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ナチスは国家緊急権を使って独裁を確立した―――永井幸寿著「憲法に緊急事態条項は必要か」を読んで(1)

2016-04-19 16:44:18 | 政治

永井幸壽氏の「憲法に緊急事態条項は必要か」という本を読みました。(岩波ブックレットNo.945)

お恥ずかしい話ですが、憲法に「緊急事態条項」を入れる憲法改正が危険であり、反対すべきだということを分かっているつもりでした。この本を読んでみて、この「わかっているつもり」がいかにいい加減だったかを思い知らされました。勉強はしなければいけないのですね。

 

すべての論点についてこの本を紹介することはできませんが、私の目を開いてくれたいくつかの問題を紹介します。

 

はじめに「国家緊急権」「国家緊急条項」とはなにかという点です。

自由民主党の「改憲草案」によると

「我が国に対する 外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序 の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」の時に、内閣総理大臣は閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができます。この宣言が発せられると「内閣は法律 と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」

と書いてあります。

 

簡単に言ってしまえば、総理大臣が必要と考えれば、国会の審議なしで、閣議にかけるだけで「緊急事態」を宣言することができ、「緊急事態宣言」が発せられると、国会を通すことなく法律(と同じもの)を作ることができ、国会にかけることなく国の金を使うことができるようになります。さらに地方自治体の知事や市町村長に命令することができるようになります。

もっと簡単に考えれば、国民の代表であるはずの国会は何の権限もなくなり、内閣だけで何でもができるようになるということです。

 

同じような国家緊急権を憲法に書き込んだ第二次大戦前のドイツのワイマール憲法の実例が書いてあります。ワイマール憲法は最も民主的だといわれた憲法でした。なぜ民主的な憲法のもとでナチスが政権を取ることが出来たのでしょうか。ワイマール憲法に国家緊急権の規定があったからです。

1932年議会でナチスは第一党になり、翌年にはヒトラーが首相に就任しました。合法的に政権をとったのです。

その後何者かが国会議事堂に放火した際に、これを共産党の犯行だと断定し、国家緊急権である大統領緊急令によって言論・報道・集会・結社の自由、通信の秘密を制限し、令状なしで逮捕拘束ができるようにしました。

こうして多数の共産党員、社会民主党員が逮捕されました。

3月の選挙ではナチスは第一党になりましたが、過半数を取ることが出来ませんでした。共産党は81議席を取り、ほかの政党も議席を取りました。議員は拘束されたまま登院することも出来ませんでした。

この国会でナチスは「全権委任法」という法律を強行採決しました。ナチスの突撃隊という暴力部隊が国会を取り囲んだ異様な状態での採決でした。全権委任法は国会の立法権をすべて政府に委ねてしまう法律です。これによってナチスは思うままに法律を作れるようになりました。国家緊急権を発動してから一か月足らずで、ナチスの独裁が完成したのです。

このナチスとヒトラーの独裁を可能にしたことこそ国家緊急権の最悪の悪用・乱用だったと言ってよいでしょう。

ワイマール憲法は当時もっとも民主的な憲法だといわれていました。しかし、国家緊急権の条項を持っていたために、ドイツに独裁を持ち込み、世界に第二次大戦を起こし、ユダヤ人虐殺を引き起こすことになりました。

日本の憲法に国家緊急権を持ち込んだ場合に、ドイツと同じ危険を起こさないという保証があるでしょうか。考えるだけでも恐ろしいことです。

 

 

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