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外国語学習の意味、そして母国語について考えましょう

社内公用語の英語化、小学校での英語の義務化など最近「英語」に振り回され気味ですが、何故、どの程度英語を学ぶか考えます。

『日本人の英語』ピーターセンの新著を紐解いて シリーズ 日本人の英語

2014年12月31日 | シリーズ:日本人の英語

『日本人の英語』ピーターセンの新著を紐解いて: シリーズ 日本人の英語

マーク・ピーターセン著、『日本人の英語はなぜ間違うのか』が集英社発行されました。「英語本」というと、タイトルだけで、読まれたり、嫌われたりするようで、一見この本もそういうふうに見なされるのではないかと思います。

ピーターセン なぜ間違うのかしかし、私はピーターセンの言うことはよく聞いた方がよいですよ、と周囲の方に申し上げています。彼だけではなく、ミントン、バーナード、トム・ガリーたち、日本で英語を教えている人たちの意見には、耳を傾けるべきだと思います。英語を教えていると言っても、母国語なら自分でも教えられるさという気分のインストラクターではなく、実際に母国語を、日本語を母国語とする人にぶつけて生じるさまざまな問題を考えている人たちのことです。

しかし、どうも、現場の先生であれ、文部省の役人や政治家など予算を決めるひとたちであれ、ピーターセンたちの述べている意見には関心がないように思えるのです。「意見を聞く」とういのは、「そうだ、そうだ」と相槌を打つことではありません。意見を述べる人がなぜそういうのか吟味し、現実の問題を解決するために役に立てるということです。

先日、この本を買い、まだ最初の方しか読んでいません。(ブログもお休みする忙しさで、少数のブログの読者の方には失礼をしました。) しかし、最初の章で提起されたいくつかの問題は、曖昧さを含まない明確な問題群です。しかも、私には致命的に重要な事柄だと思います。


ピーターセンは、ある中学校の英語の教科書の一部を取り上げています。ここで、再引用させてもらいましょう。p.10

Many years ago, there were wonderful elephants at the Ueno Zoo. The elephants were John, Tonkey, and Wanly. They could do tricks. Visitors to the zoo lived to see their tricks.

Japan was at war then. Little by little the situation was getting worse. Bombs were dropped on Tokyo every day.

If bombs hit the zoo, dangerous animals will get away and harm the people of  Tokyo. So the Army ordered the zoo to kill the dangerous animals such as lions, tigers, and bears.


以下は、ピーターセンの書き換え例です(この書き換え例の前に、中間段階の書き換え例があります。(p.12)

Many years ago, there were three wonderful elephants at the Ueno Zoo: John, Tonky, and Wanly. They could do tricks, and visitors to the zoo loved to watch them.

Japan was at war then, and little by little the situation was getting worse. Bombs were dropped on Tokyo every day.

If bombs hit the zoo, dangerous animals might have got away and hurt people, so the Army ordered the zoo to kill all its dangerous animals, such as lions, tigers, and bears. (p.13 - p.14)

いくつか大きな問題が扱われているのですが、ここでは以下の部分に注目します。

原文:

If bombs hit the zoo, dangerous animals will get away and harm the people of  Tokyo. 

書き換えられた文:

If bombs hit the zoo, dangerous animals might have got away and hurt people, 

ピーターセン肖像この箇所を訳せば、「もし爆弾が動物園を直撃したら、危険な動物が逃げ出し、東京の人々を傷つけたことでしょう。」というところでしょう。実際は、ここでは典型的な反実仮定法ではありません。現実性の乏しい推測、という方がよいのでしょう。

が、教科書のように書き換えてしまう背景には、would have / might haveのような仮定法的な表現が中学段階で出てこないので、過去の話なのに、むりやりwillを使ってしまったという事情がありそうです。(日本語では直説法と仮定法の区別がない、ということは、英語を教える場合、強く意識する必要があります。)

