私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「マップ・トゥ・ザ・スターズ」

2015-02-12 21:05:48 | 映画(ま行)

2014年度作品。カナダ=アメリカ=ドイツ=フランス映画。
鬼才デイヴィッド・クローネンバーグ監督が、ハリウッドでリムジンの運転手だった脚本家の実体験を基に、ハリウッドのセレブファミリーの実情を暴くヒューマンドラマ。
監督はデイヴィッド・クローネンバーグ。
出演はジュリアン・ムーア、ミア・ワシコウスカら。




ハリウッドの裏側を描いた作品である。
ストーリー展開を見ると、幾分納得いかない部分はあるけれど、この業界の暗部をのぞきこむことができて、興味深かった。


この映画は最初、3つの人物を中心に語られる。

一つはジュリアン・ムーア演じる女優ハバナの話、
もうひとつはハリウッドに興味を持っているらしいミラ・ワシコウスカ演じるアガサの話、
そして子役俳優ベンジーの話だ。


ハバナは役を得るためになりふりかまわず行動し、虐待された母を克服することができず苦しんでいる。
性にも倒錯した部分があり、見ていても病んでいる感は全開だ。

子役のベンジーもまだ幼いのにドラッグに手を出したり、売れているからと天狗になったりと見ていて、なかなか不愉快にさせられる。
まだ幼いのに、性の雰囲気もぷんぷん漂っていて、未成年にこれはまずいんじゃないの、と心から思ってしまう。

多少のデフォルメはあるかもしれないが、ずいぶん病んだ世界だよな、と見ていて感じる。

映画の中で、ハバナもベンジーも、共に幻覚を見ているような描写がある。
それはどこか超自然的な予感もあるのだが、そこにもこの世界の闇を見るような思いだ。

そしてアガサが登場することにより、ハバナとベンジーは(たぶん)期せず破滅を迎えることとなる。


正直な話、近親相姦的な部分や、耽美性を感じさせるラストは、いまひとつピンとこなかった。
ハバナに対する最後の行動には驚いたが、そこから何かが広がるという雰囲気もなかったのはちょっと残念だ。
それにアガサとベンジーの両親の最期も、あまりに唐突すぎて、納得がいかない。
そういったラストの半端さのために、やや引いてしまった面は事実だ。

しかしハリウッドの闇をじっくり描き上げており、その辺りは心に残った次第である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「もうひとりの息子」

2014-01-30 20:17:47 | 映画(ま行)

2012年度作品。フランス映画。
イスラエル人家族とヨルダン西岸地区パレスチナ人家族の取り違え子という題材を、感動的な家族の物語として描くヒューマンドラマ。
監督はロレーヌ・レヴィ。
出演はエマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベら。




新生児の取り違えに端を発する映画である。
そういう意味、「そして父になる」と同じテーマと言えよう。

だがこちらは外国映画らしい内容で、また違った味わいがあった。
それは新生児の取り違えが、民族問題と関わってくるという点にある。


舞台はイスラエルである。
イスラエル軍将校の息子ヨセフは兵役検査を受けるのだが、その過程でそれまで親と思っていた夫婦が、実の親ではないと知る。実の親は、壁の向こうのパレスチナにいたのだ。
そういう流れである。

新生児の取り違えがそのままパレスチナ問題と絡み合っていて、興味を引かれる。

ヨセフは、それまで自分をユダヤ人だと思ってきたのに、実は敵のパレスチナ人だったとわかるわけだ。
ユダヤ教は民族宗教なだけに、特に血統を重視する。
彼としてはそれまで育ってきた環境から否定されたようなものなのだ。
当人としてはかなりショックだろう。

また親の方も、事実を受け入れるのは大変だ。
たとえば二人の息子の父親などは、母親と違って、息子が実子でないという事実を受け入れるのに、時間はかかっている。
状況が状況なだけに、何もかも一筋縄ではいかない。


一方パレスチナ人に育てられた息子ヤシンも、ヨセフと事情は同じである。
ヤシンの家の場合、兄が特にパレスチナ問題に関心が深いため、弟がユダヤ人と知り、露骨に弟を嫌悪するようになる。
これもやられる方はたまったものじゃない。

ただヤシンの方は、フランスで過ごした期間が長いおかげか、民族問題に対して客観的に見ることができているのだ。
彼としては、ヨセフ同様、民族というアイデンティティを奪われた状態でもある。
しかしグローバルな視点をもっているため、そんな厄介な状況に追い込まれた自分を、あるがまま受け入れている。
その姿は微笑ましい。


そしてそんなヤシンの態度がこの映画の一つの答えでもあるのだろう。

それぞれの家族は、それまで、本当は血がつながっていなかった息子を、自分たちの子供と思い育ててきた。
その記憶こそが実のところ大事なのだと思う。

そこにあるのは、民族とか、宗教とか、そういった付属物で見ない、あるがままの人間性を見つめ、築き上げた関係なのだ。
そしてその関係と記憶がある限り、二人も家族も上手くやっていけるのかもしれない。

そんな予感が麗しく、しんと胸に響く一作であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「もらとりあむタマ子」

2013-12-21 21:43:57 | 映画(ま行)

