《子どもと教科書全国ネット21ニュース》から
◆ 授業料無償化は高校にどんな影響を及ぼしたか
◆ エアコン設置は格差のシンボル
千葉県の県立高校では、普通教室にエアコンの入っている学校と入っていない学校がある。
県教委が県の費用で入れるのではなく、保護者が費用を出すならば学校裁量で入れてもよいと認めたので、経済力のある親が多い高校だけにエアコンが入った。
2013年9月時点で、県立高校125校中82校(65.6%)に設置されている。そのうち空港や基地に近いなどの理由により公費で設置された5校を除く、77校が保護者の負担で導入されたものである。都市部の第1・2・3学区では、69校中48校(69.6%)に入っている。
親の経済力を知るために、生活保護や一人親の世帯など家庭の事情で授業料減免を受ける生徒がどれくらいの割合でいたかを調べた。
2007年当時、千葉県の授業料は年額10万8800円であった。
エアコンの入った高校では減免者の割合が低く、逆に減免者の割合が高い学校にはエアコンが入っていない。しかも、減免者の割合が低いのは偏差値が高い「進学校」であり、逆に高いのは「困難校」である。
家庭の経済力とエアコン設置と受験学力が密接につながっており、貧困と格差の問題がはっきりとあらわれていた。
設置は「進学校」のA群から始まり、B群、C群へと広がっていったが、2009年時点では偏差値50ラインでいったん導入が止まった。貧困家庭が多い、それ以下の高校での設置は困難だと思われた。
ところが2010年以降また導入が進み、C群までのすべての高校に入り、D群やE群へも広がった。
その原因は、2010年に始まった授業料の無償化政策にある。
それまで親が負担していた授業料がなくなり、その分をエアコン導入に回したと考えられる。
現在エアコンを設置している高校の保護者が負担する経費は、平均で月額798円、年間では9600円程度であり、かつての授業料の1月分9900円よりも少ない。
しかし、保護者負担で導入がすすんだことを評価することはできない。あくまでも、県教委の責任で県費によってすべての高校に設置し、すべての高校生に平等な環境を整えるべきである。今やエアコンの入っていない高校は少数派であり、そのほとんどがF群の「困難校」である。
新自由主義的な「自己責任」論が社会に広がっている中、生徒も親も肩身のせまい思いをさせられているのかと思うとやりきれない。
◆ 高校中退が劇的に減った
授業料無償化によって、高校を中退する生徒が劇的に減った。
二つのデータで証明する。県教委が公表するのは「中退者」の数である。しかし、事実上の退学でありながら単位制サポート校などに「転学」したケースはカウントされていない。そこで、入学した生徒が3年後にどれだけその高校を卒業したかを示す数値、卒業率という考え方を導入し、学校基本調査の数値をもとに算出した卒業率の数値を表2に載せた。
千葉県の全日制公立高校の全体の卒業率は、1980年代初頭には95%を越えていた。その後減少を続け、1982年入学生ではじめて95%を割り、1996年入学生では91%台になり、以後2007年入学生まで横ばいの状態が続いた。
1998年までは、中退率の増加に対応して卒業率も低下していた。その後、中退率は低下に転じたが、卒業率は横ばいの状態が続いた。この頃から単位制サポート校に「転学」する生徒が増えたからである。
2010年に無償化が始まった。
3年生になって1年間だけ授業料が無償化された2008年入学生は、卒業率が92.5%に回復し、1995年以来で最高の数値となった。
2、3年の2年間授業料が無償化された2009年入学生は、卒業率が94.1%となった。
さらに、2010年入学生、つまり3年間無償化された「完全無償化一期生」は94.4%となり、1980年代中ごろの水準にまで回復した。
第1・2・3学区の群ごとの卒業率の変化を調べた。
A,B、C群はもともと卒業率が97%以上と高く、変化はない。
ところが、D,E,F群では、2008年入学生以降顕著に卒業率が上がった。
中退者の多くがF群の「困難校」に集中しているのは周知の事実である。
そのF群では、2005年入学生は71.8%だったが、2008年75.2%、2009年78.9%と上がり、「完全無償化1期生」の2010年入学生は81.2%まで上昇した。
また、F群の高校の長欠率(年間欠席日数30日以上の生徒の割合)は、2007年に13.7%だったが、無償化後は2010年9.0%、2011年10.6%へと低下した。
この30年間、中退問題には、県教委も現場の教員も大きな課題としてそれぞれのアプローチでとりくんだが、なかなか解決できなかった。それを授業料無償化という政策が一気に劇的に改善したのである。
教育行政の役割は条件整備にある。教育問題において、制度を変えることが重要であることを、この事実が雄弁に物語っている。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 93号』(2013.12)
◆ 授業料無償化は高校にどんな影響を及ぼしたか
