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万里の長城のくびき

2006-08-27 23:01:04 | 
加藤徹『貝と羊の中国人』(新潮新書)をとろとろと読んでいるが面白い。

本日「へえー」と思った箇所は、地政学の話。15世紀初めの鄭和の大航海が、彼の死後なぜ中止されたのか?そして中国はなぜ、七つの海を征するチャンスを自ら手放したのか?

その理由が「万里の長城のくびき」である。明王朝は、北方のモンゴル民族に備えなければならなかった。中国も海陸の二正面同時作戦を進めるほどの国力はなかった。

「かつて、火薬や羅針盤をいちはやく発明したのは、中国人だった。火薬は十二世紀ごろから、宋軍によって使用された。しかし、中国起源の火薬や羅針盤を改良し、世界を制覇したのは、「万里の長城のくびき」をもたぬ西洋人であった。中でも、幸運な地理環境にあったアメリカ合衆国が、科学技術をリードするようになる。」

この「万里の長城のくびき」は、過去千年で三度消滅した。一度目は、十三世紀の元のフビライの時代。二度目は、十七世紀の清の康煕帝の時代。三度目は、二十一世紀初頭の現代である。

元のフビライは、日本本土を侵略した。東南アジアに海軍を送っている。清の康煕帝は、台湾を中国に組み込んだ。しかしこの二度の海外進出は一時的であった。陸の国境の緊張が程なく復活したからである。

「一九九一年末、ソ連が崩壊した。中国最大の仮想敵国が、自滅したのである。中国は、象徴としての「万里の長城のくびき」から、三百年ぶりに解放された。その結果は、今日のわれわれが見ているとおりである。大陸棚や南沙諸島、尖閣諸島、沖ノ鳥島などをめぐる中国の強硬な主張。中国原潜の日本領海侵犯。台湾回収の布石としての反国家分裂法可決。一連の動きの根底にあるのは、「海へ」という、中国人の千年来の悲願である。

中国は、三度目の正直で、今度こそ永久に「万里の長城のくびき」から解放されるだろうか。それとも、過去の二回と同様に、またすぐ内陸へと引き戻されてしまうのか。

その鍵を握るのは、今後の中ロ関係と、新疆ウイグル自治区やチベット自治区など、内陸部の独立運動である。」
 
ソ連崩壊が日本にとって何を意味しているのか?それは、われわれが今経験しているところである。一番身近なところでは、日本人のロシアに対する関心の極端な低下である(もちろんそれにとどまらないが)。

しかし私は自分の視野が狭く、ソ連崩壊が中国にとっても大きな影響を持っていたのを忘れていた。そのことをこの本は、想起してくれた。


貝と羊の中国人

新潮社

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