2013年度作品。日本映画。
前田敦子が『苦役列車』の山下敦弘監督と再びタッグを組んだヒューマンコメディ。音楽チャンネル、MUSIC ON!TVの季節毎のステーションIDから短編ドラマを経て長編劇場作として製作された異色作。ボサボサ頭にジャージ姿で家の中で一日中、何もせず、無意味な毎日を過ごすヒロインを演じた前田敦子の新境地ともいえる一作だ。
監督は山下敦弘。
出演は前田敦子、康すおんら。




仮にもトップアイドルだった前田敦子の、アイドルとは思えないぐうたらっぷりが非常に印象に残る映画である。



前田敦子演じるタマ子は大学を出た後、就職活動もせず、実家にこもり、寝て起きてテレビを見て、ゲームをしている女性である。
映画のチラシにはニートというより引きこもり、とあったが確かにそんな感じだ。

彼女の生活は実にひどい。

ごろごろ寝ている姿は実にだらしないし、食べ方は汚く、口からはみ出しながらロールキャベツを食べるところなど、見ていて苦笑いがこぼれる。
マンガを読んでいるときの表情は弛緩しきっていて、うわ、ブサイクだと素直に思えた。

これは本当にすばらしいことである。
そこには引きこもり女の素の姿があるのだ。それが見ていて非常におもしろかった。


そんなタマ子に対して父も文句は言うが、タマ子は迷わず引きこもりを続けている。
父も早く働いてほしいようだが、あきらめたのか、見て見ぬふりを始末だ。

そんな父と娘の微妙な距離感もおもしろかった。
タマ子は適度に父のことを遠ざけ、憎まれ口をききながらも、父の生活能力に依存しているし、決して父のことを嫌っているわけでもない。
父に再婚話が起こり、やきもきするあたりはその雰囲気が現れている。
その姿がちょっと好ましい。


映画はタマ子の一年を描いているが、年がめぐってようやくタマ子の日常も動き出したところで終わる。
それを見ていて思ったのだが、たぶんこの子は何かしらの外圧がなければまったく動けない子なのかもしれないな、と感じた。

ある意味、彼女は未熟なのだ。そういう意味、モラトリアム期間と呼ぶにふさわしい。
そして同時に、それがどうしようもないくらいにはタマ子らしいとも感じられる。

そんなどうにもダメダメなタマ子の姿がおもしろく、じわじわと胸に沁みる一品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「真夏の方程式」

2013-07-07 21:05:43 | 映画(ま行)

2013年度作品。日本映画。
福山雅治演じる天才物理学者・湯川学の活躍を描く、東野圭吾原作の人気シリーズの5年ぶりとなる劇場版。“手つかずの海”と呼ばれる美しい海・玻璃ヶ浦で起きる連続殺人事件の謎と、旅館で出会った少年との交流が描かれる。テレビシリーズに続き、吉高由里子がオリジナルキャラクターの女性刑事に扮し、湯川と共に事件解決に挑む。
監督は西谷弘。
出演は福山雅治、吉高由里子ら。




「ガリレオ」は熱心に見てなかったが、その程度の人でも楽しめる内容だった。
たぶん、ドラマや前作の映画を見ていなくてもついていけないことはないだろう。しかも内容自体も優れている。
娯楽作品として、申し分ない作品であった。


タイトルがタイトルだけに、本作には夏らしいガジェットに満ちている。

海はとにかく美しくきれいだし、杏の小麦色メイクはまた別の意味で美しい。そして夏物語らしく、少年も登場する。
細かなところで夏のイメージがちりばめられていたのが、個人的には印象的だ。

ストーリー自体も楽しめる。ミステリらしく、物語には謎があり、そこにはどのような真相がかくされているのだろう、と見ていてドキドキさせられた。
見ている間は、なかなか楽しい。


とは言え、物語の真相自体は決して明るいものとは言えまい。

結論だけ言うなら、これはそれぞれが愛する家族を守ろうとして起きた悲劇だろう。
それだけに見ていて痛ましい気持ちになってしまう。
もちろん父娘の思いが交錯する場面は感動したし、胸にぐっとくる。
だが、それでもやはりこれは悲しい話だと思う。

だが本作で一番かわいそうなのは、ほかならぬ少年の恭平なのだろう。
小生意気なところもあるが、湯川を慕うところや、ペットボトルロケットを飛ばすところなどは、少年らしく無垢だ。
しかしそんな彼も大人の都合で翻弄されてしまう。
彼が無自覚だっただけに痛ましさは増すばかりだ。

だけどあの少年は彼なりに上手くやっていけるのだろう。そんな気がする。
それもこれも、湯川との交流によるところが大きい。特に何かをしたわけではないが、彼は考えるすべを学んだ。きっとそれは大きな糧になるのだろう。


そういう意味、これはかつて(あるいは現在)、罪を背負った少女(少年)が大人の助けを借りて、何とか前へ踏み出す物語なのかもしれない。
そんな風に思えて、しんと胸に響いた次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ムーンライズ・キングダム」

2013-02-16 08:19:07 | 映画(ま行)

2012年度作品。アメリカ映画。
1965年、ニューイングランド沖にある小さな島で、12歳のサムはボーイスカウトのキャンプから脱走する。1年前、島の教会でサムは同い歳のスージーと出会い、恋に落ちた。それからずっと駆け落ちの計画を練っていたのだ。落ち合った2人は、手つかずの自然が残る入り江を目指す。一方、2人がいなくなった事に気づいた大人たちは大慌て。ボーイスカウトの隊長ウォード、警官シャープ、そしてスージーの両親は、2人を追いかけるが…。
監督はウェス・アンダーソン。
出演はブルース・ウィリス、エドワード・ノートンら。




