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沢木耕太郎『危機の宰相』魁星出版

2006-06-10 00:04:17 | 
1960年代安保騒動で岸信介首相が退陣した後、政権を受け継いだ池田勇人首相が提唱をした「所得倍増」をめぐるノンフィクション。池田は、「所得倍増」により、人心を分裂させる安保問題から、皆がその利益にあずかれる高度経済成長の成果分配に関心を転換した。沢木氏は、「所得倍増」を「国民的信仰」とまで書いているが、それほど人々の心を捉えたのであろう。野党社会党も安保騒動では、総理の首を取るという勝利を得たが、自民党のチェンジオブペースに対して、新しい別の理念を打ち出すことはできなかった。

この「所得倍増」の背後には、三人の敗者がいるというのである。すなわち池田首相、エコノミストの下村治、池田の派閥・宏池会の事務を担当していた田村俊雄である。彼らは元来大蔵省に入るが、病気や戦争抑留などの理由で出世が遅れるという共通点を持っていた。しかし三人とも、逆境をくぐり抜けたためであろうか、楽観主義的な態度を身につけた。さらに、根拠のない楽観ではなく、使命感に裏付けられ、事実に基づいたものである。

私の関心を引いた箇所を抜き書きする。第一は、池田が安保の混乱後、側近の反対にもかかわらず、政権を取りに行こうとしたときの言葉。やはりリーダーたるものは、困難に立ち向かう意気がなければならないのだ。

「政治家というものは、自ら困難の中に飛び込んでやらなければならないんだ。この騒ぎの後では誰が考えても損をすると思うだろうが、災いを転じて福となすという言葉もある。私はやるよ。」

第二は、1964年9月、IMF総会開会式での池田の歓迎挨拶。「所得倍増」が必ずしも内向きの政策とは言い切れないことが、私の関心を引いた。それは、アジア諸国に対するメッセージでもあったのだ。

「IMFの皆さん。日本の爆発的エネルギーを見てください。君たちから借りた資金は、われわれ国民の頭脳と勤勉によってりっぱに生きてはたらいています。明治維新以来、先人のきずきあげた教育の成果が、驚異的な日本経済発展の秘密なのです。
 アジア諸国の人びとよ。君たちが今、独立にともなってうけつつある苦難は、敗戦以来二十年、われわれがなめつくした苦難でした。そこから一日もはやく抜けだしてください。その手がかりを見出すことこそ、IMF東京総会の意義なのです。」

危機の宰相

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