☆ 必要ない児童名簿提出を小学校に求めた広島県と広島市が不手際認める(Yahoo!ニュース)
宮崎園子(フリーランス記者)
6月19日に予定されている天皇皇后両陛下の広島・平和記念公園の訪問をめぐり、広島市が、市内中心部の市立小学校2校に対して小学6年の児童が社会科の授業の一環として参加することを求め、その際学校側に対し、本来は必要のない、児童名簿の提出を要求していたことがわかった。
警備目的で警察と共有することとなる名簿だが、1校は保護者の同意を得ることなく名簿を作成して市に提出済みだった。指示をした市秘書課は学校側に陳謝し、データを破棄した。
もう1校は、保護者に個人情報の提供の同意・不同意を確認する文書を配布していたが、後に校長名でお詫びの文書を出した。授業の一環に位置付ける事実上の「動員」については批判の声も上がっている。
広島県の発表によると、両陛下は19、20日の一泊二日で広島県を訪問し、原爆慰霊碑への献花や広島平和記念資料館の視察のほか、広島市豪雨災害伝承館の視察などを予定している。
平和記念公園を所管する広島市は5月初旬、「天皇皇后両陛下のお出迎えについて(お願い)」と題した書面を、中区内の小学校2校の校長宛に送付。「御視察先の一つである平和記念公園での両陛下のお出迎えを行うに当たり、次世代を担う若い世代にその役割をお願いしたい」として、児童が両陛下の「お出迎え」を行うことや、6年生を対象とすることなどの概要を説明した。
別途、警備目的で参加児童の名簿の提出を求めた。連絡を受けた学校側は、6年生が社会科の授業の一環で「お出迎え」をすることを保護者に文書で連絡した。
2校のうち1校は、「個人情報の提供について」と題した文書を追加で保護者に配布し、提供の同意・不同意について回答することを求めた。
この中で、「広島市秘書課と広島県秘書課を通し、事前に宮内庁へ一般奉送迎者の名簿(児童の所属学校及び学級と名前、よみがな)を提出する必要」があると説明したが、情報収集の目的や情報の共有範囲については明記していなかった。
この点について保護者から問い合わせを受けた学校が、市教委を通して市秘書課に確認したところ、名簿の作成は引率教員にのみ課されたもので、児童に関しては必要なかったことが判明。
学校側は、個人情報の使用目的の説明を欠いた点などについて「大変申し訳ありませんでした」とする「お詫び」の文書を保護者に配布し、すでに回収した調査票の処分を決めた。
校長は取材に対し、「保護者に無断で名前を提供することはできないと考えて同意を求めたが、説明や確認が十分でなかったことがあり、結果的にご迷惑をおかけした」と話した。
だが、もう1校は、校長の判断で保護者への同意を得ることなく児童の名簿を作成し、市秘書課に提出していた。
校長は取材に対し、「基本的にはこういう情報は承諾を得てからということだとは思うが、今回は特殊なケース。市立小学校が市に提出するのは問題ないと判断して保護者に確認はしなかった」と説明。
情報が警察など市以外の機関にも共有されると認識しての対応だったかについては、「警備目的とは思ったが、こちらとしては市の行事に関して市に提供しただけだ」などとした。
児童名簿の作成が不必要であるにも関わらず、そのような要請を学校に行ったことについて、市秘書課は「県秘書課の連絡を受けて、学校に対してそのように連絡をしたが、取り違えがあったことは申し訳ない」として、受領済みのデータを廃棄した。
県秘書課は「宮内庁や県警にも確認をして、先生の引率があるので児童については必要ないということだった。私どもが取り扱いを誤っており、市にはお詫びをした。大変申し訳ない」としている。
学校教育に関しては、首長への権限の集中を防止し、首長からの独立性を確保するために教育委員会が設置され、中立的・専門的な教育行政を担保することとされている。
市秘書課や市教委によると、今回の「お出迎え」については、小学校の教育課程や教育指導を担当する市教委指導第一課と調整した上で、市秘書課が学校と直接やりとりをすると決めたという。
「6年の社会科において、天皇の地位について学習する機会があると伺っており、実際に天皇皇后両陛下による御視察の様子を間近に見ることで、学習内容に対する理解等を深めるきっかけになると考えています」。
市秘書課は、学校側に対する文書でそんな意見を付している。これを受けて両校は、社会科の校外学習として「お出迎え」をするという判断をした。
「お出迎え」は必ずしも児童の主体的な意思ではないため「見学」とするのが適切ではないか、授業に位置付けるのは事実上の「動員」ではないか、と取材で尋ねたところ、
市秘書課は「社会科見学や校外学習などいろいろあると思うが、我々の方から、『お出迎え』という言葉を絶対的な表現として必ず使うことを学校側にお願いはしていない」とし、あくまで校長の判断だという説明をした。
校長の一人は「市教委とは調整済みだと秘書課から言われて直接やり取りをすることになったが、他にどの学校が対象となっているかも知らされなかった。皇室行事ということで情報を不用意に広めるわけにはいかず、判断に際して他校に相談するわけにもいかなかった」と話した。
市教委は「学校長の権限は非常に大きいし、学校長が判断すべきものはたくさんある。市教委が間に入るといろいろな情報が正確に伝わらなくなる上に、市教委が指示をすればするほど管理が多くなる」と説明。
市長直轄の部署と学校が直接やり取りをする運用については問題がなく、「お出迎え」に関する各種判断はあくまで校長の裁量であるとの認識を示した。
一方で、「今回の件で市教委が調整に入る必要があったのかどうかについては、ご指摘は受け止め、より適切な対応になるように考えていきたい」とも述べた。
元広島市長で、戦時中に学徒動員を経験した平岡敬さん(97)は、「秘書課がやるということはおそらく市長の命令なのだろうが、教育委員会は何をしているのか。歓迎の意を表したいという大人の事情に、子どもたちを利用しているのではないか」と話した。
宮内庁広報課の担当者は取材に対し、「今回の行幸啓自体が広島県から要望を受けたものであり、基本的には地元の意向を踏まえながら調整をしているが、宮内庁からこうしてくれというような話ではない」として、児童の個人情報の提出についても、子どもたちの参加についても、同庁から要請したものではないと説明した。
『Yahoo!ニュース』(2025年6月8日)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0ee6ac433ab118b581f9d7a409a6bc6bca5ee0f1
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます