私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「アメリカン・スナイパー」

2015-04-24 22:49:41 | 映画(あ行)
 
2014年度作品。アメリカ映画。
アメリカ軍史上最強の狙撃手と言われた故クリス・カイルの自伝を、ブラッドリー・クーパーを主演に迎え、クリント・イーストウッド監督が映画化した人間ドラマ。過酷な戦場での実情や、故郷に残してきた家族への思いなど、ひとりの兵士の姿を通して、現代のアメリカが直面する問題を浮き彫りにする。
監督はクリント・イーストウッド。
出演はブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラーら。




タイトルに「アメリカン」とついているからかもしれないが、アメリカの問題点がにじみ出たような映画だった。
具体的に言うと、正義の押し付けというべき、アメリカの起こした戦争と、それに伴う兵士たちのPTSDの問題である。
その描写が何かと考えさせられる一品だ。


舞台は2003年より始まったイラク戦争だ。
日本人の僕は、アメリカの側にも、イラクの側にもつかない中立的な立場にいる。
だから本作で描かれるイラク戦争は、アメリカの視点に依っているとは言え、双方が愚かしく、まちがっていると感じた。

とは言え、イラクの側には幾分同情せざるをえないというのが本音である。

クリスをはじめとしたアメリカ兵士たちは、イラク人を殺害するとき、何かと言うと、そうしなければ海兵隊がもっと多く死んでいた、と言っては自分の行為を正当化する。
だけども、イラク人の住まう領域に侵攻していったのだから、命を狙われるのは当然だろう、と僕としては思ってしまうのだ。
それだけに彼らの正義に鼻白む気持ちは強い。

本作はその手のアメリカの価値観が存分に出ている。もう臆面もないくらいだ。
それだけに、本作は実のところ、イラク人を無残に殺すことで、婉曲的にアメリカのやり方を皮肉っているのでは、という気分にもなってくるほどだった。


そんなイラク戦争で、クリスはスナイパーとしてたくさんの戦功をあげていく。

だが子供や女を射殺し、戦場で命の危険にさらされていくことで、精神的に苦しんでいることはまちがいない。
クリスは何回かアメリカに帰国してはいるのだけど、平和なアメリカにあっても、物音に敏感になる描写が散見される。
彼はつまり、かなり早い段階から、PTSDの症状を発していたということだろう。
加えて、身重の妻を残して戦場に行くことで、家族の仲もぎくしゃくしてしまっているのだ。

戦争の罪は、戦場での死傷ばかりにあるのではない。
戦争にかかわる人々の、予後の生活にも影響を与えることもまた、戦争の罪の一つだろう。
本作は、そのような事実を伝えていて、痛ましく感じる。


そんな彼だからこそ、帰還兵のケアに当たることになる。
だがそれが原因で、病んだ帰還兵に殺されてしまうのだから、皮肉としか言いようがない。
しかも殺された方法が、彼の得意武器である銃というからやるせない。
主眼は戦争の映画だけど、銃もまた、アメリカの病理の一つなのだな、と、「アメリカン」の名のつく映画なだけに、つくづくと考えてしまう。

そんな社会的な病理と、それに苦しむ個人の姿が印象的である。
イーストウッドらしい骨太な作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「イン・ザ・ヒーロー」

2015-03-26 21:06:19 | 映画(あ行)
 
2014年度作品。日本映画。
特撮ヒーローものやアクション映画になくてはならない存在“スーツアクター”。普段はスポットの当たらない彼らの生き様に迫る、唐沢寿明主演の人間ドラマ。
監督は武正晴。
出演は唐沢寿明、福士蒼汰ら。




スーツアクターの物語だ。
ストーリーラインは王道的でわかりやすいし、主人公は小気味よく、見ていてすがすがしい。
明るい気分になれる良作である。


主人公の本城は正義感にあふれた、実にまっすぐな男だ。
不正は黙って見過ごせず、曲がったことにはちゃんと注意する。武士道の書物を読みこんでいるだけはある。

近くにいたらたぶん鬱陶しいのだけど、この熱さは結構好きだ。
彼が演じるヒーロー同様、本城の人生のあり方自体も英雄的なところがある。それが良い。


そんな彼は、若手俳優一ノ瀬リョウの教育係になる。
彼は見るからに生意気そうな男で、否応なく本城と衝突しがちだ。

しかしリョウも、決してねじくれた男ではなく、幼い弟妹の面倒を見ているし、まっすぐな夢も持っている。
根っこは本城と同じく熱いのかもしれない。
そうして二人が信頼関係が築いていく過程はベタだけど、いいものである。


