2月18日、樺太における、麻生首相とメドベージェフ大統領との会談において、領土問題に関して「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」が提案されたと、日本のマスコミは取り上げている。
たとえば朝日新聞社説19日付では、
「「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」。ロシアのメドベージェフ大統領から、北方領土問題の解決をめぐって新しい表現が飛び出した。
ロシア極東のサハリンを訪れた麻生首相との会談でのことだ。何を意味するのか、具体的なものは示してはいないようだ。このところ膠着(こうちゃく)状態が続く領土交渉を前進させたい。その意欲を伝えたかったのだろう。」
と述べている。
また同日付の読売新聞では、
「麻生首相が、日本の首相として戦後初めてサハリン(樺太)を訪れ、メドベージェフ露大統領と会談した。
大統領は領土問題に関し、「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」の下で作業を加速すると表明した。4島の帰属や返還を巡り、新たな打開案を探る意向を示したと受け止められている。
首相は会談後、「向こうは2島(返還)、こっちが4島では進展しない。これまでの宣言や条約などを踏まえ、政治家が決断する以外、方法はない」と語った」
とされる。
「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」とは、こなれない表現であると感じた。原語を調べると"решать территориальную проблему оригинальным, необычным путем, опирающимся на новые подходы"であるようだ。
このフレーズでググると驚いた!
日本ではこの表現が何を意味するのか?麻生首相が4島返還の撤回を示唆する表現をするのはどうか?などという議論がかまびすしい。もちろんそれらは重要なのかもしれない。しかしほんの少しだけロシアのネット上の新聞記事を見て、それどころではない、そもそもメドベージェフ大統領がこのような表現を使ったのかと疑問に思わざるを得ないという印象を得た。
たとえば「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」という表現だが、ロシアの新聞記事では、この表現が使われる際、共同通信が情報源とされ、両首脳はこのようなアプローチで領土問題を解決することに同意したとされる。つまりあくまでも共同通信の報道によるということと、どちら側がこのアプローチを打ち出したかが分からないように報道されているということである。(
ИТАР-ТАСС)
モスクワの日本大使館からもプレスに対して詳しい説明がなされたようだ。すなわち会談後、メドベージェフ大統領は、部下に対して、上記アプローチの精神で作業を行うよう指示を出した。そして日本側は、ロシア側からの提案を待つという内容の趣旨である。しかしロシアで報道されているのは、単にこれは日本の情報にすぎないということである。(
ВЕДОМОСТИ - Нестандартный дележ островов)
これに対してロシア側の情報としては、会談前日、ラブロフ外相が、領土問題に関して大統領は独創的な約束をしていないし、できないと否定している発言が、しきりに引用されている。さらに議会筋の情報として、今回の会談では領土問題が触れられるかもしれないが、それに関する解決はないであろうという発言もよく引かれている。(
Газовая дружба на фоне Курил - Политика - Интерфакс)つまりロシア側では、今回はあくまでも「サハリン2」の式典であり、領土問題については新しいアプローチなどなく、原則どおりの平和条約+二島返還論が守られるということが伝えられている。
ロシア政府からの情報開示はないようだが、どうやらベドモスチ紙記事が示しているように、「メドベージェフ大統領は、麻生首相に、クリール返還で期待を抱かせた。だがロシア代表団の中では、期待するに値しないと考えられている」というところが、今回の騒動の自然な解釈かもしれない。