私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

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「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

2015-05-15 22:29:11 | 映画(は行)
 
2014年度作品。アメリカ映画。
『バットマン』シリーズで主人公を演じたマイケル・キートンが、かつてヒーロー映画で人気を博した俳優に扮し、再起をかけてブロードウェイの舞台に挑む姿を描くブラック・コメディ。
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演はマイケル・キートン、ザッツ・ガリフィアナキスら。




「バードマン」は映画界の裏面を描いた作品、と言っていいのかもしれない。
本作がアカデミー賞を取ったのはそういった内輪に受ける話だったからのように、見ていて感じたのだが、どうだろう。

と、いきなりケチをつけるような言い方ではあるが、内容自体はそれなりに楽しめる。
それというのも、物語のけん引力にあふれているからだ。


主人公のリーガンは、バードマンというヒーローものの映画が当たって、有名になった俳優だ。しかしそれ以降の作品に恵まれず、伸び悩んでいる。
そんな状況を打破するため、ブロードウェイで、カーヴァーの短編の戯曲化に挑戦。脚本、演出、主演と力を入れて取り組んでいく。だが共演俳優に話題を持ってかれ、舞台も好き勝手に振り回されて、やられ放題になってしまい。。。
っていうのが筋だろうか。見ていても正直かわいそうになるくらいだった。

それでなくとも彼は報われない。
彼としては、落ちぶれて、顧みられることの少なくなった自分の起死回生の作品として、舞台を設定したはずだ。にもかかわらずその思惑通りにはいかない。
舞台のプレビューは酷評されるし、舞台という芸術の世界にやってきても無理だ、と批評家に小馬鹿にもされる。


だがそうは言っても、彼はそれなりに、周囲の人間からは人気の俳優なのだ。
もちろんバードマンの俳優、という以上ではないかもしれない。
けれど、舞台に身をささげねば忘れ去られるほど、無視されるようなレベルの存在ではない。

事故によりブリーフでブロードウェイを歩くシーン(ここは爆笑した)を見ても、彼の人気はなかなかのものだ。
だがそれは必ずしも、彼の望む自分の姿ではないというだけである。
その齟齬がちょっと痛ましい。


ラストに向けて、彼のその思いは妄想(もしくは幻覚)の方向へ、どんどん暴走をしていくことになる。もはや病んでいるというほかないくらいである。

そして舞台の上で、その暴走はピークに達する。その展開にはドキリとさせられた。
ラストシーンも個人的にはにやりとさせられて好きである。

ともあれ、売れなくなった俳優の悲喜劇をけん引力たっぷりに見せてくれる映画である。
アカデミー賞にふさわしいかは知らないが、そこそこ好きな映画であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「博士と彼女のセオリー」

2015-03-21 10:42:26 | 映画(は行)
 
2014年度作品。イギリス映画。
理論物理学者として宇宙の起源の解明に挑むなど、数々の研究で現代宇宙論に多大な影響を与えたスティーヴン・ホーキング博士。難病ALSと闘いながら、研究に打ち込む彼を献身的な愛で支え続けた元妻ジェーンの手記を映画化したヒューマン・ラブストーリー。
監督はジェームズ・マーシュ。
出演はエディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズら。




宇宙物理学者として有名なスティーヴン・ホーキングの実話をもとにした映画である。
なるほど予定調和とは違った感じがあって、実話らしい作品かな、と見ていて思った。


優秀な学生だったスティーヴン・ホーキングは突如として体の機能が麻痺してしまう病気に侵される。

その過程を演じた役者の演技は本当に見事だった。
手足の機能は衰え、しゃべり方も少しゆがんだ感じになり、最終的に車いす生活となる。
そのときの筋肉の緊張感や表情なども丁寧に演じ切っており、感服するばかり。アカデミー賞受賞も納得である。


さてスティーヴンはその病気に悩むこととなるが、献身的なジェーンの行動もあり、結婚するに至る。
しかしそうは言っても、生活は大変なのである。
スティーヴンは体を動かせないため、どうしてもジェーンの負担は増えてしまう。
彼女はそのことにもやっとした感情を持っているらしく、表情を通じてそれが伝わってくる。
このあたりの演技もすてきだった。


そうしているうちに、第三の男が現れて、微妙な空気が生まれることとなる。
正直なところ、そこからのふたりの関係をどう見るかで評価は分かれそうである。
僕は微妙にもやっとした。
ラスト近くの展開は、二人とも納得ずくの最良の選択と思ってのことだろう。
実際、二人の仲がその後も良い。