とは言え、主人公自体はスーツアクターとしてはともかく、俳優としては売れていない。
そんな中、ハリウッド映画のスタントのオファーがやってくる。
それは危険な仕事だが、自分の夢や、若手俳優のことも考えて、仕事を引き受ける。

そこからクライマックスのアクションシーンまでの展開は徹底的に男らしかった。
本当にヒーローらしい男と言ってもいいだろう。

そんな主人公のまっすぐな生き様が心に響く一品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「悪夢のエレベーター」

2015-02-11 21:04:38 | 映画(あ行)

2009年度作品。日本映画。
木下半太の同名ベストセラー小説を映画化したコメディ。それぞれ事情を抱えた4人の男女がエレベーターという密室に閉じ込められてしまったことから起きる騒動を描く痛快作。
監督は堀部圭亮。
出演は内野聖陽、佐津川愛美ら。




プロットの組み立てが見事な作品だった。
矛盾はあるけれど、その巧妙さだけでも一見の価値はある作品だと思う。


浮気調査のため、その男を騙すため、探偵たちは演技をする。という話だ。
正直、男の本音を聞き出すためにしては、手が込み過ぎていると思うが、そこはつっこむまい。
だが展開としては穏やかなものに収まるはずだったろう。
しかし対象者が死んでしまうことで、物事の歯車が狂ってしまう。

その展開の悲惨さは最高であった。
後味は悪いのに、目を離せない。心は持って行かれたのだ。

そうして最悪の状況にまで陥った探偵たちだが、最後の最後で、思いもよらないどんでん返しが待っている。それはまさに驚愕の一語に尽きるばかりだった。
伏線の張り方も丁寧で、最後はハッとさせられる。それだけでも十分にすごい。


もちろん先述したように、細かく見ればつっこみどころもある。
しかしサプライズある展開を組み立てたのは良い。
充分合格点に達する、監督第一作である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「悪童日記」

2015-01-22 20:27:16 | 映画(あ行)

2013年度作品。ドイツ=ハンガリー映画。
ハンガリー出身の作家アゴタ・クリストフによるベストセラー小説を映画化した人間ドラマ。第2次世界大戦下、農園を営む意地悪な祖母の元へ疎開した双子の兄弟が体験する出来事を彼らの目を通して描き出す。
監督はヤーノシュ・サース。
出演はアンドラーシュ・ジェーマント、ラースロー・ジェーマントら。




原作が好きなので見に行ったが、原作に忠実につくられているように感じた。
一言でまとめるならば、苛酷な世界を生きる少年たちの叙事詩といったところだろうか。

映像になった分、原作で感じた双子の一体感はあまり感じなかったが、全編に漂う静謐さは小説世界と近似していて、目を引く作品である。


舞台は1944年の国境近い村だ。
双子の少年たちは祖母の家に疎開し、母親とも別れることとなる。祖母は子どもたちを平気で虐待するような女で、孫であっても特に愛情を表したりはしない。
それは大層冷たい環境である。

そういうこともあってか、少年たちは痛みに耐える訓練や、空腹に耐える訓練に励むなど、自分たちに無茶な課題を課していく。
その様は見ていても痛ましい。


少年たちは本来的には普通の子どもたちだ。
たとえば自分たちに優しさを示したユダヤ人の靴屋のために怒りを表すし、盲目の母を持つ少女のことを許し、友人にもなっている。

だが時代が時代なせいか、苛酷な部分もある。
牧師を恐喝するような真似だってするし、ユダヤ人を告発した女性に復讐めいたこともする。

本来の彼らは優しい。
でも厳しい世界に合わせ、自分たちを適応させているのだ。
本当に痛ましいことだ。

だけどその過程で、苛酷な祖母と奇妙なつながりが生まれていく点はおもしろい移ろいと言えよう。


さて本作も原作同様、ラストが少しおそろしかった。
二人が離れ離れになるために、そこまでするのか、という風にも感じて、ぞくりとする。
だがこれが二人の少年たちなりの選択なのかもしれない。

その残酷な選択が、映像が静かな分、よけいに深い余韻を残す一品だった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