この映画のチラシによると、本作は「スウィート」「ファニー」「キュート」といった賛辞が後をたたないとのことであるらしい。
実際、僕も本作を見た後は、かわいらしく、愉快で、甘ったるい映画だな、と感じた。

それゆえのもどかしさのようなものはあるのだけど、たぶんそのもどかしさも含めて、「ムーンライズ・キングダム」という作品の魅力でもあるのだと感じる。


物語は60年代のとある島が舞台である。その地に住む少女のスージーは、ボーイスカウトの少年サムと一緒に駆け落ちをする。

その島での映像はなかなか雰囲気が良い。

特にサムとスージーの逃避行での映像が魅力的だ。
さながら「スタンド・バイ・ミー」のような冒険譚の雰囲気があるのがいい。
枯れ草の草原とか、山の中を流れる川の映像や、岩に登ったりするところなんかはノスタルジックな気持ちにさせてくれる。
60年代というレトロな雰囲気も、その空気を加速させているようにも感じた。

こういった雰囲気は嫌いではない。
見ているだけで、心地よい気分になる作品である。


物語の方もなかなか楽しめる。

スージーは家族の中で孤立しているように感じているし、サムは孤児ということで、里親とは上手く交流できず、問題も起こしがちだ。

その結果、惹かれあっていく二人が関係が見ていておもしろい。
それが見るからに子どもの恋である分、甘酸っぱさも感じてしまう。

二人がキスするところや、ピアスの穴を開けるところ、おっぱいに触れるところ、海に飛び込むところなどはなかなか印象的。

もちろん子どもの恋である分、壊れることはわかっている。
だがその後のボーイスカウト仲間の行動など、二転三転してそれなりに楽しい。


正直雷が落ちてからはバタバタしすぎだな、とは感じたのだけど、おとぎ話のような味わいが残る点が良かった。
物語の空気が印象的で、心地よくもある。
すてきなフェアリーテイル、と感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「もうひとりのシェイクスピア」

2013-01-08 20:49:30 | 映画(ま行)

2011年度作品。イギリス=ドイツ映画。
16世紀のイングランド。エリザベス一世統治下のロンドン。宰相として権力を振るい、王位継承者にスコットランド王ジェームスを据えようと企むウィリアム・セシル卿は芝居を忌み嫌い、それが民衆にもたらす力を恐れて弾圧する。それを目の当たりにしたオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアは、セシルの陰謀に反抗するように、自作の戯曲を劇作家のジョンソンに託し匿名で上演させる。芝居は喝采で民衆に迎えられるが…。
監督はローランド・エメリッヒ。
出演はリス・エヴァンス、ヴァネッサ・レッドグレイヴら。




シェイクスピア別人説を元に、組み立てられた物語だ。
その仮説について詳しくはないけれど、歴史物が好きな人間としては楽しめる一品となっていた。


本作では、オックスワード伯エドワードが、シェイクスピア作品の本当の書き手として当てられている。

彼が貴族の身でありながら、戯曲を描くのはそれが好きということもあるが、戯曲を通して民衆の世論を誘導しようという意図があるらしい。
その権力闘争的なストーリーがなかなかおもしろい。

加えて、エリザベス女王との恋愛物語や、同業の戯曲家の嫉妬など、ほかにも見所も多く、楽しめる内容となっている。


個人的には、登場人物のキャラがそこそこ立っているところが楽しめた。

青年時のエドワードは気品溢れていてかっこいい。顔だけでなく、たたずまいもイケメンだ。
若いころのエリザベスも奥に激しいものを持ってそうで印象深い。隠し子の真相は作り過ぎじゃないかとも思ったけど、あのキャラならありえるのかもしれないなんて思ったりする。
セシルの息子もどんよりしたところがいい。

そんな中で特に良かったのはシェイクスピアだろう。
この映画のシェイクスピアは、調子良くて姑息で野心的である。
はっきり言って好きになれないタイプだが、ああいう人が名を上げるのだろうな、なんて思ったりする。


強く売り出せるものに乏しいので、興行的には地味かもしれない。
だが、滋味深い作品であると感じた次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「メン・イン・ブラック3」

2012-06-03 20:22:50 | 映画(ま行)

2012年度作品。アメリカ映画。
月面のルナマックス銀河系刑務所から、凶悪S犯のアニマル・ボリスが脱獄し、地球に逃亡した。超極秘機関“MIB”のエージェント“J”と“K”は、ボリスが関係する犯罪の捜査を始める。しかしある日、出勤した“J”は、相棒の“K”が40年前に死んでいると聞く。どうやら、ボリスは40年前に自分を逮捕した“K”を恨み、過去に遡って“K”を殺してしまったらしいのだ。“J”は40年前にタイムスリップし、若き日の“K”とボリスの阻止に乗り出す。
監督はバリー・ソネンフェルド。
出演はウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズら。




「メン・イン・ブラック」シリーズは、1も2も鑑賞済みだ。
ファンと言うほど映画にのめりこまなかったが、つまらなかったイメージはない。
だがストーリーを覚えているか、と聞かれると、正直微妙。大雑把に覚えていても、細かい部分は覚えちゃいない。
そんな感じである。