でも何か引っかかってしまうのだ。
言語化できないけれど、腑に落ちない。
そういう意味、僕もコンサバティブな人間なのかもしれないと思う。

しかし物語としてはまとまっているし、演技もすばらしかった。
映画のできとして、納得のいく作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「バンクーバーの朝日」

2015-02-07 18:22:04 | 映画(は行)

2014年度作品。日本映画。
差別や貧困をものともせず、フェアプレーの精神で戦い、03年にカナダ野球殿堂入りした実在の野球チーム、バンクーバー朝日軍の知られざる姿を描く人間ドラマ。
監督は石井裕也
出演は妻夫木聡、亀梨和也ら。




単純にいい映画である。
ややテンポが悪い部分はあるし、感動というほどエモーショナルな作品ではないけれど、すなおにおもしろいと感じられる。

察するに、それは作品の作りが丁寧だからかもしれない。
まちがいなく及第点の作品であろう。


舞台は1930年代のバンクーバー。当時そこでは日系移民を中心にバンクーバー朝日というチームが結成されていた。

しかしこのチームはなかなか勝てないでいる。
カナダ人相手では体格差もあるし、どうしても日本人の体力では太刀打ちできない。いかにもありそうなことである。

当時の日系社会は、いろんな問題を抱えているし、いろんな人がいる。
英語を学ぼうとしない移民一世や、日本人であることを忘れないために、日本語の教育に力を入れる人もいる。カナダに来ても日本を忘れるなと訴える人もいる。
そして日系に対する差別も厳然と存在していたのだ。

だからこそ、日系を背負っている感のある、バンクーバー朝日をみんな応援したのだろう。
そしてそこは、日系なりの明確な矜持もあったのだ。


さてそんなバンクーバー朝日だが、自分たちの特性を生かし、機動力野球を展開していく。
具体的にはバントや盗塁を駆使した脚でひっかきまわすプレイだ。

これはなかなかクレバーな戦略だ。
実際地元では、Brain Ballという賞賛も受けているくらいだから、向こうからしても驚きだったのだろう。

そういったプレイを通じて、バンクーバー朝日は、白人たちからも受け入れてもらえるようになる。その過程はなかなか良い。


もちろん太平洋戦争がその後であるため、後日談は決して明るいものではない。
しかし彼らの活躍はその後、称揚され、名誉も回復している。
そういったことはすなおに喜ばしいことであり、すごくほっとさせられる。

ともあれ日系社会にこのようなチームがいたとは知らなかった。
そういった当時の歴史も知ることができた点でも、非常に価値ある作品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「フューリー」

2015-01-13 21:38:43 | 映画(は行)

2014年度作品。アメリカ映画。
たった一台の戦車で300人ものドイツ軍に戦いを挑む5人の男たちの姿を描く、ブラッド・ピット主演の戦争ドラマ。
監督はデヴィッド・エアー
出演はブラッド・ピット、シャイア・ラブーフ ら。




戦争映画の意義は、戦争の残酷さを伝えることにあると思っている。
人が人を殺し合うという醜さを見せることで、戦争の無意味さを突き付けること。それが戦争映画の一定の役割ではないだろうか。

「フューリー」はその点において、成功していると言える。
だがそれゆえに、娯楽映画としては失敗している作品とも言えるのである。



主人公はナチスドイツと戦うアメリカ人兵士だ。

そこではアメリカの戦争犯罪もきっちり描かれている。
たとえば、投降してきたナチス兵士を撃ち殺しているし、占領した街の女性を合意の上とはいえ、輪姦してもいるのだ。また汚い言葉を使って、敵を罵り、殺しまくってもいる。

そういった描写に対し、正直不快になったことは否定しない。
そしてそう感じるのは、極限下だからこそ生まれる人間の醜悪さを見るからなのだろう。


もちろん人である以上、相手に同情を覚えることはある。
ナチスは敵であるはずの若手兵士を見逃したし、若者だって、ナチスを殺すことは最初ためらった。

だが自分に襲いかかってくる敵である以上、何も考えず人は人を殺さざるをえないのである。



そんな主人公たちに対して、共感を覚えることは難しい。
実際、映画を観終わった後に残るのはカタルシスではない、ただの深い虚しさだ。
そういう点、この映画を嫌う人は一定数いるに違いない。

