10.26予防訴訟控訴審結審 弁護団陳述篇<1>
◎ 本件訴訟で問われているもの
はじめに
本控訴審の結審にあたり,被控訴人(一審原告)ら代理人として,最終弁論を行います。被控訴人らの主張につきましては,実質最終準備書面である被控訴人ら準備書面7、8、9と訴訟要件に関しては,この間の貴裁判所からの釈明請求に対する回答で述べたとおりですが,本日の弁論に当たっては,その中の論点に関し,私外5名の代理人によって弁論させていただきます。
私からは,当控訴審における4年余の審理で明らかになった内容に関して弁論させていただきます。
1 事実論
当控訴審での審理を通じて,原判決の事実認定が妥当であることがより明らかになったといわなければなりません。控訴人は,原判決の事実認定を不服として,校長の陳述書,都教育庁職員の陳述書を証拠として捷出しております。上記陳述書の証拠価値,信用性に関して以下の二点を指摘しておきます。
第1に,これらの証拠は,いずれも10.23通達が発出され,懲戒処分まで発令された後,さらには原判決後作成された陳述書のみであり,10・23通達が発出された前後の教育委員会議事録,都議会議事録など当時の客観的証拠と比較し,格段に証拠価値が落ちるとともに,その作成日時からして*後付けのために作成されたものといわざるを得ず,証拠価値は極めて低いと言わざるをえません。
第2に.控訴人が提出した上記証拠は,いずれも述べられた内容,時期が異なるなど信用性がないことは,控訴人が提出した陳述書ごとに被控訴人が反論の陳述書を提出して明らかにしたとおりであります。
このことに関し,一点具体的に指摘しますと,控訴人が証人申請した須藤勝深沢高校校長は,陳述書では10.23通達発出前の卒業式等の式典においては,教職員に不起立の不適切な実態があり,そのことを都教委に報告した旨述べておりました。が,別件の関連訴訟で証言した際,その反対尋問で,10.23通達発出前は,教職員の不起立について都教委に報告しておらず,また,都教委からの調査項目にあったトラブルがあった場合に記載する欄には何も記載しなかったことを認めております(甲375号証29ないし33頁)。
このことは,控訴人の提出した校長の陳述書がいずれも控訴人・都教委が考えるシナリオに沿って書かれたことを推認さぜるものであり,校長の陳述書全体の信用性に疑いをもたぜることになったことを意味します。
さらに,10.23通達発出に至る経過及び強制の有無に関しては,2003(平成15)年4月10日に開催された東京都教育委員会定例会議事録(甲278)が重要な事実を明らかにしていることを指摘させていただきます。
それによれば,平成14年度卒業式及び平成15年度入学式における国旗,国歌の実施状況についての調査結果を踏まえ,都教育庁の近藤部長は「昨年同様すべての学校で実施することができた」旨報告するとともに,実施上の課題が残っているとして,第1に,国歌斉唱時に一部の教員や生徒が起立しないことをあげ,第2に,フロア形式の学校がいくつか残っていることを指摘しております。文科省が求めた適正実施とは,その調査内容からも明らかなように実施することであって,実施方法,実施態様については何ら指示しておりません。が,上記都教委が問題とした内容は,卒業式,入学式の具体的実施方法,個々の教職員,生徒の具体的苅応であって,文科省が求めていたものと明らかに質的に異なります。
この報告を受けて,横山教育長は,「そもそも国旗・国歌について強制しないという政府答弁から始まっている混乱なのです。」と述べ,それを受けて他の教育委員が「だから政府答弁が間違っているのです。」と述べております。横山教育長自身は,別件の関連訴訟で証言し,上記発言を否定するような教育委員の無かったこと,また,10.23通達が生徒をも起立させて歌わせることが目的であったこと,10・23通達自体,全国的にみても突出したものであることを認めております。
横山教育長の/内心の自由説明禁止,再発防止研修の徹底答弁など,また,10.23通達が発出された後,一斉に各卒,入学式,周年行事ごとに,包括職務命令と書面による個別職務命令が出され,不起立者に対しては,懲戒処分がなされ,卒業式で不起立等の生徒が多かった学校では,その担当教員のみならず,校長ら管理職も処分対象となっております。
これらの事実は,10.23通達が,教職員に対してのみならず,校長に対しても強制するものであることを裏付ける事実と言わなければなりません。