そして大半の人は、僕に限らず、概ねそんなところではないだろうか。

「メン・イン・ブラック3」は、そんなゆるい観客でも、充分楽しめる作品に仕上がっている。
これぞ、ハリウッド映画のシリーズものの美点だろう。


今回の最大の敵ボリスは、典型的な悪役である。
多少グロくて、スケールも小さめだが、冒頭の脱獄からしてわかりやすくヒール。
勧善懲悪のシンプルな内容に、見合った敵だ。
おかげで、良くも悪くも深く考えずに鑑賞できる。


ではストーリーはそれに見合ったテンプレ内容か、と言ったら、そうとも言い切れない。
少なくとも本作はオチに向けて、丁寧に物語を組み立てており、印象は悪くない。

Kが感情をめったに現さない理由、Jの父親に関するさりげないエピソードなど。
物語の端々には、丹念に伏線が張られていことに見終わった後に気づかされる。
よくつくり込まれた作品ではないだろうか。

もちろん先述した通り、僕は前作の内容を結構忘れているので(特にKがJを仲間に引き込む流れを)、ラストの展開は、あれで矛盾はないのか、わからない。
だが、この映画単品で評価するなら、これは一本取られたな、とすなおに感心できた。


絶賛するほどすばらしいわけではないが、少なくとも楽しめるし、物語にも感心させられる。
ハリウッドらしい娯楽作品と思った次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ミッドナイト・イン・パリ」

2012-05-31 22:30:47 | 映画(ま行)

2011年度作品。スペイン=アメリカ映画。
映画脚本家のギルは、婚約者イネズの父親の出張に便乗して憧れのパリにやってきた。脚本家として成功していたギルだが虚しさを感じ、現在は本格的な作家を目指して作品を執筆中だ。そんなギルの前にイネズの男友達ポールが出現。心中穏やかでないギルだが、真夜中のパリの町を歩いているうち、1920年代にタイムトリップしてしまう。そこはヘミングウェイ、ピカソ、ダリなど、ギルの憧れの芸術家たちが活躍する時代だった。
監督はウディ・アレン。
出演はキャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディら。




楽しい映画だ。
コメディタッチということもあって、小さな笑いがいくつかあるし、それらを含めて皮肉が適度に利いている。
メッセージ性も含蓄に富んでいてなかなかおもしろい。
ウディ・アレンの熱心なファンでもないけれど、彼らしい作品なのかな、と見ていて感じた。


映画は真夜中のパリを一人歩いている男が、誘われるまま車に乗り込むと、なぜか憧れだった1920年代のパリにタイムスリップしているというものだ。

タイムスリップの設定はきわめてシンプルだ。
毎夜同じ時間に来る自動車に乗れば、いつの間にかタイプスリップしてました、ということであるらしい。
設定がゆるいな、と僕は見ていてつっこんでしまったけれど、どう見てもやっぱりその設定は適当だ。

しかしそれを違和感なく受け入れられるから、ふしぎなものである。
そこはベテラン監督の演出の妙と言えるのかもしれない。


登場する人物には有名人が多い。
ピカソやヘミングウェイなど多くの人が知っている人物も登場する。
しかもそれらの人物が、イメージ通りなのも良い。
ゼルダ・フィッツジェラルドは酒飲みのメンヘラだし、ヘミングウェイは作風同様、いかにもマッチョ、ダリはあのヒゲの写真のイメージ通り、ちょっと陽気でエキセントリックだ。

そういった有名人を次々と持ち出して見せられると、それだけでワクワクしてしまう。


笑いどころもあって、印象としては良い。
個人的には浮気相手(っていうほどまだ踏み込んでもないが)にピアスを持っていこうとする辺りが、いかにもドタバタ喜劇風で楽しかった。
似非インテリをやり込めるシーンも、ちょっとおもしろい。

基本的に、意地悪な笑いが多いけれど、その皮肉の塩梅が僕は好きだ。


ほかにも本作は、ディテールも凝っているし、全体の雰囲気も良いし、ストーリーも練られていて優れているし、で、何かと美点が目立つ作品になっている。
ノスタルジーに陥りやすい風潮を否定している点もおもしろい。

欠点の少ない、基本的には満足そのものの一品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「マリリン 7日間の恋」

2012-03-29 21:08:42 | 映画(ま行)

1956年、新作映画『王子と踊り子』の撮影のために、マリリン・モンローがイギリスにやってきた。監督&共演は名優ローレンス・オリヴィエ。撮影が始まるが、精神が不安定なマリリンはたびたび遅刻し、オリヴィエらの反感を買う。孤立するマリリンが現場で心を許すのは、この映画の第3助監督コリンだけだった。上流階級の子弟で映画界に飛び込んできたばかりの23歳の青年コリンを、マリリンは何かと指名するようになり、やがて…。マリリン 7日間の恋 - goo 映画
監督はサイモン・カーティス。
出演はミシェル・ウィリアムズ、ケネス・ブラナーら。




マリリン・モンローの映画は見たこともなく、世間で知られている以上に、彼女のことを知っているわけではない。
だから印象としてはまったく白紙の状態だったのだが、この映画を見る限り、彼女に対して次のような思いを強く抱いてしまう。

マリリン・モンローという女優は相当めんどくさい人だったんだな、と。


実際、マリリンは映画を撮っても遅刻を常習的にくり返すし、演技はすぐにとちってしまうし、自信喪失しやすく、一旦自信を失うと部屋に閉じこもってしまう。
私生活では、夫の愛を思いこみから激しく疑ってしまうし、それでいて若い男を翻弄する小悪魔的な顔も持っているから、困ってしまう。