だがそこにあるのはまちがいなく、戦争の現実だ。
そしてそれゆえに、一つのメッセージをしっかり訴えている作品でもある。
そのため僕は、賞賛はしないまでも、本作を否定することは絶対にできそうにないのである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「BUMP OF CHICKEN “WILLPOLIS 2014” 劇場版」

2014-12-16 21:58:51 | 映画(は行)

2014年度作品。日本映画。
人気ロックバンド、BUMP OF CHICKENが14年4〜7月にかけて国内13会場で行った全国ツアー、WILLPOLIS 2014の模様を追った音楽ドキュメンタリー。
監督は山崎貴、番場秀一。




バンプのファンではあるが、ライブを見に行ったことは一度もない。
そういう人間にとって、この映画は大層楽しい作品だった。

何と言っても、大画面でBUMP OF CHIKENのライブを追体験できるという点に幸福感が凝縮されていた。


本篇の冒頭は、ライブのときに流されたというWILLPOLISのCGアニメである。
特に思い入れもないので、ふうん、という程度で見ていたが、そこから「Stage of the ground」に進んでからは食い入るように見ていられた。

「虹を待つ人」とかは見ていても楽しいし、テンションも上がるのがいい。
また「white note」のみんなでリズムを取るところも、結構おもしろかった。
それに「天体観測」の”Oh Yeah Ah”のところの、ライブ会場の一体感はすばらしいとしか言いようがない。
初音ミクとのコラボの「RAY」なんかは高揚した気分になるし、「Smile」の弾き語りっぽい感じはじっくりと聴き入ってしまう。

どれも大画面で見ているからこそ、伝わるものがあったのが良い。


やや高い値段設定であることは否定しない。
しかしそれに見合った幸福な時間を過ごせるものと感じた次第である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「蜩ノ記」

2014-10-22 21:18:38 | 映画(は行)

2014年度作品。日本映画。
第146回直木賞に輝いた葉室麟の時代小説を、『明日への遺言』の小泉堯史監督が役所広司、岡田准一らを迎えて映画化。前藩主の側室との不義密通の罪で幽閉され、家譜編纂と10年後の切腹を命じられた元郡奉行の秋谷。その監視役が、山間の村で秋谷の家族との交流を通して、事件の真相に迫っていく姿が描かれる。
監督は小泉堯史。
出演は役所広司、岡田准一ら。




地味であり、滋味深い作品と言えるだろう。

派手なストーリーではないため、退屈に感じる向きもある。
だが情緒に富んでいて、味の作品だというのがトータルの印象だ。



家老の甥と些細なことから刃傷沙汰となった右筆の庄三郎。彼は罪を許される代わりに、藩主の側室と不義密通し十年後に切腹することとなっている秋谷を監視することとなる。庄三郎は秋谷と接するうちに、誠意溢れる秋谷に共感を覚えるようになる。そういう話だ。


切腹に至る流れはまさに武士社会らしい縮図と言える。
藩主の命のため、お家のために、切腹することを秋谷は決意するというのが事の真相のようだが、それは理不尽と言うほかない。
けれども、当の秋谷がその運命を納得しているところが、いかにも武士らしい。

だがその運命を甘受する姿には、秋谷の誠意のようなものもほの見える。


そんな秋谷の誠意に打たれたのか、監視をしているはずの庄三郎も彼に感化されることとなる。
庄三郎も命を賭したと言うほかない、かなり危険なことを行なっているが、それもこれも庄三郎の人間力の影響ではないかと思うのだ。
それが何とも良い。


メイン二人以外では、家老が結構心に残っている。
ある意味、彼は悪役なのだが、悪意ばかりで描いていないところが好ましい。
確かに時として保身も、彼は考えている。
だけど、彼なりに相手の心情も慮っているし、領民の年貢のことも減らすことを考えている辺りは人間臭くて好ましい。



トータルで見れば、確かにガツンと来るものはない。
だがそれなりにきれいにまとまっていて、心に届く作品だった。
悪くはない作品と、断言できる映画である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「her/世界でひとつの彼女」

2014-09-09 20:53:46 | 映画(は行)

2013年度作品。アメリカ映画。
鬼才スパイク・ジョーンズ監督の『かいじゅうたちのいるところ』以来4年ぶりの長編作は、ホアキン・フェニックスを主演に迎え、人工知能の女性にひかれていく男の姿を描くラブストーリー。
監督はスパイク・ジョーンズ。
出演はホアキン・フェニックス、エイミー・アダムスら。