原作の感想
 アゴタ・クリストフ『悪童日記』
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「インターステラー」

2014-12-01 21:23:48 | 映画(あ行)

2014年度作品。アメリカ映画。
クリストファー・ノーラン監督によるSFドラマ。環境の変化などの影響で食糧危機に陥り、滅亡の危機を迎えた人類が新たな星を目指す姿がつづられる。
監督はクリストファー・ノーラン。
出演はマシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイら。




よくできた、かなりレベルの高いSF映画だ。
3時間近くというかなり長い作品なのだが、ほとんどだれることもなく物語は進んでいく。
おかげでその長丁場を映画に没入することができた。

ノーラン作品の中では、個人的に好みの作品である。



ノーラン作品の特長は何かと問われれば、上手く語れないし、人それぞれだとは思う。
だが僕は静かに緊迫感を煽りたてていくことに、彼の作品の良さがあると思うのだ。

たとえば、近未来が舞台であることを徐々に明かしていくところ、巨大な津波が襲ってくるぞ、っていう瞬間の溜め、氷の星の脱出関連のエピソードなどは、じりじりと緊張感を掻き立ており、非常にすばらしい。
これは音楽や音響の使い方もあるけど、ぐいと画面に引き寄せられた。


またストーリー展開もすばらしい。
特に最初の幽霊の話が、後半でつながってくる辺りはすばらしく、見ていてドキドキした。

最後の方はやり過ぎだよな、と個人的には思うのだけど、観衆が望んでいる通りの展開だし、これも良しとすべきか。

またSFとしても、細かな設定がすばらしく、理系の僕には非常におもしろい。
こういうこだわり方って結構好きだ。


ともあれ、トータルとしては満足そのもの一品だ。
長大な割に後に残るものは意外と少ないのだけど、SF映画としてレベルの高い作品、と思う次第である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「思い出のマーニー」

2014-08-19 21:25:12 | 映画(あ行)

2014年度作品。日本映画。
イギリス人作家、ジョーン・G・ロビンソンによる児童文学を、スタジオジブリが舞台を北海道に移してアニメ映画化したファンタジー。海辺の村に住む夫婦に預けられた少女・杏奈と、不思議な雰囲気を持つ同い年の少女マーニーとの交流が描かれる。
監督は米林宏昌。
出演は高月彩良、有村架純ら。




さすがはスタジオジブリだけあり、美術に関しては天下一品だ。

遠浅の海や瀟洒な家といった風景はもちろん、オールの使い方などの人間や物の動きも非常に美しい。
そのすばらしさに、すっと物語の世界に入っていける。そいつが大層心地よい。


ストーリーもなかなか楽しめる。

主人公は杏奈という孤児の少女だ。その出自もあってか、育ての親の心情をすなおに信じ切れず、他人に対しても、どこか壁をつくっていて、人と話すときもストレスを感じている。
基本的にはネガティヴな子だろう。

その少女が廃墟と思われる屋敷で、謎の少女マーニーと出会う。
彼女と交流するにつれ、彼女は周囲に対しても少しずつ心を開いていくようになる。
そういう話だ。
ある意味、癒しの物語である。


彼女が癒される上で、マーニーの存在は大きい。
杏奈はマーニーに心を開くことで、他人への心の開き方を学べたのではないかとも思う。

またマーニーには大きな謎があり、そこからは愛情の系譜ともいうべきものが感じられて、しんと胸に響いてならない。


今のところ、公開数週経過しているが、スタジオジブリということを考えると、興行的には成功しているとは言いがたい。
実際ストーリーは地味だから、それも納得ではある。

だがだからと言って、本作は決して駄作ではない。むしろ良質の作品ですらあるのだ。
そう静かに訴えていきたい。そう思える作品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



原作の感想
 ジョーン・G・ロビンソン『思い出のマーニー』
コメント (2)
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「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」

2014-07-23 20:43:21 | 映画(あ行)

2013年度作品。アメリカ=フランス映画。
第66回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた、コーエン兄弟による人間ドラマ。ボブ・ディランが憧れたという、60年代の伝説のフォークシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録を元に、トラブル続きの日常から逃げ出すように猫と共に旅に出た男の1週間の物語がつづられる。
監督はジョエル・コーエン、イーサン・コーエン。
出演はオスカー・アイザック、キャリー・マリガンら。