加えておかしな取り巻きがいるせいで、物事がややこしくなってしまう。
彼女の演技指導を自認する女性は、映画監督を差し置き意見を出すから性質が悪い。

そんなマリリン・モンローを見ていると、パーソナリティ障害なんじゃないか、なんて心配もしてしまう(実際Wikiを見たらそうだった)。
ともあれ、めんどくさい人だ。ふり回される周囲の人間も大変だよな、と同情を禁じえない。


しかしそうは言ってもマリリン・モンローは街を歩けば、人が寄ってくるほどの大スターだ。
映画の中の人たちが言うには、どうやらオーラが違うらしい。
完成した『王子と踊り子』のシーンを見る限り、僕にはそこまでのものは感じなかったけれど、たぶん実際そうだったのだろう。

確かに『王子と踊り子』以外の場面で、マリリンのすごさを感じる部分はいくつも見られる。

記者や一般人に対する、コケティッシュにしてウィットに富んだ対応などはいい例だ。
それに若いサード助監督を翻弄するところもその思いを強くする。
ともかく行動はあまりに大胆なのである。あれをやられると、若い男なんてイチコロだ。


マリリン・モンローは、確かに問題児である。
けれど、同時に彼女は輝かしいまでの天然小悪魔であるようなのだ。

ストーリー的にははっきり言って、さほどとは思わない。
だけど、そんなマリリン・モンローのキャラクターが、ミシェル・ウィリアムズの演技も相まって、強い印象を残す一品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ミシェル・ウィリアムズ出演作
 「アイム・ノット・ゼア」
 「シャッター・アイランド」
 「脳内ニューヨーク」
 「ブロークバック・マウンテン」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

2012-03-22 21:19:26 | 映画(ま行)

夫デニスを亡くして8年、ようやく始めた遺品整理の手を止めてマーガレットは遙か昔を振り返る。勤勉で雄弁な父を尊敬して育った小さな雑貨商の娘は、オックスフォード大学に進学し、政治家を目指す。初めての下院議員選に落選し落ち込んでいた時に、プロポーズしてくれたのがデニス・サッチャーだった。専業主婦にはならないと宣言して男女の双子をもうけた後、ついに当選して国会議事堂に乗り込むのだった。マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 - goo 映画
監督は「マンマ・ミーア!」のフィリダ・ロイド。
出演はメリル・ストリープ、ジム・ブロードベントら。




ヨーロッパ最初の女性首相であり、多大な足跡を残した、イギリス首相マーガレット・サッチャーを描いた映画である。

そういった彼女の歴史的事業を知る上では参考になる映画であった。
しかし物語としては、盛り上がりに欠ける作品と感じる。


映画は、政界引退後、痴呆傾向を見せ始めたサッチャーが、過去のことをフラッシュバック的にふり返るという形式になっている。
そのスタイル自体はかまわないのだが、いささか踏み込みが足りない。

サッチャーの歴史的役割については簡単に表層を触れる程度だし、家族との関係についても描き方としては弱い。
最後に幻覚の夫に対して幸せだったのか、と問いかけるシーンがあるが、そういう場面を見せたいのだったら、もう少し多めに夫との関係を描けばいいのにな、とも感じる。
プロポーズの場面は良かったけれど、家庭での場面や、政治家として働いていたときの夫の側の視点にもっと時間を割いてほしかったな、と個人的には思う。

それゆえ、つまらないわけではないが、少しもどかしい。


しかしサッチャーの生き方を知ることができた、という点では良かった。
サッチャーが首相だったとき、僕はまだ子供で、どのような功績を残したのかちゃんとは知らなかったけれど、この映画を見て、大体の流れ自体は理解できた。

彼女の政治信条は現代で言うところの、ネオリベだということを、恥ずかしながら初めて知った。
急速な国営企業の民営化、労働組合との対立、IRAによるテロへの強硬姿勢、フォークランド紛争時の姿勢などはまさにそうだ。
それに対する僕個人の賛否はともかく、そういった彼女の態度が、経済の好調、冷戦の終結に対する役割などの結果を残しているのだろうな、と教えられる。
知らない部分もあったので、なかなか勉強になる。


また良かったという点では、メリル・ストリープの演技もすばらしかった。
最初の牛乳を買いに行くシーンは、本当におばあちゃんにしか見えない。さすがである。


存命の著名な人物を描くには、生存者が多い分、どうしてもドラマツルギー的に弱くなるのかもしれない。
けどその人物が何をしたか知る上で、こういったタイプの映画もまた必要なのかもしれない。
見終わった後に、そう思った次第である。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・メリル・ストリープ出演作
 「大いなる陰謀」
 「クレイマー、クレイマー」
 「ダウト ~あるカトリック学校で~」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

2012-02-24 23:13:33 | 映画(ま行)

2011年度作品。アメリカ映画。
9.11同時多発テロで最愛の父トーマスを亡くした少年オスカー。その死に納得できないまま一年が経ったある日、父のクローゼットで見覚えのない一本の鍵を見つけると、その鍵で開けるべき鍵穴を探す計画を立てる。かつて父と楽しんだ“調査探索ゲーム”のように。悲しみで抜け殻のようになった母に失望したオスカーは、父が遺したはずのメッセージを求めて、祖母のアパートに間借りする老人を道連れに旅に出る。ものすごくうるさくて、ありえないほど近い - goo 映画
監督は「リトル・ダンサー」のスティーヴン・ダルドリー。
出演はトム・ハンクス、サンドラ・ブロックら。