奇抜な発想の話である。
正直な話、ストーリーはまあまあというレベルだったが、恋愛劇をこのように見せる方法もあるのだな、と素直に感心させられた。


人工知能のように人間と自然な会話ができるOSと、離婚したばかりの中年男のラブストーリーである。

まずはOSに恋に落ちるという発想がおもしろい。
離婚して傷ついている彼は、恋愛に対してどこか尻込みしている部分はある。
そのようなメンタルに、OSのサマンサの対応はしっくりきたのだろう。

中身だけを抜き出せば、人間に置き換えても成立しそうだが、それをこのような設定で見せていくあたりはすばらしい。
これは発想の勝利としか言いようがない。


ストーリー自体はそういうわけで恋愛映画のオーソドックスな展開をなぞっている。
セックスができないので、テレフォンセックスを使うという辺りとか、代替の女を使うとかいう辺りは、少し引いてしまったが、そういった齟齬も含めて、奇抜な設定を生かしていると言える。

そして最後に明かされるサマンサの真実にはドキリとさせられた。
OSがNot Foundになるくらいは想像がついたが、そこからひとひねりを加えてくるあたりは見事。
そしてこれもまた、設定をうまく生かした展開だ。


そういうわけでストーリー的にはともかく、アイデアをフルに生かした内容は関心しきりであった。
ただ一言ユニーク。それにすべては尽きる一作である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「春を背負って」

2014-06-25 21:00:17 | 映画(は行)

2014年度作品。日本映画。
日本映画界きっての名カメラマン、木村大作が『劔岳 点の記』に続いて手がけた監督第2作となるヒューマンドラマ。笹本稜平の同名小説を基に、立山連峰にある山小屋で暮らす親子の愛と山に生きる人々の姿が描かれる。
監督は木村大八。
出演は松山ケンイチ、蒼井優ら。




ストーリーはともかく、映像はすばらしい。それが本作の率直な感想だ。
カメラマン出身の映画監督らしい作品である。


ストーリーはずいぶん問題がある。
主人公が山小屋を継ぐ心の流れがいまひとつわかりにくいし、襲い来るトラブルもどうにかできなかったのか、って思うような代物だ。
低気圧の中登山を続ける登山者や、脳梗塞になるところも、いかにもとってつけたご都合主義的な展開でげんなりしてしまう。


しかし映像はすばらしいのだ。
立山の映像はともかくも雄大で、見応え抜群。
雪山登山や、夏山の風景、紅葉の風景など、見ているだけでほれぼれとしてしまう。山登りが好きな人ならば、心にぐっと来るものがあるだろう。
撮影クルーも出演者も、よくがんばったな、と感心してしまう。


トータルで見るなら、いろいろ難点はある。
しかし美点に関しては、目を見張るものがあろう。
ともかくも大きな作品、そう強く思った次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「ブルー・ジャスミン」

2014-05-15 20:32:17 | 映画(は行)

2013年度作品。アメリカ映画。
『ミッドナイト・イン・パリ』など、ロマンティック・コメディ作品が続いていた名匠ウディ・アレンが、ニューヨークで暮らすひとりの女性の転落人生を描くシリアスなドラマ。
監督はウディ・アレン。
出演:ケイト・ブランシェット、アレック・ボールドウィンら。




本作の主人公のジャスミンはろくでもない女だ。

彼女は元々セレブだったが、今は財産を差し押さえられて、お金もない。
であるにもかかわらず、いつまでもセレブ気取りで平気でお金を浪費する。
加えて人を見下した言葉が多いし、心を病んでいる上に、アル中気味という始末。
少なくとも友達になりたいタイプではない。


基本的に彼女は虚栄心と自尊心と自己愛の強い女性なのだと思う。
だから亡くなった夫の浮気にも気づこうとはしなかったのではないだろうか。
彼女は自分のことを中心に考えすぎていて、夫ですらちゃんと見ようとしていなかったのかもしれない。

だからそんな自分のあり方が崩れた時、突発的な行動に出たのかもしれないな、と少しだけ思った。


さてそんな彼女ゆえか、セレブから転落した後も何かとトラブルを引き起こしている。
妹ともうまくやれないし、妹の彼氏との折り合いも悪い。
彼女はいつまでも失われた過去の栄光の記憶にすがっているのだ。

