比叡山の麓に隠棲する白樫家で殺人事件が起きた。被害者は一族の若嫁・晃佳。犯人は生首をピアノの上に飾り、一族の証である指環を持ち去っていた。京都の出版社に勤める如月烏有の同僚・安城則定が所持する同じデザインの指輪との関係は?容疑者全員に分単位の緻密なアリバイが存在する傑作ミステリー。
出版社:講談社ノベルス
おもしろいか、おもしろくないか、で言ったならばおもしろい。
しかし人に薦めるか否かで言ったならば、薦めない。
本書の感想はそれだけで尽きるような気がする。
エンタテイメントとしては楽しいのだが、どうにもツッコミどころが多くて、萎えてしまうのだ。
萎えてしまうのは、設定の一語に尽きる。
もちろんこの手の作品はそういう点を気にしてもいけないけれど、殺人の動機のむちゃくちゃなところと、創り物っぽさが如実に出過ぎているのが、厄介だ。
こんなへんてこな宗教に、いくらカリスマがいたからと言ってついてくるだろうか、とか、死を救済と見なす論理を、信者だからと言って受け入れるだろうか、つうかカルトって言っておけば納得すると思うなよと疑問に思うのだ。
おかげでどうしても引いてみてしまう面があった。
それと晃佳殺しの推理で、あれほどパズル性を前面に出していたのに、真相がそれかよ、と思ってしまったのも、引いてしまった要因かもしれない。
しかし困ったことに、それなりにおもしろいのである。
真相はハチャメチャ。パズル性だって結局ないのに、不思議なけん引力でぐいぐいと読ませてしまう。
これはもはや作者の才能なのだろう。
何より、各章にときどき登場する、一見無関係な人たちの断片が、最後まで読み終えた後で、意味を持ってくるあたりは、ぞくりと来てしまった。
計算された小説である。
確かに、人に薦めるにはためらってしまう。
しかし読んでいる間、僕はこの小説を楽しんで読むことができた。
それだけで僕はもう十分に満足なのである。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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