パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 教育出版の小学校・社会科教科書のQRコードから自衛隊大宣伝の「自衛隊キッズ」に飛んでしまう問題

2023年08月11日 | 平和憲法
防衛省が北朝鮮のミサイルの"脅威"
 
を煽り、児童生徒に「自衛隊の増強が必要だ」とindoctrination している画像~有害図書『はじめての防衛白書』から


 ★ QRコードで自衛隊軍拡サイトに誘導
   「小学校教科書」が危ない
(『紙の爆弾』)

取材・文 永野厚男・教育ジャーナリスト


 文部科学省の検定に合格し、来年四月から全国の小学校で使用する教科書の採択が、多くの教育委員会で始まっている。同省は来年度使用分から英語でデジタル教科書と紙の教科書の併用を決めており、紙の教科書の社会科でも、発行者である東京書籍・教育出版(以下、教出)・日本文教出版の全三社が、二次元コード(QRコード)やURLを載せている。そこに潜む“危険”をレポートする。

 ★ QRコードから 白煙上げ砲撃の戦車動画が

 教出の小6社会が掲載しているQRコードをスマホで読み込んだ市民が驚いた。リンク先の一つ「防衛省・自衛隊KIDS SITE」(以下、自衛隊キッズと略記)をクリックすると、迷彩戦闘服・鉄帽の自衛隊員が戦車や戦闘機に乗り、戦車が白煙を上げ砲撃し、戦闘機が編隊飛行する動画が出てきた。
 筆者がすでに二〇二〇年度から使用されている教出の現行の6年社会を調べると、「憲法とわたしたちの暮らし」たどの単元の一覧から、自衛隊キッズに辿り着くことがわかった。前記の動画のすぐ下には、「防衛省・自衛隊を知ってみよう」との表記とともに、『はじめての防衛白書~まるわかり!日本の防衛~』(以下、『はじめて』と略記)という項目があり、クリックすると、目次に、①国の防衛はなぜ必要なの?、②日本の周りの安全保障環境、③憲法と自衛隊の関係、④日本の防衛の基本政策、⑤国を守るために必要なお金防衛関係費、⑥日本を防衛するための自衛隊自身の取組、⑦宇宙・サイバー・電磁波領域での挑戦、⑧先端技術を活かした新たな挑戦の時代へ、⑨日本と地域、そして世界の平和を守るための日米同盟、⑩世界の国々との安全保障協力の推進、⑪大規模災害などへの対処とある。
 紙幅の関係で①②⑥から抜粋し、『はじめて』が児童生徒をどうだまそうとしているか等、暴いていく。

 ①は「みなさんは自衛隊が何をするための組織であるか知っていますか。自衛隊の一番大事な、そして自衛隊にしか果たすことのできない任務はわたしたちの国、日本を防衛することです」との書き出しで(以下、原文の赤字部は傍線で示す)、軍隊は国家体制を守るものであり一般市民を守らない、という事実をごまかしている。
 『はじめて』はこの後、「日本がきちんと自分たちの国を守る意思と能力があることを周りに示し、日本から何かを奪うのは難しいとほかの国に思わせることが必要です」と”抑止力”としての軍事力増強を”正当化”している。


 ★ 周辺国の“脅威”を煽り、“敵”だと繰り返す

 ②は女性自衛隊員が男児に「中国、北朝鮮、ロシアなどは、軍事力をさらに強化。日本にとって国の防衛はとてもとても重要な課題なんだ」と語るイラストの後、中国・北朝鮮・ロシアの順で”脅威”を煽る。中朝二国に絞り紹介する。

 まず「中国は核兵器やミサイル、艦艇や航空機といった軍事力を急速に強化しています」と主張。続けて「中国が保有している弾道ミサイルの射程を示した地図」(タイトル下の画像)を載せ「日本はもちろんのこと、やヨーロッパまで届く」アメリカと煽る。
 なお『はじめて』は、「19年に就役した中国初の国産空母・山東」の写真を掲載。だが自衛隊も護衛艦と称していた“かが・いずも”を空母化した事実には、言及しない。
 『はじめて』は北朝鮮についても、「平壌からの弾道ミサイルの射程(東京・沖縄・米国本土等を明示)」の地図を掲載。「北朝鮮は日本にも届く弾道ミサイルを数百発持っており、これらのミサイルに核兵器をのせて日本を攻撃する能力を持っているとみられています。国際社会の平和と安全に対する深刻な脅威となっています」と煽る。
 確かに日本の上空を飛び越えたのは脅威だが、韓国等周辺国や米国を含む外交・軍縮交渉(特に出口論の提示)でミサイル発射と核実験をやめさせる等、外交努力の具体的内容を、『はじめて』は一切提起していない。
 さて、「日本自身の防衛力を強化するための自衛隊の取組について見てみましょう」で始まる長文の⑥を、以下に抜粋する。