そう考えるとなかなか悲しい女性だと思う。


でもそこはさすがウディ・アレンだけあって、こんな暗くなりかねない題材なのに、悲壮感はあまりない。
それは全体を通して漂っている軽やかなタッチによるところが大きい。
おかげでジャスミンの状況も、もう笑うしかない、っていう雰囲気で捉えられるのである。

ウディ・アレンのセンスあふれる一品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「プリズナーズ」

2014-05-09 22:02:14 | 映画(は行)

2013年度作品。アメリカ映画。
ヒュー・ジャックマンが愛する娘を誘拐され、危険を顧みずに自ら救出に挑む父親に扮するクライム・サスペンス。
監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。
出演はヒュー・ジャックマン、ジェイク・ギレンホールら。




ツッコミどころは多いが楽しめる。
「プリズナーズ」を評するならそんなところだろう。
醒めてしまう部分もあったが、トータルで見るなら興味深い作品だった。


誘拐事件を扱っているわけで、ジャンルはミステリである。
そのためラストには意外な真相が待っている。
実際僕も見ていてビックリしたが、無理がある点は否定できない。

特に動機の弱さは致命的だ。
多くは語らないが、矛盾もあるし、説明された理由にもいろいろ納得がいかない。

あと神父の家の死体も説明不足だし、模倣犯も行動の必然性が理解できない。
またアレックスも十歳程度のIQなら自分のしたことの説明くらいはできるのではと思える。

どうもおもしろくしようとして、ストーリーが破綻してしまった感が強い。
しかし真相解明の逆転劇は想定外だったのでドキドキはしたことだけは強調しておこう。


またストーリー以外では、ヒュー・ジャックマン演じる父親が良かった。
娘の誘拐で視野狭窄になり、犯罪と言い切れる乱暴な行動に走るところはゾクゾクする。
人間の業の深さと愚かしさを感じさせ、嫌いでない。

そのように全体的に暗鬱なトーンで貫かれていて引き込まれた。

出来の瑕疵について挙げればキリがない。
しかし美点もまた目立つ作品と思った次第である。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「パシフィック・リム」

2014-02-15 21:08:00 | 映画(は行)

2013年度作品。アメリカ映画。
『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロが、巨大生命体と巨大ロボットの戦いを描くSFアクション。
監督はギレルモ・デル・トロ
出演はチャーリー・ハナム、イドリス・エルバら。




実に楽しいロボットものだった。
作り手が楽しんで製作していることがよく伝わる作品と言えるかもしれない。


ストーリー自体は王道展開である。
パートナーであった兄の死をきっかけにイェーガーというロボットのパイロットを辞めていたローリーだが、かつての上司の要請で再び怪獣と戦うようになるという話である。直球のストーリーだ。
恋愛っぽい要素も含めて、良く言えば要所を外さない展開と言えよう。

その展開に驚きも感銘もないが、安心して楽しめるというのは良い点だった。
菊地凛子の日本語がなぜか片言だったのが気になるが、愛嬌ということにしておこうか。


さてこの映画の見所は、もちろんアクションシーンだ。
イェーガーと怪獣との戦闘シーンは迫力満点で、見ていても飽きない。
ともかく興奮物で、血沸き肉踊るっていうのはこういうことを言うのだろうな、と思う。


はっきり言って後に残るものは少ない。しかし見ている間は存分楽しめる。
そういう点、良質な娯楽作品であろう、と思う次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)
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「ハンナ・アーレント」

2014-01-20 20:05:30 | 映画(は行)

2012年度作品。ドイツ=ルクセンブルク=フランス映画。
ナチス戦犯の裁判に関するレポートを発表し大きな波紋を呼んだドイツ系ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの姿を掘り下げて描く伝記映画。
監督はマルガレーテ・フォン・トロッタ。
出演はバルバラ・スコヴァ、アクセル・ミルベルクら。




「ハンナ・アーレント」は知的刺激に満ちた作品である。
そのため考えがまとまらない面があるけれど、何とかがんばって書いてみよう。


大学で教鞭をとるハンナ・アーレントは、ドイツ系ユダヤ人で、収容所に抑留された経験を持つ女性だ。
そんな彼女は、ナチス将校アイヒマンの裁判が開催されることを知り、裁判を傍聴する。
しかしイスラエル国民がアイヒマンを悪魔とののしる中で、ハンナは違和感を覚える。それはアイヒマンが役人的で凡庸な男としか見えないからだ。
ハンナはレポートを通してその事実を指摘、そしてユダヤ人の中にもナチスに協力的だった者もいたことも取り上げる。そのレポートは挑発的と見なされて、世間の批判を浴びる。
流れとしてはそんなところだ。


