『一谷嫩軍記』のクライマックスと言うべき『熊谷陣屋』は、しばしば上演される演目だが、
国立劇場では今回、その前に序幕として98年ぶりに復活した堀川御所の場、
二幕目として37年ぶりの兎原里林住家の場(流しの枝)をつけ、三幕目の生田森熊谷陣屋の場を盛り上げた。
團十郎の直実が実に良かった。
義経の命を受け、実子・小次郎を殺し、平敦盛の首と偽る直実。
胸に秘めた悲嘆が「御賢慮に叶ひしか。但し、直実過りしかサ御批判いかに」と義経を見る際にあふれ出す。
これを受ける三津五郎の義経がまた、何とも気品があり、
かつ、真相を知る者の深い苦悩を備えていて、見事だった。
最後、「十六年」を虚ろに、そして次にゆっくりと、絞り出すように声に出した團十郎の直実。
花道を去る際に見せるその絶望感は、果てしないほどに深い。
現世とは、なんと恐ろしい、業に満ちた世界なのだろうか。
魁春の相模も、愛情深さと、息子を失った悲しみを、よく表現していた。
彌十郎の弥陀六も、源平の因縁の中での複雑な立場をしっかり語っていた。
現在、歌舞伎界では新勘九郎襲名披露興行が大きな話題であり、
かく言う私も先月は演舞場での襲名披露の舞台に涙し、今月も平成中村座に参る予定だが、
国立劇場でも、派手な話題はなくとも、味わい深い舞台が展開されていることを記しておきたい。
国立劇場では今回、その前に序幕として98年ぶりに復活した堀川御所の場、
二幕目として37年ぶりの兎原里林住家の場(流しの枝)をつけ、三幕目の生田森熊谷陣屋の場を盛り上げた。
團十郎の直実が実に良かった。
義経の命を受け、実子・小次郎を殺し、平敦盛の首と偽る直実。
胸に秘めた悲嘆が「御賢慮に叶ひしか。但し、直実過りしかサ御批判いかに」と義経を見る際にあふれ出す。
これを受ける三津五郎の義経がまた、何とも気品があり、
かつ、真相を知る者の深い苦悩を備えていて、見事だった。
最後、「十六年」を虚ろに、そして次にゆっくりと、絞り出すように声に出した團十郎の直実。
花道を去る際に見せるその絶望感は、果てしないほどに深い。
現世とは、なんと恐ろしい、業に満ちた世界なのだろうか。
魁春の相模も、愛情深さと、息子を失った悲しみを、よく表現していた。
彌十郎の弥陀六も、源平の因縁の中での複雑な立場をしっかり語っていた。
現在、歌舞伎界では新勘九郎襲名披露興行が大きな話題であり、
かく言う私も先月は演舞場での襲名披露の舞台に涙し、今月も平成中村座に参る予定だが、
国立劇場でも、派手な話題はなくとも、味わい深い舞台が展開されていることを記しておきたい。