文部省が示す指導の指針に中学段階では仮定法を扱わない、という規則があるから仮定法を使わず書く、という杓子定規な発想があるのでしょうか。たしかに、小学校の国語教育では、各学年ごとに習得すべき漢字は決まっているので、その前の学年で、習っていない漢字を使う漢字熟語ができたら、たとえば、「じゅく語」というような「分かち書き」にしなければならないことになっています。それと同じように、英語でも、中学では習わないことになっているから、いかに実際の英語とは違っていても、その表現を使わないということがあるのではないかと推察されます。

しかし、しかしです。英語という教科は国語とは性質が違うのです。国語なら、常に無数の経験にさらされるるわけですから、ほどなく、「じゅく語」は脳裏から消え、「熟語」が定着するでしょう。しかし、英語は、インプットされる情報量が国語より圧倒的に少ないのですから、最初に習った形が一生にわたって定着してしまう可能性が極めて高いのです。実際に、英語学校や玉大の「和文英訳添削」で私が日々経験していることでもあります。

英語の先生、またはディレクターの地位にある人、教科書の編纂者はそのことに気がつかないのでしょうか。もし指導要領を厳守するというなら、仮定法の出ないような物語にすべきです。そんなに難しいことではありません。話がつまらなくなっても、一生にわたって間違って英語を定着させてしまうよりずっと罪に軽いことです。それとも、どうしても平和教育を英語の時間にしたいとでも言うのでしょうか。

寝たふり気がつかなかったのか、故意なのか分かりませんが、なぜそうなるのか、と考えてみると、深い問題が潜んでいることがほの見えてきます。

つまり、上記の人たちにとっては、外国語は存在しないのです。いや、これは彼らだけではなく日本人の大衆心理に潜んでいる気分だと思います。外国語はその国の人たちが使っているものであって、我々がどうこうできるものではありません。日本人が日本人の都合で、どうこうできると思い込むほどばかばかしいことはありません。

さらに推測を推し進めましょう。たしかに「大衆心理」などという粗雑な言い方はしない方がよいのかもしれませんが、どうも、日本人には、他者というものの怖さが分かっていない...、そこまで言っては言い過ぎでしたら、他者の存在に対する意識が希薄なのではないか、と思えてきます。その意識が、英語教育にまつわるさまざな「議論」だけではなく、ここ百年の対外国の諸問題の根底に横たわっているように私には思えるのです。皆さんはどうお考えでしょう。

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シリーズ 日本人の英語: 車椅子のイメージを変えた若い日本人技師

2014年09月14日 | シリーズ:日本人の英語

シリーズ 日本人の英語: 車椅子のイメージを変えた若い日本人技師


シリーズ、日本人の英語を続けます。今回は、英語スクールに通っておられる方の会社が講演で呼んだ、若い日本人技師、あるいは、実業家です。斬新なデザインと、ぬきんでた可動性を持った新しい車椅子 = personal mobility deviceの販売をこのたび開始しました。自宅に外国人をインターンとして泊め、話し合いながら英語を習得したそうです。

Whill 1動画は、短い広告用のフィルムです。伝えたいことが簡潔にまとめられています。

今回も、英国人の建築家H氏の助力を得て、インタビュー部分のトランスクリプトを作りました(大半は字幕があります)。解説はまだできていませんが、まずは、動画をご覧ください。この方も決して流暢というわけではありませんが、正確に伝えようとする意思が明確で、相手を説得する力のある言葉です。

 

WHILL: Expand Your Horizon
WHILL -Next Generation Personal Mobility-
https://www.youtube.com/watch?v=Zq9YDG3W-jw

02:36

Whill 2WHILL is the next generation of personal mobility device that offers both function and design. My name is Sugi, the CEO and the co-founder of WHILL.

Our mission is to change the negative perception of the personal mobility device through design and technology.

It all began with a wheel chair user’s voice. He said I gave up going to the store even just two blocks away. The reason was because he was embarrassed to be seen in a wheelchair.For that, we created a device so he could feel confident.

WHILL has core competencies, The first one is the design. It looks completely different from any other devices. The second one is maneuverability. So we invented special front wheel. It is composed of 24 small rollers. It can make a very tight turning radius for inside use. And also, this is four wheel drive. It can cover on snow, pebble, any terrain you can go. So we achieve both small tight turning radius for inside use, and good ground capability for outside use.