誰もが知っている大きな悲劇を、フィクションの中に取り込むのは結構難しい。
さじ加減をまちがえれば、お涙ちょうだいに利用しただけに終わってしまうし、被害者の気持ちを逆撫ですることにもなりかねないからだ。

本作は、911という誰もが知っている悲劇を題材にしている。
そのため上記のような不安も抱いたのだけど、結果的には杞憂に終わった。

それは本作が、大事な人を亡くしたという事実を受け入れること、亡くした相手が残したものを受け止めていくこと、その普遍的な2点を丁寧に描いた作品と感じたからである。
別サイトや映画関係の雑誌を見る限り、合わない人もいるようだが、個人的には好みの作品であった。


主人公のオスカーは、愛する父を911で亡くしてしまう。
それが原因で、混乱の真っ只中にいるような状態だ。

とは言え、元々オスカーは心に若干問題を抱えた少年でもある。
否定はされているが、アスペルガー症候群っぽい部分はあるし(実際やたら理屈っぽく、数字にもこだわる)、加えてパニック障害に近いハンディも背負っている。
そんなオスカーのオリジナリティが、彼の混乱に拍車をかけているようにも見える。

それもあり、オスカーは大好きだった自分の父親の死をきちんと受け入れることができていない。
ときにその悲しみを、自分でも受け止めきれず、母をなじったり、パニックに陥ったり、わめいたりする。

オスカーの混乱は見ていても、つらく、胸をしめつけられる。
トーマス・ホーンが、そんな少年を上手に演じているだけに、よけい強く胸に迫ってきた。


オスカーは、父の死後、父親が残した鍵の持ち主を探そうと、行動するようになる。
そうすることでしか、彼は父親の死を受け止めきれないのだろう、と見ていて感じた。
言うなれば、これは少年の通過儀礼だ。

その過程で、オスカーは多くの人の声を聞くことになる。そして謎の老人とも一緒に行動するようになる。
そしてこの世には、多くの個人がいて、それぞれの悲しみを持っていることを知り、老人の助けもあり、自分の苦手なものと次々と直面する方法を学んでいく。
やや駈け足だけど、まさに通過儀礼にふさわしい展開である。

そうして人とふれあい、何度もパニックになるうちに、オスカーは自分の罪悪感と向き合い、それを人に話そうという気分になっていく。


オスカーと母親との、最後の会話のシーンは感動的だった。
というよりも、母親の行動力と、じっと見守る姿勢に心を打たれる。
彼女は息子の行動を、必死にガマンして見守り、あからさまに過剰な干渉をするでもなく、オスカー自身気づいていくよう仕向けていく。
これを母の愛と言わずに、何と言おう。すばらしいまでのカタルシスに胸が震えてしまう。

また父親の愛情もラストシーンには感じられ、それもまた胸を打つ。
オスカーは本当にすばらしい両親に育てられたのだ、と知らされ、また胸が熱くなる。実にすばらしい

この映画は、親子の愛、少年の成長、愛する者の死を受け入れること、といくつもテーマが盛り込まれてる。
そういった多くのテーマを一つにまとめ上げ、感動的な作品に仕上げたことに、心から感嘆とする。
人それぞれの好みはあろうが、僕はこの作品が好きだ。そう断言したい。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・スティーヴン・ダルドリー監督作
 「愛を読むひと」
・トム・ハンクス出演作
 「ダ・ヴィンチ・コード」
 「天使と悪魔」
 「トイ・ストーリー3」
・サンドラ・ブロック出演作
 「クラッシュ」
 「しあわせの隠れ場所」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」

2011-12-20 20:46:19 | 映画(ま行)

IMFエージェントのイーサン・ハントは、ロシアのクレムリンに潜入し、コバルトという男の情報を取り戻すというミッションに参加する。しかし、彼らの潜入中に何者がクレムリンを爆破してしまう。IMFの犯行とみなすロシアとの関係悪化を恐れ、米国は“ゴースト・プロトコル”を発動し、IMFの機能を停止させた。しかし、コバルトが核戦争の勃発を計画している事に気付いたイーサンは、チームの4人だけでコバルトを追うのだった…。(ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル - goo 映画より)
監督は「Mr.インクレディブル」のブラッド・バード。
出演はトム・クルーズ、ジェレミー・レナー ら。




「ミッション・インポッシブル」シリーズは、アクションシーンにキレがある。
そしてそれは第4弾の本作でも変わっていない。

冒頭のビルから落下しながら銃撃するシーンといい、ビルをよじ登るシーンといい、ラストの駐車場のシーンといい、どれも見応え抜群で、満足そのものであった。
ハラハラドキドキでき、とにもかくにもおもしろいのがいい。

個人的には、砂嵐のシーンが一番良かった。
砂嵐の中、ときに相手を見失いながらも、追いかける場面は臨場感抜群。車をぶつけるシーンなんか緊迫感がある。


またイーサン・ハントらが使う道具の数々も、見ているだけでワクワクしてしまう。
人間の目の動きに合わせて画像を投影する道具とか、カメラ機能のついたコンタクト、実は秘密基地になっている貨物列車など、「スパイ大作戦」のころからの持ち味を生かしていてなかなか楽しい。

