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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 2026年度高校新教科書(地歴・公民)の特徴と検定結果

2025年07月21日 | こども危機

  《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
 ★ 政府に都合のよい記述への修正が目立つ

糀谷陽子(こうじやようこ・子どもと教科書全国ネット事務局長)

 2026年度から使用される高校の新教科書と検定結果の公開が始まりました。
 高校新教科書の検定では、専門教科を除いた11教科236点が申請し、6470件の検定意見がついて修正された後、すべてが合格しました。
 意見の数は、現行の学習指導要領による教科書の最初の検定であった前回(2020年度)より2955件(3L4%)減少していますが、相変わらず問題ある検定が目だっています。
 以下、地理歴史科と公民科の検定の状況と、新教科書の特徴をまとめました。

 ★ 地歴科・公民科の検定の状況

 今回新しく発行された教育図書の「政治・経済」への検定意見と修正の状況からは、政府の方針に都合よく修正させるという、日本の教科書検定の問題点がよく見えます。以下、具体的に紹介します。

 ①単なる「日本の領土」ではなく「日本固有の領土」

 北方領土について、「ソ連によって占領され、その領有が現在まで続いている」という記述に「生徒が誤解するおそれがある表現である」と検定意見がつき、下線部が「不法占拠」に修正されました。
 竹島について、「1950年代から韓国は竹島を不法に占拠し、現在もその状態が続いている」という記述に「学習指導要領に示す内容の取扱いに照らして、扱いが不適切」と検定意見がつき、「竹島」の前に「日本固有の領土である」という文言が挿入されました。
 尖閣諸島についても、「日本政府は尖閣諸島が歴史的にも法的にも日本領土であり、領有権問題は存在しないという立場である」という記述に、竹島と同様の検定意見がつき、下線部が「日本固有の領土」に修正されました。
 小・中学校の教科書と同様、「学習指導要領に照らして……不適切」という検定が、特に領土問題に対して徹底して行われていることがわかります。

 ②「(朝鮮からの)強制連行」と書かせない

 脚注「元徴用工問題」の解説文の「第二次世界大戦中に、朝鮮半島から日本に連行された朝鮮人」という記述に、「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」と検定意見がつき、下線部が「動員」に修正されました。
 この検定意見も、2021年の教科書記述に対する政治介入(「従軍慰安婦」、朝鮮からの「強制連行」という用語は、「教科書の記述として不適切」であると閣議決定を行って、合格済み、または生徒に配付済みの教科書まで含めて記述の訂正申請を強制した)以降、徹底して行われているものの1つです。

 ③戦後補償に関する日本政府の責任にふれさせない

 「慰安婦問題や元徴用工問題にかんしては、隣国からの批判が続いています。戦後補償にかんしては、日本政府は国家間の合意により解決済みとの立場をとっていますが、過去の非人道的な行為に対する政治的な対応が依然として求められています」という記述に、「生徒が誤解するおそれのある表現である」という検定意見がつき、「日本政府は……戦後補償を含めて国家間の合意により解決済みとの立場を取っています。一方で慰安婦問題や元徴用工問題については、隣国の人々からの批判が続いており、個人が戦争中に被った被害の認識には溝があります」と全面修正されました。慰安婦問題と元徴用工問題、戦後補償全体に関する日本政府の立場を擁護するものではないでしょうか。

 ④「安保3文書」改定の本質を覆い隠す

 「安保3文書」の改定について「日本政府は従来と異なる方針を提示しました」「防衛費の大幅増額や反撃能力の保有などを盛り込み、専守防衛を掲げてきたこれまでの日本の方針を大きく転換しましたという記述に、「生徒が誤解しやすい表現である」という検定意見がつき、最初の下線部が「新たな内容」に、後半の「」内の文章が「専守防衛を掲げてきたこれまでの日本の方針に基づきながらも、防衛費の大幅増額や反撃能力の保有などを盛り込みました」と修正されました。「専守防衛」を投げ捨てた「安保3文書」改定の本質を覆い隠すものです。

 ⑤核軍縮に消極的な日本政府の方針を擁護

 単元の導入に「日本はなぜ核軍縮に消極的なのか?」と見出しをつけ、本文で「核兵器禁止条約においては、核軍縮の立場から離れていきました」などと日本政府の方針を述べた記述に、「生徒が誤解するおそれのある表現である」と検定意見がつき、見出しの下線部が「日本は世界の核軍縮をどう進めていくべきか?」に、本文の下線部は「核軍縮の立場をとりながらも・・・」に、それぞれ修正されました。「日本政府は核軍縮に消極的」とは、どうしても書かせたくないのでしょう。