01:12
Whill 3A:
While I first saw WHILL, I was amazed by the design. I’ve never seen anything like it before. And I could immediately tell that the way people look at me was different.

B:
What I really like about riding WHILL is it's a really enjoyable experience. It’s fun, it’s fast, and it’s also super smooth at the same time.

C:
Unlike other devices that are more cumbersome and larger, the WHILL is compact, agile, and intuitive. Operation is very simple.

B: In social ??science??, it's sort of become an extension of myself.


Whill 4C:
People come up not to ask me if I need help, but because they want to talk to me, and also to talk about the chair. WHILL allows me to function in my active life style. I'm happy not to think about it; I just do it.

Mr. Sugi:
Our goal, at WHIll, is to provide independence and style to transportation.

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シリーズ 日本人の英語:若き小澤征爾、英語でがんばる

2014年09月08日 | シリーズ:日本人の英語

シリーズ 日本人の英語:若き小澤征爾、英語でがんばる

小澤 What's my line? 1このハンサムな若者は誰でしょう、という問いかけで始めようか、と思いましたが、もう題字で出してしまいました。1963年、米国のクイズ番組、"What is my line?"に出演時の珍しい、動画です。lineは、職業という意味です。

この、「シリーズ:日本人の英語」は、戦前の斉藤博駐米大使をはじめとして、建築家の板茂、サッカーの本田選手など、試験のための英語ではなく、伝えるために、ともかく英語でがんばっている人の例を挙げ、皆さんの英語学習の励みにしていただこうとしましたが、今回の、小澤さんの50年前のがんばりぶりもぜひ見てください。

クイズ番組なので、演出はないのでしょうが、めりはりがあって楽しいものです。若きウディ・アレンも登場します。言葉が通じる、通じないというとても緊迫した場面でもあります。

今回は、かつて英語スクールの講師だった、英国の建築家、H氏の助けを得て、トランスクリプトを作りました。中級レベルの方の学習の助けにしてください。

また、以下の、バーンステインの青少年のためのコンサートに登場ずる小澤さんにも注目。モーツアルトの『フィガロの結婚』の序曲を振っています。もちろん、ここでは言葉はなしです。1962年、26歳のとき。

Young Performers: Seiji Ozawa

https://www.youtube.com/watch?v=mZdg_lM8qjw#t=76

 

AUDACITYのような音声ダウンロードソフトを使って、ダウンロードし、スマートフォンでリスニングの練習をしてみるとよいでしょう。あまり文字には頼らず、それぞれのせりふを覚えてしまい、覚えて聴こえる気がするのか、ほんとうに聴こえるのか分からなくなるほどに訓練するのがこつ。なんとなく聴いてはあまり進歩しません。

★ 今回は、まず英語だけお送りします。和訳はのちほど。

★ 最初は音声で入って欲しいですが、「ここは分からないな」、という箇所があったら、下の動画を、右クリックし、一番上の「新しいタブで開く」で、動画を開き、画面の大きさを調整し、下のトランスクリプトと照らし合わせてください。その箇所には、プリントアウトしたテキストににマークをつけて、何度もその部分を聴きなおすことを勧めます。

What's My Line? - Seiji Ozawa (1963, TV Show)
https://www.youtube.com/watch?v=K8u6MoA7fv0

06:47

小澤 What's my line 2Guest Woody Allen and regulars Bennett Cerf, Arlene Francis, and Dorothy Kilgallen appear on the panel. The program first aired on July 7, 1963.


John Charles Daly: And now to meet our first challenger. Will you enter and sign in please.
(laughter)
D: Seiji Ozawa. Is that right?
(applause)
D: Mr. Ozawa, where are you from?
O: From Tokyo.
D: From Tokyo. I might say that I have had good fortune to be out in your country several times, and I think it’s a great nation and a great people. Enjoy to have you here with us, sir. May I present our panel, Mr. Ozawa. Now would you join me here please, sir. Do you know how we keep score on “What’s my line?” ?
O: Yes.
D: All right, in that event we’ll let the audience in the theater and the audience at home know exactly what your line is.