2 控断人(一審原告)ら395名の陳述書の持つ意味について
被控訴人は,当控訴審において,被控訴人全員の陳述書を証拠として提出しておりますが,本日,被控訴人本人らの代表として3名の当事者に陳述していただきました。上記の陳述内容自体,控訴人の上記で述べた主張に対する反論となっておりますが,これらの陳述書が明らかにした2つの点について述べさぜていたたきます。
第1点は,10,23通達前は,養護学校(現特別支援学校),定時制,普通高校それぞれの学校において.生徒の置かれた状況を踏まえ,生徒と教職員が一緒になって卒業式の内容を作ってきており,現行憲法下でそのことが問題とされることがない状況が長く続いた実績があること,それに対して10.23通達は,教職員の自主性を尊重しながら作られた卒業式そのものを破壊するものであり,教育介入そのものであることを明らかにしているということです。
第2点は,本件で問題となる思想,良心の内容についてですが,いずれの被控訴人(一審原告)本人も,卒業式等の式典での国旗,国歌の一律強制には従えないとの思い,一律強制には反対であるということです。
なお,被控訴人のうち牧野理恵ほか11名は,キリスト教の信仰からも一律強制には従えないとの思いである旨述べているとおりです。
本件通達が発出された当時,ほとんどの都立学校においては*在日外国人の卒業生がおりました。わが国が批准した子どもの権利条約は,異文化への配慮について規定しているところです。このような多様な出自,考えをもった生徒のことを慮って強制には従えないとの思いは教師としての良心ともいえるものです。
被控訴人らがそのような思いを砲くに至ったのは,いずれも長年にわたる都立学校における教職員とのして活動,実践からであり,このことは渋谷秀樹教授が指摘したところの主観的要件である真摯性を裏付けるものとなっております。
なお,市川須美子教授は,上記教師としての良心と言われるもは,子どもの学習権保障のための教師の責務としての教育の自由の行使として構成し得る旨述べているところです。
貴裁判所におかれては.上記に述べたような当審における証拠調べの結果を踏まえ,公正な判断を示されることを切望する次第です。
◎ 本件訴訟で問われているもの
代理人 加藤文也
はじめに
本控訴審の結審にあたり,被控訴人(一審原告)ら代理人として,最終弁論を行います。被控訴人らの主張につきましては,実質最終準備書面である被控訴人ら準備書面7、8、9と訴訟要件に関しては,この間の貴裁判所からの釈明請求に対する回答で述べたとおりですが,本日の弁論に当たっては,その中の論点に関し,私外5名の代理人によって弁論させていただきます。
私からは,当控訴審における4年余の審理で明らかになった内容に関して弁論させていただきます。
1 事実論
当控訴審での審理を通じて,原判決の事実認定が妥当であることがより明らかになったといわなければなりません。控訴人は,原判決の事実認定を不服として,校長の陳述書,都教育庁職員の陳述書を証拠として捷出しております。上記陳述書の証拠価値,信用性に関して以下の二点を指摘しておきます。
第1に,これらの証拠は,いずれも10.23通達が発出され,懲戒処分まで発令された後,さらには原判決後作成された陳述書のみであり,10・23通達が発出された前後の教育委員会議事録,都議会議事録など当時の客観的証拠と比較し,格段に証拠価値が落ちるとともに,その作成日時からして*後付けのために作成されたものといわざるを得ず,証拠価値は極めて低いと言わざるをえません。
第2に.控訴人が提出した上記証拠は,いずれも述べられた内容,時期が異なるなど信用性がないことは,控訴人が提出した陳述書ごとに被控訴人が反論の陳述書を提出して明らかにしたとおりであります。
このことに関し,一点具体的に指摘しますと,控訴人が証人申請した須藤勝深沢高校校長は,陳述書では10.23通達発出前の卒業式等の式典においては,教職員に不起立の不適切な実態があり,そのことを都教委に報告した旨述べておりました。が,別件の関連訴訟で証言した際,その反対尋問で,10.23通達発出前は,教職員の不起立について都教委に報告しておらず,また,都教委からの調査項目にあったトラブルがあった場合に記載する欄には何も記載しなかったことを認めております(甲375号証29ないし33頁)。
このことは,控訴人の提出した校長の陳述書がいずれも控訴人・都教委が考えるシナリオに沿って書かれたことを推認さぜるものであり,校長の陳述書全体の信用性に疑いをもたぜることになったことを意味します。
