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災害での死者数は、なぜ女性の方が多いのか

2024年01月02日 | スクラップ

 

 

 

全国自治体の防災対策を検討する地域防災会議のメンバーは圧倒的に男性が多い(写真は台風19号に備えて長野で開設された避難所) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

 

 

<地域の防災計画の策定にもっと女性が参画しなければ、女性が「災害弱者」となる現状は改善しない>

 

今月台風19号が猛威を振るい、各地に甚大な被害をもたらした。死者数は83人と報じられている(10月21日時点)。年齢では高齢者が多いと見られ、体力が弱って避難がままならず、スマホ等での情報収集にも慣れていないことが要因になっているのだろう。

 

男性より女性の死者が多いのは、多くの災害でみられる普遍則だ。2004年のスマトラ沖地震の死者を、インドネシアのアチェという村で調査したところ、女性は男性の3倍で死者の8割が女性だった地区もあるという(大倉瑶子「女性の死者が8割を占めたケースも。災害の死者に女性が多い背景とは」BUSINESS INSIDER、2019年9月1日)。

 

その要因として、女性や女の子は木登りや水泳に慣れておらず、サバイバルの手段が男性に比して劣っていた、また家族の面倒をみていて逃げ遅れた、ということが挙げられている。災害の死者数の性差は偶然ではなく、社会の文化・慣習、ジェンダーの問題も含んでいる。

 

ここまで極端ではないにせよ、日本でも同じデータがある。1995年の阪神・淡路大震災の死者は男性が2713人、女性が3980人だった。2011年の東日本大震災の死者は男性7360人、女性8363人でこちらも女性の方が多い。

 

高齢者に女性が多いためと思われるかもしれないが、実際にはそうではない。<表1>は、性別・年齢層別の死者数を整理したものだ。

 

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ほとんどの年齢層で、男性より女性の死者が多い。右端の女性比率をみると50%超が多くなっている(赤字)。

 

生産年齢層の死者が「男性<女性」となっていることはベース人口の性差では説明がつかない。震災発生時に在宅率が高く、家の下敷きになったり、育児や介護をしていて逃げようにも逃げれなかった――。そんなケースが男性より女性で多かったと推測される。

 


避難所を忌避する女性が多かったことも考えられる。先日の台風19号の際、ツイッター上で「プライバシーがなく、雑魚寝の避難所には行きたくない」「レイプ被害と隣り合わせ」といった書き込みが散見された。女性と思われる投稿者によるものだ。2016年の熊本地震の避難所で、10代の少女がレイプ被害に遭う事件が実際に起きている。

 

女性からすれば、公設の避難所は危険であると同時にストレスが多い場所でもある。女性用トイレは男性用の3倍必要というのが国際標準だが、これを満たす避難所はほぼ皆無だ。更衣や入浴等の気苦労も多い。生理用品等のニーズも、男性の運営責任者には言い出しにくい。

 

災害時の避難所生活のニーズには性差があり、それに応えるには、防災・減災行政に携わる人に女性が増える必要がある。各自治体には、地域防災計画の策定・実施を担う地域防災会議が置かれているが、委員の女性比率は低い。都道府県・市町村会議の委員は全国で4万8397人いるが、うち女性は4275人、8.8%でしかない(2018年4月1日時点)。地域差もあり、47都道府県の数値を高い順に並べると<表2>のようになる。

 

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最も高い鳥取県でも18.9%で2割にも及ばない。女性がほんの数パーセントしかおらず、避難所の運営方針も含めた防災計画の策定が、ほぼ男性だけで行われている県もある。これでは被災者のニーズの性差を反映した計画の立案は難しい。

 

災害の直接的・間接的な影響で命を落とす比率には性差があり、それは偶然ではなくジェンダーの問題による部分が大きい。命のジェンダー差はデータではっきりと分かる。防災・減災の政策の立案に際しては、ジェンダーの視点が欠かせない。

 

求められるのは、政策を決めるプロセスに関わる女性を増やすことだ。普段から、偏狭な性役割分業をなくしておくことも必要だ。避難所の共同生活の炊事・洗濯等は、もっぱら女性が担わされているという現状もある。学校等での防災訓練の際には、性別での役割分担をしないように注意することも必要だろう。

 

 

<資料:内閣府『男女共同参画白書』(2012年版)、
    内閣府『防災白書』(2019年版)>

 


2019年10月23日(水)13時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

 

 

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