小澤 What's my line? 3<< SYMPHONY CONDUCTOR>>
(applause)

D: All right. Panel, we can tell you that Mr. Ozawa is self employed, and deals in a service, and we’ll begin our general questioning with Arlene Francis.

Arlene Francis : Mr Ozawa. Is that the correct pronunciation?
O: Yes.
F : Mr. Ozawa. Is the service that you do, is it something that can be enjoyed by any of the members of the panel?
O: Yes.
F : Is it a service that has some entertaining aspects to it?
O: Yes.
F : Oh. Would you say, Mr. Ozawa, that you are a performer?
O: Yes.
F : Are you a performer in your country on television?
D: Sometimes.
O: Sometimes…
F : Do you ever perform in a quiz program?
O: No.
D: That’s one down. Nine to go. Mr. Cerf.
Bennett Cerf: Mr. Ozawa. Do you ever perform outdoors?
O: Yes.
C: When you perform outdoors, would it ever be in some form of athletic endeavor?
O: No.
D: No. That’s two down and eight to go. Miss. Kilgallen
Dorothy Kilgallen: Would you perform from indoors, too?
O: Yes.
K: Is there any music involved in what you do?
O: Yes.
K: Do you play a musical instrument?
O: No.
D: That’s three down and seven to go. Mr. Allen.
Woody Allen What's my line?Woody Allen: Uh… Do you perform that thing you do ….uh… by yourself?
D: performance he alone in the
A: Yes. Is there a one man act that you do?
O: No.
D: That’s four down and six to go. Miss Franklin.
F: Then, there are, Mr. Ozawa, other people associated with you when you are performing? Is that correct?
O: Yes.
F: Is music used when you are performing?
O: Yes.
F: Is there movement associated with what you do?
O: What?
D: Movement associated with what...I would think we could agree there was movement associated with that you do?
O: Yeah.
F: Is this, however, not the ballet?
O: No.
D: Yes, it is not the ballet. No.
F: It is not the ballet. Is there anything about what you do that, ………., requires a certain dexterity… or skill in the performance?
O: What?
D: Certain dexterity or skill in the performance? I would…, I would agree that these elements as you are pronouncing them are necessary in one degree or another.
F: Is there…… Do you use uh….. any accessories in your performance other than yourself?
O: Oh… I use… Yes, I would…Yes.
F: Um…Are the things that you use recognizable to American audiences?
O: Yes.
F: Yes? Are these things something you might hold in your hand?
O: My hand?
F: The …. the instrument or the accessories would it be something you hold in your hand?
(D: The things you are…?? )
O: Yes.
F: Yes? Also are you ever off the ground?
(laughter)
O: what!? (Laughs)
D: Are you ever off the ground? (Laughs)
O: No.
D: I think we say no to that. Five out of five. Mr Cerf.
C: Mr. Ozawa. Would your…the act that you do…in the company that you perform, be more apt in a circus or a carnival, or a state fair?
O: Yes.
C: Is the music that is part of your act, is it essential to the act rather than just the background? Do you do some kind of dancing or singing then?
O and D: No.
D: Six down four to go. Miss. Kilgallen.
K: Mr. Ozawa. Do you ever turn your back to the audience?
O: What did she say?
小澤 What's my line? 4D: Do you ever turn your back to the audience?
O: No.
D: You know, to the audience.
O: Oh. Yes, yes.
(D: Yes.)
K: When you turn your back to the audience, are you facing people who are making music?
O: Yes.
K: Are you a conductor?
O: Yes!
D: I must say, just for fun we'll ?slip/skip? all the cards, and I know now I'm going to refresh your memories. Seiji Ozawa won the Koussevitzky Prize at Tanglewood in 1960. Was assistant conductor of the philharmonic under Bernstein in the 1961-62 season, I believe.
O: Yes.
小澤 What's my line? 5D: Is a conductor of international reputation now, and is going to conduct here in New York at Louison Stadium on Wednesday or Thursday is it, this week?
O: Tuesday and Wednesday.
D: Tuesday and Wednesday at Louison, this week. I suppose one of the memorable television programmes, one of the many memorable ones, with which the New York Philharmonic Orchestra was associated was the one that was done in Japan, and all of us that saw that will remember Mr Ogawa and his work very well. Very nice to have had you with us, Mr Ozawa.

I like cards I know refresh memories Seiji Ozawa, one of the Koussevitzky prize, Tanglwood in 1960. assistant conductor of the philharmonic of Bernstein, 196I and 1962, I believe? conductor of international reputation. Now conduct her in New York stadium, on Thursday this week?
O Tesday and Wednesday
D: Tuesday and Wednesday in Stadium this week. I suppose one of the memorable television programs, one of the many memorable ones, which is New York Philharmonc Orchestra with…. associated with from Japan. All of us who saw that remember Mr. Ozawa. Well very nice to meet with us

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K記者の英語嫌いの理由は...。

2014年07月11日 | シリーズ:日本人の英語

K記者の英語嫌いの理由は...。

ドンキホーテ


新聞記者は公人なので、固有名詞を出していいかなと、とも思いましたが、直接面識がないので、K記者としておきましょう。

ドンキホーテを語りながら、自由闊達に現代と思想を語る連載エッセイの最近回の末尾に、このような一節がありました。

こんな私が平成日本でもっとも哀れに思うのは、「世界市民」でありたいと口にする人々である。そして、英会話学校の広告を目にするたびにこうつぶやく。「英語は金もうけしたいやつらにまかせておけ。オレは魂の問題を考えているのだ」

そして、その末尾の文章の直前には、このような一節。

 近代とは抽象の時代と言い換えてよいだろう。現実に生起する複雑な事象を抽象化し、合理的・効率的に判断する。それが科学技術の猛烈な発展を促した。それは慶賀すべきことではあるが、「肉と骨の人間」までも抽象化され、観念的な存在として捉えられるようになった。マルクスの階級理論などはその典型ではないか。こうした近代化の流れに強い危機感を抱いたからこそ、ウナムーノは《発明は彼ら(英米人)にまかせておけ》と言い放った、と私は思っている。

なるほど。「英語」は、血肉を伴わない抽象的な近代の象徴なのです。血肉を伴わないから、「金儲け」があからさまに感じられる、品のない「英会話学校」の広告に嫌悪を覚えるということでしょう。まことに健全な感覚だと思います。ちなみに、ウナムーノとは、スペイン人であることを深く考えた哲学者。『ドン・キホーテとサンチョの生涯』(1904)で著名です。

ところが、このコラムの二回後には、Kさんは同じシリーズ、インド映画「マダム・イン・ニューヨーク」についてこんな感想を述べています。

マダム イン ニューヨーク(英語ができない主人公の)目に飛び込んできたのが、「4週間で英語が話せる」という英会話学校の広告だった。各国からやってきたクラスの仲間とともに英会話を学びながら、彼女はひとりの人間として自信を取り戻していく…。

(------) 

日本の英会話学校の広告を見て、拒絶反応を起こす自分が、どうしてこの映画を素直に受け入れることができたか。それは彼女の動機に金もうけをしたいとか、知的アクセサリーを増やしたいといった物質主義の匂いがなかったからかもしれない。

元来、他国語の学習は、理解できない、伝えられないという大きな壁を越えようとする崇高は人間の試みなのです。キリスト教徒であれば、バベルの塔が崩壊したと神が人間に課した試練というでしょう。どの学問分野を極めるのにも劣らない努力です。それは、他者を理解し、理解してもらうという人間が生まれてから背負っている課題と連続しています。その点で、いつも述べているように、国語の学習と英語の学習は連続してるのです。「英会話」なるものが日本社会で帯びたヴェールを取り去って、言葉の本質に気がつかせてくれたのが、この映画なのでしょう。私も見てみようと思います。




 

 


シリーズ 日本人の英語:京都大学ネット講座の英語発信力

2014年06月02日 | シリーズ:日本人の英語

シリーズ 日本人の英語:京都大学ネット講座の英語発信力

斉藤博 肖像日本人の英語力のシリーズは、戦前の駐米大使、斉藤博からスタートしました。

今回は、現在第一線で活躍している方をご紹介しましょう。京都大学のOCW / deX講座、つまりインタネットでの発信している、英語での講義です。まず、下のサイトをご覧ください。




KyotoX: Chemistry of Life: 001x About Video

course trailer (01:52)

初めて見る方は、大変速いスピードで流暢に話しておられることに驚かれるかも京都edX新聞しれません。「日本人の英語もここまできたな」、とか「日本人離れした英語」という言葉が聞こえてきそうです。

でも、英語学習者の諸君。あなたもで、この先生のように話せるようなりますよ。

「まさか!」

あ、影の声ですね。いえいえ。、もう一度このcourse trailer(講義の予告編)を見てください。この先生の英語は、米国などで育った方の英語ではありません。日本で学んだ英語です。最後はアメリカで磨きをかけたとは思いますが。今までに紹介した、戦前の斉藤博さん、最近では、坂茂さん、それに、サッカー選手の本田圭介さんもそうですが、発音はいかにも日本風です。小林克也さん(小林さんに英語は日本仕込だそうですが)や、ディスクジョッキーの方たちの英語とは違います。

速く話せるということは、単に、「できる」とか「格好いい」というこということではあ京大edXりません。この位の速さで話すと、はじめて、間をあけたり、強調したり、伸ばしたりしてメリハリがつけられるのです。昨年のオリンピック招致の安倍首相は、佐藤選手はがんばりましたが、残念ながらそこまでは達していません。


今回は、英語を話す際の速さと、英語の語順で考える、という二点について触れます。


坂茂 TED一定以上のスピードで話すように努めるということは重要であるにも拘わらず、他国の英語学習者に比べると、日本の英語学習に欠けている視点であるように思えます。いや、もちろん、最初はゆっくりでいいのですよ。でも、速く話すように努力することを後回しにしていないでしょうか。

でも、速くなること自体が目的なのではありません。普通の人間の思考と討論の速さになるように努めるということが目的です。少ない語彙でいいのです。しかし、英語学習の最初の段階から、繰り返し練習し、同じことでも、通常の言語活動のスピードで話せるようにすることをちょっと意識してほしいと思います。

また反論が聞こえてきそうです。

「速く話すより、内容がだいじでしょう。」

もっともな意見です。しかし、外国語を学ぶということが、自分とは異なる人を理解し、その人に伝える、ということの延長だとしたら、相手の話す速さに合わせるようになる、ということも相手の言語を理解する行為の一部ではないでしょうか。相手は待っていてはくれません。

速さということが無視されがちなのは、日本では、外国語学習がリーディング中心の英語の学習だったことと関係があるのでしょう。読む速度は自分で調整できます。加えて、漢文の読み方に影響されたのでしょうか、訳出中心であったことも関係があったと思います。「速読」というのが流行っていますが、これはちょっと違う動機によるものです。相手とのコミュニケーションをよりよく行うためにこそスピードが必要だというのとは、少なくとも違います。


もうひとつの問題は、「語順」です。よく日本人より中国人の方が、英語が得意であることの理由として言われることですが、中国語との関係は私にはよく分かりません。しかし、語順というのは、単に言語の問題というより、思考法に関係があるということに注目する必要があると思います。「私はシュークリームを食べた。」と"I ate some cream puffs."くらいの短い文ではあまり問題は現れません(SOV型と、SVO型の違い)。ですから日常会話の応答の場合では、あまり問題にならないのですが、まとまった内容を読み、聴く、そして話す場合に問題がのしかかってきます。

たとえば、最近、英語教室で扱ったBBCのWords in the Newsのなかの二つの文を比較してください。(例文として十分適切かどうか、もう少し検討する余地のあるものですが...。)


(1) The pilot whales have been found on the beach at Paponga beach in New Zealand this week.

「パイロット鯨は、今週、ニューージーランドのパポンガ・ビーチの砂の上で見つかっている。」

(2) The sport, which is over one thoudand years old, requires extreme commitment.

「千年以上になるそのスポーツは極度の集中(積極的関わり)を必要とする。」(お相撲のことです)



(1)は、最初の三語の組み合わせを除けば、あとの要素は日本語とちょうど逆の順序です。英語のABCが、日本語ではCBAになるようなものです。(2)は、というと、英語のABCが、BACになります。

実は、レッスンでは、(1)はみなさん、かなり早く覚えられます。(2)は少し時間がかかります。たしかに、(1)も日本語と順序が違うのですが、「ひっくり返す操作」は一回で済みます。「全部逆ですから、それでお願いしま~す、と一度言えばいいわけです。ところが(2)の場合は、二回ひっくり返す必要があります。「最初、逆でお願いします。その後、元に戻りま~す。」という感じ。(2)の方が時間がかかるのは、こうした語順による「ストレス」が関係しているのではないでしょうか。実際の言語活動ではこれがもっと複雑になり、日本人にとっては目に見えない大きなストレスになりうるのではないかと思います。(実験で確かめたいのですが...。)

ですから、いちいち頭の中で語順を変えていては間に合わないわけで、最初から語順 イラスト考える順序を変える必要があります。「単に言語の問題というより、思考法に関係がある」と言うのはこのことを指しています。

このことは、英語学習の最初の段階ではあまり問題にならないでしょう。中級以上になった場合に、壁になると思います。この壁と、先ほどのスピードが課題です。

しかし、こちらの壁は、案外、日本にいても、そして、自分ひとりでも訓練することができるのではないでしょうか。後者の「語順」は、じつは、会話の機会がなくても、たくさん読むことで養えることだと思います。ですから、大学受験のために英語をしっかり勉強した人が実力を発揮できる能力でもあります。もっとも、受験のための英語学習で英語学習が止まっている人は、「英会話などしゃらくせい」と思っている人が多いので、実力を発揮できないことが多い、と私はj見ています。


京都大学の先生は、まさに、この壁を破ったのだと思います。化学という万国共通の分野で理解し、伝えるために外国人向こうの人と同じ土俵で話し合う過程で京都edX化学②スピードを上げる努力を積み上げ(日本の職場、学校でも外国人に接する機会はあります)、そこに、、「語順の違う言語で考える」という10代の頃の勉強の成果が結びついたのだと思います。もっとも、本人は、意識していないことだと思いますが。


どうでしょう。まだ、この先生のように話せるようにならないとお思いですか。

じつは、もう一つ大きな壁があることをここで白状しなければなりません。それは、本当に相手に分かってもらいたい、分かってもらわないと困る、という気持ちがあるかどうか、です。それなくして、周りの雰囲気と流行に圧されたり、「成功しよう」という気持ちが勝っていると、いずれは破綻、あるいは、ゆがんできて、外からそれが分かるようようになってしまう可能性があります。

この意味で、この最後の壁は、この先生のように話せるようになるための必要条件とも言えます。しかし、一方、十分条件とも言えるでしょう。つまり、しっかり伝えるという意思がはっきりしていれば、ここでの述べた最初の二つの壁は、案外早く崩れると思います。

どうでしょう。皆さん。

「かも...。」

と、思ってくだされば、あとは皆さんの日々の努力しだいです。英語スクールに通う必要はありません。会社や研究室の外国人の同僚と、そして、スマートフォンを使って電車のなかで、明日からでも一歩を踏み出したらどうでしょう。

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edXここまで、書いて、実は、2日前に、各大学の事情の詳しい方に聞いたら、京大でも、この先生は例外的らしいそうです。嗚呼...。権威を確立した先生ほど、コミュニケーション能力に問題あるということもあるとか。昨日には、また別の方から、東大に留学しているドイツ人から「ゼミの先生、ひとりだけは英語が通じるのだけれど、あとの人は通じないで苦労している」と嘆かれたそうです。若い人に期待するしかないですね。


次は、英語の疑問文を作る際の「ストレス」について話しましょう。おっと、また「先送り」になるかもしれませんが。