さらに,10.23通達発出に至る経過及び強制の有無に関しては,2003(平成15)年4月10日に開催された東京都教育委員会定例会議事録(甲278)が重要な事実を明らかにしていることを指摘させていただきます。
それによれば,平成14年度卒業式及び平成15年度入学式における国旗,国歌の実施状況についての調査結果を踏まえ,都教育庁の近藤部長は「昨年同様すべての学校で実施することができた」旨報告するとともに,実施上の課題が残っているとして,第1に,国歌斉唱時に一部の教員や生徒が起立しないことをあげ,第2に,フロア形式の学校がいくつか残っていることを指摘しております。文科省が求めた適正実施とは,その調査内容からも明らかなように実施することであって,実施方法,実施態様については何ら指示しておりません。が,上記都教委が問題とした内容は,卒業式,入学式の具体的実施方法,個々の教職員,生徒の具体的苅応であって,文科省が求めていたものと明らかに質的に異なります。
この報告を受けて,横山教育長は,「そもそも国旗・国歌について強制しないという政府答弁から始まっている混乱なのです。」と述べ,それを受けて他の教育委員が「だから政府答弁が間違っているのです。」と述べております。横山教育長自身は,別件の関連訴訟で証言し,上記発言を否定するような教育委員の無かったこと,また,10.23通達が生徒をも起立させて歌わせることが目的であったこと,10・23通達自体,全国的にみても突出したものであることを認めております。
横山教育長の/内心の自由説明禁止,再発防止研修の徹底答弁など,また,10.23通達が発出された後,一斉に各卒,入学式,周年行事ごとに,包括職務命令と書面による個別職務命令が出され,不起立者に対しては,懲戒処分がなされ,卒業式で不起立等の生徒が多かった学校では,その担当教員のみならず,校長ら管理職も処分対象となっております。
これらの事実は,10.23通達が,教職員に対してのみならず,校長に対しても強制するものであることを裏付ける事実と言わなければなりません。
2 控断人(一審原告)ら395名の陳述書の持つ意味について
被控訴人は,当控訴審において,被控訴人全員の陳述書を証拠として提出しておりますが,本日,被控訴人本人らの代表として3名の当事者に陳述していただきました。上記の陳述内容自体,控訴人の上記で述べた主張に対する反論となっておりますが,これらの陳述書が明らかにした2つの点について述べさぜていたたきます。
第1点は,10,23通達前は,養護学校(現特別支援学校),定時制,普通高校それぞれの学校において.生徒の置かれた状況を踏まえ,生徒と教職員が一緒になって卒業式の内容を作ってきており,現行憲法下でそのことが問題とされることがない状況が長く続いた実績があること,それに対して10.23通達は,教職員の自主性を尊重しながら作られた卒業式そのものを破壊するものであり,教育介入そのものであることを明らかにしているということです。
第2点は,本件で問題となる思想,良心の内容についてですが,いずれの被控訴人(一審原告)本人も,卒業式等の式典での国旗,国歌の一律強制には従えないとの思い,一律強制には反対であるということです。
なお,被控訴人のうち牧野理恵ほか11名は,キリスト教の信仰からも一律強制には従えないとの思いである旨述べているとおりです。
本件通達が発出された当時,ほとんどの都立学校においては*在日外国人の卒業生がおりました。わが国が批准した子どもの権利条約は,異文化への配慮について規定しているところです。このような多様な出自,考えをもった生徒のことを慮って強制には従えないとの思いは教師としての良心ともいえるものです。
被控訴人らがそのような思いを砲くに至ったのは,いずれも長年にわたる都立学校における教職員とのして活動,実践からであり,このことは渋谷秀樹教授が指摘したところの主観的要件である真摯性を裏付けるものとなっております。
なお,市川須美子教授は,上記教師としての良心と言われるもは,子どもの学習権保障のための教師の責務としての教育の自由の行使として構成し得る旨述べているところです。
貴裁判所におかれては.上記に述べたような当審における証拠調べの結果を踏まえ,公正な判断を示されることを切望する次第です。
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