中には一人の女性がいるらしいことが見えてくる。
そもそもそんな派手なパーティを開いているのも、むかし別れた女、デイジーのためらしいのだ。

その執念にはほとほと感心してしまう。
デイジーは人妻で、子持ちなのにそんなのは関係ないらしい。
実際五年も前に終わった恋なのに、彼の情熱に変化はない。
むかしのラヴレターをスクラップブックにして後生大事に持っているし、大事な仕事の電話も、女のために後回しにしている。
見ていて軽く引く面もなくはない。

しかしそんなギャツビーにもかわいいところはあるのだ。
特にいとしいデイジーと久しぶりに再会する場面は良かった。
あれほど成功した男なのに、肝心なところでびびり、隠れてしまうところには笑った。
うぶか?と叫びたくなるけれど、そのヘタレっぷりにはにやにやさせられる。


だがそんな風に思いつめ、手段を尽くしているからと言って、必ずしも女の心をつかめるとは限らない。
それは、彼の執着心があまりに激しいゆえに、女に多くのものを求めてしまうからだろう。
女はギャツビーの表情の変化にびびって心が離れるが、それはある意味、男の執着心に気づき恐怖を覚えたからかもしれない。
そうしてギャツビーの恋は、悲劇的な結末を迎えるに至る。

ギャツビーの最期はあまりにせつない。
あれほど生前はちやほやされていたのに、最期を見送っている人はほとんどいない。
愛する女には保身のため見捨てられ、彼のパーティに来ていた男女は、葬式に顔すら見せようとしない。

ギャツビーはその生前の行ないがそうであったように、虚飾で覆われていたのだろう。
そしてそのメッキがはがれたとき、残ったものは、ほとんどなかったということらしい。

彼が全力で待ち焦がれた愛ですら残らなかった。
そう考えると、実にさびしい話だ。
そしてそのさびしさが、しんと胸の中に響いてくるのがすてきである。


ストーリー以外にも映像美も良かったし、現代の歌をジャズっぽくアレンジしていたりと、いろいろ遊び心にあふれていて、見応えも聴き応えもあった。
個人的には好きな作品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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