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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

デジタル教科書の問題点を知った上で、これからどう向き合っていくか

2021年07月02日 | こども危機
  《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
 ◆ 「デジタル教科書」をめぐる動き
   ~その概要と問題点

吉田典裕(よしだのりひろ 子どもと教科書ネット21常任運営委員・出版労連教科書対策事務局長)

 ◆ はじめに

 デジタル教科書の導入が急速に進められています。一方、デジタル教科書が今後の教科書のあり方、したがって授業そのものも大きく変えることになることが予想されるにもかかわらず、私たちの側にはデジタル教科書そのもの、またいま述べたような動きなどについて共通理解ができているとは言い難い状況です。
 そこで本稿では、デジタル教科書についての概略とともに、いま浮上している諸問題について述べることにします。なお、文部科学省文書からの引用は、同省Webサイトからのものです(煩雑になるのでURLは省略しました)。
 ◆ デジタル教科書をめぐる文部科学省の動き

 文部科学省は、デジタル教科書の本格的導入に向けた動きを急加速させてきました。
 昨年7月に中央教育審議会(中教審)初等中等教育部会に設置された「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」(以下、検討会議)は、今年7月に「最終報告」をまとめるべく、ほぼ毎月会議を開き、議論を進めています。
 3月に公表した「中間まとめ」では、デジタル教科書の「本格導入」は2024年度からとしたものの、次期小学校教科書の検定申請が来年4月に迫っているため、デジタル教科書についての制度設計が間に合いません。
 そこで次期小・中・高校教科書に対応するデジタル教科書は、現在のものと同じ制度の下で制作されることになります。
 デジタル教科書導入を急ぎたい経済界の要求と制度上難しいとする文科省の妥協の産物と見ることができるでしょう。
 他方、それほど急いだためか、デジタル教科書の有効性については、2018年度以来、文科省による実証研究事業は行われているものの、検討会議委員による実証研究は全国でわずか6校を対象として行われたにすぎません。「検討会議」での「実証」は不十分と言わざるをえません。
 こうした事情を反映して、「中間まとめ」の文言は「紙の教科書とデジタル教科書の共存」「デジタル教材との連携」という中途半端な表現になっています。
 これは現状のデジタル教科書は不十分なので、今後そのあり方を大きく変える必要があるという含意とも取れます(そもそもその具体的内容の検討こそが検討会議に負わされた課題です)。
 ◆ デジタル教科書ってどんなもの?

 デジタル教科書とは何かについては、子どもと教科書全国ネット21の2021年度議案書別紙に詳しいのでご参照ください。また「百聞は一見に如かず」と言うとおり、文字で説明するより、各教科書発行者のWebサイトで「サンプル版」「体験版」をご覧いただくほうが具体的にわかるでしよう。
 デジタル教科書の画面は、文科省が「学習者用デジタル教科書」の定義として、学校教育法第34条の2をもとに「紙の教科書の内容の全部(電磁的記録に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く)をそのまま記録した電磁的記録である教材」(同省「教科書制度の概要」)とされています。
 「変更が必要となる内容」には文字の拡大縮小、ハイライト、共有、反転、リフロー、音声読み上げといった機能があります。
 リフローとは、画面の大きさに合わせて、文字の大きさ・行数・配置を端末側で自由に変更して表示する機能のことです。
 スマートフォンの文字画面や電子書籍を思い出していただけばよいでしょう。

 一方、「動画・音声やアニメーション等のコンテンツは、学習者用デジタル教科書に該当せず、学校教育法第34条第4項に規定する教材(補助教材)」(同省「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」p.3)ということになります。
 ◆ デジタル教科書導入に伴うざまざまな問題

 デジタル教科書は、2019年の学校教育法等の一部改正(第34条)の施行により制度化されましたが、「教科書」という、学校教育法などの法令に規定のある存在になったことに伴う未整備な問題が浮かび上がっています。
 (1)デジタル教科書は全面国庫負担ではない

 デジタル教科書を使うには、ざっくり言ってコンテンツ(内容)とOS(オペレーティング・ソフトウェア)、ビューア、デバイス(タブレットなどの端末機)その他が必要です。
 しかし前述の学校教育法の規定は、コンテンツのみをデジタル教科書としていて、いちばん高額な端末機は含まれていません。つまり少なくとも現在のところ、文科省は端末機の価格を全部負担するわけではないということです。
 上限を超える額については、義務教育では自治体に、高校では保護者に負担させる方針です。2024年度には全額負担という報道もありますが、確定したわけではありません。
 高校では、ご存じのようにすでに全校にデジタル教科書を導入している佐賀県では、3万5000円の保護者負担が発生して問題になっています。このまま行けば、全国で同様の問題が起こることになります。
 (2)検定は行うのか

 現在のデジタル教科書に対して検定は行われていませんが、今後、動画や音声など紙の教科書と「同一でない」コンテンツがOKとなれば、検定の対象となることは確実です。
 「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」(後述)の「中間まとめ」では、「将来的に検討すぺき事項」として先送りしつつも、検定の導入を匂わせています(「中間まとめ」p13)。
 (3)購入できるのは学校と教育委員会のみ

 デジタル教科書は個人では購入できません。市民に公開されていないとは言えますが、だからといってこれを単純に批判するのは早計でしょう。
 デジタルは複製や配信が容易なので、発行者の利益の侵害だけでなく、掲載作品の著作者、イラストレーターや写真家などの著作権侵害も容易だからです。
 どうすれば権利侵害なしに公開されるべきなのか、法律の専門家も交えて法整備についての議論が必要です。
 (4)配信は大丈夫なのか

 文科省は、GIGAスクール構想の一環である超高速インターネットと無線LANの整備を前倒しして一気に進めました。
 しかし実際に導入してみると、現場からは「動かない」などのトラブルが(案の定)発生していると言います。
 これらは初期トラブルとも言えますが、すぐに解決できないこともまちがいないでしょう。現場での準備が不十分なまま、ともかく導入を急がせた結果です。
 トラブルに備えるための支援員(システムエンジニア)の配置は、目標そのものが「4校に1人」にすぎません。これで対処できるのか、大いに疑問です。
 デジタル教科書の配信は、ほとんどの場合、クラウドになることが確実です。クラウドでは、教科書の使用期間が終了されれば配信も終了しますから、紙の教科書のように卒業後に読み返すなどということはできません。
 ◆ おわりに~デジタル教科書にどう対応するか

 以上に挙げた問題点、またここでは触れられなかった問題もたくさんあるにもかかわらず、文科省が大急ぎでデジタル教科書を普及させようとする動きの背後に何があるのかについては、佐藤学『第四次産業革命と教育の未来』(岩波ブックレット、2021年4月)に詳しいので、ご参照ください。
 最後に述べたいのは、私たちはデジタル教科書に反対という立場は採るべきではないということです。
 教科書制度が異なるとはいえ、世界ではすでにデジタル教科書は「常識」のレベルであり(教科書研究センター『海外教科書制度調査研究報告書』2020年3月を参照)、それ以上に実際の社会ではそうです。
 そうである以上、デジタル教科書を新たなツールと位置づけ、21世紀にふさわしい学びのあり方を探っていく必要があるのではないでしょうか。割愛せざるをえなかった多数の論点については他日を期したいと思います。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 138号』(2021.6)


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