「普段からの情報収集や警戒監視により、からの攻撃の前触れを早期に察知し、航空機や艦艇を使って、空や海でより優位に立つことができる状況を確保することが重要。/事前にからの攻撃の前触れを察知した場合には、が攻めてくると予想される場所により先に自衛隊の部隊を移動させ、の部隊が日本の島に近づいたり、上陸したりすることを阻止することになります。/また、海や空で相手より優位に立つことが困難になった場合でも、の部隊が攻撃できる範囲よりも遠くから、ミサイルなどを使って、の部隊の接近や上陸を阻止することになります。/それでも万が一日本の島をに占拠されてしまった場合には、自衛隊の航空機や艦艇によって島にいる地上のを攻撃して制圧した後、陸上自衛隊の部隊を空や海から着陸・上陸させるなど、あらゆる手段でから取り返すことになります。/こうした作戦を行うことができるよう、防衛省・自衛隊は九州や沖縄に新しい部隊を配置したり、が攻撃できる範囲よりも遠くから対応できる『スタンド・オフ・ミサイル』の整備を行ったり、また、部隊を素早くかつ遠くに輸送できるV・22オスプレイというヘリコプターと飛行機の特性をあわせ持つ航空機を導入したりするなど、様々な取組を進めています。」


 以上、太字で示したとおり“敵”という語のオンパレードは十一回に上る。『はじめて』の前記②を読んだ児童・生徒は、この“敵”とは中国・北朝鮮・ロシアだと刷り込まれる危険性が高い。同じクラスに、中国・北朝鮮・ロシアの子どもがいる可能性もある。『はじめて』を信じ込み中国等の子どもをいじめる日本人の児童・生徒が出たら、防衛省はどう責任をとるのか。

 ところで、『はじめて』はこの後の⑨で、「日本とアメリカは自由や民主主義といった基本的価値を共有」と主張している。しかし前出⑥は、世論調査で賛否の分かれる、南西諸島自衛隊配備、敵基地攻撃力、“未亡人製造機”の異名を持つオスプレイ配備を、推進の立場でだけ子どもたちに刷り込む。こういう偏った広報活動をやる防衛省・自衛隊は、「自由や民主主義」ではなく、ロシアと同じ全体主義だ。
 なお自衛隊キッズは、『はじめて』のほかに、「中高生記者インタビュー」「防ぐ」「務める」「備える」「『島嶼防衛』について知ろう!」「自衛隊図鑑」「制服・徽章(きしょう)図鑑」「自衛隊検定」の計八つもの項目を設け、それぞれクリックすると、詳細な説明が出てくる。
 このうち「島嶼防衛…」をクリックすると、

の軍隊に占領された島では、当然、その島を取り返されないようにと、も準備をします。港や、空港には近寄れないようにするでしょう。島に上陸するためには相手が銃をもって待ち構えている海岸線に上陸する必要があります。そこで登場するのが水陸両用車です」


 と、ここでも”敵”という語で戦争を煽っている。


 ★ 防衛省の一方的な宣伝しかリンクしない教出は不適切

 文科省の義務教育諸学校教科用図書検定基準の(18)は、教科書等にウェブページのアドレス又は二次元コードその他のこれに代わるものを掲載する基準として、①当該ウェブページのアドレス等が参照させるものは図書の内容と密接な関連を有する、②児童又は生徒に不適切であることが客観的に明白な情報を参照させるものではなく、情報の扱いは公正である、③発行者の責任において管理できるものを参照させていること、と規定している。

 今回の事案の場合、児童は教出が管理するウェブアドレスにアクセスし、そこからリンク先の自衛隊キッズに至るので、教科書からの読み込み一発で自衛隊キッズに到達するわけではない。
 しかし自衛隊キッズが②の「児童に適切な情報か否か、公正か」については、内容が軍事力を”是”とする問題ゆえ、現政府やその軍事政策を推進する勢力にとっては”適切”であろうが、憲法九条を守り活かし外交努力で平和を維持したいと考える人たちにとっては不適切・不公正だといえる。

 教科書は多様な考えを持つ児童生徒・教職員が使用するし、保護者も政治問題では多様な意見がある。しかし教出が管理するウェブページアドレスは、憲法学会や平和団体等のHPへのリンクを載せず、軍事力を”是”とする側にしか辿り着けず、偏向している。
 とはいえ、二四年度使用の6年社会教科書のうち、自衛隊合憲論と違憲論を併記しているのは三社中、教出だけ。この点は教出を一定程度評価できる。

 ところで、学校教育法第34条等は「小中高等の文科省検定済み教科書の使用義務」を規定しており、家永教科書訴訟等で憲法第二一条の表現の自由、検閲の禁止に違反する問題は残るが、教科書の本文は検定対象になっている。では、問題の自衛隊キッズは?
 教科用図書検定規則実施細則の別記の14は、「出版社が管理するウェブサイトのアドレスを掲載する場合」は「掲載箇所一覧表」を提出し、「参照させるウェブサイト画面を印刷し添付する」と謳(うた)うが、動画の場合、実際添付するのは最初の1枚だけだ。

 では、偏向したウェブサイトにどう対処すべきか。検定対象にしろと言うと、憲法上問題ある検閲の是認になる。
 「憲法や子どもの権利条約、学校教育の政治的中立性を定めた教育基本法第十四条に則り、児童生徒が偏向したウェブサイトにアクセスしない教育を」と現場教員に求めるとともに、出版社に「政治問題では政府側に偏らず多様な見解を載せたウェブページに」と働きかけていくことも重要だ。

※永野厚男(ながのあつお)文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。

『紙の爆弾』(2023年9月号)


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