しかしそれにつながるけれど、本作にはiPhoneを駆使する場面が多く出てくる。
それらに類する機械は、二十年くらいまでは、本当に空想の中の代物だった。
だけどいつしか時代は追いついてしまい、当たり前のように、ハイテク品のひとつとして使われている。
そう考えながら見ていると、妙に感慨深い気持ちになってしまう。僕も年を取った証拠だろうか。


ストーリーは部分的にわかりにくい面もあるけれど、内容が理解できないというわけでもなく、単純に楽しむことができる。

トータル的に見て、エンタテイメントとして、高いレベルにある作品と思った次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・トム・クルーズ出演作
 「M:I:III」
 「大いなる陰謀」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「マネーボール」

2011-11-23 20:44:21 | 映画(ま行)

2011年度作品。アメリカ映画。
メジャーリーグの野球選手だったビリー・ビーンは、引退後オークランド・アスレチックスのゼネラル・マネージャーとなる。しかし、財政が苦しいアスレチックスでは、せっかく育てた有望選手を、強豪球団に引き抜かれるという事態が続いていた。チームの立て直しを図るビリーは、統計データを使って選手の将来的価値を予測するという「マネーボール理論」を導入。イェール大卒のピーター・ブランドと共に、チームの改革を進めていく。(マネーボール - goo 映画より)
監督は「カポーティ」のベネット・ミラー。
出演はブラッド・ピット、ジョナ・ヒル ら。




現実と理屈はちがうんだよ、という話はよく聞く。
それは従来のやり方に対し、論理的な手法を持ち出す場合にはよく聞かれる言葉だ。
特に、主観的かつ、右脳的に物事を対処しがちな分野だと、理屈に対する反発は強い。
そのためか物語でそういう場面が描かれる場合、現実的な対処をする方が正解である、って感じの描き方が多いような気がする。

もちろん現実的な対処法と、理論を用いた対処法のどちらがいい、というわけでもない。
大事なのは互いを取り入れる度量であり、取り入れた後のバランスにあるからだ。

しかし物事がマンネリズムに陥り、閉塞感にあふれるようになったなら、それを打破する必要はあるわけで、そういうときこそ、理屈的な方法論の出番となるのかもしれない。
以上どうでもいい話。


本作の主人公ビリーはアスレチックスのGMで、理論を元に野球チームの改革を行なおうとする。
具体的にはプレイ内容を数値化し、算出した数字を元に、選手を起用しようという考えだ。

当然スカウトたちからは反発を食うし、監督もGMの言うことを聞かない。彼らには、積み上げてきたものがあり、彼らなりのプライドがあるからだ。
そのため最初は彼の考えが機能せず、物事はまずい方向に進むばかり。
だが歯車がかみ合い出してからは、チームは良い方向へと進み始める。


しかし上手くいったからいいようなものだけど、基本的に彼の戦いは孤独だな、と思う。
もちろんアドバイザーはいるけど、基本的にシビアに物事とぶつからねばいけない仕事で、結構大変そうだ。
結果を出さないと周囲から叩かれ、選手をクビにするなどイヤな役目もこなさなければいけない。

それでも彼ががんばり続けるのは、チームの勝利を求めているからにほかならない。
他者とぶつかってでも、自分が正しいと考える、勝利の方法を推進しようとする。


しかし彼の努力は必ずしも報われるわけでもないのだ。
方法論は優れていても、金もちのチームにはどうしても負けてしまう。それはむごいことだけど、現実では往々にしてあることだ。
その物語的でない展開が新鮮で、見ていて僕は感心した。

極端におもしろいというほどではないけれど、丁寧に描いていて、テンプレを適度に外していて、何かと考えさせる内容になっている。
なかなか印象的な作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・ベネット・ミラー監督作
 「カポーティ」
・ブラッド・ピット出演作
 「イングロリアス・バスターズ」
 「オーシャンズ13」
 「ツリー・オブ・ライフ」
 「バベル」
 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
 「Mr.&Mrs.スミス」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「未来を生きる君たちへ」

2011-09-27 20:31:00 | 映画(ま行)

2010年度作品。デンマーク=スウェーデン映画。
医師のアントンは、赴任先のアフリカで言いようのない暴力の被害者に心を痛めていた。一方、母を亡くしたばかりのクリスチャンは、学校でイジメを受けているエリアスと出会う。エリアスはアントンの息子で、今は母と弟と暮らしているが、別居している父アントンを慕っていた。学校でエリアスをいじめていた少年をクリスチャンは殴り倒す。暴力に暴力で仕返しをする事の無意味を説くアントンだが、クリスチャンは納得がいかない…。(未来を生きる君たちへ - goo 映画より)
監督は「アフター・ウェディング」のスサンネ・ビア。
出演はミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム ら。




この映画では、報復の連鎖、が一つの重要なテーマとして描かれている。
本作の前半では、そのテーマがくり返し表現されている場面が多い。

たとえば、主人公の息子たちはいじめにあっているのだが、それをやめさせるため、いじめられっ子は刃物を使っていじめっ子を痛めつけている(いじめられる側の少年二人の危うい関係がおもしろい)。
また主人公の医師は、街で乱暴な男にからまれ、ぶん殴られるのだが、それに対して、やり返そうよ、と息子たちは執拗に主張もしている。
また主人公が赴任するアフリカで、妊婦の腹を切り裂く犯罪者集団がいるのだが、そのボスに対して、主人公は残酷な行動を取る。

