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澤地久枝『密約』(岩波現代文庫)について(1)

2006-12-30 13:43:58 | 
絶版になっていた澤地久枝『密約』が、岩波現代文庫から出版され、書店にならんでいたのに気がついて購入した。『密約』とは、沖縄返還交渉に関わるものである。返還される米軍基地原状回復に関する費用400万ドルを日本が肩代わりするが、あたかも米国が支払ったかのようにするということである。

毎日新聞の西山太一記者は、この件に関する機密電信を外務省事務官蓮見喜久子氏から得た。71年5月から6月における新聞紙上の報道では、機密電信自体を暴露することは避けた。機密電信を公表すれば、情報提供者を保護することができなくなると判断されたからである。新聞報道だけでは状況は変化しなかった。

事態が急変したのは、機密電信が横路孝弘衆議院議員(当時社会党)にわたり、彼が、72年3月この電信を手にして、佐藤政権の責任を国会で問いつめたことを契機とする。佐藤栄作首相は、密約を認めずのらりくらりと責任を回避した。他方機密電信が公にされたことで、情報提供者の追求が行われた。4月4日蓮見事務官は職務上知り得た秘密を漏洩したこと、西山記者は漏洩をそそのかしたことで逮捕された。

この事件をめぐる裁判は、当初「国民の知る権利」「報道の自由」をめぐって争われるかのようであった。しかしここでも事態は急変し、辣腕記者が外務書女性事務官と「情を通じ」、その関係を利用して機密書類を奪ったというスキャンダルの側面がクローズアップされた。一審判決では、蓮見氏は懲役六ヶ月、執行猶予一年。西山氏は無罪となった。蓮見氏はこの刑に服した。他方検察は西山氏無罪について争った。最高裁まで争われた結果、西山氏に対して懲役四ヶ月執行猶予一年の刑が確定した。

「西山元記者は、国民の知る権利を行使して、国民として当然のことをやってくれたので、犯罪にすべきではないと思う。ただ、その取材の方法が、女の人を脅迫するみたいなやり方で、卑劣だった。いくらかの刑罰は仕方ないと思っていた。こんどの決定は懲役ということで重そうだが、執行猶予つきであり、あれくらいはやむをえないであろう」

これは最高裁判決を受けた、市川房枝参議院議員(当時)のコメントである。おそらく当時の良識的見解と思われる。しかし澤地久枝氏はこの見解に対して異を唱える。「女の人を脅迫するみたいなやり方で、卑劣だった」とは何を根拠にしているのかと?澤地氏は、「国民の知る権利」(密約)を「情を通じ」(スキャンダル)にすりかえた、国家権力のやり方を問題にしているのである。(続く)

密約―外務省機密漏洩事件

岩波書店

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