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核の傘=布施広(論説委員) ほか

2009年06月23日 | スクラップ





 今の日本には英語のvulnerableという形容がぴったりするだろうか。軍事報告などに頻出するこの言葉は、カニが甲羅を脱いだような無防備な感覚を意味する。北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返す中、日本人が甲羅をなくしたような不安を覚えるのも当然だ。

 01年の同時多発テロ後の米国社会にも、今の日本に通じる不安感があった。未曽有の惨事が先行き不安を呼び起こし、全米に愛国心と同時に翼賛的な空気が強まった。そんな空気の中で米国はイラク戦争の泥沼へはまり込んでいったのである。

 8年前の体験を振り返りつつ、こう思う。北朝鮮を想定した敵基地攻撃論や核武装論が浮上しているのは、無理からぬ部分と危険な部分がある。国民の不安をくんだ論議は大事だが、核武装などに国を導けば取り返しがつかない、と。

 守られているという感覚を国民に与えるには、米国の役割が欠かせない。米国のブッシュ前大統領は01年、台湾を「どんなことをしても」守ると述べ、08年には「イスラエルがテロや悪に立ち向かう時は3億700万人の強さになる。米国(人口3億人)が味方する」と語った。

 日本を同列には論じられないにせよ、そんな力強い言葉をあまり聞けない点に日本の一つの問題があると思う。クリントン国務長官が5月、日韓防衛は米国の義務と語ったのは貴重な例外だ。日米安保があるから防衛は自明との意見もあるが、その意思を明言しても悪くはない。

 新たな時代に即した防衛論議も大事だ。北朝鮮の脅威を軸に、今の日本が重大な局面にあるのは確かである。安全保障に関する問題は、超党派的に徹底して考える必要がある。「核の傘」や核抑止などの概念も整理すべきだ。例えば、実に物騒な仮定だが、北朝鮮が日本に核ミサイルを撃ち込んだ場合、米軍は核兵器で反撃するだろうか。

 冷戦期の相互確証破壊(MAD)によれば、核攻撃には核兵器で反撃する。しかし、中国やロシアが日本を核攻撃した場合、同盟国の米国が中露に核ミサイルを撃ち込み、日本のために米露中が滅びる。そんな大国の「自殺行為」はありえないというのが、今や有力な考え方だ。

 では北朝鮮を想定した「核の傘」などがどこまで役立つのか。また、冷戦後の安全保障のかなめとしてブッシュ政権が推進したミサイル防衛(MD)は、日本の安全保障に本当に有益なのか。再検討すべき課題は多い。北朝鮮が新たなミサイル発射を準備しているとされる今こそ、冷静に考えてみたい。



毎日新聞 2009年6月23日 0時07分







敵基地攻撃論 ムードに流れず冷静に


 政府が今年末に改定する「防衛計画の大綱」に向けて自民党国防部会の小委員会が基本了承した提言に、巡航ミサイルなど「敵基地攻撃能力」の保有が盛り込まれた。北朝鮮の弾道ミサイル発射により党内で盛り上がった議論を反映したものだ。

 攻撃兵器の保有は、憲法9条を根拠にした国防戦略である専守防衛のあり方にかかわるほか、近隣諸国との外交や東アジアの安全保障情勢への影響、さらにこれが危機への現実的対応であるかどうかなど検討課題は多い。冷静な対応が必要である。

 政府は、相手国が日本を攻撃する意図を明示し、燃料注入などの準備を開始するなどの条件の下では、敵基地を攻撃するのは法的に可能との立場を取っている。しかし、日米安保体制を基軸に自衛隊が「盾」、米軍が「矛」を担うという役割分担によって、日本は攻撃能力を持つ兵器を保有してこなかったのが現実だ。

 今回の敵基地攻撃論の背景には、米国に「矛」の役割を果たす意図がないのではないか、という日米安保体制に対する懐疑的な見方が横たわっているようだ。これに北朝鮮のミサイル発射・核実験という事態が加わって、「座して死を待たない防衛政策」(提言)という主張は、一見わかりやすいように映る。しかし、ここは慎重な検討が求められる。

 一定の条件下であっても、相手国の攻撃前に敵の基地をたたくことは「防衛目的の先制攻撃」である。事実上、専守防衛原則の見直しに他ならない、との指摘がある。専守防衛は、日本が戦前の反省に基づいて平和国家の道を歩むことを対外的に明確にする役割を果たしてきた。この見直しにあたっては、特に近隣諸国との外交に及ぼす影響について精査しなければならない。

 また、攻撃兵器の保有は、安全保障上の抑止力を高める目的であっても、結果的に相手国が軍備増強で対抗することで軍拡競争を生むという「安全保障のジレンマ」を引き起こす懸念がある。東アジア情勢を不安定化させる可能性を否定できない。

 さらに、防衛上の有効性という現実的な問題もある。相手国の攻撃の意図と準備の見極めは簡単でない。その情報をどうやって得るのか。ほぼ日本全域を射程内に置く北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」は、山岳地域の多数の地下施設に配備され、移動して発射される。燃料注入などを察知して先制攻撃で破壊するやり方は移動式弾道ミサイルには有効でないというのが専門家の見方である。

 具体的な危機には、日米同盟の文脈の中で対処するのが筋であろう。「防衛計画の大綱」は近く行われる総選挙後の新政権が閣議決定する。地に足をつけた議論を求める。


 

毎日新聞 2009年6月1日 0時19分(最終更新 6月1日 0時54分)







北朝鮮が再核実験 安保理は断固たる対応を


 北朝鮮が「再度の核実験に成功し核兵器の威力をさらに高めた」と発表した。各国の観測データは、十分な成功ではないとの見方が強かった06年の実験より、はるかに強い爆発が起きた可能性を示している。

 発表通りの核実験なら国際社会のルールを無視した暴挙であり、決して容認することはできない。先月の弾道ミサイル発射の際には「人工衛星を打ち上げた」と偽装の努力もしたが、今度はそんな遠慮さえない。前回の核実験を受けた国連安全保障理事会の制裁決議への違反には、一点の疑問の余地もない。

 


■明白なルール違反

 麻生太郎首相は「断じて容認できるものではない。まずは安保理から始める」と語り、韓国の李明博(イミョンバク)大統領との電話協議では国際社会が北朝鮮に厳しく対応すべきだという認識で一致した。日米韓の連携も改めて確認した。もっともなことである。挑発的なルール違反に、安保理は断固たる姿勢で臨むべきだ。

 ただ国連レベルでの対応には限界もある。北朝鮮の核問題を扱う6カ国協議は行き詰まっているが、結局はその構成国が実質的な利害関係者と言える。そして事態を打開するには、北朝鮮の意図を冷徹に見定め、的確な対策をとる必要がある。

 北朝鮮は東西冷戦終結に伴うソ連・東欧社会主義圏の崩壊を機に、体制の生き残り戦略を大転換させた。その核心は、米国との関係正常化による安全保障である。クリントン政権時代の北朝鮮に有利な「米朝枠組み合意」や、ブッシュ政権末期に獲得したテロ支援国家指定の解除は、そうした戦略の一環と言える。

 北朝鮮はオバマ政権にさらなる譲歩を期待した。しかし新政権の対北朝鮮政策やスタッフの陣容は整備が遅れ、早期の米朝直接交渉に消極的な姿勢が続いている。北朝鮮にとっては当て外れであり、最近はオバマ政権への直接的な非難を始めた。

 北朝鮮のミサイル発射や核実験には、もちろん核ミサイルという戦略兵器確保の狙いがあり、国内向け宣伝の意味もある。最近の強硬一辺倒の動きは、金正日(キムジョンイル)総書記の健康問題や後継体制の準備に関連したものとの見方も有力だが、外交的には「早く交渉せよ」という対米メッセージの意味合いが強い。

 米朝間では、北朝鮮に抑留中の米女性記者2人の解放について水面下の接触が行われている。場合によっては、これが核とミサイルを巡る交渉に発展する可能性もあろう。

 ただ米国にとって北朝鮮はさしたる脅威ではない。核兵器がテロ集団の手に渡るような事態を封じることを条件に、北朝鮮の核保有を黙認するのではないか。そんな観測も流れている。北朝鮮の脅威に直面している日本としては、とうてい受け入れられない。今回の実験に関する追跡調査によって、北朝鮮の核兵器の能力が向上したという事実が確認されれば、なおさらである。

 オバマ大統領は究極的な核兵器廃絶を目指す方針を示した。それならば、まず北朝鮮の核の脅威を完全除去するという具体的な目標達成に尽力してほしい。同盟国日本の懸念だけが問題なのではない。北朝鮮の核保有を小規模であれ事実上認めるような事態になれば、他の国も同様に国際ルールを無視して核開発に走る危険を排除できまい。

 


■狙いは対米関係改善

 改めて言うが、北朝鮮の最大の狙いは米国との関係改善なのだから、この状況を活用して北朝鮮を非核化に導くことも不可能ではないはずである。6カ国協議の枠組みを再稼働させる努力も必要だ。

 一方、中国もこれまで以上に強い姿勢で対処すべきである。北朝鮮はますます中国への経済的依存度を高めている。食糧、エネルギー面で、中国の助けなしには生存できない国と言える。ところが中国はこれまで北朝鮮への強い影響力を持たないと説明してきた。

 実際には、北朝鮮へのエネルギー供給を調節するといった方法で圧力をかけたことがあるようだ。表立って北朝鮮の体面をつぶし、事態を悪化させる必要はない。ただ、国際ルールを無視すれば利益より損害が大きいという事実を理解させるべきである。説得の役割を果たせるのは、さしあたり中国しかあるまい。

 北朝鮮は「先軍政治」と称する軍事優先の統治を掲げ、先の最高人民会議では憲法の一部改正などを行った。内容は公表されていないが、金総書記が委員長を務める国防委員会の権限を増強したようだ。公式報道機関は、日本や韓国に対する激越な非難を連日のように続けている。

 異様な体制ではあるが、核兵器を使えば北朝鮮も破局を迎える。日本政府も国民も北朝鮮の暴挙に過剰反応せず、米中や韓国との協調を重視しつつ対応していくこと。それが当面、最善の選択肢であろう。

 

 

毎日新聞 2009年5月26日 0時14分



 

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