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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

学力テスト論評

2007年07月18日 | 平和憲法
足立区で、学力テスト不正が発覚したが、それを予測するかの記事が4月に出ていた。
『週刊金曜日』(2007/4/20 №651)の記事の前半部分を紹介する。


 ★ 競わされる子どもたち ★
 これでも受ける?
 43年ぶりに復活した 全国学力テスト

木附千晶
 子どもは、おとなへの発達途上にある存在だ。
 そんな子どもが安心して成長し、能力を発達させる「子ども期」には子どもの欲求に適切に応答し、そのままで抱えてくれるおとなとの関係が不可欠だ。
 ところが、その関係性が壊されようとしている。
 二四日、新自由主義教育改革を貫徹させるための全国学カテスト(全国学力・学習状況調査)が実施される。

 調査される教科は国語と算数・数学の二つ。ほかに生活環境などを尋ねる調査もある。業務はすべて(株)ベネッセコーポレーション(小学校)と、(株)NTTデータ(中学校)に委託される。
 今年度の予算は六六億円(来年度の準備予算四億円を含む)だ。
 全国で唯一このテストに不参加を表明した愛知県犬山市と、すでに独自の学カテストを導入している東京都足立区・品川区の教育改革を比較し、競い合うことが子どもに何をもたらすのか明らかにしたい。

■ 人間関係で能力を引き出す犬山

 「豊かな人間関係を育む土壌をなくし、子ども同士や学校間、地域問に格差を生み、拡大させる競争原理の導人は犬山の教育理念に合わない」(犬山市教育委員会「全国学力・学習状況調査」への対応について)
 犬山市が全国学力テストヘの不参加を決めた理由である。

 犬山は、一九九七年から「犬山の子は犬山で育てる」を合い言葉に、すべての子どもの人格形成と学力保障を目指す教育改革を進めてきた。学校を共同・共生の場と位置づけ、豊かな人間関係のなかで子どもが主体的に「自ら学ぶ力」を育てる取り組みだ。
 「『一緒に何かをやり遂げた』などの体験の積み重ねが人格形成や学力保障につながります。教育は人と人とのかかわり。まず人と生きる喜びがなければ『自ら学ぶ力』は育たない」(犬山市教育委員会学校教育部指導課・滝誠課長)
 その考えを象徴するのが少人数による「学び合い」の授業。習熟度別でないところがミソだ。市費を工面し、各学校の要望に応じて講師を段階的に加配した(現在六七人)。市内一四の小中学校のほとんどで約、三〇人の少人数学級が実現し、四~五人のグループ(班)学習も増えた。
 学級編成や授業方法などはすべて現場裁量。たとえば祐子さん(仮名・一三歳)の学校では、班決めは子どもたち自身でする。
 「班学習が多いのは数学。みんなで問題を解いて、できたら班長が先生に見せる。正解だったらわからない子に教える。友達に教えると自分も勉強になるし、教えてもらうときは素直に聞ける。何よりみんなでわかった方が楽しい。取り残されるfがいるのはかわいそう」(祐子さん)
 全体授業でも教師が頭から教えることはない。テーマに沿って子どもたちが次々と意見を出す。教師は意見を整理し、「ほかの意見は?」など議倫を深めるきっかけをつくる。
 学校で本の読み聞かせボランティアをしている中学生の母親も、言う。「本当に欠席が少ない。うちの子は夏休みになると、『学校がないからつまらない』と、言うんです。集中力があり、鋭い質問をする子が多い」
 加配による少人数の「学び合い」は教師にも変化をもたらした。「日常的に『こんなやり方をしたらみんなわかったよ』などと話すようになり、子どもに目が行く機会が増えプライベートでも仲良くなっ。『みんなで、緒にやっていこう』という雰囲気になりました」(犬山市立楽田小学校教師の千田初子さん)
 犬山に教員評価制度はない。「評価が処遇と結びつくと、本来、子どもに向かうべき教師の視線が管理職に向いてしまう」(滝課長)からだ。
 学級崩壊や不登校は減少傾向。市が小中学校教師全員に行なった調査では小学校で八○・五%、中学校で六〇・七%が「学習に対する興味や関心のある子が増えた」と答え、不登校の割合は全国小学生〇.三六%に対し、○・一二%と低い。
 学力もアップした。個々の子どもの課題を改善するために市内の多くの小中学校で実施している全国標準学力検査の結果を五段階評価にすると、全国に比べ一と二が少なく三と四が多い(グラフ参照)。学力の二極化が言われるなか、犬山では全体的な底上げが起きている。
 「『学び合い』の効果は大きい。勉強面では「友達に教えてもらったからきっとできる』という自信が積極性を生み、生活面ではだれかが暴力をふるったりしたときにほかの子が「いけないよ」と注意し『そうだね』と受け入れる素地ができた。『勉強しなさい』『仲失くしなさい』と教え込んできた今までがいかに無駄だったかわかりました」(千田さん)
 このように犬山では子どもたちの能力を引き出す教育改革が行なわれている。競争を廃した少人数の「学び合い」は、教師が子どもの欲求に応答できる環境を整え、受容的な関係性をもたらした。
 それが子どもに安心感・信頼感の種をまき、好奇心や学ぶ意欲が芽吹きはじめた。助けてもらえた経験は、「困っている人がいたら助けよう」と思える共感能力も育てている。

