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人権とは「思いやり」ではない 異質な人への尊厳を大切にするために

2024年01月08日 | スクラップ

 

 

 

 貧困や女性差別、外国人差別などから浮かぶのは、日本社会に引かれた見えない分断線だ。分断を超えて、状況を少しでもよりよく変えるためには何が必要なのか。「武器としての国際人権」(集英社新書)の著書があり、国内外で活動を続ける英国エセックス大学人権センターフェローの藤田早苗さんに話を聞いた。

 

 

 

 ――貧困や差別など日本社会には見えない分断線が引かれている気がします。

 

 「ふだん英国に住み、日本に来ると各地で大学での講義や一般の講演活動を続けています。昨年12月半ばにあった講演会にトランスジェンダーの方が来られ、私の書いた『武器としての国際人権』が支えになって『自分は生きていてもいいんだと思えるようになった』と言われました」

 

 「別の講演会では、子どもの頃から『おまえなんか生まれてこなければよかった』と親に虐待されてきたという参加者がいて、こう言うんです。『自分には人権がある、人としての尊厳があるんだと初めて本で知り、助けられました』」

 

 

 

 ――追い込まれている人がたくさんいて、藤田さんの本を読み、励まされ、話を聞きに来ている、と。

 

 「ショックでした。人権とは、一人ひとりをかけがえのない個人としてリスペクト(尊重)するということでしょう。日本ではそういう価値が十分根付いていないという問題があるようです。人権とは何かという基本が学校で教えられていないことが原因の一つだと考えています。優しさや思いやりを養うことがあたかも人権教育だという考えが根強く、人権の内容について教える本来の人権教育がなされていないことが問題の一つだと思います」

 

 

 ――どういうことでしょうか。

 

 「私はこれを『優しさ・思いやりアプローチ』の教育と呼んでいます。思いやりの気持ちが向かうのはもっぱら、自分が仲間だと感じている人、助けたいと思える人でしょう。しかし、人権を持つという点では仲間であってもなくても同じです。だれにでも普遍的な人権があり、あらゆる人間の尊厳が大切にされるべきであるという視点が、このアプローチからは抜け落ちてしまいます」

 

 「人権感覚が欠如すれば、自分と異質な人たちや偏見を抱く相手に対して、違う態度で接し、差別的な扱いをする傾向が生まれがちです。例えば、日本の入管の収容施設という閉ざされた空間では、外国人に対する暴行など人権侵害が繰り返されてきました。1960年代に法務省の高官が『(外国人は)煮て食おうと焼いて食おうと自由』と本で書き、国会で問題になりましたが、その意識が変わっていないのではないか、とさえ思えてきます」

 

 

 

■「クリティカル・フレンド」の忠告

 

 ――日本の人権状況について、国連の人権機関や専門家から繰り返し、懸念が表明されたり、勧告が出されたりしてきました。

 

 「驚くのは、日本政府は勧告にまったく耳を傾けようとしないことです。2021年に国会提出を断念した出入国管理法(入管法)改正案に対し、国連人権理事会の3人の特別報告者などが国際人権基準に照らした問題点を指摘したところ、当時の上川陽子法相が 『一方的な見解で、抗議せざるを得ない』 と反発しました。『クリティカル・フレンド』(批判もする友人)である特別報告者の勧告を無視して、国際社会で信頼と評価を得るのは難しいでしょう」

 

 

 ――「クリティカル・フレンド」とは何でしょう。

 

 「相手のために耳の痛いことでも忠告してくれる友人という意味です。国連人権勧告は友人による建設的な忠告と受け止めるべきなのに日本政府はそれができない。部活動の先輩やコーチから的を射た忠告を受けたとき反論や無視をしますか。多くの国連加盟国は勧告に真摯(しんし)に向き合い、建設的に対話を重ねています」

 

 

 ――一人ひとりが生きやすい社会にするため「人権のレンズ」を通して見ることが大切だと著書で書かれています。分断を超えていく力になりますか。

 

 「世界人権宣言の起草に重要な役割を果たした、エレノア・ルーズベルトがこんな言葉を残しています。 『普遍的な人権は、ごく身近な小さな場所、世界のどんな地図でも見つけられないほど身近で小さな場所から始まる』。 私たち一人ひとりの身近なところから、人権が根付く大地を養っていくことが大切です。そのためにもまず、人権のレンズを通して見ることのできる人を育てるための教育に取り組んで欲しい」

 

 「メディアの責任も大きい。例えば、弱者の問題を取りあげるとき、お涙ちょうだいではなく、人権という普遍的な基準に照らして何が問題かを伝える。政府が人権を保障する義務を果たしているのか、権力を監視するパブリック・ウォッチドッグとしての役割をもっと自覚すべきです」

 

 

(聞き手 編集委員・豊秀一)

 

     ◇

 ふじた・さなえ 英国エセックス大学人権センターフェロー。専門は国際人権法。日本の人権状況改善のために国内外で活動する。著書に「武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別」(集英社新書)など。日隅一雄・情報流通促進賞奨励賞受賞(2023年)。

 

 

 

聞き手 編集委員・豊秀一
朝日新聞デジタル
2024年1月7日 17時00分

 

 

 

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