そこにあるのは、痛めつけられたらやり返せ、というきわめてシンプルな真理である。


もちろん、復讐はさらなる復讐を呼ぶだけでしかない。
だが人間の心はそんな正論で、収まりがつくわけでもないのだ。

暴力をふるうヤツは愚かだと、余裕ぶってみても、自分の尊厳や大事な人が奪われれば、腹立たしく思うことは否定できない。殺してやりたいと思うことだってあるのだろう。
たとえ、それがアフガン戦争並の泥沼になろうとも、人間は感情の生き物でしかないのだ。

痛めつけられたとき人はどうすればいいのだろう、という問題に明確な答えはない。
それだけに、この映画を見ていると、どうすればいいのだろう、とこちらも深く考えこまずにはいられなくなる。
そういう点、本作はすばらしい映画と言える。


さて、それではその答えの片鱗でも、この映画には示されているかと言うと、そうでもない。
一応、少年たちへの接し方が、一つの答えのようにも見えるが、それは決して一般化できる問題ではない。
なぜなら少年が、傷つけてきた相手に復讐めいた行動をするのは、自分の壊れた家庭に対して、怒りを持っているからだ。復讐は一つの代償行為でしかない。

それゆえに、物語的にはちょっと収まりが悪く感じて、もどかしい。
報復の連鎖という一つのテーマに貫かれているように見えて、最後は家族の問題という小さな問題に帰結してしまっているからだ。


だけど好意的に解釈すると、次のような見方もできなくはない。
それは、親子が互いの愛情を真にわかりあうように伝えれば、報復しよう、復讐しよう、という陰惨な感情も、少しは減ってくれるのかもしれない、ということである。
ベタでこっ恥ずかしい言い方をするならば、世界を潤すのは愛というわけだ。そして世界をより良くするのも(英語タイトルは「In a Better World」だ)、愛なのかもしれない。

ともあれ、いろいろ考えさせられる映画である。ちょっともどかしいが、個人的には結構好きな作品だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「モールス」

2011-08-11 20:28:02 | 映画(ま行)

2010年度作品。アメリカ映画。
1983年の冬。12歳の少年オーウェンが暮らす団地の隣室に謎めいた少女が父親と越してくる。学校では陰湿な苛めにあい、家では精神的に不安定な母親との息苦しい生活に孤独感を強めていたオーウェンは、アビーと名乗る少女と夜の中庭で言葉を交わすのが楽しみになる。やがて、壁越しにモールス信号を送り合うようになり、アビーはオーウェンに苛められたらやり返せと励ます。同じ頃、町では連続猟奇殺人事件が起きていた。(モールス - goo 映画より)
監督は「クローバーフィールド」のマット・リーヴス。
出演はコディ・スミット=マクフィー、クロエ・グレース・モレッツ ら。




本作は、スウェーデン映画、「ぼくのエリ 200歳の少女」のハリウッド・リメイク版である。
この作品を見ようと思った理由として、オリジナルがそこそこおもしろかったということがある。
だがそれ以上にヒロインをクロエ・グレース・モレッツが演じていると聞いて、興味を持ったのが大きい。
彼女は「キック・アス」の少女で、その映画での人を殺しまくるキャラが、鮮烈なイメージとして残ってたからだ。


だがこの映画で、僕がもっとも目を引いたのは、ヒロインの方ではなく、主人公の少年を演じるコディ・スミット=マクフィーだった。後で調べたら、「ザ・ロード」の少年役とのことらしい。
こっちはまったく注目していなかっただけに、ヒロイン以上に強く心に残った。

彼が演じるのは、友人にいじめられる気弱な少年である。
映画の中で彼は、静かにおびえ、静かに戸惑っており、非常に繊細で、雰囲気がいい。何となく「パラノイドパーク」を思い出した。まったく根拠はないけれど。

もちろん、少女役のクロエ・グレース・モレッツも良い。
そしてこの二人の少年少女のたたずまいが、この映画のトーンを決定付けていたと思う。


ストーリー自体は、展開もラストもオリジナルと同じで、驚きはほとんどない。
目を引くところはホラー要素で、さすがにハリウッドだけあって、演出は洗練されており、淡々とした不気味さが出ていたと思う。

だがこの映画で注目すべき点は、そんなホラー描写やプロットよりも、少年と少女の淡い恋にある。
オーウェンは気弱な少年だが、ヴァンパイアであるアビーを大事に思っている。それは少年の表情や行動を見ていると、細やかに伝わってきて、雰囲気がいい。
部屋に入ってきたアビーが血を流した後、オーウェンが抱きしめるシーンなんか、個人的に好きだ。
彼の表情からいろんな感情が伝わってきて、二人の淡い恋がしんしんと胸に響く。もっともその結果訪れたラストはハッピーエンドではなく、新しい悲劇の始まりだろう、と思うけれど。


ともあれ、ホラーと恋愛の要素をうまく交わっており、繊細な物語に仕上がっている。
オリジナルも好きだが、こちらのハリウッド版も雰囲気があって、悪くないと思った次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・マット・リーヴス監督作
 「クローバーフィールド/HAKAISHA」
・コディ・スミット=マクフィー出演作
 「ザ・ロード」
・クロエ・グレース・モレッツ出演作
 「キック・アス」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする