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能登の「外国人窃盗」デマ、どう広がった SNSで避難所の会話変質

2024年02月25日 | スクラップ

 

 

 

 能登半島地震の後、被災地で「外国人の犯罪」についての根拠不明の情報が広まった。取材を進めると、当初は口づてだった情報がSNS上に広まり、その形すら変えながら拡散されていく様子が見えてきた。(平川仁、根岸拓朗)

 

 


■「マイクロバスで窃盗」

 

 中国人がマイクロバスで来て、窃盗をしている――。1月3日夜、被災地の集落の住民の間で、そんな情報がLINEを通じて広まった。石川県警に2月上旬、取材したところ、集落がある自治体で、こうした犯罪は確認されていないという。

 

 なぜ、どこから情報が広がったのか。発信元を探ると、最初に投稿したのは、地元消防団の分団長を務める40代男性とみられることがわかった。男性が2月、朝日新聞の取材に応じた。

 

 元日の地震当日は、別の自治体にある妻の実家で被災。車で高台に避難し、車中で夜を過ごした。翌日に集落に戻り、消防団の活動で、断水したトイレに使う水くみや地域の巡回、住民の安否確認などに追われた。睡眠不足も重なり、疲れ切っていた3日午後8時40分ごろ。避難所で中年の女性が訴えてきた。「中国人がマイクロバスで窃盗をしているらしい。情報を流して巡回をしてほしい。今すぐやってもらわないと、どうなるか分からない」

 

 

 

■LINEグループに送信

 

 道路状況が悪いのに、外からマイクロバスで入れるのか。でも、もし本当だったら――。

 

 聞いた話をスマホで打ち込んだ。「マイクロバスで中国人、窃盗」「大至急、拡散してください」。集落の住民や団員で作るLINEグループに送った。その後、団員とポンプ車で巡回に出た。「何かあった場合」のため、車内の工具箱にあったバールとハンマー、竹ぼうきを運転席の近くに置いた。ただ、不審な人物は見かけなかった。

 

 情報は、集落の中だけにとどまらなかった。 約30分で巡回を終え、消防団の小屋に戻った後、一緒にいた団員が、先ほどのLINEメッセージがX(旧ツイッター)で拡散されていることに気づいた。団員が4日未明に「誤報だったようです」と訂正する投稿をしたが、拡散はすぐには止まらなかった。

 

 

 

■加えられていた「車の画像」

 

 県内の30代の女性は3日午後10時15分ごろ、友人からのLINEで「メッセージを拡散してほしい」と頼まれた。送られてきた画像に「中国人」「窃盗」の言葉が並んでいて少し戸惑ったが、コピーして、自身のXのアカウントで投稿した。

 

 この画像は分団長のLINEメッセージだった。しかし、女性が受け取った段階では、分団長のメッセージになかった銀色のバンの画像、「不審車両」という車のナンバーを示す画像なども、何者かに追加されていた。女性はこれらの画像を「インスタグラムでも見かけた」という。

 

 女性の住む地域で地震の被害はほとんどなく、当時は「何かできることはないか」と、SNSの情報を常に見ていたという。翌日、根拠が乏しかったことに気づいて削除した。少しでも怪しいと思う情報は拡散しないよう、気をつけるようになった。「伝えなきゃいけないという正義感のような気持ちで、内容を疑わず投稿した。人間の心理はもろいなと思います」

 

 分団長は取材に「地域を守るためには、ウソかもしれなくても注意を呼びかける必要があった」と振り返りつつ、「冷静に判断できる状態ではなかった。今後は事実と確認できないものは拡散しないようにしたい」と話した。

 

 

 

■デマが広がる二つの理由

 

 デマの拡散は過去の災害でも繰り返され、1923年の関東大震災では朝鮮人の虐殺につながった。なぜ災害時には広がりやすいのか。

 

 日大の中森広道教授(災害情報論)は「原因は人々の潜在的な不安と、情報不足」と指摘する。自宅に住めなくなるなど不安を抱え、通信状況が悪く、行政やメディアなどからの情報も届きにくい時に、ふとしたきっかけで「誰かが家に入って盗みを働く」などと話が作り上げられる。聞いた人は1人で抱えていると不安が募るため、他者と共有して安心感を得ようとする傾向があり、拡散されるという。

 

 デマには一定のパターンがある。「外国人による窃盗」のほか、「断水になる」「携帯電話がつながらなくなる」「地震は予言されていた」といった内容は、過去にも繰り返し見られたという。

 

 

 

■削除だけでなく「打ち消し」も必要

 

 能登半島地震後も、SNSでは偽の救助要請や「人工地震」、避難生活に関するデマなどがみられた。総務省はSNS上の偽情報対策として、プラットフォーム事業者に削除などの「適正な対応」を求めた。

 

 中森教授は「削除にも一定の効果はあるが、それだけで十分ではない」と指摘。「○日にまた大きな地震がくる」という根拠のない情報があれば担当する気象庁が否定するなど、「間違いであることをはっきり示す『打ち消し』の発信を増やすことが必要だ」と話す。

 

 ただ、災害直後の被災地の状況に関わる内容だと、行政や警察、メディアなどがすぐに事実を確かめて発信するのが難しい場合もあり、個々人がリテラシーを高めることも欠かせないという。「過去のデマの具体例を知っていると、拡散を踏みとどまることにつながる。事例を集めたサイトを作っておくことも有効なのでは」と話した。

 

 

 

朝日新聞デジタル
平川仁 根岸拓朗

2024年2月23日 19時00分

 

 

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