T(千葉県教員)
◆ エアコン設置は格差のシンボル
千葉県の県立高校では、普通教室にエアコンの入っている学校と入っていない学校がある。
県教委が県の費用で入れるのではなく、保護者が費用を出すならば学校裁量で入れてもよいと認めたので、経済力のある親が多い高校だけにエアコンが入った。
2013年9月時点で、県立高校125校中82校(65.6%)に設置されている。そのうち空港や基地に近いなどの理由により公費で設置された5校を除く、77校が保護者の負担で導入されたものである。都市部の第1・2・3学区では、69校中48校(69.6%)に入っている。
親の経済力を知るために、生活保護や一人親の世帯など家庭の事情で授業料減免を受ける生徒がどれくらいの割合でいたかを調べた。
2007年当時、千葉県の授業料は年額10万8800円であった。
エアコンの入った高校では減免者の割合が低く、逆に減免者の割合が高い学校にはエアコンが入っていない。しかも、減免者の割合が低いのは偏差値が高い「進学校」であり、逆に高いのは「困難校」である。
家庭の経済力とエアコン設置と受験学力が密接につながっており、貧困と格差の問題がはっきりとあらわれていた。
設置は「進学校」のA群から始まり、B群、C群へと広がっていったが、2009年時点では偏差値50ラインでいったん導入が止まった。貧困家庭が多い、それ以下の高校での設置は困難だと思われた。
ところが2010年以降また導入が進み、C群までのすべての高校に入り、D群やE群へも広がった。
その原因は、2010年に始まった授業料の無償化政策にある。
それまで親が負担していた授業料がなくなり、その分をエアコン導入に回したと考えられる。
現在エアコンを設置している高校の保護者が負担する経費は、平均で月額798円、年間では9600円程度であり、かつての授業料の1月分9900円よりも少ない。
しかし、保護者負担で導入がすすんだことを評価することはできない。あくまでも、県教委の責任で県費によってすべての高校に設置し、すべての高校生に平等な環境を整えるべきである。今やエアコンの入っていない高校は少数派であり、そのほとんどがF群の「困難校」である。
新自由主義的な「自己責任」論が社会に広がっている中、生徒も親も肩身のせまい思いをさせられているのかと思うとやりきれない。
◆ 高校中退が劇的に減った
授業料無償化によって、高校を中退する生徒が劇的に減った。
二つのデータで証明する。県教委が公表するのは「中退者」の数である。しかし、事実上の退学でありながら単位制サポート校などに「転学」したケースはカウントされていない。そこで、入学した生徒が3年後にどれだけその高校を卒業したかを示す数値、卒業率という考え方を導入し、学校基本調査の数値をもとに算出した卒業率の数値を表2に載せた。
千葉県の全日制公立高校の全体の卒業率は、1980年代初頭には95%を越えていた。その後減少を続け、1982年入学生ではじめて95%を割り、1996年入学生では91%台になり、以後2007年入学生まで横ばいの状態が続いた。
1998年までは、中退率の増加に対応して卒業率も低下していた。その後、中退率は低下に転じたが、卒業率は横ばいの状態が続いた。この頃から単位制サポート校に「転学」する生徒が増えたからである。
2010年に無償化が始まった。
3年生になって1年間だけ授業料が無償化された2008年入学生は、卒業率が92.5%に回復し、1995年以来で最高の数値となった。
2、3年の2年間授業料が無償化された2009年入学生は、卒業率が94.1%となった。
さらに、2010年入学生、つまり3年間無償化された「完全無償化一期生」は94.4%となり、1980年代中ごろの水準にまで回復した。
第1・2・3学区の群ごとの卒業率の変化を調べた。
A,B、C群はもともと卒業率が97%以上と高く、変化はない。
ところが、D,E,F群では、2008年入学生以降顕著に卒業率が上がった。
中退者の多くがF群の「困難校」に集中しているのは周知の事実である。
そのF群では、2005年入学生は71.8%だったが、2008年75.2%、2009年78.9%と上がり、「完全無償化1期生」の2010年入学生は81.2%まで上昇した。
また、F群の高校の長欠率(年間欠席日数30日以上の生徒の割合)は、2007年に13.7%だったが、無償化後は2010年9.0%、2011年10.6%へと低下した。
この30年間、中退問題には、県教委も現場の教員も大きな課題としてそれぞれのアプローチでとりくんだが、なかなか解決できなかった。それを授業料無償化という政策が一気に劇的に改善したのである。
教育行政の役割は条件整備にある。教育問題において、制度を変えることが重要であることを、この事実が雄弁に物語っている。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 93号』(2013.12)
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