コーエン兄弟と言えば、「ファーゴ」や「ノーカントリー」辺りが代表作なわけで、僕もその手の作品の方が好きだ。
だが、本作はそういう系統とは違う。
正直言うと、予告編を見た段階では合わないように感じていた。

だがそれでも、コーエン兄弟最新作、しかもカンヌのグランプリと聞いては否応なく期待が高まるというもの。というわけで悩んだ末に見に行ってみた。

結果的には最初の直感はあっていたらしい。
ストーリーのない映画は嫌いではないのだが、この作品の雰囲気には入れなかったきらいがある。
結局主人公にも、主人公を取り巻く状況にも、心惹かれなかったのが大きいのだろう。

ただし映画の雰囲気自体は印象深い作品でもあった。


主人公のルーウィンはダメ人間であろう。

友人の家を転々としているし、その短気な性格で泊めてもらっている相手にケンカをふっかけることもある。
歌手のステージでは悪態をついたりと、そのほかにもダメなヤツだなと思う場面はあった。
自分の子どもを産んだ女にも結局会いにいかなかったし、ぶっ倒れた老人を救いもせず、猫も見捨てている。

それでいて冷たい人間ではなく、若干の後ろめたい表情も見せている。
よくも悪くも平凡な男なのだろう。
こういう男っていそうである。


そんな彼にはあまり幸運とは言いがたい状況ばかり訪れる。
そしてユリシーズ(オデュッセウス)のように放浪を続ける羽目になるのだ。

その状況をオフビート感たっぷりに描き続けている。
僕はダメだったが、この雰囲気にはまりさえすれば、この映画を楽しめるに違いない。

またフォークソングは雰囲気があり、なかなか良かった。


ともあれ音楽映画らしさと、独特の雰囲気は印象深い。
僕の趣味ではないが、こういった映画もありなのだろう、と思った次第である。

評価:★★(満点は★★★★★)
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「オール・ユー・ニード・イズ・キル」

2014-07-11 20:05:13 | 映画(あ行)

2014年度作品。アメリカ映画。
桜坂洋のライトノベルをトム・クルーズ主演で映画化したSFアクション。近未来の地球を舞台に、謎の侵略者との戦闘に挑んでは戦死するという不条理な世界に囚われ、同じ出来事を永遠に繰り返す男が同じ境遇にいる女性兵士と出会い、現状を打破しようと奮闘する姿が描かれる。
監督はダグ・リーマン。
出演はトム・クルーズ、エミリー・ブラントら。




タイムループものである。
宇宙生命体との戦争で命を落とした兵士が、死ぬたびに何度も人生をやり直す、そういった内容だ。

タイムループ自体は、やりつくされたテーマだ。けれども、決して飽きさせず見せる辺りはすごい、と思う。
それはこの映画のゲームっぽさも関係しているのかもしれない。


実際主人公のケイジは、何度も死ぬうちに戦闘技術も上がっていく。そしてリタという女兵士と知り合い、タイムループから抜け出す方法の真相に迫ることとなる。
言うなればその設定はゲームのリセットと同じなのだ。

何度も最初からやり直すが、経験値は増えており、どのように行動すればいいのかもわかり、次々と難題をクリアすることができる。
まさにゲームである。


ただ何度も死ぬというのも、かなりきつい状況だなと見ていて感じた。
僕なら精神的におかしくなってしまうと思う。
だがケイジは何度も死に、人生をやり直していく。

とは言え、希望の見えないまま何度も死に続けることに、虚しさや無力感を覚えることもある。
実際ケイジは人生をやり直すたびに、リタの死を都度目にするし、まったく状況を変えられず、落ち込むこともある。
それはかなり絶望的な話だろう。


それでも何とかめげずに、危機を潜り抜け、謎に向かって一気に迫っていく。
そういった敵を追いつめる過程は、エンタテイメントとしてすばらしい。

エンタメ面に触れるならば、もちろん戦闘シーンもすばらしく、展開もたたみかけるようにスピーディだ。
プロット面を含め、多くの点で目を引く。

これぞまさに一級の娯楽映画、そう思う次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「アデル、ブルーは熱い色」

2014-06-20 20:26:00 | 映画(あ行)

2013年度作品。フランス映画。
青い髪の画家エマと、彼女と出会い、一途な愛を貫く女性アデルとの激しい性愛描写が話題となり、第66回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝いたフランス発のラブストーリー。
監督はアブデラティフ・ケシシュ。
出演はレア・セドゥ、アデルエグザルコプロスら。




レズビアン同士の恋愛を描いたR18にふさわしい映画。
シンプルにこの映画をまとめるなら、そういうことになるだろう。

しかし内容自体は、オーソドックスな恋愛映画というのが率直な印象だ。
さすがに長すぎるが、普遍的である分、なかなかおもしろい作品だと思う次第である。


主人公のアデルは普通の少女である。
十代の少女らしく、女同士で集まれば恋バナもするし、食事のシーンや(ちょっと汚らしい)、寝ているシーン(口あけてだらしない)を見ている限り、いかにも生身の飾らない少女という印象を受ける。
そして気になる男が目の前にいたら、身なりを気にしたりもするし、普通に男ともセックスをする。

しかし道で出会った女エマに彼女は心惹かれることとなる。
そこだけがやや一般的な少女と違うところだ。


だが普通の少女である以上、そこで描かれるアデルとエマの恋愛は、男女の恋愛と変わりない。
相手を思うときの感情も、嫉妬も、ほかの女に取られるのではないかという不安も、相手が裏切ったときの怒りも、男女の恋愛と大差はない。
そしてそれがこわれていく過程も、女同士であれ男女の恋愛と差はないのだ。
それを丁寧に描いていて好印象である。

丁寧と言えば、性描写も、恋愛ものである以上、避けずに生々しく描いている。
正直セックスシーンは長すぎだろ、と思ったが、作り手と俳優の意欲を見る気がした。


パルムドールにふさわしい作品かはわからない。
だが普遍的な恋愛を描いており、その様が心に沁みる一品であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「アナと雪の女王」

2014-06-05 20:22:05 | 映画(あ行)

2013年度作品。アメリカ映画。
アンデルセン童話の「雪の女王」をモチーフに、触れるものを凍らせる力を持った姉エルサと、彼女を救おうとする妹アナとの愛を描いたファンタジーアニメ。
監督はクリス・バック、ジェニファー・リー。




大ヒット上映中の「アナと雪の女王」である。
だからたぶんここまでのブームにならなければ見に行くことはなかっただろう。
しかしながら内容自体はなかなか見ごたえがあって、それなりに楽しむことができた。
個人的には満足の作品である。


この作品のよさの一つに展開の早さがあると思う。
特に前半部はあれよあれよという間に話が進んで飽きさせない。
それゆえの雑さはもちろんあるのだが、それも一つの愛嬌かもしれない。

主人公の女性2人も、昔のディズニーのようにか弱い女性ではなく、今風の女性にアレンジされている。
特にアナは、男に助けられるばかりではなく、自分からも男を助けたり、能動的に動いたりと元気いっぱいだ。

そういうキャラクターだからこそ、アナは男ではなく、愛する姉のために行動する。
このキャラクター造形は決して嫌いではなく、すなおに感動できたのは魅力的だ。


だがそういったストーリーやキャラクター以上に良いのが、歌なのである。

この映画が流行ったのは、「Let It Go」のおかげと思っているが、その歌をはじめ、どの曲も聴き応えがあって満足もの。
ミュージカルとして、これは重要なことだ。

日本語版の「Let It Go」を歌う、松たか子はもちろんすばらしい。
またアナ演じる神田沙也加もなかなか良かった。
デビューしたての頃は興味もなかったが、思った以上にいい歌手だったらしい。声優としても上手く、意外に好印象だ。


雪の映像の美しさなど、そのほかにも目を引くポイントは多い。
雑っぽい部分はあるし、期待値を上げ過ぎて見に行ったため物足りないと感じる面もある。
だがトータル的に楽しい作品に仕上がっていると感じる次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「WOOD JOB! 神去なあなあ日常」

2014-05-18 20:44:36 | 映画(あ行)

2014年度作品。日本映画。
『ロボジー』の矢口史靖監督が、三浦しをんのベストセラー小説を映画化した青春コメディ。
監督は矢口史靖。
出演は染谷将太、長澤まさみら。




悪い作品ではない。コメディらしい笑いに満ちた矢口史靖らしい作品である。
笑いのセンスやストーリーの運び方が、僕の好みと違っていたが、楽しめる人には楽しめる作品になっていると感じた。


主人公は典型的な都会の若者である。それが一次産業の泥臭い林業の世界に踏み込むというストーリーだ。

題材はともかく、出足そのものはオーソドックスだ。
林業は手間のかかるし、大変な世界だな、と思うけれど、それは見ているとよく伝わる。
危険もありそうだし、大変だ。
そんなハードな世界を、笑いに包みこんで描いているところは矢口作品らしい。


ストーリーも基本的にはオーソドックスな話だと思うが、楽しませようという意図は感じる展開となっている。

合う合わないはあるが、笑いも映画館では起きていたし、多くの人には受ける作品だろう。
そういう意味でいい作品と感じた次第だ。

評価:★★(満点は★★★★★)
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「ある過去の行方」

2014-05-11 20:47:08 | 映画(あ行)

2013年度作品。フランス=イタリア=イラン映画。
協議離婚のため4年ぶりに自宅へ戻った男と元妻、その恋人、子供たちが織り成すサスペンス・ドラマ。
監督はアスガー・ファルハディ。
出演はベレニス・ベジョ、タハール・ラヒムら。




「彼女が消えた浜辺」「別離」といったこれまでのアスガー・ファルハディ作品同様、人間関係の機微を丁寧に描いた佳品となっている。

最後は少しだれたが、前半から中盤などは食い入るように見ることができた。
静かに心ゆさぶる一作である。


この映画で描かれる人間関係はなかなか複雑だ。
最初の空港のシーンだって、二人の男女がどのような関係か、すぐはわからない。
ファルハディはそれを少しずつ薄皮を剥ぐように明らかにしていく。この見せ方はすてきだ。

そうして見えてくる状況は、なかなか一筋縄でいかない関係である。

冒頭の男アーマドは、アンヌ=マリーの元夫だが、彼女の子供たちは誰一人として、アーマドの子供ではない。
のみならず、彼女の家には恋人とその連れ子がいるという始末。
何かこれだけでも面倒くさいのに、さらに別の複雑な問題まで現れてくる。

長女のリュシーはプチ家出状態で、最初それは母の再婚相手が気に食わないからと見られていたのに、もっと根深い問題が隠れていることが判明するからだ。
なかなか厄介な家庭としか言いようがない。


それらの諸問題はすべて彼らの過去に由来するとも言えるだろう。
それに対してアンヌ=マリーは苦しみ、ときに感情的になって反発する。

彼女はそんな中、今を生きることを決断する。
元夫に対する愛情は持っているらしいが、それも含めて、過去を清算しようとしている。
ずいぶん前向きな選択と言えるだろう。

だがそこに幸せがあるかはわからない。


ラストの展開や、新恋人サミールの元妻に対する感情を考えても、この先に待っているのは、新たな厄介事なのだろう。
そんな結論の出しようのない展開もあり、もどかしさを感じた面はある。
しかしこの先も物語が広がっていくという予感が感じられ、小さな家庭の話でありながら、枠の大きさも感じられる作品と思った。

ともあれ、物語世界に対して、見終わった後も思いを致すことのできる作品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「アメイジング・スパイダーマン2」

2014-04-29 21:04:52 | 映画(あ行)

2014年度作品。アメリカ映画。
『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督が、アンドリュー・ガーフィールドを主演に迎えて描く、『スパイダーマン』の新シリーズの第2作。宿敵グリーン・ゴブリン、高圧電流を操るエレクトロ、サイ型のパワードスーツを身につけたライノという3人の強力な敵の出現に、ニューヨークを守るべくスパイダーマンが立ち向かう。
監督はマーク・ウェブ。
出演はアンドリュー・ガーフィールド、エマ・ストーンら。




ストーリーはいまいちだが、アクションなど映像は一流。

これまでの「スパイダーマン」で感じてきたことと、今回も似たような感想を抱いた。
少なくとも金額の価値のある作品である。


ストーリーはこれまでのスパイダーマンシリーズとある程度似通っている。
敵が現れ、恋人との関係も多少のいざこざがある。そういったところだ。

恋人との関係は少しまだるっこしかった。
よくある恋愛の典型であり、中盤などは、そのせいで中だるみが感じられた。

ラストの展開は予想外でいい意味で裏切られたが、少し引っ張り過ぎで、もう少し短く詰められたように思う。
それが少しもったいない。


だがアクションシーンはすばらしい。
冒頭の飛行機での乱闘や、スパイダーマンの登場は、見ていてもほれぼれする。

特に蜘蛛の糸を使っての戦闘や移動は見ていてもかっこよくて、すっかり引きこまれた。
これぞスパイダーマンの美点だろう。

そんなアクションがともかく心に残る一品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)



前作の感想
 「アメイジング・スパイダーマン」
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「家路」

2014-03-09 20:59:27 | 映画(あ行)

2014年度作品。日本映画。
東日本大震災の影響で故郷を失いバラバラになってしまった家族が、20年近く音信不通だった弟の帰郷をきっかけに、再び絆を深めていく姿をオール福島ロケで撮影した人間ドラマ。
監督は久保田直。
出演は松山ケンイチ、田中裕子ら。




福島第一原発で故郷を奪われた人たちを描いている。
言うまでも問題意識をはらんだ映画だ。

しかし本作の良いところは、そんな風に問題意識をはらみながらも、声高にそれを主張するわけではない点にある。
ただ目の前にある事実を積み重ねており、そのあたりが大変好印象の作品だった。


この映画が福島で実際撮られたらしい。だとしたらよく撮れたものである。

人のいない商店街や道というものは実にさびしいものだ、と見ていて感じる。
草も伸び放題で捨て置かれた農地などは見ていてかわいそうだ。
そこが故郷である人は何かと思うことはあるのだろう。


それでなくとも、福島で故郷を奪われた人たちはなかなかつらい生活を送っている。
仮設住宅で暮らすせいでぼける老人はいるし、故郷を奪われ悲観する人もいる。
描かれる一家は金も足りないらしく、夜の商売にも出たりする。

そんな中で、故郷を奪われた青年は、奪われた土地で農業を始める。
自分の土地で暮らす。その当たり前の行動はあるいは一つの抵抗なのかもしれない。


ともあれ福島の事実を淡々と描きながら、前向きな雰囲気が出ているのが良かった。
地味ではあるが、味わい深いバランスの取れた作品と感じた次第である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

2014-02-10 19:58:36 | 映画(あ行)

2013年度作品。アメリカ映画。
レオナルド・ディカプリオ&マーティン・スコセッシ監督の5度目のタッグ作は、実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの栄光と挫折を描く人間ドラマ。
監督はマーティン・スコセッシ。
出演はレオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒルら。




金持ちの栄光と転落を描いた作品である。
当然縁遠い世界のわけだが、その分素直に楽しめる作品だった。

ちょっと長すぎるが、おかしくも愚かしい男を描いた、はちゃめちゃな映画である。


主人公のジョーダンは株式ブローカーだ。勤めた会社がすぐにつぶれるなど、不運にも見舞われるが、才能を生かして株の世界で上り詰めていく。

それもすべて、口が上手いからである。
いかに相手にその株がすばらしいものか語りかけ、買わなければ損をすると客に思い込ませる。そうしてクズ株を客につかませていくのだ。
その無茶苦茶っぷりがなかなかすごい。

そうして彼は愚かな客をカモにして、手数料を荒稼ぎしていく。なけなしの金をむしりとられていく貧しい人たちはたまったものじゃないだろう。
だがもちろん、ジョーダンはそんなことなど意にも介しないし、そのことを反省する描写も見られない。

まさに悪党と呼ぶにふさわしいキャラだ。


彼は悪党にふさわしく欲にもまみれている。
娼婦を買って、会社内で乱交をするほど倫理のかけらもないし、ドラッグにどっぷり浸かり、ヤク中になっている始末。
ここまでクズだと、逆に笑えるからおもしろいものだ。

実際強烈なドラッグを吸引して、車を運転するところなどは笑ってしまった。
アホにも程があるよな、と思うが、そのアホさがいい。


しかし当然ながら、そこまで派手にやっていれば上からにらまれるわけで、FBIの捜査を受けることとなる。
ある意味、そこからは彼の意地をかけた戦いとも言えるのだろう。
そういう無茶苦茶やって突っ走る面は、彼らしいキャラと言えるのかもしれない。
とは言え、そこまで描くのに、正直3時間をかけるほどでもないよなと思ったことは事実だ。

だが全編を通して、クズっぷりを発揮する主人公の姿が強烈でもある。
その個性が強く印象に残る映画であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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