五条内裏には、妖物ありけり。藤大納言殿語られ侍りしは、殿上人ども、黒戸にて碁を打ちけるに、御簾を掲げて見るものあり。「誰そ」と見向きたれば、狐、人のやうについゐて、さし覗きたるを、「あれ狐よ」とどよまれて、惑ひ逃げにけり。
未練の狐、化け損じけるにこそ。
<口語訳>
五条の内裏には、妖物(ばけもの)いた。藤大納言殿語られましたは、殿上人ども、黒戸で碁を打ってたら、御簾をかかげて見るものある。「誰ぞ」と見向いたらば、狐、人のようについ居て、さし覗いてるのを、「あれ狐よ」とどよまれて、惑い逃げた。
未(熟)練の狐、化け損じたからこそ。
<意訳>
藤の大納言様が語られますには、かって五条の内裏には妖怪がいたそうだ。
夜に黒戸で殿上人たちが碁を打っていると、御簾をかかげて覗いているものがいる。
「誰ぞ?」
と見向けば、狐が人のように突っ立って覗いていた。
「あれ狐よ!」
と、みな叫んで逃げだした。
未熟な狐が、化け損じたらしい。
<感想>
背筋を伸ばし2本足で直立する千葉市動物公園のレッサーパンダ「風太君」。
ほどには狐は直立出来ないだろうから、犬がチンするかんじで立っていたのだろう。
例えるなら、深夜に仲間が集まって徹夜で麻雀していたら、ふすまのカゲから誰かが覗いている気配がする。
「誰だ?」と振り向いたら、狐。
そしてそれは狐が人に化けそこなったものであるらしい。
原作 兼好法師