僕個人はハンナの意見に共感を覚えた。
苛酷な背景を持ちながらも、個人的な記憶や事情に流されず、冷静に裁判を見つめ、アイヒマンの背景に迫る姿は誠実そのものだ。思想家としても人間としても、賞賛に値する。

それを体現した、最後の演説シーンは圧巻であった。
アイヒマンを凡庸な悪と形容し、思索するという自我を生み出す行為を放棄したアイヒマンはモラルを崩壊させたのだと言う。さらに世間の非難に対しても、許すことと理解することは違うと述べて、真っ向から反論している。
この意見は本当にすばらしい。


しかし人間は感情的な生き物である。
理性ではそれが正しくても、感情がそれを許さないことだってあるのだ。

ハンナもユダヤ人迫害を受けた当事者ではある。
けれど当事者だからこそ、そんなひどい目に合わせた連中を許せないという感情的な反応をする人間だって当然いるのだ。

そういった感情は、僕も人なので理解できないわけではない。
たとえその、感情に流されるという行為が、アイヒマンよろしく思索を停止することと同じであっても、それはある意味人間の真実だ。

それだけにこの問題は、簡単に答えの出せない問題でもある。


だがだからこそ、思索し続けるということが重要なのかもしれない、と映画を見ていると感じられてならない。

思索しても答えはない、ということを映画の中でハイデガーは言っている。
しかしアイヒマンのような事態にならないためにも、感情に引きずられることなく、人間らしく思索しなければいけないのかもしれない。

その命題は、今の現代社会でも通じる問題でもある。
それだけに深く胸に突き刺さる作品だと感じた次第だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「ペコロスの母に会いに行く」

2013-12-16 20:45:22 | 映画(は行)

2013年度作品。日本映画。
岡野雄一のエッセイ漫画を原作に「ニワトリはハダシだ」の森崎東監督が映画化。認知症の母親とその息子のおかしくも切ない日常を綴る。
監督は森崎東。
出演:岩松了、赤城春恵ら。




世評が高いのと、いろいろ介護について思うところがあったので見てみた。

なかなかの佳品だな、というところが率直な印象である。
介護の様子を適度なユーモアでくるんでいて楽しめる作品だった。


主人公は雑誌社の営業の後に、フリーライターになった人だ。そんな中年男が、認知症の母の介護をする。
母の認知症は結構進んでいる。それまでしていたことを忘れるのは当たり前。汚れた下着を隠すなどの異様な行動にも出ている。

しかしそれを悲壮感もなく、笑いを交えながら描いており、なかなか楽しい。

叔母の言動を見て、ぼけはじめているんじゃないか、ってぽつりとつぶやくところや、竹中直人のハゲネタなどはちょっと笑える。


また見ていて思ったのだけど、人はボケると、いろんなことが清算されていくらしい。

修羅だったという酒びたりの夫のことや、幼くして亡くした妹の記憶、娼婦にまで落ち原爆症で亡くなった友人など、母親にもいくつかのトラウマがある。
だが最近お父さんがよく会いに来るという感じのセリフでも示される通り、つらい記憶も、ボケたおかげでいい思い出となっているらしい。

そういう点、確かにボケるのも決して悪いことばかりと言えないのかもしれない。


ともあれ認知症の問題を重すぎず、軽すぎず描き好ましい一品であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)
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「ペーパーボーイ 真夏の引力」

2013-08-08 05:21:05 | 映画(は行)

2012年度作品。アメリカ映画。
60年代のフロリダを舞台に、獄中の婚約者の冤罪を証明してほしいと依頼する謎の女と出会った事で、運命を狂わせていく青年とその新聞記者の兄の姿を描くサスペンス。原作はピート・デクスターの同名小説で、謎の女を演じたニコール・キッドマンは、第70回ゴールデン・グローブ賞で助演女優賞候補に。
監督はリー・ダニエルズ。
出演はザック・エフロン、二コール・キッドマンら。




