=メディアの今 見張り塔から(『東京新聞』【日々論々】)=
◆ 市民スポンサー型メディアの誕生
報道の質向上へ存在感
七月五日に投開票された東京都知事選挙。当初から「無風」と言われていたように、現職の小池百合子都知事の圧勝という結果に終わった。
コロナ禍の選挙ということもあり、有権者に候補者の政策や争点が十分に行き渡ったか疑問が残る選挙戦だった。
多くの候補者が街頭演説などの選挙運動を自粛、自らの政策を訴える手段を制約されるなか、各候補者の政策を伝え、分析・論評するマスメディアの政策報道がそれを補うほどに十分であったとは思えない。
とりわけ在京キー局によるテレビ討論会が一度も開催されなかったことに失望する有権者も少なくなかった。
一方、存在感を示したのがネット報道メディア「Choose Life Project(CLP)」だ。
マスメディアが行わなかった筆者が司会を務める候補者討論会をユーチューブで配信し、約二万人がライブで視聴。その映像は現在までに二十万回以上再生されている。
また今年五月にも検察庁法改正案に関連して野党党首・代表らの討論番組を配信し、テレビや新聞で取り上げられてもいる。
実はこのCLP、ネット発の独立メディアでありながら、そのメンバーはテレビ報道番組や新聞記者、映画、ドキュメンタリー制作者といった報道の現場、つまり「マスメディア内部の人たち」だ。
かつてTBSで報道ディレクターを務めた佐治洋代表は「テレビ報道の現場にいながら、政治・社会問題に十分な時間を割いて伝えられず、大切なニュースが日々の放送からこぼれ落ちていることに忸怩(じくじ)たる思いを抱いていた」という。
そうした現状を憂慮し、今の報道現場ではできないことを実現するため立ち上げられたプロジェクトだったのだ。
七月に開始したクラウドファンディングにはすでに二千万円超の支援が集まっている。従来のメディアの制約に縛られない、市民スポンサー型のメディアが誕生したのだ。
まだまだ規模も小さく、テレビや新聞に代わるメディア―オルタナティブ・メディアを目指しているわけではない。
既存の報道を補い「メディアを繋(つな)ぐメディア」としての役割を担うことを目指しているという。
佐治代表は「テレビの可能性を今も信じている」と語る。
停滞するマスメディア報道が変わる呼び水としての役割も期待される。
インターネットが普及して二十五年。
ネットの登場はメディアのあり方も大きく変え、とりわけ市民目線の情報ニーズに寄り添った独立メディアが立ち上がることが求められてきた。
ネットの独立メディアと既存のマスメディアの切磋琢磨(せっさたくま)による報道の質の向上は、インターネットやメディア関係者にとって長年の夢だったが、残念ながらいまだ実現してはいない。
派手さはなくても手堅いつくりとひたすら視聴者ニーズに応える番組を愚直につくる―。CLPは一度は失った夢をメディア人と視聴者・読者が協働で取り戻すプロジェクトなのかもしれない。(隔月掲載)
『東京新聞』(2020年8月18日)
◆ 市民スポンサー型メディアの誕生
報道の質向上へ存在感
ジャーナリスト・津田大介さん
七月五日に投開票された東京都知事選挙。当初から「無風」と言われていたように、現職の小池百合子都知事の圧勝という結果に終わった。
コロナ禍の選挙ということもあり、有権者に候補者の政策や争点が十分に行き渡ったか疑問が残る選挙戦だった。
多くの候補者が街頭演説などの選挙運動を自粛、自らの政策を訴える手段を制約されるなか、各候補者の政策を伝え、分析・論評するマスメディアの政策報道がそれを補うほどに十分であったとは思えない。
とりわけ在京キー局によるテレビ討論会が一度も開催されなかったことに失望する有権者も少なくなかった。
一方、存在感を示したのがネット報道メディア「Choose Life Project(CLP)」だ。
マスメディアが行わなかった筆者が司会を務める候補者討論会をユーチューブで配信し、約二万人がライブで視聴。その映像は現在までに二十万回以上再生されている。
また今年五月にも検察庁法改正案に関連して野党党首・代表らの討論番組を配信し、テレビや新聞で取り上げられてもいる。
実はこのCLP、ネット発の独立メディアでありながら、そのメンバーはテレビ報道番組や新聞記者、映画、ドキュメンタリー制作者といった報道の現場、つまり「マスメディア内部の人たち」だ。
かつてTBSで報道ディレクターを務めた佐治洋代表は「テレビ報道の現場にいながら、政治・社会問題に十分な時間を割いて伝えられず、大切なニュースが日々の放送からこぼれ落ちていることに忸怩(じくじ)たる思いを抱いていた」という。
そうした現状を憂慮し、今の報道現場ではできないことを実現するため立ち上げられたプロジェクトだったのだ。
七月に開始したクラウドファンディングにはすでに二千万円超の支援が集まっている。従来のメディアの制約に縛られない、市民スポンサー型のメディアが誕生したのだ。
まだまだ規模も小さく、テレビや新聞に代わるメディア―オルタナティブ・メディアを目指しているわけではない。
既存の報道を補い「メディアを繋(つな)ぐメディア」としての役割を担うことを目指しているという。
佐治代表は「テレビの可能性を今も信じている」と語る。
停滞するマスメディア報道が変わる呼び水としての役割も期待される。
インターネットが普及して二十五年。
ネットの登場はメディアのあり方も大きく変え、とりわけ市民目線の情報ニーズに寄り添った独立メディアが立ち上がることが求められてきた。
ネットの独立メディアと既存のマスメディアの切磋琢磨(せっさたくま)による報道の質の向上は、インターネットやメディア関係者にとって長年の夢だったが、残念ながらいまだ実現してはいない。
派手さはなくても手堅いつくりとひたすら視聴者ニーズに応える番組を愚直につくる―。CLPは一度は失った夢をメディア人と視聴者・読者が協働で取り戻すプロジェクトなのかもしれない。(隔月掲載)
『東京新聞』(2020年8月18日)
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