■親身にかかわるおとなが減った足立区

 他方、東京都足立区と品川区では何が起きているのか。どちらもトップダウンの強力なリーダシップを発揮する教育長の下、都でも突出した改革が進む地域である。今年度から学カテストの結果に応じて、学校の特別予算に差をつけた足立区から検証しよう。
 九六年から実質的な学校選択制を導入した足立は、すべての小中学校の学カテスト結果を公表している。中学校の人気は、学カテスト結果の上位一○校に集中し、学校間・子ども間格差も固定化した。
 上位校と下位校では親の経済格差も顯著だ。上位校の就学援助率は上二○%台だが、下位校では七五%を超える学校もある。上位校には教育熱心で教育に投資できる富裕層が多く、下位校には生活が厳しく子どもに目がいかない家庭が多い。私学援助も削られるなか、下位校では養護学校や定時制高校を第一志望の進学先にする子も現れた。
 「一番の被害者は子ども。下位校の子を見ていると『どれだけ早いうちにあきらめるか』という感じです。教師も教育改革に振り回され、子どもを見る余裕がない。親身にかかわってくれるおとながおらず、『頑張って何かに取り組んでほめられた』などの経験を持てない子が増えた。中学にくるころには、『進学校に行く子とは世界が違う』と格差の壁を意識しています」(中学校教師)
 授業中に歩いたり、騒いだりするのは「あきらめた」子どもが多い。言葉にできないやるせなさを隠すため、つい"はしゃいで"しまう。
 「一位なら『このまま頑、張れ』、二位なら『もっと頑張れ』、下位だと『とにかく上に』と言われ、『これで十分』ということがない。必ず序列化される。そんな学カテストはおかしいと思うけど、学校選択を迫られると、下位校は問題児が多い気がして避けたくなる」(小学生の母親)
 この子どもが通う小学校の順位はあまりよくなく、他校の親や教師からは「授業が成り立たない困難校」と誤解されるが、子どもと教師の関係は比較的よく、学級崩壊もない。行事が多く、子どもも楽しそうだ。「でも校長先生がよく『学力向上』と言うようになった。行事を削ってテスト対策の時間を確保したいのでしょう。上位校では毎月のようにプレテストをしていると聞きます」
 一方、学区内のいわゆる上位校に通う中学生と小学生の母親は言う。「学校の雰囲気は決してよくない。落ち着かない子が多いし、いじめが日常化しています。トラブルにかかわろうとしない教師もいるし、子どもたちはつながりを大事にする意識が希薄。学カテストについては、うちの子は先生に『この調子で』と言われ、『成績が落ちたらどうしょう』とプレッシャーを感じたようです」

 (つづく)

 『週刊金曜日』(2007/4/20 №651)

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