 ★ 戦争と平和に関する記述の特徴

 次に、他の教科書も含め、「歴史総合」「公共」「政治経済」における戦争と平和にかかわる記述内容を検討します。

 ①「戦後80年」「記憶の継承」をとりあげる

 実教出版「歴史総合」は、戦後80年以上経った今も、沖縄戦で亡くなった人々の遺骨がみつかっている例をあげ、「戦争体験者がいなくなっていくなかで、ふたたび戦争がおきないために戦争の事実をどう語り継いでいけばよいだろうか」と問いかけています。

 ②沖縄戦「集団自決」への日本軍の関与・強制

 以下のように、「集団自決」を取り上げたのは「歴史総合」11点中7点です。そのうち、「集団自決」が日本軍の関与・強制によるものであることをはっきりと明記した教科書は少数でした。

・「戦場経験のあるリーダーのもとで『集団自決』がおきた」チビチリガマと、ハワイ移民の経験者が米兵と交渉したシムクガマを対比し、「『集団自決』がおきたガマとおきなかったガマがあったのは、なぜだろうか」と問いかける(実教「詳説歴史総合」、実教「歴史総合」は「集団死」として同様に記述)

・「軍民雑居の状態で部隊が配置されたため、その後の沖縄戦でいわゆる『集団自決』(強制集団死)や軍隊による住民殺害が発生する要因となった」(実教「歴史総合」)

・「その過程では、事実上日本軍に強要された住民の『集団自決』事件も起きた」(山川出版社「歴史総合」)

・「日本兵が住民をスパイと疑って殺したり、住民が『集団自決』に追い込まれたりした」(山川「現代の歴史総合」)

・「そのなかで、日本軍によって『集団自決』に追い込まれた住民もいた」(山川「私たちの歴史」)←現行版の「住民にも集団自決などで多くの犠牲者を出すことになった」という記述を改訂

・「戦時体制下の日本軍による教育・指導や訓練の影響を受けて『集団自決』に追い込まれた人もいた」(第一学習社「歴史総合」)

・「日本軍は住民の投降を許さず、さらに戦時体制下の日本軍による教育・指導や訓練の影響などによって『集団自決』に追い込まれた人もいた」(第一「新歴史総合」)

 ③沖縄の基地問題、南西諸島での防衛体制強化について考えさせる

 「公共」「政治・経済」で、南西諸島における自衛隊の防衛体制強化の状況と、それがもたらす問題にふれた教科書は、13冊中5冊でした。この問題は、沖縄だけでなく日本全国にかかわる問題であり、きわめて重要な記述です。

・中国が防衛費を増加させ、米国に次ぐ世界第2位の軍事大国となったこと、米国が台湾の防衛に支持を表明し、「中国が米国や日米同盟を無視して台湾を攻撃する可能性は低いとされている」ものの、東アジア地域の緊張は高まっていると言及(教図「政治・経済」)

・「海洋進出を強める中国を念頭に、在日米軍基地とは別に、陸上自衛隊の拠点を南西諸島などに建設する計画も進む」が、「地元の住民からは『再び戦場になる』など不安が根強い」。南西諸島の自衛隊拠点の一部を載せた地図も掲載(第一「公共」)

・「南西諸島では陸上自衛隊の拠点づくりが進む。中国の海洋進出に対応するための措置であるが、沖縄が攻撃対象となる不安を抱く県民もいる」(第一 実教「公共」)

・生徒「自衛隊は南西諸島にミサイル部隊を配備して、米軍と一緒に訓練をしているそうです」。先生「台湾の安全保障との関係で、沖縄に米軍基地が必要だと主張する人もいるね。しかし、日本の領土からミサイル発射が可能になれば、相手国も同じ対応をする危険性も高まる。やはり、安全保障の問題は具体的かつ冷静に考えることが必要だね」(実教「公共」、実教「詳説公共」

・米軍基地がある理由として、朝鮮半島や台湾の「有事」、対テロ戦争への「拠点となる」と明記。「沖縄の位置づけは、アメリカの世界戦略のなかで、ますます重要性を増している」が、「基地問題の解決のためには、沖縄だけの問題と捉えず、私たちの問題として、解決策をさぐっていく必要がある」(第一「公共」、第一「新公共」)

『子どもと教科書全国ネット21ニュース 162号』(2025年6月)

 


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