良くもないが、悪くもない。
否定するほどつまらなくはないが、肯定するほどおもしろいわけでもない。
ただ過剰で異常な人物描写や、ザック・エフロンのブリーフ姿が印象に残っている。

率直にこの作品の感想を書くなら、そういうことになる。
要は僕の趣味に合わない、評価に困る映画ってところだ。



舞台は1960年代末、暇を持て余している大学生のジャックは、あるとき殺人事件の容疑者とされる男ヒラリーの婚約者シャーロットと出会い、恋に落ちる。ジャックはヒラリーの殺人事件を取材する兄の運転手として、事件にかかわるうち、徐々に抜き差しならない事態へと巻き込まれる、ってのが筋だろうか。


このニコール・キッドマン演じる容疑者の婚約者がなかなかいかれている。

要はビッチなわけだが、監獄の面会室で、容疑者とともに互いに自慰をしたり、クラゲに刺された男のためにおしっこをかけるところなどは、はっきり言って異常だ。
こいつら頭おかしいんじゃないのか、と感じることもあった。

だがその異常さが、この映画にいびつな雰囲気を生みだしており心に残る。


そんな雰囲気に引きずられて、登場人物の影もときどき暴かれていく。

ジャックの兄の隠れた性癖や、黒人のジャーナリストの隠していた怒りなどはその典型だろうか。
そして釈放された容疑者も、予想通りとは言え、本性を現すこととなる。


そういった物語はそれなりに楽しめるのだけど、特に心に訴えるものに乏しかった。
僕の趣味もあるが、物語の表層を追っているだけのように見えて心に届かない。

俳優は頑張っているけれど、演出が悪いのかもしれない。
演技だけではどうにもならない部分はあるのかもしれないなんて思ったりする。



しかし映画としては別に退屈なわけではなく、二時間弱と時間も手ごろで、苦痛もなく見ることができる。
この映画の美点である不穏な雰囲気も、まあ悪くはない。

僕からすれば趣味には合わない作品ではある。
しかしこれはこれでありと思う人はいるのだろうな、と感じた次第だ。

評価:★★(満点は★★★★★)
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「ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~」

2013-05-07 20:29:53 | 映画(は行)

2012年度作品。アメリカ映画。
世界のはずれにあるかのようなバスタブ島。ハッシュパピーという少女(クヮヴェンジャネ・ウォレス)はここで元気いっぱいに育った。ある日、嵐がバスタブ島を襲い、ハッシュパピーの大好きだった日常を奪っていった。あの日の父(ドワイト・ヘンリー)からの言葉と母のぬくもりを胸に、勇気を奮い立たせたハッシュパピーと優しい動物たちが、奇跡を起こす……。
監督はベン・ザイトリン。
出演はクヮヴェンジャネ・ウォレス、ドワイト・ヘンリーら。




雰囲気のいい映画である。
僕には合わず、人気がある理由も最後までわからなかったが、寓話のように感じられる世界が好ましくある一品だった。


舞台のバスタブ島について、映画内ではさほど多くのことは語られていない。
だが世間的には見捨てられた島で、どうも人が勝手に住みついているらしいということはだんだんと見えてくる。

だがその程度の解釈しか(少なくとも僕には)できなかったので、いろいろと疑問に感じる部分はあった。

たとえば、住んでいる人の世間的な立ち位置が見えづらいし、急に猛獣が現れるところなどはわかりにくく、どう受け止めていいのだろうかと困惑してしまう。
ある場所を爆破することで、水が引くシーンも、伏線がないので唐突な印象を受けた。
そのほかにもいくつかの面でうまく馴染めず、物語に没入できなかったきらいはある。そこは少し残念だ。


しかし物語の雰囲気は悪くない。

都会の外枠にバスタブ島はあるが、独自のコミュニティを形成していて、独自の文化もできている。
また自然も豊かで魚を獲って暮らしていたりと、その有り様はユニークだ。
街の外にこういう設定の舞台を用意するという発想は優れている。


あと少し思ったのだが、この作品は主人公をはじめ、みんな本当によく怒っている。
ある意味、みんな感情を全開にしているのだろう。野生の舞台ではみんな野生に返るのかもしれない。ふっとそんなことを思う。

その解釈はともあれ、「Beasts of the Southern Wild」という原題にふさわしい作品とも言えるだろう。
野生味溢れる設定と雰囲気がおもしろい一品だった。

評価:★★(満点は★★★★★)
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